国立長寿医療研究センターとフレイル
国立長寿医療研究センター フレイル研究部と啓発活動
国立長寿医療研究センター(NCGG)のフレイル研究部は、老化プロセスを踏まえ「心と体の自立を支援する研究と啓発活動」を掲げ、ウィズエイジング(加齢変化と上手に付き合う)という考え方を重視しています。
医療従事者にとって重要なのは、この理念が「治療中心」から「機能・参加の維持」へ視点を少し移すことで、診療・指導・地域連携の共通言語を作りやすい点です。
また、同研究部はフレイル健診やスタッフ研修、地域の敬老会資料などに使えるパンフレット(健康長寿教室テキスト等)を無料で提供しており、現場で教育資材を一から作らずに済むのが実務的な利点です(商用利用や転載は規約確認が必要)。
有用:NCGGのフレイル研究の理念・テキスト利用条件・基本チェックリストの扱い
国立長寿医療研究センター フレイル評価とJ-CHS基準
フレイルの評価として、NCGGは国際的に用いられるFriedらのCHS基準を踏まえ、日本人高齢者に合うよう修正した指標(J-CHS基準)を提示し、2020年に改訂したことを明記しています。
J-CHS基準の判定は、5項目のうち3項目以上でフレイル、1~2項目でプレフレイル、0項目でロバスト(健常)という区分です。
医療現場でのコツは「プレフレイル」を見逃さず、生活指導・運動・栄養・口腔・社会参加のいずれか一点突破でもよいので、介入の着手点を作ることです(多職種で同じ分類を共有できると、紹介・逆紹介が滑らかになります)。
有用:2020年改定J-CHS基準(判定区分が1枚で確認できる)
https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/frailty/documents/J-CHS2020.pdf
国立長寿医療研究センター フレイル健診と基本チェックリスト
NCGGのページでは、基本チェックリストが厚生労働省作成の25項目質問票であり、行政では介護予防事業の対象者選定に使用されていること、そして25項目のうち8項目以上該当でフレイルと判定する提案が示されています。
ここでの臨床的な勘所は「質問票は拾い上げが得意だが、何が弱っているかの深掘りは別途必要」という点で、たとえば該当が多い人ほど“栄養・運動・認知・うつ・口腔・服薬”など複数領域が絡む可能性が高く、単一のパンフ配布だけでは改善しにくいケースが出ます。
一方で、健診・外来・病棟退院前指導など、短時間で入口を作るには非常に便利で、自治体連携(地域包括・通いの場)へつなぐ紹介状の「根拠データ」としても使いやすいのが強みです。
関連論文(評価法・妥当性の根拠)。
https://doi.org/10.1111/ggi.1254
https://doi.org/10.1016/j.jamda.2017.03.01
国立長寿医療研究センター フレイル予防と地域実装
NCGGのフレイル研究部は、東浦町との連携協定に基づき、フレイルの進行と改善の機序解明に焦点を当てた調査(東浦研究)を進めているとしています。
医療従事者向けの“あまり意識されにくい重要点”は、フレイル対策が「個人の努力」だけに寄ると継続率が落ちやすく、地域の場づくり・集団の仕組み(通いの場、住民主体活動、ボランティア等)と接続した瞬間に、介入が“生活の予定”として定着しやすくなることです。
現場の運用では、外来・入院・訪問のどの場面でも「スクリーニング→短い説明→次の行き先(通いの場、教室、口腔、栄養、リハ)を具体名で提示」という導線があるだけで、介入が実行段階へ移りやすくなります。
国立長寿医療研究センター フレイルと独自視点の多職種連携
NCGGのフレイル研究部は、健康長寿教室テキストがフレイル健診やスタッフ研修などに使えることを示しており、教育資材を核にした標準化が可能です。
独自視点としては、同じ「フレイル」という言葉でも、医師は診断と合併症、看護師はセルフケアと継続支援、理学療法士は移動能力、管理栄養士は低栄養、歯科系は口腔、薬剤師はポリファーマシー…と焦点がズレやすく、結果として患者へのメッセージが分散しがちです。
そこで、施設内での運用ルールをシンプルに統一します(例:①入口は基本チェックリスト or J-CHS基準、②結果は「ロバスト/プレフレイル/フレイル」で共有、③介入は“運動・栄養・社会参加”の最低3本柱のどれかに必ず載せる、④3か月後に再評価)。
(医療従事者向けメモ)
- ✅ スクリーニングは「早く」「同じ物差し」で:J-CHS基準や基本チェックリストをチーム内で統一する。
- ✅ 説明は短く:フレイルは“健康と要介護の中間”で、介入により改善し得る状態として伝える(プレフレイルの段階で動く)。
- ✅ 介入は一点突破でも開始:運動・栄養・口腔・社会参加のうち、本人が動ける入口から始めて他領域へ広げる。
- ✅ 地域資源へ接続:外来や退院支援で「次の行き先」を具体化し、生活予定に組み込む。
(表:現場での使い分け)
| ツール | 強み | 注意点 |
|---|---|---|
| J-CHS基準 | ロバスト/プレフレイル/フレイルの区分が明確で、多職種共有しやすい。 | 測定や評価の体制(握力・歩行など)を確保しないと運用が途切れる。 |
| 基本チェックリスト | 質問票で入口を作りやすく、行政連携の文脈と相性が良い。 | 該当理由の深掘り(栄養・運動・口腔・心理など)は追加評価が必要。 |
