コンタクトレンズ関連角膜感染症リスク要因と対策ガイド

コンタクトレンズ関連角膜感染症リスクと対策

コンタクトレンズ関連角膜感染症の概略
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重症例を想定したリスク評価

CL関連角膜感染症の主要起因微生物とリスク因子を整理し、重症化しやすい背景をつかむ。

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早期診断と治療戦略

初診時から起因菌を意識した検査・治療選択の組み立て方を確認する。

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患者指導と外来マネジメント

再発予防を見据えた患者教育と多職種連携のポイントを具体的に押さえる。

コンタクトレンズ関連角膜感染症の疫学と典型的リスク因子

 

コンタクトレンズ関連角膜感染症は、若年層の角膜感染症の多くを占める代表的な視機能予後不良の原因であり、10~20代角膜感染症患者の約9割がコンタクト装用者という報告もあります。

日本の全国調査では、重症コンタクトレンズ関連角膜感染症の起因微生物として緑膿菌アカントアメーバが突出して多いことが示されており、細菌と原虫双方を想定した対応が求められます。

頻回交換型ソフトコンタクトレンズ装用者での発症が多く、装用時間オーバーやレンズケア不良といったコンプライアンス不良が強く関連している点は、外来での問診時に必ず押さえておくべきポイントです。

コンタクトレンズを装着したまま睡眠をとる行為は、角膜の低酸素状態と上皮障害を介して感染リスクを6~8倍に増加させるとされ、夜間装用習慣の有無は初診時に具体的な頻度まで踏み込んで聴取する必要があります。

参考)82号 コンタクトレンズと角膜感染症

ドラッグストア等で購入できる装飾用コンタクトレンズの長期連続装用も、洗浄・消毒が不十分になりやすく、緑膿菌や肺炎桿菌による重症潰瘍を来した症例報告があり、医療従事者側から積極的に使用状況を確認しないと見逃されがちです。

参考)https://www.radionikkei.jp/kansenshotoday/__a__/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-160504.pdf

また、1Dayレンズであっても「もったいない」という理由で再装用している患者は少なくなく、自覚的には「安全なレンズ」のつもりでリスク行動をとっている点が教育上の盲点となっています。

参考)角膜感染症を防ぐためにはコンタクトレンズの正しいケアが大切

角膜感染症の発症には「角膜バリア機能の低下」と「病原微生物の増殖環境」の二つの条件が揃うことが必要であり、コンタクトレンズの装用は涙液の入れ替わりを妨げ、角膜の酸素不足とドライアイを誘発してバリア機能を損ないます。

コンタクトレンズケース内のバイオフィルム形成も重要なリスクで、レンズケースを2~3か月以上交換していない症例では、細菌やアカントアメーバが高頻度に検出されることが知られており、ケース交換の習慣づけが予防上欠かせません。

参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/contact_lens2_6.pdf

さらに、シャワーや入浴時の装用、水泳時の装用は、自覚的な違和感が乏しくてもアカントアメーバ角膜炎の発症と強く関連する行動としてガイドラインでも繰り返し注意喚起されています。

参考)https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=298amp;dispmid=909

日本眼科学会「コンタクトレンズ診療ガイドライン」

コンタクトレンズ診療ガイドライン(第2版) – 日本眼科学会

コンタクトレンズ関連角膜感染症で問題となる起因微生物と病態の特徴

重症コンタクトレンズ関連角膜感染症において最も問題となる起因微生物は緑膿菌であり、急速進行性の角膜潰瘍を形成して短期間で角膜穿孔や瘢痕性視力低下に至るリスクが高い点が特徴です。

緑膿菌はレンズやレンズケース表面でバイオフィルムを形成しやすく、一般的な消毒の「洗い残し」部位に潜みながら増殖するため、表面的にはきれいに見えるケースでも高濃度に存在し得ることが看過されています。

点状表層角膜症レベルの初期所見から短時間で深い潰瘍へと進行する例もあるため、CL装用歴のある患者では軽度の疼痛や霧視であっても、問診とスリット所見から緑膿菌性角膜潰瘍を疑う姿勢が重要です。

