腰部脊柱管狭窄症の症状と治療法と間欠跛行

腰部脊柱管狭窄症の症状と診断と治療

腰部脊柱管狭窄症の基本情報
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疾患の定義

脊柱管(神経の通り道)が狭くなり、神経が圧迫されることで様々な症状を引き起こす疾患

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主な原因

加齢による退行変性(椎間板の変性、黄色靭帯の肥厚、関節突起の肥厚など)

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特徴的な症状

間欠跛行(歩行時の下肢痛・しびれ)、腰痛、下肢のしびれ、筋力低下

腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴う脊椎の変性によって脊柱管(神経の通り道)が狭くなり、神経が圧迫されることで様々な症状を引き起こす疾患です。日本では高齢化社会の進行に伴い、患者数が増加傾向にあります。この疾患は、適切な診断と治療によって症状の改善が期待できるため、早期発見と適切な対応が重要です。

腰部脊柱管狭窄症の原因と発症メカニズム

腰部脊柱管狭窄症の主な原因は加齢による退行変性です。具体的には以下のような変化が脊柱管の狭窄を引き起こします。

  1. 椎間板の変性(老化): 椎間板は加齢とともに水分が減少し、弾力性が失われて変形します。これにより椎間板が後方に突出し、脊柱管を狭くします。
  2. 黄色靭帯の肥厚: 背骨の後方にある黄色靭帯が加齢により厚くなり、前方から脊柱管を圧迫します。
  3. 椎間関節の肥大: 脊椎の関節が肥大化し、脊柱管を狭くします。
  4. 腰椎すべり症: 腰椎の一部が前方や後方にずれることで、脊柱管が狭くなります。

これらの変化が複合的に作用することで、脊柱管内の神経(馬尾神経)や神経根が圧迫され、様々な症状を引き起こします。また、先天的に脊柱管が狭い方は、軽度の変性でも症状が出やすいという特徴があります。

腰部脊柱管狭窄症の特徴的な症状と間欠跛行

腰部脊柱管狭窄症の最も特徴的な症状は「間欠跛行(かんけつはこう)」です。これは歩行中に徐々に下肢の痛みやしびれ、だるさが増強し、ある程度歩くと歩けなくなる症状です。休憩すると症状が軽減し、また歩けるようになるという特徴があります。

間欠跛行の特徴。

  • 歩行を続けると徐々に症状が悪化する
  • しゃがんだり、前かがみになったりすると症状が軽減する
  • 腰を反らすと症状が悪化する
  • 自転車には比較的長時間乗れる

これは、腰を反らすと脊柱管が狭くなり神経の圧迫が強まるのに対し、前かがみになると脊柱管が広がり神経の圧迫が軽減されるためです。このため、「姿勢を変えると楽になる」「自転車には乗り続けられる」という特徴が見られます。

その他の症状

  • 腰痛
  • 下肢のしびれや痛み(特に臀部、大腿、下腿の外側や背側)
  • 筋力低下
  • 重度の場合は排尿・排便障害

神経根型の脊柱管狭窄症では、坐骨神経痛のような一側性の痛みやしびれが主な症状となります。一方、馬尾型の脊柱管狭窄症では、両側の下肢に症状が出現し、間欠跛行が特徴的です。

腰部脊柱管狭窄症の診断方法とMRI検査の重要性

腰部脊柱管狭窄症の診断には、詳細な問診、身体診察、画像検査が重要です。

問診と身体診察

医師は以下のような情報を確認します。

  • 痛くなるまでに歩ける距離や時間
  • 腰を反らすと症状が悪化するか
  • 症状の出方や出ている部位
  • 筋力低下や知覚障害の有無

画像検査

  1. MRI検査:最も重要な検査で、脊柱管の狭窄の有無や程度、神経の圧迫状態を詳細に評価できます。T2強調像では、脊柱管内の脳脊髄液が白く描出され、狭窄部位では見えにくくなります。MRミエログラフィーでは脳脊髄液の流れを可視化でき、途絶部位を確認できます。
  2. レントゲン検査:腰椎の不安定性、骨のずれ、骨折や側弯の有無などを評価します。脊柱管狭窄の確定診断はできませんが、基本的な情報を得るために重要です。
  3. CT検査:骨の詳細な構造を評価できます。MRI検査ができない場合(閉所恐怖症、ペースメーカー装着者など)に代替検査として行われます。
  4. 脊髄造影検査:造影剤を用いて脊柱管内の状態を評価します。MRIができない場合に行われることがあります。

腰部脊柱管狭窄症の重症度は、MRI所見に基づいて以下のようにグレード分類されることがあります。

分類 所見
グレード0 狭窄なし
グレード1 前部髄液腔の軽度の閉塞で、馬尾がすべて分離している
グレード2 中等度の狭窄で、一部の馬尾が集合している
グレード3 馬尾が1本も分離していない重度の狭窄

診断においては、症状と画像所見の両方を総合的に評価することが重要です。画像で狭窄が見られても症状がない場合や、逆に症状があっても画像で明らかな狭窄が見られない場合もあるため、臨床症状と画像所見の慎重な対比が必要です。

腰部脊柱管狭窄症の保存的治療法と薬物療法

腰部脊柱管狭窄症の治療は、症状の程度に応じて保存的治療から手術治療まで段階的に行われます。まずは保存的治療から開始されることが一般的です。

薬物療法

  1. 血流改善薬プロスタグランジンE1(PGE1)などの血流改善薬は比較的効果があります。神経周囲の血流を改善し、症状の軽減を図ります。
  2. 消炎鎮痛薬:非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs)などを用いて、痛みや炎症を抑えます。
  3. 筋弛緩薬:筋肉の緊張を和らげ、痛みの軽減を図ります。

