骨髄芽球の正常値
骨髄芽球は、骨髄で血液細胞を生み出す過程において最も未熟な段階の細胞です。骨髄芽球の正常値は、骨髄検査における有核細胞分類で0.1~1.7%(平均0.9%)とされています。この値は金井正光編「臨床検査法提要」などの標準的な医学書で示されている基準値で、多くの医療機関で採用されています。
参考)https://www.chiringi.or.jp/camt/wp-content/uploads/2016/03/3a0fb614410b3c349ae8a5eb1fc15645.pdf
骨髄芽球は造血幹細胞から顆粒球系の細胞に分化していく最初の段階で、通常は骨髄内で成熟して前骨髄球、骨髄球、後骨髄球と順次分化し、最終的に好中球などの成熟した白血球になります。健康な人の骨髄では、この骨髄芽球の割合は非常に低く保たれており、大部分の細胞は成熟段階のより進んだ細胞で占められています。
参考)病気の説明
骨髄検査では有核細胞数が10~25×10⁴/μLの範囲が正常とされ、その中での骨髄芽球の割合を算定します。また、顆粒球系と赤芽球系の比率を示すM/E比は1.1~3.5(平均2.3)が正常範囲とされており、骨髄芽球はこの顆粒球系の最初期の細胞として分類されます。
参考)http://www.falco.co.jp/rinsyo/contents/pdf/251955.pdf
骨髄芽球の測定方法と検査手順
骨髄芽球の測定は骨髄検査によって行われます。骨髄検査には主に骨髄穿刺と骨髄生検の2つの方法があり、一般的には骨髄穿刺により骨髄液を採取して検査が実施されます。
参考)骨髄検査 – 13. 血液の病気 – MSDマニュアル家庭版
検査の実際では、局所麻酔後に専用の穿刺針を用いて腸骨(腰の骨の突起部)に穿刺し、骨髄液を採取します。穿刺に要する時間は10~15分程度で、採取後は15~20分ほど安静にします。採取した骨髄液は非常に凝固しやすいため、一番最初の吸引では強く陰圧をかけて0.2~0.3ml程度を採取し、末梢血の混入が少ない状態で細胞数算定や標本作製に用います。
採取した骨髄液からギムザ染色標本を作製し、顕微鏡下で500個の有核細胞を分類することで、骨髄芽球の割合を算出します。標本は低倍率(100倍)で細胞分布密度や巨核球の分布を確認した後、高倍率(1000倍)で詳細な細胞形態を観察します。
骨髄検査では骨髄芽球の割合だけでなく、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球などの他の顆粒球系細胞や、赤芽球系細胞、リンパ球、形質細胞なども同時に分類し、総合的な骨髄像を評価します。
骨髄検査の詳細な手順と目的についての参考情報(MSDマニュアル)
骨髄芽球の正常値と臨床的意義
骨髄芽球の正常範囲は0.1~1.7%ですが、この数値が基準値を超える場合には様々な血液疾患が疑われます。特に重要なのは、骨髄芽球の割合が5%以上に増加した場合で、この時点で骨髄異形成症候群(MDS)の可能性が高まります。
参考)骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群は骨髄芽球の割合によって病型が分類されます。骨髄芽球が5%未満の場合は「不応性貧血・不応性血球減少症」、5~19%の場合は「芽球増加型不応性貧血」と呼ばれます。骨髄芽球の割合が多ければ多いほど病状は進行していると判断され、予後にも影響します。
さらに重要なのは、骨髄芽球が20%以上になった時点で、骨髄異形成症候群から急性骨髄性白血病(AML)に移行したと診断される点です。この基準はWHO分類で定められており、急性骨髄性白血病の診断における最も重要な指標の一つとなっています。
参考)骨髄異形成症候群:[国立がん研究センター がん情報サービス …
骨髄芽球の割合 | 診断 | 臨床的意義 |
---|---|---|
0.1~1.7% | 正常範囲 | 健康な骨髄機能を示す |
5%未満 | MDS(低リスク型) | 不応性貧血・不応性血球減少症 |
5~19% | MDS(高リスク型) | 芽球増加型、白血病化リスクあり |
20%以上 | 急性骨髄性白血病 | 白血病への移行と診断 |