アカントアメーバ角膜炎は、コンタクトレンズ関連角膜感染症の中でも診断遅延が問題になる疾患で、初期には単純ヘルペス角膜炎や細菌性潰瘍と鑑別が困難なことが少なくありません。

典型例では、強い眼痛にもかかわらず角膜所見が比較的軽く見える「pain out of proportion」が手がかりとなり、リング状浸潤や神経炎症所見が後から目立ってくる経過をとることがあります。

水道水やプール水との接触歴、レンズケアに水道水を用いているかどうか、レンズをつけたままのシャワー・入浴習慣など、患者側が「関係ない」と思っている行動を丁寧に引き出すことが診断には欠かせません。

細菌性角膜潰瘍では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が治療上しばしば問題となり、フルオロキノロン単剤では反応が乏しい例も報告されています。

この場合、バンコマイシンや強力なセフェム系とアミノグリコシド系点眼を組み合わせた集中的投与が必要になることがあり、培養結果と感受性を踏まえた抗菌薬の早期スイッチが予後を左右します。

一方で、コンタクトレンズ関連では真菌性角膜炎もまれならず遭遇し、特にステロイド点眼の自己中断・自己再開を繰り返している患者では、菌糸性の深在性浸潤を見逃さないようOCTや角膜擦過の活用が推奨されます。

健栄製薬 医療従事者向け解説

コンタクトレンズと角膜感染症 | 健栄製薬株式会社

コンタクトレンズ関連角膜感染症の診断プロセスと初期治療戦略

コンタクトレンズ関連角膜感染症が疑われる患者を診察する際は、まず視力・眼圧・前眼部スリット所見を迅速に確認しつつ、装用レンズとレンズケースをその場で回収し培養検査に回すフローを標準化しておくことが望まれます。

角膜擦過はできるだけ初診時に実施し、細菌培養だけでなくアカントアメーバや真菌を含めた総合的検索が可能な施設との連携体制をあらかじめ整備しておくと、起因菌不明のまま治療に難渋する症例を減らせます。

患者が強い疼痛のため検査協力が難しい場合には、先に表面麻酔を使用してから角膜擦過・写真撮影を迅速に済ませるなど、検査手順をあらかじめチーム内で共有しておくとトラブルを避けられます。

初期治療では、幅広いグラム陽性・陰性菌をカバーするフルオロキノロン系点眼薬一選択となることが多いものの、重症例や中心部潰瘍では、フルオロキノロン高頻度点眼に加えて、セファロスポリンとアミノグリコシドの併用など、より広域で高濃度の点眼レジメンを検討します。

角膜穿孔リスクが高い場合には、入院のうえで点眼を1時間ごとに実施できる体制を整えるとともに、緊急角膜移植の準備を移植施設と並行して進めておくことが重要です。

参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/115_107.pdf

一方、軽症例では外来フォローが可能ですが、自己判断による点眼中断を防ぐために、症状が軽快した段階での点眼継続期間と漸減方法を具体的な回数スケジュールとして書面で渡す工夫が有用です。

参考)コンタクトレンズと感染症

アカントアメーバが疑われる場合には、一般的な抗菌点眼では十分な効果が得られにくく、ビグアナイド系やダイアミジン系薬剤の長期投与が必要となり、治療期間が数か月に及ぶこともあります。

その際、疼痛コントロールと視機能リハビリテーションを視野に入れた多職種連携(ペインクリニック、視能訓練士など)が、患者のアドヒアランス維持に大きく寄与します。

角膜感染症と診断される前に、一般診療所等でステロイド点眼のみが処方され悪化している症例も少なくないため、「コンタクトレンズ装用+難治性角膜炎+強い痛み」の組み合わせを見たら、アカントアメーバを必ず鑑別に入れる姿勢が求められます。

日本眼感染症学会 関連ガイドライン(概説)

感染性角膜炎診療ガイドライン(紹介ページ)

