国立がん研究センターがん情報サービスの乳がん情報
国立がん研究センター乳がんの基本情報
国立がん研究センターのがん情報サービスは、乳がんに関する信頼性の高い医療情報を提供する公的なプラットフォームです。乳がんは日本における女性のがん罹患率で第1位を占め、約11人に1人が生涯で乳がんにかかると推定されています。特に40代後半から50代前半の女性に多く発症する傾向があり、早期発見と適切な治療が重要となります。
参考)乳がん:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ…
国立がん研究センターでは、乳がんの症状、検査、治療、予後に関する包括的な情報を公開しており、患者さんやご家族が治療方針を理解し、医師と協力して最適な治療を選択できるよう支援しています。がん情報サービスのウェブサイトでは、視診・触診、マンモグラフィ、超音波検査などの検査方法から、手術、放射線療法、薬物療法まで、エビデンスに基づいた詳細な情報が掲載されています。
乳がんの症状としこりの特徴
乳がんの最も代表的な症状は乳房のしこりです。自分で乳房を触ることで気付く場合も多く、早期発見のためにはセルフチェックが有効です。しこり以外にも、乳房にくぼみができる、乳頭や乳輪がただれる、左右の乳房の形が非対称になるといった変化が見られることがあります。
乳頭からの分泌物も注意すべき症状の一つです。特に血液が混じった分泌物が出る場合は、乳管内乳頭腫などの良性疾患が多いものの、乳がんが隠れている可能性もあるため、速やかに乳腺科で検査を受ける必要があります。男性の場合、血性分泌が乳がんの初発症状として現れることが比較的多いため、特に注意が必要です。
しこりの触感や変化にも特徴があります。乳がんのしこりは硬く、境界が不明瞭で、可動性が少ない傾向があります。一方、良性の乳腺症によるしこりは生理周期に連動して大きさや痛みが変化することが多く、生理前に大きくなり生理後に小さくなるという特徴があります。
参考)乳腺症の症状とは? しこり・分泌液など乳がんの症状と比較して…
乳がん検査方法とマンモグラフィと超音波の違い
乳がんの検査では、まず視診・触診を行い、その後マンモグラフィや超音波検査を実施します。これらの検査にはそれぞれ異なる特徴があり、年齢や乳腺の状態に応じて適切な検査方法を選択することが重要です。
参考)乳がん 検査:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般…
マンモグラフィの特徴:
- 乳房専用のX線検査で、乳房を圧迫して薄く伸ばして撮影します
- 視診・触診では発見しにくい微細な石灰化を検出できます
参考)磯村クリニック
- 閉経後で乳房の多くが脂肪に置き換わっている方に適しています
- 高濃度乳房(乳腺密度が高い状態)では病変が見つかりにくい場合があります
- 40歳以上の女性は2年に1度の定期受診が推奨されています
参考)乳がん検診について:[国立がん研究センター がん情報サービス…
超音波検査の特徴:
- 超音波を使用するため放射線被曝がなく、痛みもありません
参考)https://tokyo-hokubu.jp/breast_cancer
- 小さなしこり(腫瘤)の描出に優れています
参考)乳がんの検査~マンモグラフィ・超音波・MRI~ – medo…
- 乳腺量が多い若年層や妊娠中・授乳中の方に適しています
参考)マンモグラフィと乳房超音波(エコー)検査の違いとは?乳がん検…
- マンモグラフィで見つけにくい病変を発見できることがあります
参考)https://www.sakurajyuji-healthcare.jp/column/3972
理想的には、40歳以上の女性はマンモグラフィを基本とし、互いの弱点を補うために両方の検査を組み合わせることが推奨されます。20代から30代の若年層や高濃度乳腺の方は、超音波検査を中心に受診すると良いでしょう。
参考)乳がん検診は超音波とマンモグラフィどちらがいい?違いや特徴を…
乳がんの治療方法と薬物療法
乳がんの治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法の3つの柱があり、それぞれを単独または組み合わせて実施します。治療方針は、がんの進行度(ステージ)、サブタイプ、患者さんの年齢や全身状態などを総合的に判断して決定されます。
参考)乳がんの治療について
手術療法:
乳房温存手術と乳房切除術があり、腫瘍の大きさや位置、患者さんの希望に応じて選択します。乳房温存手術後は放射線療法を併用することで再発リスクを低減します。
薬物療法:
薬物療法には、ホルモン療法、化学療法(抗がん剤治療)、分子標的治療があります。特にサブタイプによって治療戦略が異なります。
参考)乳がんのサブタイプ
ホルモン受容体陽性の乳がんでは、ホルモン療法が中心となり、リンパ節転移が4個以上あるなど悪性度が高い場合は化学療法が追加されることがあります。ホルモン受容体陰性の乳がんでは化学療法が中心となり、HER2陽性乳がんでは抗HER2療法と化学療法を併用します。
参考)ホルモン療法と化学療法
