コリスチン作用機序と耐性菌問題

コリスチン作用機序と耐性

投与製剤はプロドラッグなので体内でコリスチンに変換されるまで抗菌活性がありません。

この記事の3ポイント
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陽性荷電と外膜破壊のメカニズム

コリスチンは陽性荷電を持ちグラム陰性菌の外膜リポ多糖体に結合、カルシウムとマグネシウムを置換して細胞膜を破壊する濃度依存性の殺菌作用を示します

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プロドラッグ変換と活性型の違い

注射用コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(CMS)は体内で徐々にコリスチンに変換され抗菌活性を発揮、血中濃度の個人差が大きい特徴があります

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プラスミド性耐性遺伝子mcr-1の脅威

2015年に中国で発見されたmcr-1遺伝子はプラスミド上に存在し細菌間で水平伝播するため急速な耐性拡大リスクがあり世界的な監視対象となっています

コリスチンの基本的な作用機序とグラム陰性菌への選択性

 

コリスチンは1950年に小山らによって報告されたBacillus colistinusから得られるサイクリックポリペプチド系の抗菌薬であり、ポリミキシンEとも呼ばれます。この薬剤の最大の特徴は、陽性荷電と疎水性を併せ持つ構造にあります。グラム陰性菌の外膜表面には負に帯電したリポ多糖体(LPS)が存在しており、コリスチンの陽性荷電部分がこのLPSに強く結合することで作用が始まります。

通常の状態では、グラム陰性菌の外膜は二価のカチオンであるカルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)によってLPS分子が架橋され安定化されています。コリスチンはこの架橋構造に割り込み、カルシウムとマグネシウムを置換することで外膜の安定性を崩壊させます。外膜が破壊されると、コリスチンはさらに菌体内部に侵入し細胞膜(内膜)の透過性を上昇させ、細胞内容物の漏出を引き起こして細菌を死滅させます。

つまり陽性荷電が鍵です。

グラム陰性菌だけに効くのはこのためです。グラム陽性菌は外膜にLPS構造を持たないため、コリスチンの標的となる部位が存在せず、抗菌活性を示しません。同様に、プロテウス属やセラチア属などは、もともとLPS構造のリン脂質が修飾されており自然耐性を示します。バークホルデリア属(セパシア菌を含む)、ナイセリア属、プロビデンシア属、ブルセラ属、嫌気性菌などに対しても基本的に無効です。

この作用機序の特異性により、コリスチンは緑膿菌、アシネトバクター属、大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、シトロバクター属などのグラム陰性菌に対して強力な殺菌作用を示します。日本化学療法学会の適正使用指針によると、コリスチンは濃度依存的かつ強力な短時間殺菌作用が特徴とされています。

日本化学療法学会「コリスチンの適正使用に関する指針―改訂版―」では作用機序の詳細と適正使用法が解説されています

コリスチンとポリミキシンBの構造的相違点

コリスチン(ポリミキシンE)とポリミキシンBは、ポリペプチド系抗菌薬として非常に似通った構造を持ちます。

両者の違いはアミノ酸1分子だけです。

具体的には、ポリミキシンBはD-フェニルアラニンを含むのに対し、コリスチンはD-ロイシンを含む点が異なります。

この1アミノ酸の違いは構造的にはわずかですが、臨床的には重要な意味を持つ場合があります。基本的な作用機序は同じと考えられていますが、体内動態や組織移行性、副作用の発現頻度などに若干の違いが見られることが報告されています。いずれも7つのアミノ酸からなる環状ペプチド構造を持ち、この環状構造が陽性荷電を形成し細菌外膜への結合に重要な役割を果たします。

興味深いことに、両者ともD-アミノ酸を含有する医薬品として知られています。一般的なタンパク質やペプチドはL-アミノ酸から構成されますが、コリスチンのような一部の抗菌ペプチドはD-アミノ酸を含むことで、生体内のペプチダーゼによる分解を受けにくくなっています。

作用機序は同一です。

どちらもグラム陰性菌の外膜LPSに結合し、カルシウム・マグネシウムの架橋を崩壊させて細胞膜を破壊します。また、両者ともLPSとの親和性が高く、エンドトキシン(内毒素)に結合してその作用を中和する性質も持っています。この特性により、敗血症などで血中に放出されたエンドトキシンの毒性を軽減する効果も期待されています。

