抗HBsグロブリン一覧と製剤の薬価比較

抗HBsグロブリン製剤の種類と特徴

抗HBsグロブリン製剤の基本情報
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製剤の種類

乾燥抗HBs人免疫グロブリンと抗HBs人免疫グロブリンの2種類があります

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主な効果

B型肝炎ウイルス感染の予防に使用される血漿分画製剤です

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薬価の幅

200単位製剤で約8,800円~19,000円、1000単位製剤で約36,000円~76,000円

抗HBs人免疫グロブリン製剤は、B型肝炎ウイルス(HBV)感染の予防に使用される重要な医薬品です。これらの製剤はHBs抗体を多量に含む人血漿から精製されており、HBVへの暴露後に速やかに投与することで感染リスクを大幅に低減させることができます。

医療現場では、製剤選択の際に種類、単位数、薬価などを考慮する必要があります。本記事では、現在日本で使用可能な抗HBs人免疫グロブリン製剤の一覧と、それぞれの特徴について詳細に解説します。

抗HBsグロブリンの種類と製造会社

抗HBs人免疫グロブリン製剤は大きく分けて「乾燥抗HBs人免疫グロブリン」と「抗HBs人免疫グロブリン」の2種類に分類されます。これらは製剤化の方法が異なりますが、基本的な効果は同様です。

乾燥抗HBs人免疫グロブリン製剤には以下のものがあります。

  • ヘブスブリン(日本血液製剤機構)
    • ヘブスブリン筋注用200単位
    • ヘブスブリン筋注用1000単位
  • 乾燥HBグロブリン(武田薬品工業)
    • 乾燥HBグロブリン筋注用200単位「ニチヤク」
    • 乾燥HBグロブリン筋注用1000単位「ニチヤク」

    一方、抗HBs人免疫グロブリン製剤には以下のものがあります。

    • 抗HBs人免疫グロブリン(日本血液製剤機構)
      • 抗HBs人免疫グロブリン筋注200単位/1mL「JB」
      • 抗HBs人免疫グロブリン筋注1000単位/5mL「JB」

      これらの製剤はいずれも血漿分画製剤に分類され、薬効分類番号は6343に該当します。製造販売元は主に日本血液製剤機構と武田薬品工業(ニチヤク製品)となっています。

      抗HBsグロブリン製剤の薬価比較

      医療機関での製剤選択において、薬価は重要な判断材料の一つです。2025年3月19日時点での各製剤の薬価は以下のとおりです。

      【乾燥抗HBs人免疫グロブリン】

      • ヘブスブリン筋注用200単位:8,838円/瓶
      • ヘブスブリン筋注用1000単位:36,843円/瓶
      • 乾燥HBグロブリン筋注用200単位「ニチヤク」:8,855円/瓶
      • 乾燥HBグロブリン筋注用1000単位「ニチヤク」:36,939円/瓶

      【抗HBs人免疫グロブリン】

      • 抗HBs人免疫グロブリン筋注200単位/1mL「JB」:19,242円/瓶
      • 抗HBs人免疫グロブリン筋注1000単位/5mL「JB」:76,725円/瓶

      注目すべき点として、同じ単位数であっても製剤によって薬価に大きな差があることがわかります。特に抗HBs人免疫グロブリン「JB」製剤は乾燥製剤と比較して約2倍の薬価設定となっています。この価格差は製剤の特性や製造工程の違いによるものですが、医療経済的な観点からは重要な検討事項となります。

      医療機関の薬剤部門では、効果と安全性を担保しつつ、コスト面も考慮した製剤選択が求められています。

      抗HBsグロブリンの効能・効果と適応症

      抗HBs人免疫グロブリン製剤は、主にB型肝炎ウイルス(HBV)感染の予防を目的として使用されます。具体的な適応症は以下のとおりです。

      1. HBV母子感染の予防

        HBs抗原陽性の母親から生まれた新生児に対して、出生後できるだけ早期(通常は12時間以内)に投与します。これにより、垂直感染のリスクを大幅に低減させることができます。

