甲状腺ホルモン剤太る原因と体重管理の対策

甲状腺ホルモン剤と体重変化の関係

バセドウ病治療では食習慣を変えないと10kg太ります

この記事の3つのポイント
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抗甲状腺薬の体重増加は5~10kg

バセドウ病治療で甲状腺ホルモンが正常化すると、代謝が低下し無駄なエネルギー消費が減るため、食事量を調整しないと通常5~10kgの体重増加が起こります

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甲状腺機能低下症の体重増加は脂肪だけではない

甲状腺機能低下症による体重増加の一部は、粘液水腫による水分貯留が原因で、実際の脂肪増加とは異なるメカニズムが関与しています

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適正なホルモン補充では副作用なし

チラージンSなど甲状腺ホルモン補充療法は、適正量であれば副作用はほとんどなく、過量投与時のみ動悸や体重減少などの症状が現れます

甲状腺ホルモン剤による体重増加のメカニズム

 

甲状腺ホルモン剤による体重変化を理解するには、まず甲状腺ホルモンの働きを把握する必要があります。甲状腺ホルモンは体内のエネルギー代謝を司る重要なホルモンで、全身の細胞活動に影響を与えているのです。

バセドウ病などの甲状腺機能亢進症の患者さんは、治療前に甲状腺ホルモンが過剰に分泌されています。この状態では基礎代謝が異常に高まり、安静時でも大量のエネルギーを消費します。つまり、食欲が旺盛で普段よりも多く食べているにもかかわらず、体重が減少するという特徴的な症状が現れるのです。

メルカゾールやプロパジールといった抗甲状腺薬による治療が効果を発揮すると、甲状腺ホルモンの分泌が正常化します。すると基礎代謝が元の状態に戻り、無駄に消費されていたエネルギーが消費されなくなるわけです。しかし問題なのは、患者さんの食事習慣は治療前の「たくさん食べる」状態のまま継続されることが多いという点ですね。

日本赤十字社岐阜赤十字病院の甲状腺内科では、バセドウ病の抗甲状腺薬治療において、効果が出ると通常5~10kgの体重増加が起こると明示しています。これは副作用ではなく、代謝の正常化に伴う生理学的な変化です。

日本赤十字社岐阜赤十字病院 甲状腺機能亢進症の治療についての注意点

一方、甲状腺機能低下症における体重増加は、複数のメカニズムが関与しています。基礎代謝の低下により摂取カロリーがエネルギーとして消費されず、脂肪として蓄積されやすくなるのが基本です。さらに甲状腺ホルモンは脂質代謝にも関与しているため、ホルモン不足により脂肪分解が進みにくくなります。

加えて見落とされがちなのが、粘液水腫による水分貯留です。甲状腺機能低下症では、体中の物質や水分の代謝が低下し、組織間に水分が貯留しやすくなります。この水分増加によって体重が増える部分もあるため、全てが脂肪増加というわけではないのです。

甲状腺ホルモン剤チラージンの服用と体重への影響

甲状腺機能低下症の治療に用いられるチラージンS(レボチロキシンナトリウム)は、不足している甲状腺ホルモンを補充する薬剤です。体内に存在する甲状腺ホルモンそのものと同じ成分であるため、適正量を服用していれば副作用はほとんど現れません。

チラージンSの服用により甲状腺ホルモンが補充されると、低下していた代謝が正常化します。つまり理論的には、代謝が上がることで体重が減少する可能性があるということですね。実際に一部の患者さんでは、治療により体重が減少したり、増加していた体重が元に戻ったりするケースが報告されています。

ただし注意が必要なのは、チラージンSを痩せ薬として使用するのは誤りだという点です。甲状腺機能が正常な人が服用すれば、過剰な甲状腺ホルモン状態となり、動悸、発汗、手指振戦、不眠などの甲状腺中毒症状が現れる危険があります。

適応症以外での使用は絶対に避けるべきです。

チラージンSの投与量は患者さん一人ひとりの甲状腺機能に応じて慎重に調整されます。過量投与になると甲状腺機能亢進症様の症状が出現し、逆に不足すると機能低下症状が持続します。定期的な血液検査でTSH、FT3、FT4の値をモニタリングしながら、最適な用量を見つけていくプロセスが重要なのです。

橋本病などによる甲状腺機能低下症の患者さんでは、長期的なホルモン補充療法が必要となることが多くあります。治療開始から数週間で症状の改善が見られ始め、代謝が正常化してくると体重管理もしやすくなっていきます。

医療従事者として患者指導を行う際には、チラージンSの効果が現れるまでに時間がかかることや、服用を継続する重要性を丁寧に説明する必要があります。また、食事の影響で吸収が低下することがあるため、起床時や就寝前の空腹時に服用することが推奨される点も伝えましょう。

甲状腺機能低下症患者の体重コントロール指導

甲状腺機能低下症の患者さんへの体重管理指導は、医療従事者にとって重要な役割です。患者さんは「食べていないのに太る」という悩みを抱えていることが多く、適切な知識提供と具体的なアドバイスが求められます。

まず押さえておくべきは、甲状腺機能低下症による体重増加は基礎代謝の低下が主な原因だという点です。通常の人と同じ食事量でも、消費エネルギーが少ないため体重が増加しやすくなります。さらに水分貯留やむくみも体重増加の要因となるため、単純な食事制限だけでは解決しないケースもあるのです。

治療開始後、甲状腺ホルモンの補充により代謝が正常化してくると、徐々に体重管理がしやすくなります。

ただし急激な変化は期待できません。

治療初期に3~4ポンド(約1.4~1.8kg)程度の体重減少が見られることもありますが、治療前から明らかな肥満があった場合、大幅な体重減少は起こりにくいという報告があります。

