こめかみの血管が浮き出るのはなぜか
こめかみの血管が浮き出る生理的な原因と加齢の影響
こめかみの血管が浮き出て見える現象は、多くの人が経験するものであり、その大部分は生理的な範疇に収まります 。特に、年齢を重ねることは、この現象の最も一般的な原因の一つです 。加齢に伴い、皮膚の真皮層にあるコラーゲンやエラスチンが減少し、皮膚全体の弾力性が失われます 。その結果、皮膚が薄く(菲薄化)なり、その下にある血管が透けて見えやすくなるのです 。また、加齢は皮下脂肪の減少ももたらします 。こめかみ周辺はもともと皮下脂肪が少ない部位ですが、加齢によってさらに脂肪が減ることで、血管と皮膚の間のクッションがなくなり、血管の輪郭がより鮮明に浮き上がってきます。
さらに、血管自体の変化も影響します。年齢とともに血管壁の弾力性も低下し、硬くなる傾向があります(動脈硬化)。弾力性が失われた血管は、血流の圧力に対して柔軟に拡張・収縮することが難しくなり、結果として血管が拡張した状態が続き、目立ちやすくなることがあります 。
下記のような一時的な血流の増加も、こめかみの血管を目立たせる要因となります。
- 💪 身体活動: 運動中は筋肉への酸素供給のために心拍数が上がり、血流が増加します。これにより、全身の血管が拡張し、こめかみのような皮膚の薄い部分で血管が目立ちます。
- 😠 感情の起伏: ストレス、興奮、緊張といった精神的な要因は、交感神経を刺激します 。交感神経が優位になると、血圧が上昇し、心拍数が増加するため、一時的に血流が増え、血管が浮き出ることがあります。
- ♨️ 体温の上昇: 入浴やサウナ、暑い環境下にいると、体温調節のために皮膚表面の血管が拡張し、血流が増加します 。これにより、熱を体外に放出しようとするため、血管が目立ちやすくなります。
- 🍷 アルコールの摂取: アルコールには血管拡張作用があります 。飲酒後、特にアルコールの代謝物であるアセトアルデヒドの影響で顔が赤くなる人は、血管が拡張し、こめかみの血管も浮き出て見えやすくなります。
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これらの生理的変化は、通常、一過性であり、原因がなくなれば血管の目立ちも収まることがほとんどです。痛みや他の症状を伴わない場合は、病的な心配は少ないと考えてよいでしょう。
こめかみの血管と頭痛、注意すべき危険な病気とは?
こめかみの血管が浮き出ると同時に頭痛がある場合、単なる緊張型頭痛や片頭痛の可能性もありますが、中には緊急性の高い危険な病気が隠れているケースがあり、医療従事者として特に注意が必要です 。最も警戒すべき疾患の一つが「巨細胞性動脈炎」、通称「側頭動脈炎」です 。
側頭動脈炎は、主に側頭動脈をはじめとする頭部の比較的太い動脈に炎症が起こる血管炎の一種です 。50歳以上の高齢者、特に女性に好発します 。
側頭動脈炎を疑うべき徴候:
- 🤕 新たに発症した、拍動性の激しい頭痛: これまで経験したことのないような、ズキンズキンと脈打つような頭痛がこめかみ部分に生じます 。
- 🍴 顎跛行(がくはこう):食事の際に、ものを噛んでいると顎の筋肉がだるくなったり、痛くなったりする特徴的な症状です 。これは、顎へ血液を送る動脈の炎症による血流障害が原因です。
- 👁️ 視力障害: ものが二重に見える(複視)、一時的に片方の目が見えなくなる(一過性黒内障)、最終的には失明に至ることもあります 。これは眼動脈に炎症が及ぶためで、不可逆的な視力喪失につながるため、最も緊急を要する症状です。
- 🤒 全身症状: 発熱、全身の倦怠感、食欲不振、体重減少などを伴うこともあります 。
- 👆 側頭動脈の圧痛や硬結: 炎症を起こしているこめかみの血管を触ると、硬く腫れており、圧痛を認めます 。拍動が弱く感じられることもあります。
側頭動脈炎は、迅速な診断と治療(主に高用量のステロイド療法)を開始しないと、永続的な視力障害をきたすリスクがあるため、上記の症状を訴える患者には特に注意深い観察と鑑別が求められます 。
