高次脳機能障害の症状一覧と特徴

高次脳機能障害の症状と特徴

高次脳機能障害の主な症状
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認知機能障害

記憶、注意、遂行機能などの認知プロセスの障害

💬

失語・失認・失行

言語機能、認知機能、動作機能の巣症状

👥

社会的行動障害

感情制御と対人関係の困難


高次脳機能障害は、脳の器質的病変により認知機能に支障をきたす疾患であり、その症状は脳の損傷部位や範囲によって多様な表れ方をします 。最も頻度の高い症状は失語症(56.9%)で、次いで注意障害(29.8%)、記憶障害(26.2%)の順となっています 。これらの症状は外見からは分かりにくく、家庭生活よりも社会活動の場面で顕著に現れる特徴があります 。

参考)耳より小話【その7】失語症や高次脳機能障害について

高次脳機能障害の記憶障害症状

記憶障害は高次脳機能障害の代表的な症状の一つで、新しい情報を記憶することが困難になったり、過去の出来事を思い出すことが難しくなります 。具体的な症状として、約束を守れずにすぐ忘れてしまう、物を置いた場所を忘れる、何度も同じ話や質問を繰り返す、事実とは異なる話をしてしまうなどが挙げられます 。

参考)高次脳機能障害の症状とは?診断方法や対応の仕方などを現役医師…

記憶障害の特徴として、認知症とは異なり脳損傷が発症する前の記憶は比較的保たれていることが多く、発症後に新たに覚えようとした内容を忘れやすい傾向があります 。評価にはウェクスラー記憶検査(WMS-R)リバーミード行動記憶検査(RBMT)が使用され、記憶機能の詳細な分析が可能です 。

参考)高次脳機能障害の診断テストと評価バッテリー|交通事故の後遺障…

症状の程度によって、軽度では人名や物の名前を思い出せない程度から、重度では日常的な行動の記憶も困難となる場合まで幅広く分布します 。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/fcc80ca577316fe8f11a1a37eaf76b7a89ffa281

高次脳機能障害の注意障害症状

注意障害は、物事に集中できない、集中する持続力が低下する、周りに注意が払えないなどの症状が現れる高次脳機能障害の一つです 。注意能力を司る前頭葉を損傷した際に発症することが多く、同じ作業を長時間続けることが困難になります 。

参考)【高次脳機能障害による注意障害】医師監修|後遺障害等級専門の…

具体的症状として、質問されても理解に時間がかかる、すぐに疲れてしまう、じっとしていられない、作業にミスが多くなる、気が散りやすくひとつのことに集中することが難しくなるなどが見られます 。職場や学校では、「うわの空」状態が続き、一度に複数の作業を処理する「マルチタスク」は特に困難となります 。

参考)「高次脳機能障害」をご存じですか?|沖縄県公式ホームページ

注意機能の評価にはTMT(Trail Making Test)線引きテストが用いられ、注意の転換能力や分割注意能力を詳細に評価することができます 。症状の重要な特徴として、本人が障害を自覚していないケースが多く、周囲からは「やる気がない」と誤解されやすい点があります 。

高次脳機能障害の失語症状

失語症は、脳の言語中枢に損傷を受けることで、言葉を話すこと、聞いて理解すること、文字を書くこと、文字を理解することなどが困難になる症状です 。口やのどの筋肉麻痺とは異なり、頭の中では分かっているけれども声に出すと違う言葉が出てきてしまう、聞こえるけれども理解できないという状態が特徴です 。

参考)高次脳機能障害のリハビリテーション

言語中枢は多くの人で左半球に存在するため、左脳損傷で失語症を発症しやすくなります 。症状は流暢性失語非流暢性失語に大別され、前者は側頭葉障害で語流暢だが内容に乏しく、後者は前頭葉障害で語彙は少ないが意味のある発話が可能な特徴があります 。