わが国では、ポリミキシンBは眼科用や耳鼻科用の外用薬として主に使用されているのに対し、コリスチンは注射用製剤(オルドレブ点滴静注用)として多剤耐性グラム陰性桿菌感染症の治療に使用されるという使い分けがあります。

コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(CMS)から活性型コリスチンへの変換

臨床で使用される注射用コリスチン製剤は、実は活性型のコリスチンそのものではなく、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(CMS)というプロドラッグの形態です。この点は医療従事者が正確に理解しておくべき重要なポイントです。

CMSはコリスチンのアミノ酪酸残基にメタンスルホン酸基を付加した化合物で、コリスチンと比較して毒性が低減されています。コリスチンは当初、硫酸塩および塩酸塩として開発されましたが、腎毒性や神経毒性が問題となったため、より毒性の低い誘導体としてCMSが開発された経緯があります。

プロドラッグです。

CMSは水溶液中で自発的な加水分解を受けて、徐々に活性型のコリスチンに変換されます。この変換は体内でも起こりますが、血漿中および尿中での変換速度は個人差が大きいことが知られています。血漿中のコリスチン濃度は投与されたCMS用量に比例しますが、定常状態における血漿中濃度は個人間変動が非常に大きいという特徴があります。

この変換プロセスには重要な臨床的意味があります。CMSは抗菌活性をほぼ持たず、コリスチンに変換されて初めて抗菌作用を発揮します。したがって、投与直後は十分な抗菌効果が得られず、定常状態に達するまでに時間がかかります。重症感染症の初期治療では、この点を考慮してローディングドーズ(初回負荷投与)の検討が必要な場合があります。

CMSは腎臓から排泄され、尿中でもコリスチンに変換されるため、尿路感染症に対しては高い有効性が期待できます。一方で、腎機能障害患者ではCMSの血中濃度が上昇しやすく、用量調整が必須となります。また、腎機能が低下していると、CMSからコリスチンへの変換効率も変化する可能性が指摘されています。

治療薬物モニタリング(TDM)を実施する際も、CMSとコリスチンを区別して測定することが理想的ですが、多くの施設では両者を合わせた測定しかできないのが現状です。この測定上の制約も、投与設計を複雑にする要因となっています。

コリスチン濃度依存性殺菌作用とPK-PD理論

コリスチンの殺菌特性を理解するうえで重要なのが、濃度依存性(concentration-dependent)の殺菌パターンを示すという点です。これは、抗菌薬の濃度が高くなるほど殺菌速度が速く、殺菌効果も強くなることを意味します。

アミノグリコシド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬と同様に、コリスチンの有効性を予測するPK-PDパラメータとしては、AUC/MIC(血中濃度-時間曲線下面積と最小発育阻止濃度の比)およびCmax/MIC(最高血中濃度とMICの比)が重要であると考えられています。理論的には、MICの10倍以上の血中濃度を達成することで、より確実な殺菌効果が得られるとされます。

濃度が重要です。

さらにコリスチンは、Post Antibiotic Effect(PAE、抗菌薬消失後効果)を持つことが報告されています。PAEとは、抗菌薬が血中から消失した後も一定期間細菌の増殖が抑制される現象です。コリスチンのPAEは1~2時間程度とされ、この効果により投与間隔をある程度延長できる可能性があります。

しかし実際の臨床では、コリスチンの投与設計は単純ではありません。前述の通り投与されるのはプロドラッグのCMSであり、活性型コリスチンへの変換に時間がかかること、血中濃度の個人差が大きいこと、腎機能によって体内動態が大きく変化することなどが、最適な投与法の確立を困難にしています。

加えて、濃度依存的に毒性も高まる傾向があります。特に腎毒性は用量依存的に発現頻度が高まることが知られており、高用量投与による効果増強と副作用リスクのバランスを考慮する必要があります。日本化学療法学会の指針では、腎障害の発現頻度は21%と報告されていますが、可逆的であり治療中断により回復することが多いとされています。

したがって実地臨床では、患者の腎機能、感染部位、起因菌のMIC値、他の抗菌薬との併用の有無などを総合的に評価して投与量と投与間隔を決定する必要があります。可能であればTDMを実施し、血中コリスチン濃度をモニタリングしながら用量調整を行うことが推奨されます。

コリスチン耐性機序とプラスミド性mcr-1遺伝子の脅威

近年、コリスチンに対する耐性菌の出現が世界的な問題となっています。特に2015年に中国で報告されたプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1の発見は、医療界に大きな衝撃を与えました。