その他、高血圧や動脈硬化が進行している場合も、血管壁への負担が増し、こめかみの血管の拍動が強く感じられたり、浮き出て見えたりすることがあります 。急激な血圧上昇は脳出血などのリスクも伴うため、血圧の管理は非常に重要です。稀ではありますが、脳動静脈奇形(AVM)などの脳血管疾患が原因で、頭部の血流が異常に増加し、血管が浮き出ることも考えられます。これらの病気は、生命に関わることもあるため、見逃さないようにしましょう。
下記の参考リンクは、側頭動脈炎について医師向けに詳細に解説しており、診断や治療の参考に有用です。
MSDマニュアル プロフェッショナル版 – 巨細胞性動脈炎
こめかみの血管の痛みと関連する側頭動脈炎とリウマチ性多発筋痛症
側頭動脈炎を診療する上で、非常に重要な関連疾患が「リウマチ性多発筋痛症(PMR)」です 。この二つの疾患は密接に関連しており、しばしば合併することが知られています。臨床現場では、一方の疾患を診断した場合、もう一方の合併を常に念頭に置く必要があります。
リウマチ性多発筋痛症(PMR)は、50歳以上に発症し、首、肩、腰、太ももといった体幹に近い部分の筋肉に痛みやこわばりを生じる原因不明の炎症性疾患です 。特に「朝のこわばり」が特徴的で、起床時に首や肩が痛くて起き上がれない、寝返りが打てないといった症状を訴える患者が多く見られます。
側頭動脈炎とPMRの関連性:
- 📊 高い合併率: リウマチ性多発筋痛症の患者の約15〜20%が側頭動脈炎を合併し、逆に側頭動脈炎の患者の約40〜60%がリウマチ性多発筋痛症の症状を伴うと報告されています 。この高い合併率から、両者は同一の疾患スペクトラムに含まれる病態ではないかと考えられています。
- 共通する発症年齢と性差: いずれも50歳以上の高齢者に多く、女性の発症率が男性より高いという共通点があります 。
- 炎症反応の亢進: 血液検査では、両疾患ともに赤沈(ESR)の著しい亢進やCRPの強陽性といった、強い炎症反応が見られます。
鑑別と治療のポイント
PMRの症状(肩や腰の痛み)を訴える高齢患者に、頭痛や視力異常、顎跛行などの症状がないかを問診することが極めて重要です。側頭動脈炎の合併を見逃すと、前述の通り失明という重大な結果を招きかねません 。
治療は、副腎皮質ステロイドが第一選択薬となり、両疾患ともに劇的な効果を示します 。
| 疾患 | 主な症状 | 推奨されるステロイド初期投与量(プレドニゾロン換算) |
|---|---|---|
| リウマチ性多発筋痛症 (PMR) | 首、肩、腰などの痛みと朝のこわばり | 10-20mg/日 |
| 側頭動脈炎 (GCA) | 頭痛、顎跛行、視力障害 | 30-60mg/日(中等量〜高用量) |
側頭動脈炎を合併している場合は、失明予防のために、より高用量のステロイドを迅速に開始する必要があります 。近年では、ステロイドの減量が困難な難治例や再燃例に対して、IL-6受容体阻害薬(トシリズマブなど)の有効性が示され、治療選択肢が広がっています。日本では、巨細胞性動脈炎に対してIL-6阻害薬の保険適用が認められています 。
リウマチ性多発筋痛症と側頭動脈炎の合併や治療について、日本リウマチ学会のガイドラインが参考になります。
一般社団法人 日本リウマチ学会
こめかみの血管が浮き出るのは遺伝や体質?皮膚の薄さとの関係性
こめかみの血管が目立つ原因として、病気や加齢だけでなく、遺伝的要因や個人の体質が大きく関わっているという視点は、患者への説明において重要です 。特に、もともとの皮膚の質や血管の走行パターンには個人差があり、これらが血管の目立ちやすさに影響を与えます。
遺伝的・体質的要因:
- 🧬 皮膚の薄さと色: 親からの遺伝で、もともと皮膚が薄い人や、色白の人は、皮膚の下の血管が透けて見えやすい傾向があります 。皮膚の厚みやメラニン色素の量は遺伝によって大きく左右されるため、家族に同様の体質の人がいる場合も多いです。
- 🗺️ 血管の走行パターン: 浅側頭動脈などの血管が、皮膚表面に近いところを走行している場合、体質的に血管が浮き出て見えやすくなります。血管の分岐や走行ルートは解剖学的に個人差が大きく、これも遺伝的要因の一つと考えられます。
- 💪 筋肉や骨格の構造: こめかみ部分の筋肉の付き方や、側頭骨の形状によっても、血管の目立ちやすさは変わってきます。痩せ型で顔の皮下脂肪が少ない人は、骨格や血管の輪郭が明瞭になりやすいです。
