コラーゲンの効果と嘘
コラーゲンの消化吸収メカニズム
コラーゲンは口から摂取すると消化酵素によってアミノ酸やペプチドに分解されます。かつては「コラーゲンは全てアミノ酸に分解されるため、他のタンパク質を食べることと変わらない」と考えられていました。しかし近年の研究により、コラーゲンはすべてアミノ酸に分解されるのではなく、一部はペプチドの形で吸収されることが明らかになりました。
特にコラーゲン特有のペプチドとして、プロリン-ヒドロキシプロリン(Pro-Hyp)やグリシン-プロリン-ヒドロキシプロリン(Gly-Pro-Hyp)などのジペプチドやトリペプチドが血液中に高い濃度で出現することが報告されています。これらのオリゴペプチドは、コラーゲン特有のアミノ酸配列を持ち、他のタンパク質にはほとんど存在しないものです。
ファンケルと横浜市立大学の共同研究では、コラーゲンペプチドを経口摂取した後、血液中だけでなく皮膚にまで17種類のペプチドが到達していることが確認されました。特にGly-Pro-Hypトリペプチドとその分解物であるPro-Hypジペプチドが、皮膚に高濃度で届いていることが明らかとなっています。
参考)https://www.fancl.jp/news/pdf/20170711_collagenpeptide.pdf
コラーゲン摂取の科学的エビデンス
コラーゲンペプチドの摂取効果については、複数の臨床試験で検証されています。2023年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、26件のランダム化比較試験(RCT)、1721名の患者データを統合的に分析した結果、コラーゲンペプチドの補給が肌の水分量(Z=4.94, p<0.00001)と弾力性(Z=4.49, p<0.00001)を有意に改善することが示されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10180699/
複数の研究で、コラーゲンペプチドを毎日摂取することで肌の弾力性が向上し、これらの改善効果は摂取開始から4週間から12週間程度という比較的短期間で観察されたと報告されています。メタアナリシスの結果では、皮膚水分量に対する標準化平均値は0.63、皮膚粘弾性は0.72であり、これは中等度から効果大の範囲に相当します。
参考)【医師執筆監修】肌コラーゲンを増やす!サプリの真実と効果的な…
具体的な研究例として、72名の健康な女性を対象とした12週間のランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、1日2.5gのコラーゲンペプチドとビタミンCを含むサプリメントの摂取により、肌の水分量、弾力性、粗さ、皮膚密度が有意に改善されました。また別の研究では、1日10gのコラーゲンペプチドを56日間摂取することで、保湿量が約14%増加したことが報告されています。
参考)https://www.mdpi.com/2072-6643/11/10/2494
コラーゲンと関節・骨への効果
コラーゲンは皮膚だけでなく、関節や骨の健康にも関与しています。関節軟骨の主要な成分はⅡ型コラーゲンであり、関節は骨と骨をつなぎ合わせる部分で、軟骨や靭帯が間に入ることで骨同士の摩擦を軽減しています。
コラーゲンペプチドの補給に関する研究では、慢性疼痛を持つ活動的な成人において、疼痛の軽減や身体機能の改善が報告されています。米国では成人の19%が慢性疼痛に悩まされており、これは活動的な人や高齢者でさらに高い割合となっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10411303/
コラーゲンは人体で最も豊富なタンパク質であり、細胞外マトリックスの構成要素として、炎症や関節の健康の両方に影響を与える栄養素です。短期的なコラーゲンペプチド補給による疼痛軽減の報告がある一方で、長期的な効果についてはさらなる研究が必要とされています。
参考)https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15502783.2023.2243252
コラーゲン効果を高める摂取方法
体内でコラーゲンを合成するには、アミノ酸のほか、ビタミンCや鉄分といった栄養素が必要となります。厚生労働省が推奨している1日に必要とするビタミンCの食事摂取基準は18歳以上で100mgとされており、コラーゲン合成時に体内にビタミンCが足りているかどうかが重要です。
参考)【医師監修】コラーゲンとアミノ酸の関係とは?|ネスレ コラー…
コラーゲンを多く含む食べ物としては、鶏皮や牛スジ、鶏軟骨などがあげられます。ただし、これらの食品は脂質も多く含まれているため、食品からコラーゲンを摂る場合は脂質の摂りすぎやカロリーオーバーに注意が必要です。サプリメントには脂質がほとんど含まれないため、必要に応じて活用するとよいでしょう。
コラーゲンにヒアルロン酸やビタミンCを加えた製品では、皮膚密度・テクスチャ改善・シワ軽減などが観察されています。コラーゲンペプチドの推奨摂取量は1日5g~10g程度とされており、分子の大きさが小さいほど吸収率が高くなります。
参考)コラーゲンサプリの特徴とは?良さをより実感するための選び方の…
コラーゲンの誤解と正しい理解
コラーゲンに関する誤解として最も多いのが「フカヒレを食べても肌のコラーゲンはほとんど増えない」という指摘です。資生堂の調査によれば、コラーゲンは食事から摂取すると他のタンパク質と同様に体内でアミノ酸などの低分子に分解されるため、食品からの摂取は効率的とは言えません。
しかし、これは通常の食品由来コラーゲンに関する話であり、低分子化されたコラーゲンペプチドとは異なります。コラーゲンペプチドは既に低分子化されており、腸から吸収されやすい形になっています。医学界においても「厳密に言えばコラーゲン摂取の効果には強いエビデンスはない」としながらも、複数の臨床試験で良好な効果が報告されていることが認められています。
参考)http://www.chem.waseda.ac.jp/koide/20191115.pdf
科学的には肌からのコラーゲン補給は証明されていないにも関わらず、コラーゲン配合の化粧品が多数販売されていることも事実です。一方で、経口摂取に関しては近年の研究で有効性を示唆するデータが蓄積されており、完全に「嘘」と断言することはできない状況になっています。
参考)医師目線でのコラーゲンペプチドの効果について|セルバンクの「…
肌の水分量と弾力性改善に関する26件のランダム化比較試験を統合的に分析した研究報告
横浜市立大学との共同研究でコラーゲン特有のペプチドが皮膚に到達することを実証
医学的観点からコラーゲン摂取の効果検証について臨床試験データをもとに解説