起立性調節障害の症状と特徴
起立性調節障害は、自律神経の調節不全によって引き起こされる疾患で、思春期の子どもに多く見られます。この疾患の最大の特徴は、午前中に症状が強く午後には軽減する日内変動にあり、医療従事者として正確な診断と適切な対応が求められます。日本小児心身医学会の診断基準では、11項目の症状のうち3つ以上が当てはまる、または2つでも症状が強い場合に本疾患を疑います。
参考)起立性調節障害 (きりつせいちょうせつしょうがい)とは
起立性調節障害の診断基準となる11の症状
起立性調節障害の診断において、日本小児心身医学会が定めた11項目の症状チェックリストが広く活用されています。これらの症状は日常診療で患者や保護者から訴えられることが多く、医療従事者として系統的に確認する必要があります。
参考)起立性調節障害診断の手順 – 起立性調節障害サポートグループ
診断基準となる症状は以下の通りです。
- 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
- 立っていると気持ちが悪くなる。ひどくなると倒れる
- 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸あるいは息切れがする
- 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 臍疝痛(へその周囲の痛み)をときどき訴える
- 倦怠あるいは疲れやすい
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
これらの症状のうち3項目以上、または2項目でも症状が日常生活に支障をきたすレベルで強い場合、起立性調節障害の可能性が高くなります。
参考)https://medical-b.jp/topics/topics-20250324
起立性調節障害の日内変動と季節変動
起立性調節障害の最も特徴的な症状パターンが日内変動です。午前中は交感神経の働きが弱く、体が活動状態に切り替わらないため、めまいや倦怠感が強く現れます。一方で午後になると徐々に症状が軽減し、夕方から夜にかけては健康な子どもと変わらない、あるいはむしろ活動的になることもあります。
この日内変動により、夜に目がさえて寝られず起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。医療従事者として問診する際には、「午前中だるくて午後元気になる」というパターンが見られるかどうかが重要な診断ポイントとなります。
参考)起立性調節障害とは?症状について解説|渋谷・大手町・みなとみ…
季節変動も起立性調節障害の特徴で、季節の変わり目に悪化しやすい傾向があります。また、曇りや雨などの低気圧時には副交感神経が優位になりやすく、症状の出方に影響を与えることが知られています。
起立性調節障害のサブタイプ分類
起立性調節障害は新起立試験やヘッドアップティルト試験による血圧・心拍数の変化パターンから、4つの主要なサブタイプに分類されます。この分類は治療方針の決定にも影響するため、医療従事者として理解しておく必要があります。
参考)https://www.med.nagasaki-u.ac.jp/peditrcs/group/kiritsusei.pdf
サブタイプ別の特徴
| サブタイプ | 主な特徴 | 頻度 | 
|---|---|---|
| 起立直後性低血圧 | 起立直後に一過性の強い血圧低下、血圧回復時間が25秒以上 | 最多 | 
| 体位性頻脈症候群 | 起立時の血圧低下はなく、心拍数が115以上または平均心拍増加が35以上 | 2番目に多い | 
| 血管迷走神経性失神 | 起立中に急激な血圧低下が起こり失神 | – | 
| 遷延性起立性低血圧 | 起立中に徐々に血圧低下が進み失神 | – | 
起立直後性低血圧は起立時の血圧低下が15%以上で25秒以上持続する場合、重症型と判定されます。体位性頻脈症候群は起立後の過剰な交感神経興奮やアドレナリン分泌が特徴で、ふらつき、だるさ、頭痛などの症状が現れます。
起立性調節障害の好発年齢と有病率
起立性調節障害は思春期特有の疾患とされ、発症年齢は10〜16歳が最も多いとされています。有病率に関しては、軽症例も含めると小学生の約5%、中学生の約10%に症状が見られるという報告があります。
性別では女子の方が多く、男子と比較して1.5〜2倍の発症率とされています。これは思春期における身体的変化やホルモンバランスの影響が関係していると考えられます。
参考)【不登校にならないために】『朝起きられない頭痛』は、起立性調…
注目すべき点として、不登校の子どものうち約30〜40%に起立性調節障害の症状があるとの報告もあります。医療従事者として学校生活に支障をきたしている患者を診察する際には、本疾患の可能性を念頭に置く必要があります。
起立性調節障害における医療従事者の対応と治療選択肢
起立性調節障害の治療は非薬物療法が基本となり、効果不十分な場合に薬物療法を併用します。医療従事者として患者・家族への疾病教育が最も重要であり、「怠け」ではなく自律神経の病気であることを理解してもらうことが治療の第一歩です。
参考)起立性調節障害の治し方・親ができること・治った方の事例を解説…
非薬物療法には以下のようなアプローチがあります。
参考)起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法。親ができること…
- 光療法: 起床時に2,500ルクス以上の明るい光を浴びて体内時計をリセット
- 飲水・塩分療法: 1日2L前後の水分と塩分10g程度を摂取して循環血液量を増加
参考)起立性調節障害(OD) – 有明みんなクリニック・有明こども…  
- 運動療法: 毎日30分程度のウォーキングで筋力低下を予防
参考)起立性調節障害(OD)の治し方とは?親が子供にできるサポート…  
- 起立動作の工夫: ゆっくり前かがみで30秒かけて起立し、急激な脳血流低下を防ぐ
薬物療法では、ミドドリン(末梢血管収縮作用)が第一選択薬となり、アメジニウム(交感神経活性化)も使用されます。また、漢方薬として半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、五苓散なども有効な場合があります。
学校との連携も重要で、症状や治療方針、必要な配慮事項を共有し、登校時の心理的負担を軽減する環境調整が求められます。
参考)不登校と起立性調節障害の関係は?保護者にできる適切なサポート…
参考情報として、起立性調節障害の診断・治療に関する詳細は済生会の起立性調節障害解説ページに掲載されています。また、日本小児心身医学会の診断基準については一般社団法人小児心身医学会の公式サイトで確認できます。
起立性調節障害の治療法全般については起立性調節障害改善協会の治し方解説が参考になります。