理学療法・リハビリテーション

  • 腰部の安定性を高める体操
  • ストレッチング
  • 姿勢指導
  • 物理療法(温熱療法、電気療法など)

装具療法

  • コルセット装着:腰椎の不安定性を抑え、症状の軽減を図ります。

ブロック注射

  • 硬膜外ブロック:局所麻酔薬やステロイド薬を硬膜外腔に注入し、神経の炎症を抑えます。
  • 神経根ブロック:特定の神経根の周囲に薬剤を注入し、痛みを軽減します。

日常生活の指導

  • 前かがみの姿勢を保つことで症状を軽減
  • 適度な休息と活動のバランス
  • 体重管理
  • 腰に負担のかかる動作の回避

保存的治療は通常2〜3ヶ月継続して行われ、効果を評価します。症状が軽度であれば、これらの治療で十分に改善することも多いです。しかし、保存的治療で効果が得られない場合や、症状が進行する場合には手術治療が検討されます。

腰部脊柱管狭窄症の手術治療と低侵襲手術の進歩

保存的治療で効果が不十分な場合や、麻痺が進行している場合、明らかな歩行障害がある場合には手術治療が検討されます。手術の目的は、狭くなった脊柱管を拡大し、神経の圧迫を解除することです。

手術適応の目安

  • 2〜3ヶ月の保存的治療で効果が不十分
  • 麻痺の進行がみられる
  • 明らかな歩行障害がある
  • 急性馬尾症候群(緊急手術の適応)

主な手術方法

  1. 腰椎開窓術(椎弓切除術)

    狭くなった脊柱管を広げるために、椎弓の一部を切除する手術です。従来は広範囲の筋肉剥離が必要でしたが、現在は低侵襲手術が主流になっています。

  2. 低侵襲手術
    • 片側進入両側除圧術:片側からアプローチして両側の神経除圧を行う方法
    • 筒型開創器を用いた手術:18mmほどの筒型開創器を用いて小さな皮膚切開(約2cm)から手術を行う方法
    • 内視鏡手術:内視鏡を用いて小さな切開から手術を行う方法
  3. トランペット型脊柱管拡大術

    棘突起を縦に切開し、椎弓を奥に行くほど広く削って脊柱管を拡大する方法。椎間関節を温存しながら十分な除圧が可能です。

  4. 固定術を併用する場合

    不安定性が強い場合や、すべり症を伴う場合には、除圧に加えて固定術(インストゥルメンテーション)を併用することがあります。

低侵襲手術の利点

  • 傷が小さい(2cm程度)
  • 術後の痛みが少なく、回復が早い
  • 筋肉へのダメージが少ない
  • 入院期間が短く、日常生活や仕事への復帰が早い

手術後の経過

手術後は通常、翌日から歩行が可能となり、約1週間で退院するのが標準的な経過です。術後のリハビリテーションにより、さらに機能回復を図ります。

ただし、腰部脊柱管狭窄症は加齢による変化であるため、手術後も加齢とともに脊柱管は少しずつ狭くなっていく可能性があります。そのため、手術後も定期的な経過観察と、腰椎に負担をかけない生活習慣の継続が重要です。

腰部脊柱管狭窄症と自転車療法の効果的活用法

腰部脊柱管狭窄症の患者さんにとって、自転車は特別な意味を持つ移動手段です。間欠跛行で歩行が困難になっても、自転車には比較的長時間乗れるという特徴があります。これは、自転車に乗る姿勢が前かがみになるため、脊柱管が広がり神経の圧迫が軽減されるためです。この特性を活かした「自転車療法」は、腰部脊柱管狭窄症の患者さんのQOL(生活の質)向上に役立つ可能性があります。

自転車療法のメリット

  1. 移動範囲の拡大:間欠跛行により歩行距離が制限されている患者さんでも、自転車であれば比較的長距離の移動が可能になります。
  2. 運動効果:適度な有酸素運動となり、全身の血流改善や筋力維持に役立ちます。
  3. 心理的効果:行動範囲が広がることで、閉じこもりを防ぎ、精神的な健康維持にも貢献します。

自転車選びのポイント

  1. 姿勢:前傾姿勢が取りやすいものが理想的ですが、あまり極端な前傾姿勢は腰への負担が大きくなる可能性があります。シティサイクルや電動アシスト自転車が適している場合が多いです。
  2. サドルの高さ:適切な高さに調整することで、ペダリング時の膝や腰への負担を軽減できます。
  3. ハンドルの位置:手が届きやすく、無理なく前傾姿勢が取れる位置に調整します。

自転車療法の実践方法

  1. 徐々に距離を延ばす:最初は短い距離から始め、徐々に距離を延ばしていきます。
  2. 定期的な休憩:長時間の連続乗車は避け、適度に休憩を取りながら乗ることが重要です。
  3. 姿勢の意識:適度な前傾姿勢を意識し、腰に過度な負担がかからないようにします。
  4. 天候や路面状況への配慮:悪天候や凸凹した路面は避け、安全に乗れる環境を選びます。

注意点

自転車療法は全ての患者さんに適しているわけではありません。特に、重度の神経症状がある場合や、バランス感覚に問題がある場合は注意が必要です。また、自転車に乗ることで症状が悪化する場合は、無理をせず医師に相談することが重要です。

自転車療法を始める前には、必ず担当医に相談し、自分の状態に適しているかどうかを確認しましょう。また、リハビリテーション専門家の指導のもとで行うことで、より安全かつ効果的に実践することができます。

https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbar_spinal_canal_stenosis