化学療法では、アントラサイクリン系(ドキソルビシン、エピルビシン)やタキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)の薬剤が使用され、がん細胞のDNAを傷つけたり細胞分裂を抑制したりします。近年は副作用を軽減するためのサポート薬も進歩しています。
乳がんサブタイプとリンパ節転移の関係
乳がんのサブタイプ分類は、治療方針や予後を判断する際に重要な指標となっています。2009年のザンクトガレン国際乳がん学会で提唱されたサブタイプ分類により、ホルモン受容体やHER2の発現状態に基づいた個別化医療が可能になりました。
サブタイプは以下の5つに分類されます:
- ルミナルA型: ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki-67低値
- ルミナルB型(HER2陰性): ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki-67高値
- ルミナルB型(HER2陽性): ホルモン受容体陽性、HER2陽性
- HER2型: ホルモン受容体陰性、HER2陽性
- トリプルネガティブ: ホルモン受容体陰性、HER2陰性
リンパ節転移の有無と個数は予後に大きく影響します。リンパ節転移が4個以上ある場合は再発リスクが高くなるため、サブタイプに応じた積極的な化学療法が検討されます。2008年ごろまでは腫瘍の大きさが2cm以上またはリンパ節転移があれば抗がん剤治療を追加するという画一的な方針でしたが、現在はサブタイプに基づいた個別化治療が標準となっています。
乳がんステージ別予後と生存率
乳がんの予後は、早期発見と治療の進歩により大きく改善しています。ステージ(進行度)によって5年生存率と10年生存率が異なり、早期発見の重要性が明確に示されています。
参考)乳がんは早期に見つければ治りやすいがんです – 乳がんセミナ…
ステージ別生存率:
ステージ | 5年生存率 | 10年生存率 | がんの状態 |
---|---|---|---|
0期 | ほぼ100% | – | 非浸潤がん |
I期 | 98%以上 | 94.1% | 腫瘍2cm以下、リンパ節転移なし |
II期 | – | 86.6% | 腫瘍2-5cmまたは少数のリンパ節転移 |
III期 | – | 62.7% | 腫瘍5cm超または広範なリンパ節転移 |
IV期 | – | 16.9% | 遠隔転移あり |
ステージI期の乳がんでは5年生存率が98%以上、10年生存率でも90%以上と非常に良好な予後が得られています。これは、乳がんが早期に発見できれば治りやすいがんであること、またホルモン剤や抗がん剤などの薬物療法がよく効くことが理由です。
進行度が上がるにつれて生存率は低下する傾向がありますが、個別化治療の進展により、同じステージでもサブタイプによって予後が異なることが明らかになっています。患者自身が治療内容を理解し、医師と協力して最適な治療を選ぶことが重要です。
参考リンク:
国立がん研究センターがん情報サービスの乳がんページでは、診断から治療、療養生活まで包括的な情報が提供されています。
乳がんセルフチェックで早期発見を実現する方法
乳がんは自分で見つけやすい病気であるため、毎月決まった日にセルフチェックを行うことが早期発見につながります。定期的なセルフチェックと医療機関での検診を組み合わせることで、より効果的に早期発見が可能になります。
セルフチェックの実施タイミング:
- 生理がある方は、生理終了後4-5日目が最適です(乳房が柔らかくなり、しこりを見つけやすいため)
- 閉経後の方は、毎月同じ日に実施すると習慣化しやすくなります
- 入浴時や就寝前など、リラックスした状態で行うと良いでしょう
セルフチェックの手順:
- 鏡の前で両腕を上げ、乳房の左右差、くぼみ、皮膚の変化を観察します
参考)乳がんセルフチェックで早期発見|乳がんを学ぶ|がんを学ぶ|フ…
- 仰向けに寝て、指先をそろえて乳房全体を渦巻き状になぞり、しこりの有無を確認します
- わきの下に指を差し入れ、リンパ節の腫れがないか調べます
- 乳頭を軽く絞って、異常な分泌物がないか確認します
しこりを発見した場合でも、必ずしも乳がんとは限りません。乳腺症などの良性疾患である可能性も高いため、過度に心配せず、速やかに医療機関を受診して正確な診断を受けることが大切です。
参考)乳がんと間違えやすい病気
参考リンク:
キヤノンメディカルのピンクリボンサイトでは、セルフチェックの詳しい方法が図解で紹介されています。
セルフチェックの達人になろう | ピンクリボン
乳がんの早期発見には、セルフチェックに加えて、40歳からの定期的なマンモグラフィ検診が推奨されています。小さいうちに見つかった乳がんは90%以上が治るため、検診とセルフチェックを組み合わせた早期発見が何よりも重要です。国立がん研究センターのがん情報サービスでは、検診の利益と不利益についても詳しく解説されており、偽陰性、偽陽性、過剰診断などのリスクについても理解した上で、定期的な検診を受けることが推奨されています。