      2. HBVへの汚染事故後の予防

        医療従事者がHBs抗原陽性血液に誤って接触した場合(針刺し事故など)や、HBs抗原陽性血液による汚染事故後の緊急予防として使用されます。

      3. 肝移植後のHBV再感染予防

        B型肝炎関連疾患で肝移植を受けた患者において、移植後のHBV再感染を予防するために使用されることがあります。

      これらの適応症に対して、通常、成人には200〜1000単位を筋肉内に注射します。小児や新生児の場合は体重に応じて投与量が調整されます。

      特に医療従事者の針刺し事故などの場合、暴露後できるだけ早期(可能であれば24時間以内)に投与することが推奨されています。また、HBワクチンとの併用によりさらに効果的な予防が可能となります。

      抗HBsグロブリン使用時の注意点と副作用

      抗HBs人免疫グロブリン製剤を安全に使用するためには、以下の注意点を理解しておくことが重要です。

      禁忌

      • 本剤の成分に対しアナフィラキシーショックの既往歴がある患者

      重要な基本的注意

      1. 本剤は特定生物由来製品であり、感染症伝播のリスクを完全には排除できないことを患者に説明し、理解を得る必要があります。
      2. 投与後、まれにショック、アナフィラキシーがあらわれることがあるため、投与後は患者の状態を十分に観察する必要があります。
      3. 筋肉内注射にのみ使用し、静脈内投与は行わないでください。

      副作用

      頻度不明ながら以下の副作用が報告されています。

      • 過敏症:発熱、発疹
      • 注射部位:疼痛、腫脹、発赤、硬結
      • その他:全身倦怠感

      相互作用

      非経口用生ワクチン(麻疹ワクチン、おたふくかぜワクチン、風疹ワクチン、これら混合ワクチン、水痘ワクチン等)との相互作用に注意が必要です。本剤の投与を受けた者は、生ワクチンの効果が得られないおそれがあるため、生ワクチンの接種は本剤投与後3カ月以上延期することが推奨されています。また、生ワクチン接種後14日以内に本剤を投与した場合は、投与後3カ月以上経過した後に生ワクチンを再接種することが望ましいとされています。

      これは、本剤の主成分である免疫抗体が中和反応により生ワクチンの効果を減弱させる可能性があるためです。

      抗HBsグロブリンと労災保険・健康保険の適用

      抗HBs人免疫グロブリン製剤の使用に関する保険適用は、使用状況によって異なります。特に医療従事者にとって重要な情報として、業務上のHBV感染リスクに対する保険適用について理解しておく必要があります。

      労災保険適用の条件

      1. 業務上で負傷し、HBウイルス感染の危険が極めて高いと判断され、縫合、消毒、洗浄等の処置及び本製剤の注射が行われた場合
      2. 業務上で既存の負傷にHBs抗原陽性血液が付着し、HBウイルス感染の危険が極めて高いと判断され、縫合、消毒、洗浄等の処置及び本製剤の注射が行われた場合

      健康保険適用の条件

      1. 業務外で負傷し、HBウイルス感染の危険が極めて高いと判断され、縫合、消毒、洗浄等の処置及び本製剤の注射が行われた場合
      2. 業務外で既存の負傷にHBs抗原陽性血液が付着し、HBウイルス感染の危険が極めて高いと判断され、縫合、消毒、洗浄等の処置及び本製剤の注射が行われた場合

      医療機関では、針刺し事故などが発生した場合、適切な保険請求ができるよう、事故の状況(業務上か業務外か)を明確に記録しておくことが重要です。また、医療従事者自身も、万が一の事故の際に適切な保険適用を受けられるよう、これらの条件を理解しておくことが望ましいでしょう。

      日本造血細胞移植学会による抗HBs人免疫グロブリン製剤の使用ガイドライン

      抗HBsグロブリンとHBワクチンの併用戦略

      抗HBs人免疫グロブリン製剤とHBワクチンの併用は、B型肝炎ウイルス(HBV)感染予防において非常に効果的な戦略です。それぞれの特性を理解し、適切に組み合わせることで最大限の予防効果を得ることができます。

      抗HBsグロブリンとHBワクチンの特性比較

      特性 抗HBsグロブリン HBワクチン
      効果発現 即時的(投与直後) 遅延性(数週間〜数ヶ月)
      持続期間 短期(約1〜3ヶ月) 長期(数年〜終生)
      作用機序 受動免疫(抗体の直接供給) 能動免疫(抗体産生の誘導)
      主な用途 暴露後緊急予防 暴露前予防、長期予防