骨髄異形成症候群の患者では、約3割が経過中に芽球が20%を超え、急性骨髄性白血病に移行する可能性があります。このため、骨髄芽球の正常値を知り、定期的な骨髄検査でモニタリングすることが疾患管理において極めて重要です。
骨髄芽球増加を示す疾患と症状
骨髄芽球が正常値を超えて増加する主な疾患には、骨髄異形成症候群(MDS)と急性骨髄性白血病(AML)があります。これらの疾患では、造血幹細胞の異常により骨髄芽球が正常に分化・成熟できず、未熟な状態のまま骨髄内で増殖します。
急性骨髄性白血病では、骨髄芽球が異常な白血病細胞となり、正常な血液細胞に成長できなくなります。白血病細胞が骨髄を占拠することで、正常な赤血球、白血球、血小板が造られなくなり、様々な症状が出現します。
骨髄芽球増加に伴う主な症状:
- 貧血症状: 赤血球減少により、めまい、だるさ、動悸、息切れが出現します
- 感染症状: 正常な白血球減少により感染が起こりやすくなり、発熱を伴います
- 出血症状: 血小板減少により血が止まりにくくなり、出血しやすくなります
- 脾臓腫大: 白血球増加により脾臓が腫れ、左上腹部の痛みや早期満腹感が出現することがあります
骨髄異形成症候群の初期段階では症状が軽微なこともありますが、病態が進行し骨髄芽球が増加すると症状が顕著になります。特に芽球増加型(骨髄芽球5~19%)では、貧血の進行や感染症のリスクが高まり、急性白血病への移行リスクも増大します。
慢性骨髄性白血病では、初期の慢性期では症状がないこともありますが、移行期から急性転化期に進行すると骨髄芽球が増加し、重篤な感染症や出血が起こりやすくなります。
参考)慢性骨髄性白血病|血液内科|診療科紹介・部門|関西電力病院 …
急性骨髄性白血病の症状と診断についての詳細情報(国立がん研究センター)
骨髄芽球検査が必要となる状況
骨髄芽球を含む骨髄検査は、血液疾患の診断や経過観察において重要な役割を果たします。検査が必要となる具体的な状況には以下のようなケースがあります。
診断価値の高い疾患として、急性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、原因不明の汎血球減少などが挙げられます。これらの疾患では、骨髄芽球の割合が診断基準に直接関わるため、骨髄検査が必須となります。
末梢血液検査で以下の異常が見られた場合、骨髄検査の適応となります:
- 原因不明の貧血が持続する場合
- 白血球減少、血小板減少、または複数の血球減少が認められる場合
- 末梢血液の血液形態で異形成を疑う変化を認める場合
- 末梢血中に芽球が出現している場合
骨髄検査は診断時だけでなく、血液腫瘍の経過観察や治療効果の判定にも用いられます。化学療法後の寛解状態の確認や、骨髄異形成症候群の進行評価(芽球の増加をモニタリング)において定期的な検査が必要となります。
また、悪性腫瘍の骨髄浸潤の検索や、癌の化学療法に先立って行う場合もあります。骨髄検査では骨髄芽球だけでなく、染色体検査や遺伝子検査も同時に実施され、より詳細な診断と治療方針の決定に役立てられます。
骨髄芽球正常値維持のための臨床管理
骨髄芽球が正常範囲を超えて増加した場合の臨床管理は、疾患の種類と重症度によって異なります。骨髄異形成症候群では、骨髄芽球の割合がリスク分類と治療方針決定の重要な要素となります。
骨髄異形成症候群の患者では、染色体異常が約半数に認められ、最近では特徴的な遺伝子異常も検出できるようになり、診断や予後予測に活用されています。骨髄芽球が5%未満の低リスク群と、5~19%の高リスク群では治療アプローチが大きく異なります。
低リスク群(芽球5%未満)では:
- 貧血に対する輸血療法や造血刺激因子の投与
- 定期的な骨髄検査による芽球増加のモニタリング
- 症状緩和を目的とした支持療法
高リスク群(芽球5~19%)では:
- 化学療法や分子標的薬による積極的治療
- 造血幹細胞移植の検討
- 急性白血病への移行を予防する治療
骨髄芽球が20%以上に達し急性骨髄性白血病と診断された場合は、強力な化学療法が必要となり、寛解導入療法、地固め療法、維持療法といった段階的な治療が行われます。
血液検査や骨髄検査の結果に応じて病型と病期が分類され、適切な治療が開始されます。骨髄芽球の割合を正常に近づけ、正常な造血機能を回復させることが治療の主な目標となります。
骨髄異形成症候群の検査と診断の詳細(協和キリン医療関係者向け情報)