コンタクトレンズ関連角膜感染症予防のための患者教育と行動変容支援

コンタクトレンズ関連角膜感染症を減らす上で、医療従事者による患者教育は治療以上に重要な要素であり、特に「寝落ち装用」「レンズの使い回し」「水道水使用」の3点を繰り返し具体的に禁止事項として伝える必要があります。

日本眼科学会のガイドラインでも、コンタクトレンズ処方時と定期検査時の指導内容が詳細に列挙されており、装用時間・交換スケジュール・ケア方法を文章やイラスト付き資料で可視化することが推奨されています。

単に「守ってください」と伝えるだけでなく、「守らないとどのような視機能障害がどれくらいの頻度で起こるのか」を具体的な症例写真とともに示すことで、患者のリスク認知が高まり、行動変容につながりやすくなります。

予防指導では、以下のようなチェックリスト形式が外来で実践しやすい方法の一つです。

  • 寝る前に必ずコンタクトレンズを外しているか
  • レンズケースを3か月以内に交換しているか
  • レンズをこすり洗いし、新鮮なケア液で保存しているか
  • 装着前に必ず手洗いをしているか
  • シャワー・入浴・プール時には装用していないか
  • 1Dayレンズを再使用していないか

患者教育で意外に有効なのが、「レンズケースの中身を実際に培養し、コロニー写真を見せる」という方法で、視覚的なインパクトにより、自宅でのケア行動が大きく改善したとの報告もあります。

また、若年層ではスマートフォンを用いたリマインダーアプリや、交換日を記録するカレンダー機能を活用し、「うっかり忘れ」を技術的に補う仕組みを提案することも行動変容支援として有用です。

装飾用コンタクトレンズユーザーに対しては、「医療機関を介さない購入ルート」が前提になっていることを踏まえ、学校健診や職場健診と連携して啓発資料を配布するなど、医療機関外での情報提供の場を意識した介入が求められます。

参考)コンタクトレンズの不適切な使用に要注意!失明や感染症リスクに…

日本眼科医会 一般向け情報

コンタクトレンズと感染症 | 目についての健康情報

コンタクトレンズ関連角膜感染症と医療現場の落とし穴・独自視点での注意点

コンタクトレンズ関連角膜感染症の診療でしばしば見落とされるのが、「患者が既にレンズ装用を中止して受診しているため、医師側がコンタクトユーザーであることに気づかない」というケースであり、初診時の問診票に「コンタクトレンズ歴」「種類」「最終装用日」を必須項目として追加するだけでも見逃しを減らせます。

また、スマホやタブレットを使用しながらの長時間装用は、瞬目回数の低下によるドライアイ悪化を介して角膜上皮障害を増強し、同じ装用時間でもデバイス利用スタイルによって感染リスクが変わり得る点は、これまで十分に説明されてこなかった視点です。

さらに、在宅勤務やオンライン授業の普及で「コンタクトレンズをする時間が長くなったが、外出機会が減ったため安全だと思っている」という認識のズレが生じており、生活様式の変化を前提とした最新の装用指導が求められています。

もう一つの落とし穴は、医療従事者自身のコンタクトレンズ装用習慣で、医師や看護師が日常的にルール違反装用をしていると、患者への指導に説得力が出にくくなるだけでなく、「白衣を着たロールモデル」として誤ったメッセージを与えてしまう点です。

院内でコンタクトレンズ装用ガイドラインをスタッフにも適用し、ラウンジ等での張り紙や勉強会を通じて、「医療従事者自身がルールを守る文化」を作ることが、結果的に患者への説明の質向上にもつながります。

さらに、電子カルテのテンプレートに「コンタクトレンズ関連角膜感染症疑い」のチェックボックスと標準オーダーセット(角膜擦過、培養検査、写真撮影、初期点眼レジメン)を組み込むと、忙しい外来でも抜け漏れなく対応でき、経験の浅い医師でも一定水準の診療が行えるようになります。

重症コンタクトレンズ関連角膜感染症 全国調査

重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査 – 日本眼科学会



あたらしい眼科 26ー9 特集:コンタクトレンズ関連角膜感染症 木下茂