従来、コリスチン耐性は主に染色体上の遺伝子変異によって獲得されると考えられてきました。LPS構造、特にLipid A部分のリン脂質が修飾され陰性荷電が減少することで、陽性荷電を持つコリスチンの結合が阻害されます。緑膿菌、アシネトバクター属、大腸菌、サルモネラ属、肺炎桿菌などで、このメカニズムによるコリスチン耐性が報告されています。

プラスミド伝播です。

しかしmcr-1遺伝子は、染色体ではなくプラスミド上に存在します。プラスミドは細菌細胞内で染色体とは別に自律的に複製され、接合によって他の細菌に水平伝播する可能性があります。つまり、mcr-1を持つ細菌は、同種だけでなく異種の細菌にも耐性を伝達できるのです。

mcr-1遺伝子は、ホスホエタノールアミントランスフェラーゼという酵素をコードしており、この酵素がLipid Aにホスホエタノールアミンを付加することでコリスチン耐性を獲得します。mcr-1の発見以降、現在までにmcr-1からmcr-10までのバリアントが報告されており、世界各国でmcr保有菌が確認されています。

日本でも2016年にmcr-1陽性大腸菌が確認されました。農林水産省の報告によると、家畜へのコリスチン使用との関連が指摘されており、食品安全委員会は硫酸コリスチンの飼料添加物としての使用が人の健康に悪影響を及ぼすおそれがあると評価し、2018年7月から飼料添加物としての使用が禁止されています。

興味深いことに、Moffatt らの研究では、コリスチンに耐性を獲得したアシネトバクターではLPS産生が完全に消失していることが報告されています。LPSを失った細菌は外膜の安定性が低下し、バイオフィルム形成能の低下や病原性の低下が見られることから、耐性獲得にはフィットネスコストが伴うと考えられています。

また、コリスチンに対するヘテロ耐性の存在も注目されています。アシネトバクター属では、菌集団の大部分は感性でも、わずかな亜集団が高度耐性を示すことがあります。コリスチン投与により感性菌が死滅すると、この耐性亜集団が選択的に増殖して臨床的な治療失敗を引き起こす可能性があります。

農林水産省のコリスチン耐性に関する資料ではmcr-1の伝播リスクと監視体制について詳しく解説されています

コリスチン耐性抑制のための併用療法と臨床戦略

コリスチン耐性菌の出現を防ぐため、また既存の耐性菌に対する治療効果を高めるために、他系統の抗菌薬との併用療法が重要な戦略となります。

多数のin vitroおよびin vivo研究で、コリスチンと他の抗菌薬との相乗効果が報告されています。特に多剤耐性アシネトバクターや多剤耐性緑膿菌に対して、コリスチンとリファンピシン、カルバペネム系(イミペネム、メロペネム)、アミノグリコシド系(トブラマイシン)、ミノサイクリン、グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン)などとの併用で相乗効果が示されています。

併用が原則です。

特にカルバペネム系抗菌薬との併用は注目に値します。カルバペネム耐性菌に対してもコリスチンとの併用により殺菌作用が増強されることが複数の研究で確認されています。これは、コリスチンが外膜を破壊することでカルバペネムの菌体内侵入が促進され、内膜のペニシリン結合タンパク(PBP)に到達しやすくなるためと考えられています。

リファンピシンとの併用も有効性が高いとされます。リファンピシンは脂溶性が高く組織移行性に優れるため、コリスチン単剤では十分な濃度が得られにくい感染部位でも効果を発揮する可能性があります。ただしリファンピシン単剤使用では急速に耐性化するため、必ず併用療法として使用する必要があります。

さらに、バイオフィルム形成菌に対しても併用療法の有効性が報告されています。緑膿菌のバイオフィルムに対して、コリスチンとトブラマイシンの併用で相乗的な殺菌効果が得られたという研究があります。

ただし注意点もあります。ティゲサイクリンとの併用では、多剤耐性アシネトバクターに対して相乗効果が認められなかったという報告があります。すべての組み合わせで相乗効果が得られるわけではないため、起因菌と抗菌薬の組み合わせを慎重に選択する必要があります。

臨床的には、重症感染症や多剤耐性菌感染症に対しては、コリスチン単剤ではなく併用療法を第一選択とすることが推奨されます。併用によって耐性菌の出現を抑制し、治療効果を高め、コリスチンの投与量を減らすことで副作用リスクを低減できる可能性があります。感染症専門医や薬剤師と連携し、患者ごとに最適な併用レジメンを検討することが重要です。




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