キサンチンとヒポキサンチンの代謝経路と尿酸生成

キサンチンとヒポキサンチンの代謝

この記事のポイント
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プリン体代謝の中間体

ヒポキサンチンとキサンチンは尿酸生成の前段階の物質

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キサンチンオキシダーゼの役割

ヒポキサンチンからキサンチン、キサンチンから尿酸への変換を触媒する酵素

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痛風・高尿酸血症治療への応用

キサンチンオキシダーゼ阻害薬が尿酸生成を抑制し治療に活用

キサンチンとヒポキサンチンの基本構造

キサンチンとヒポキサンチンは、化学構造としてプリン環を持つプリン誘導体の一種です。ヒポキサンチンは分子式C₅H₄N₄Oで表され、天然に存在するプリン塩基として動物・植物界に広く分布しています。一方、キサンチンは2,6-ジヒドロキシプリンとも呼ばれ、分子式C₅H₄N₄O₂で表される物質です。

参考)ヒポキサンチン – Wikipedia


両者の化学構造の違いは、プリン環上の酸素原子の位置と数にあります。ヒポキサンチンは6位の炭素原子に酸素原子が結合しているのに対し、キサンチンは2位と6位の炭素原子に酸素原子が結合しています。この構造の違いが、体内での代謝過程における重要な意味を持っています。

参考)キサンチン


これらの物質は核酸の構成成分ではありませんが、DNAやRNAの代謝過程において生成される重要な中間体として機能します。ヒポキサンチンはヌクレオシドであるイノシンの形でtRNAのアンチコドンに存在することも知られています。

参考)ヒポキサンチンとは? 意味や使い方 – コトバンク

ヒポキサンチンからキサンチン、尿酸への代謝経路

プリン体の代謝において、ヒポキサンチンとキサンチンは尿酸生成の前段階に位置する極めて重要な中間物質です。体内ではアデニンやグアニンなどのプリン塩基が分解されると、まずヒポキサンチンが生成されます。

参考)キサンチンオキシダーゼ – Wikipedia


このヒポキサンチンは、キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)という酵素の働きによってキサンチンへと酸化されます。キサンチンオキシドレダクターゼには、キサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)とキサンチンオキシダーゼ(XO)の2つの形態が存在します。

参考)https://www.nms.ac.jp/var/rev0/0019/3467/46thebulletin_3.pdf


プリン代謝を巡る基礎研究とその臨床への活用(日本薬学会)では、このプリン代謝経路の詳細が解説されており、臨床応用への取り組みが示されています。
さらにキサンチンは、同じキサンチンオキシダーゼの作用により尿酸へと変換されます。この2段階の酸化反応において、ヒポキサンチンからキサンチンへの変換後、生成されたキサンチンが一旦酵素から解離するか、あるいは酵素内で直接第二段階の反応に進むのかについては、現在も研究が続けられています。

参考)キサンチンオキシダーゼと尿酸代謝阻害のメカニズムと臨床応用

体内における尿酸生成の流れは以下のようになります。

  • アデニン・グアニンなどのプリン塩基の分解
  • ヒポキサンチンの生成
  • キサンチンへの酸化(キサンチンオキシダーゼによる)
  • 尿酸への酸化(キサンチンオキシダーゼによる)

この代謝経路において、キサンチンオキシダーゼはヒト体内で尿酸を産生する唯一の酵素であることが知られています。

参考)高尿酸血症の薬を一覧でご紹介 ~尿酸降下薬の種類や役割とは?…

キサンチンオキシダーゼの機能と尿酸生成

キサンチンオキシダーゼ(XO)は、プリン異化経路に属する酵素であり、ヒポキサンチンからキサンチンへ、さらにキサンチンから尿酸への2段階の酸化反応を触媒します。この酵素は哺乳類において尿酸を産生する唯一の酵素であるため、痛風高尿酸血症の治療における重要な標的となっています。

参考)痛風のお薬について|生活習慣病のオンライン診療ならヤックル


キサンチンオキシダーゼの分子構造は複雑で、モリブドプテリン、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)、鉄硫黄中心という3種類の補酵素を含んでいます。この酵素は、組織中ではキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)として存在しますが、哺乳動物の酵素のみ、特定の条件下でキサンチンオキシダーゼ(XO)へと活性が変換されます。​
キサンチン酸化還元酵素の詳細な研究報告(日本医科大学)では、この酵素の物理学的性質から臨床医学への応用までが包括的に解説されています。
酵素の活性変換は、活性酸素の生成と関連しており、虚血再灌流障害をはじめとする様々な病態の原因となる可能性が指摘されています。このため、キサンチンオキシダーゼの研究は、単なる尿酸代謝だけでなく、炎症反応や酸化ストレスの観点からも重要な意義を持っています。

