抗不安薬一覧と分類
抗不安薬の作用時間による分類一覧
抗不安薬は血中半減期により4つのカテゴリーに分類されます。作用時間の長さは薬剤選択において最も重要な指標の一つです。
短時間型(血中半減期:0.8~6.3時間)
- グランダキシン(トフィソパム):0.8時間
- セディール(タンドスピロンクエン酸塩):1.4時間
- デパス(エチゾラム):6.0時間
- リーゼ(クロチアゼパム):6.3時間
短時間型は効果の発現と消失が早く、頓服使用に適しています。特にデパスは筋弛緩作用と催眠作用も併せ持つため、緊張型頭痛や肩こり、睡眠障害にも使用されます。
中間型(血中半減期:12.0~20.0時間)
- ワイパックス(ロラゼパム):12.0時間
- ソラナックス(アルプラゾラム):14.0時間
- レキソタン(ブロマゼパム):20.0時間
中間型は抗不安作用が強く即効性があります。ワイパックスは薬物相互作用が少なく、肝疾患患者や高齢者にも使用しやすい特徴があります。ソラナックスはパニック発作の治療でよく使用されます。
長時間型(血中半減期:60~120時間)
長時間型は持続的な抗不安効果が期待できます。セルシンは筋弛緩作用もあり、自律神経失調症、睡眠障害、心身症、全般性不安障害に幅広く使用されます。
超長時間型(血中半減期:110時間)
- メイラックス(ロフラゼプ酸エチル):110時間
メイラックスは依存形成をしにくく、1日1回の服用で済むため患者のアドヒアランス向上が期待できます。
抗不安薬の効果の強さによる分類
抗不安薬の効果の強さは、単に強ければ良いというものではありません。患者の心身の状況に合った選択が重要です。
弱い抗不安作用
- グランダキシン
- リーゼ
- レスミット
- バランス
- セディール
これらの薬剤は軽度の不安症状や、副作用を避けたい場合に選択されます。グランダキシンは本来自律神経失調症の治療薬として開発されており、抗不安作用は比較的マイルドです。
中程度の抗不安作用
- デパス
- ソラナックス
- メレックス
- セルシン/ホリゾン
- メイラックス
中程度の薬剤群は、一般的な不安障害の治療において最も頻繁に使用されます。デパスは筋弛緩作用も併せ持つため、身体症状を伴う不安にも効果的です。
強い抗不安作用
- ワイパックス
- レキソタン
- セパゾン(クロキサゾラム)
- リボトリール(クロナゼパム)
強い抗不安作用を持つ薬剤は、重篤な不安症状やパニック発作に使用されます。リボトリールは元々てんかん薬ですが、ベンゾジアゼピン受容体への高い親和性により強力な抗不安効果を示します。
抗不安薬の投薬期間制限一覧
向精神薬の適正使用の観点から、多くの抗不安薬には投薬期間の上限が設定されています。これは依存性や耐性形成を防ぐための重要な規制です。
14日上限の薬剤
- クロラゼパム酸二カリウム(メンドン)
30日上限の薬剤
- アルプラゾラム(コンスタン)
- オキサゾラム(セレナール)
- クロキサゾラム(セパゾン)
- クロチアゼパム(リーゼ)
- クロルジアゼポキシド(コントール)
- フルジアゼパム(エリスパン)
- ブロマゼパム(レキソタン)
- メダゼパム(レスミット)
- ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)
- ロラゼパム(ワイパックス)
不安や睡眠障害等に対し処方する頻度の高い薬剤について、上限を30日としています。これは長期使用による依存性のリスクを軽減するための措置です。
90日上限の薬剤
- ジアゼパム(セルシン)
セルシンは比較的長期使用が可能ですが、それでも90日という上限が設けられています。
上限日数なしの薬剤
- エチゾラム(デパス)
- ガンマオリザノール(ハイゼット)
- タンドスピロンクエン酸塩(セディール)
- トフィソパム(グランダキシン)
- ヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス)
これらの薬剤は現在のところ投薬期間制限が設けられていませんが、臨床使用においては適切な期間で見直しを行うことが推奨されます。
抗不安薬の副作用と注意点
抗不安薬の使用にあたっては、多様な副作用への注意が必要です。特にベンゾジアゼピン系抗不安薬では共通する副作用パターンがあります。
主要な副作用
- 眠気・倦怠感:最も頻繁に見られる副作用
- ふらつき・眩暈:転倒リスクの増加
- 歩行失調:特に高齢者で注意
- 頭痛・頭部のボーッとする感覚
- 記憶障害:健忘症状
- 筋弛緩作用による筋力低下
循環器系副作用
- 血圧低下
- 頻脈
- 起立性低血圧
消化器系副作用
- 悪心・嘔吐
- 口渇
- 便秘
肝機能への影響
メイラックスでは肝機能検査値の上昇(γ-GTP上昇、ALT上昇、AST上昇、LDH上昇)が報告されています。定期的な肝機能検査が推奨されます。
依存性と離脱症状
短時間作用型の薬剤ほど依存を生じやすいという特徴があります。急激な中止により反跳性不安、振戦、発汗、けいれんなどの離脱症状が現れる可能性があります。
高齢者での注意点
高齢者では薬物代謝能力の低下により副作用が現れやすく、転倒リスクの増加が特に問題となります。ワイパックスのような薬物相互作用の少ない薬剤の選択が推奨されます。
抗不安薬選択における医師の判断基準
適切な抗不安薬の選択には、患者の個別性を考慮した多角的な評価が必要です。単純に症状の強さだけで決定するのではなく、以下の要因を総合的に判断します。
患者背景による選択基準
年齢、肝機能、腎機能、併用薬、既往歴、アルコール摂取歴などを総合的に評価します。肝機能が低下している患者では、肝代謝に依存しないワイパックスが第一選択となることが多いです。
症状の性質による選択
持続性の全般性不安にはメイラックスやセルシンのような長時間作用型、急性の不安発作にはデパスやソラナックスのような短時間~中間作用型が適しています。
併存する身体症状への配慮
筋緊張を伴う不安にはデパスやセルシンの筋弛緩作用を活用し、睡眠障害を併発している場合は催眠作用のある薬剤を選択します。
依存性リスクの評価
アルコール依存歴のある患者や薬物依存のリスクが高い患者では、セディールのような非ベンゾジアゼピン系を優先的に検討します。
治療期間の見通し
短期間の使用が予想される場合は効果の強い薬剤も選択肢となりますが、長期使用が必要な場合は依存性の低い薬剤や非ベンゾジアゼピン系を考慮します。
用法・用量の利便性
患者のアドヒアランス向上のため、1日1回服用のメイラックスや、頓服使用可能な短時間作用型の使い分けが重要です。
モニタリング体制
定期的な効果判定と副作用評価を行い、必要に応じて薬剤変更や用量調整を実施します。特に高齢者では転倒リスクの評価を継続的に行います。
厚労省の抗不安薬適正使用ガイドライン。
抗不安薬の薬理学的特性に関する専門情報。
精神科薬物療法における抗不安薬の位置づけ。