患者さんには現実的な目標設定を促すことが大切ですね。治療により甲状腺機能が正常化すれば、健康な人と同じ条件で体重管理ができるようになります。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠といった基本的な生活習慣の改善を指導しましょう。

特に閉経後の女性や高齢者では、甲状腺機能低下症による代謝低下に加えて、加齢に伴う基礎代謝の減少も重なります。このような患者さんには、年齢相応の代謝変化も考慮した食事指導が必要です。

むくみが顕著な患者さんでは、水分貯留による体重増加の可能性も説明します。普段の体重の5~10%、つまり体重50kgの方で2.5~5kg程度の水分が貯まることもあるとされています。この場合、適切な治療によりホルモンバランスが整えば、むくみが改善して体重も減少する可能性があるのです。

バセドウ病治療における体重増加への対処法

バセドウ病の薬物治療を開始する際、患者さんへの事前説明として体重増加の可能性を必ず伝える必要があります。これは副作用ではなく治療効果の表れであることを理解してもらうことが、治療継続のアドヒアランス向上につながるからです。

岐阜赤十字病院の指導では、「体重が増えるのが嫌な人は、食事の量を減らしてください」と明確に記載されています。つまり、治療により代謝が正常化することを見越して、食事習慣を意識的に調整することが体重増加予防の鍵となるわけです。

具体的な指導内容としては、治療開始前の過食習慣を見直すことから始めます。バセドウ病発症中は食欲が亢進し、通常よりも多く食べていた可能性が高いです。治療効果が現れ始める2週間から2ヶ月の間に、徐々に食事量を通常レベルに戻していくよう促しましょう。

食事内容については、栄養バランスを保ちながらカロリー摂取を適正化することが重要です。特に治療前に甘いものや高カロリー食品を多く摂取していた患者さんには、それらを控えめにするよう指導します。野菜や食物繊維を多く含む食品を取り入れることで、満腹感を得やすくなります。

運動に関しては注意が必要ですね。治療開始直後で甲状腺ホルモンがまだ正常域に入っていない時期は、過激な運動を避けるよう指示されています。甲状腺機能が安定してから、ウォーキングなどの軽い有酸素運動を徐々に始めることを勧めます。

定期的な体重測定を習慣化することも効果的です。毎朝同じ時間に体重を測定し、記録することで、急激な体重増加を早期に発見できます。5kg以上の増加が見られた場合は、食事内容の見直しや運動量の調整を検討するタイミングとして患者さんに認識してもらいましょう。

患者さんの中には体重増加を極度に恐れて、薬の服用を自己判断で中止してしまうケースもあります。そのため、体重増加よりも甲状腺機能をコントロールすることの重要性を強調し、同時に体重管理の具体策も提示することで、治療への不安を軽減することが医療従事者の役割です。

甲状腺ホルモン剤の適正投与量モニタリングの重要性

甲状腺ホルモン剤の投与量管理は、体重変化を含む様々な症状のコントロールに直結します。適正量を見極めるためには、定期的な血液検査と症状観察が欠かせません。

チラージンSなどの甲状腺ホルモン補充療法では、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値が最も重要な指標となります。TSHが正常範囲内にあれば、適正な補充が行われていると判断できます。過剰投与ではTSHが低下し、不足していればTSHが上昇するという逆相関の関係があるからです。

過量投与の兆候として、動悸、息切れ、発汗増加、手指振戦、不眠、体重減少などが現れます。これらの症状が見られた場合は、速やかに投与量を調整する必要があります。特に高齢者や心疾患を持つ患者さんでは、過量投与により心房細動などの不整脈リスクが高まるため、慎重な用量設定が求められるのです。

一方、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール)の投与量が多すぎる場合も問題です。甲状腺機能が過度に抑制されると、筋肉が硬くなってふくらはぎがつったり、肩こりが生じたりします。

また便秘も悪化します。

こうした症状が現れた際は、薬の量が多い可能性を考慮して主治医に相談するよう患者さんに指導しましょう。

定期的な検査スケジュールも重要な指導項目です。バセドウ病の抗甲状腺薬治療では、服用開始から甲状腺ホルモンが正常化するまでは2週間に1回、正常化後は4週間に1回、2年目以降は6~8週間に1回の受診が標準的とされています。これらの定期検査を怠ると、知らないうちに機能異常が進行してしまう危険があります。

潜在性甲状腺機能亢進症という病態にも注意が必要です。これは血中の甲状腺ホルモン値は正常だがTSHが低値の状態で、多くは甲状腺剤の服用量がやや多いことが原因です。この状態が続くと、脈拍増加、心房細動、骨密度減少、骨折リスク上昇などの問題が生じます。特に閉経後の女性や高齢者、心臓病や骨粗鬆症のある患者さんでTSHが0.1μU/ml未満の場合は、積極的に治療調整を行うべきとされています。

医療従事者としては、患者さんが検査結果を理解し、自分の体調変化を医師に正確に伝えられるようサポートすることが大切です。検査データの意味や正常範囲を分かりやすく説明し、日常生活での症状チェックポイントを伝えることで、患者さん自身が治療に主体的に関わる姿勢を育てることができます。

体重変化については、急激な増減が見られた場合、それが甲状腺機能の変化によるものなのか、他の要因(食生活の変化、運動量の変化、水分貯留など)によるものなのかを見極める必要があります。そのためにも、患者さんには日々の食事内容、運動量、体調などを記録してもらうことが有効ですね。

薬物相互作用についても注意


これって、「甲状腺の病気」のせいだったの?