      併用のメリット

      1. 抗HBsグロブリンによる即時的な保護と、HBワクチンによる長期的な免疫獲得の両方が得られます。
      2. 抗HBsグロブリンの効果が減弱する頃には、ワクチンによる免疫応答が確立されるため、防御の空白期間が生じにくくなります。
      3. 特にハイリスク暴露(HBe抗原陽性血液への暴露など)では、併用により予防効果が高まります。

      併用の具体的方法

      1. 母子感染予防
        • 出生後12時間以内に抗HBsグロブリン200単位を筋注
        • 生後2、3、5ヶ月にHBワクチンを接種
        • 必要に応じて生後12ヶ月時にHBs抗体検査を実施
      2. 針刺し事故などの暴露後予防
        • 暴露後できるだけ早期(24時間以内が望ましい)に抗HBsグロブリン200〜1000単位を筋注
        • 同時にHBワクチン初回接種(別部位に筋注)
        • その後、1ヶ月後、6ヶ月後にHBワクチン追加接種
        • 抗体獲得状況に応じて追加対応を検討

      この併用戦略は、特に医療従事者のような高リスク集団において重要です。ただし、HBワクチン接種歴があり、十分な抗体価(通常10mIU/mL以上)が確認されている場合は、暴露後の抗HBsグロブリン投与が不要となる場合もあります。

      医療機関では、スタッフのHBs抗体価を定期的に確認し、必要に応じてHBワクチンのブースター接種を行うことで、針刺し事故時の対応をより効率的に行うことができます。

      日本感染症学会による針刺し事故後のHBV感染予防ガイドライン

      抗HBsグロブリンの需要予測と供給状況

      抗HBs人免疫グロブリン製剤は、血液製剤の一種であり、その安定供給は医療現場において非常に重要です。近年の需要動向と供給状況について理解することは、医療機関の薬剤管理において有用な情報となります。

      需要動向の変化

      近年、抗HBs人免疫グロブリン製剤の需要には以下のような変化が見られています。

      1. HBワクチン定期接種化の影響

        2016年10月から乳幼児に対するB型肝炎ワクチンが定期接種化されたことにより、将来的には母子感染予防目的での抗HBsグロブリン使用が減少する可能性があります。

      2. 医療従事者の針刺し事故対策

        医療安全意識の向上により、針刺し事故の報告率が上昇し、それに伴い暴露後予防としての使用が増加傾向にあります。

      3. 肝移植後のHBV再活性化予防

        肝移植医療の進歩により、B型肝炎関連疾患での肝移植後のHBV再活性化予防目的での使用も一定数存在します。

      供給状況と課題

      抗HBs人免疫グロブリン製剤は、HBs抗体価の高い献血者からの血漿を原料としているため、以下のような供給上の課題があります。

      1. 原料血漿の確保

        HBs抗体価の高い献血者は限られており、原料血漿の確保が課題となっています。特に国内自給を目指す観点からは重要な問題です。

      2. 製造工程の複雑性

        血漿分画製剤の製造には高度な技術と厳格な品質管理が必要であり、製造能力には一定の限界があります。

      3. 在庫管理の重要性

        使用頻度が比較的低い一方で、緊急時には即時使用が必要な製剤であるため、医療機関での適切な在庫管理が求められます。

      今後の展望

      1. HBワクチン接種率向上による影響

        HBワクチンの接種率向上により、長期的には抗HBsグロブリン製剤の需要構造が変化する可能性があります。特に若年層での針刺し事故時の使用頻度が減少することが予想されます。

      2. 製剤の改良

        より高力価・高純度の製剤開発や、投与方法の改良(皮下注射製剤など)により、使用効率の向上が期待されています。

      3. 代替療法の研究

        核酸アナログ製剤との併用や、新たな抗ウイルス薬の開発により、一部の適応症では抗HBsグロブリン使用の最適化が進む可能性があります。

      医療機関では、これらの動向を踏まえつつ、緊急時に確実に使用できるよう、適切な在庫管理と使用期限の管理を行うことが重要です。また、地域の医療機関間での融通体制の構築も、安定供給の観点から有用な取り組みとなるでしょう。

      日本血液製剤機構による血液製剤供給状況レポート

      以上、抗HBs人免疫グロブリン製剤の種類、薬価、適応症、使用上の注意点、保険適用、HBワクチンとの併用戦略、そして需要予測と供給状況について解説しました。これらの情報が、医療現場での適切な製剤選択と使用に役立つことを願っています。