参考)ヒポキサンチン 副作用と効果の代謝経路と治療薬


血管内皮細胞に豊富に存在するキサンチンオキシダーゼは、心血管イベントとの関連も指摘されており、尿酸値管理が心筋梗塞などの循環器疾患の予防にも重要であることが、多くの疫学調査で明らかになっています。

参考)XOチャンネル|エキスパートに聞く! XOの最前線   第2…

痛風・高尿酸血症における代謝異常

痛風や高尿酸血症は、プリン体代謝の異常により血液中の尿酸値が上昇する疾患です。血清尿酸値が高いほど痛風発症のリスクが高まり、肥満、飲酒、食事などの生活習慣と密接に関連する生活習慣病の一つとされています。

参考)プリン代謝を巡る基礎研究とその臨床への活用


高尿酸血症の原因は大きく分けて、尿酸の産生過剰と排泄低下の2つのタイプがあります。尿酸産生過剰型では、プリン体の摂取過多やプリン代謝酵素の異常により、ヒポキサンチンやキサンチンを経て尿酸が過剰に生成されます。

参考)プリン体の代謝


プリン代謝にかかわる酵素異常症として、PRPP合成酵素活性亢進症やヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)欠損症があり、これらは尿酸産生過剰による高尿酸血症を引き起こします。

参考)https://jsn.or.jp/journal/document/57_4/766-773.pdf


逆に、キサンチンオキシダーゼが欠損すると「キサンチン尿症」と呼ばれる疾患が生じます。この疾患では、ヒポキサンチンとキサンチンが尿酸に変換されないため、尿中にキサンチンが増加し、血清尿酸値は著しく低下します(1 mg/dL以下)。興味深いことに、ヒポキサンチンは尿中にほとんど検出されません。これは、ヒポキサンチンがサルベージ経路によってイノシン酸に変換され、ATPなどに再利用されるためです。

参考)114から118までに掲げるもののほか、プリンピリミジン代謝…


食事との関連では、肉類や魚類に多く含まれるヒポキサンチンは、経口摂取後に血清尿酸値を上昇させる作用が強いことが報告されています。特に痛風患者においては、健常人や高尿酸血症患者よりも大きく血清尿酸値を上昇させるため、プリン体の量だけでなく種類(質)を考慮することが重要です。​

キサンチンオキシダーゼ阻害薬による治療戦略

キサンチンオキシダーゼ阻害薬は、ヒポキサンチンからキサンチン、キサンチンから尿酸への変換を阻害することで、尿酸の生成を抑制する薬剤です。この薬剤は、尿酸産生過剰型や腎負荷型の高尿酸血症に対して使用されます。​
代表的な薬剤として、アロプリノールフェブキソスタットがあります。アロプリノールは50年近くにわたり抗痛風薬として使用されており、ヒポキサンチンの異性体です。この薬剤自体がキサンチンオキシダーゼの基質となり、オキシプリノールに変換された後、モリブデン中心と強固な複合体を形成することで阻害作用を発揮します。​
フェブキソスタットは、構造ベースの阻害剤として開発され、アロプリノールよりも強力な血中尿酸濃度の低下作用を示します。この薬剤は、キサンチンオキシダーゼの基質結合ポケットのほとんどを隙間なく満たすことで、水素結合、イオン結合、疎水相互作用などの複数の相互作用を介して作用します。​
キサンチンオキシダーゼと尿酸代謝阻害のメカニズムの詳細では、これらの治療薬の作用機序がより詳しく解説されています。
尿酸生成抑制薬を使用すると、ヒポキサンチンとキサンチンの血中濃度が上昇しますが、これらの物質は尿酸よりも水溶性が高く、結晶化しにくいため、通常は問題となりません。しかし、キサンチンの溶解度が低い場合、尿中にキサンチン結石を形成する可能性があるため、治療中は十分な水分摂取が推奨されます。​
近年では、トピロキソスタットなどの新世代のキサンチンオキシダーゼ阻害薬も開発され、より効果的な尿酸値管理が可能となっています。これらの薬剤は、高尿酸血症や痛風の治療だけでなく、心血管疾患の予防効果も期待されており、今後の研究が注目されています。

参考)尿酸値と神経変性疾患発症リスクとの関連を明らかに〜ヒトの脳に…


治療においては、薬物療法と並行して、プリン体の摂取制限(1日400 mg程度)、適度な運動、アルコール摂取の制限などの生活指導が重要です。特に、ヒポキサンチンを多く含む肉類や魚類の過剰摂取を避け、バランスの取れた食事を心がけることが推奨されています。

参考)高尿酸血症・痛風の原因