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この現象は、手の甲や腕の血管が浮き出て見える「ハンドベイン」と類似したメカニズムを持っています 。ハンドベインもまた、加齢による皮膚の菲薄化や脂肪減少に加え、遺伝的な血管の太さや走行が原因で起こります。患者さんの中には、若い頃から手の血管が目立ちやすかったという人もおり、そのような方は、加齢とともにはこめかみの血管も目立ちやすくなる可能性があります。
意外な要因:血管の蛇行と力学的ストレス
あまり知られていませんが、血管の「蛇行(tortuosity)」も血管が浮き出る一因となり得ます 。長年の血圧負荷や加齢により、動脈が伸長し、ねじれるように蛇行することがあります。蛇行した血管は、直線的な血管よりも表面に突出しやすくなるため、外から見て目立つようになります。高血圧やアテローム性動脈硬化は、この血管蛇行を促進する要因として知られており、遺伝的素因も関与している可能性が指摘されています 。つまり、「血管が浮き出る」という見た目の変化は、血管自体が力学的ストレスに適応(あるいは不適応)した結果としての構造的変化である、という捉え方もできます。
これらの体質的・遺伝的要因は、直接的に病気を示すものではありません。しかし、患者が「なぜ自分だけ目立つのか」と不安に感じている場合、こうした個人差について説明することで、不要な心配を和らげることができます。ただし、その上で、急激な変化や痛みを伴う場合は病的な可能性を考慮し、専門医の診察を勧めることが肝要です。
こめかみの血管が浮き出た際の対処法と受診すべき診療科
こめかみの血管が浮き出ていることに気づいた場合、慌てずにその状態を観察し、伴随する症状の有無を確認することが重要です。対処法や受診すべき診療科は、その原因によって大きく異なります。
緊急性が高く、すぐに医療機関を受診すべき場合
以下の症状を伴う場合は、側頭動脈炎による不可逆的な視力障害や、その他の重篤な脳血管疾患の可能性があります。速やかに救急外来を受診するか、かかりつけ医に連絡するよう指導してください。
- 突然発症した、今までにないほどの激しい頭痛 ⚡️
- ものが二重に見える、視野が欠ける、一時的に片目が見えなくなるなどの視力異常 👁️
- 食事の際に顎が痛くなる、だるくなる(顎跛行)턱
- 原因不明の発熱や、急激な体重減少 📉
- ろれつが回らない、片側の手足に力が入らないなどの神経症状 🧠
これらの症状がある場合、まずは総合病院の総合内科や神経内科、あるいは救急科を受診するのが適切です。側頭動脈炎が疑われる場合は、膠原病内科(リウマチ科)が専門となります 。
緊急性は低いが、専門医への相談が推奨される場合
痛みや他の全身症状はないものの、見た目が気になる、あるいは徐々に目立つようになってきたという場合は、以下のような選択肢が考えられます。
| 相談内容 | 推奨される診療科 | 主な治療法・アプローチ |
|---|---|---|
| 高血圧や動脈硬化が心配、頭痛も時々ある | 一般内科、循環器内科、神経内科 | 血圧測定、血液検査、頸動脈エコーなどで全身の血管の状態を評価し、生活習慣の指導や薬物治療を行う。 |
| 美容的な観点から、浮き出た血管を目立たなくしたい | 形成外科、美容皮膚科 | ヒアルロン酸注入でくぼみを目立たなくする、レーザー治療、血管内治療(硬化療法)など。ただし、側頭動脈は重要な血管であり、治療には慎重な判断が求められる。 |
| 原因がはっきりせず、まずは相談したい | かかりつけ医、皮膚科 | まずは身近な医師に相談し、症状や状態に応じて適切な専門診療科を紹介してもらう。 |
特に美容目的の治療を希望する患者に対しては、安易な治療のリスクを説明することも重要です。側頭動脈は頭皮や顔面の一部に血液を供給する重要な動脈であり、治療によって血流障害などの合併症を起こす可能性もゼロではありません。治療のメリットとデメリットを十分に理解した上で、経験豊富な医師のもとで治療を受けるよう指導することが望ましいでしょう。

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