参考)https://www.tokyo.med.or.jp/docs/handbook/358-375.pdf

日常生活では、名前が出てこない、「あれ」「それ」などのあいまいな表現が多くなる、複雑な指示の理解が困難になるなどの症状が現れます 。評価は言語聴覚士による詳細な言語機能検査が実施され、各機能(聴覚理解、語彙、復唱、読解、書字)の障害程度が評価されます 。

参考)「記憶障害」「失語」「失認」「失行」「実行機能障害」とは -…

高次脳機能障害の遂行機能障害症状

遂行機能障害は、計画を立てたり効率よく柔軟に物事を行ったりすることが困難になる高次脳機能障害です 。前頭葉部位の損傷が主な原因とされ、目標設定から実行までの一連のプロセスが障害されます 。

参考)遂行機能障害とは?計画的な行動が出来ない症状について|御所南…

具体的な症状として、衝動的な行動を取る、行動が開始できない、指示されないと行動に移せない、優先順位が決められない、なにかをするときにどこから手をつけていいかわからなくなるなどがあります 。時間管理、計画、マルチタスク、スケジュールを守ることが困難で、仕事や学校の書類を頻繁に置き忘れるといった行動も見られます 。

参考)高次脳機能障害の遂行機能障害について

評価には遂行機能の行動評価法(BADS)ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)が使用され、計画能力や問題解決能力の詳細な評価が可能です 。症状の重要な特徴として、客観的に自分を評価することができない病識の欠如が挙げられ、周囲からは無関心で活動力が欠けているように見えることがあります 。

高次脳機能障害の空間認知症状

半側空間無視は、脳の損傷により左側の空間を認識することが困難になる症状で、右半球損傷患者の約4割に合併します 。視力の問題とは別に、実際には左側が見えているにも関わらず認識することが難しくなる特徴があります 。

参考)半側空間無視ってどんな症状?リハビリの方法は?

具体的症状として、右ばかり向いている、移動時に左側の物によくぶつかる、食事の際に左側のおかずに気づかず食べ残す、左側に部屋の入り口があると通り過ぎるなどが見られます 。極端な場合、左側の空間そのものがなくなってしまっているような状態となります 。
地誌的障害も空間認知の問題の一つで、熟知している場所で道に迷う、地図や見取り図が書けない、風景や建物を見てもどこかわからないなどの症状が現れます 。これらの症状は日常生活の安全性に直結するため、早期の診断と適切な対応が重要です 。

参考)半側空間無視とは? – 脳卒中・脳梗塞・脳出血の後遺症改善 …

高次脳機能障害の社会的行動障害症状

社会的行動障害は、感情や欲求が抑えられない抑制欠如、怒りやすくなる易怒性、やる気がなくなる意欲低下(アパシー)、対人技能の拙劣、固執性などが現れる症状です 。高次脳機能障害と診断された人の約81%に何らかの社会的行動障害が見られ、決して稀な症状ではありません 。

参考)https://www.funmedtokyo.jp/rehabilitation/hbd5/

最も多い症状は「感情コントロールの障害・易怒性」で対象者の85%に見られ、次いで「金銭管理が困難」「対人技能の拙劣」「意欲・発動性の低下」「固執性」「暴言・大声」などが約70%に見られます 。急に怒りだしたり泣き出したりする、場違いな場面で笑い出す、思い通りにならないと興奮して暴力をふるうなどの行動が現れます 。

参考)https://www.rehab.go.jp/application/files/8215/6591/4352/201908_.pdf

家族を対象とした調査では、「性格の変化」が最も精神的負担となっている事柄として約半数が回答しており、家庭生活への影響の深刻さがうかがえます 。職場での人間関係がうまくいかず仕事が続けられなくなったり、衝動的に退職してしまうケースも見られ、社会復帰の大きな阻害要因となっています 。

参考)脳卒中後遺症による制御困難な「怒り」を改善する。高次脳機能障…