筋肉内注射と針の太さ
筋肉内注射の針の太さが21~23ゲージとされる理由
筋肉内注射では、薬剤が筋肉深部に到達する必要があるため、ある程度の太さのある針が選択されます。21~23ゲージという太さは、粘性の高い薬剤でもスムーズに注入でき、かつ患者の疼痛を極力抑えるバランスを取った選択です。より細い針(25ゲージ以上)を使用すると、薬剤の流動性が低下し、注入に時間を要します。一方、18ゲージなどの極端に太い針は、不必要な組織損傷と疼痛を招きます。
21~23ゲージは、医学的根拠に基づいて医療機関や公開ガイドラインで推奨されている標準値です。特にワクチン接種時には、各国のガイドラインがこのゲージ範囲を明記しており、免疫応答の最適化と局所反応の最小化が実現されています。
患者の体型に応じた筋肉内注射の針の長さ調整
ゲージと同様に重要なのが針の長さです。日本看護学会の研究では、患者のBMI(体格指数)と皮下組織の厚さに関連があることが示されています。三角筋部への注射では、普通体型(BMI 18.5~30.0未満)では1.5cm、肥満体型(BMI 30.0以上)では2.0cm の深さが適切とされています。中殿筋部への注射では、やせ型(BMI 18.5未満)では1.5cm、普通体型では2.0cm が目安です。
注射針の規格では5/8インチ(約1.59cm)と3/4インチ(約1.91cm)が該当し、現場の看護師はこれらを目分量で調整して使用するケースが多いのが実情です。患者の体型を事前に把握し、適切な深さまで針を進める標準化が、安全で確実な筋肉内注射の実施につながります。
ワクチン接種で推奨される筋肉内注射の針規格
ワクチン接種時の筋肉内注射では、国際的ガイドラインがより詳細な針選択基準を提示しています。成人を対象にした場合、性別と体重に応じて針の長さが決定されます。体重60kg未満の場合は5/8~1インチ(約1.6~2.5cm)、60~90kg の範囲では1~1.5インチ(約2.5~3.8cm)、90kg以上では1.5インチ以上が推奨されています。
特に新型コロナウイルスワクチンの世界的接種で、不適切な針長による皮下注射が問題化した事例が報告されました。筋肉内注射であるにもかかわらず皮下脂肪層に停滞した場合、免疫応答が低下し、局所反応(硬結や疼痛)が増加します。正確な針長の選択は、ワクチンの有効性を大きく左右する要因となっています。
小児に対する筋肉内注射の針の太さと年齢別ガイドライン
小児患者への筋肉内注射では、成人とは異なる針選択が必要です。日本小児科学会の改訂ガイドラインでは、接種年齢と注射部位によって標準的な針の太さと長さが定められています。新生児から3ヶ月未満の乳児には16mm の針が、3ヶ月以上1歳未満の乳児には大腿前外側部への注射に適した長さが規定されています。
一部の施設では27ゲージを用いた接種が行われており、成人より細い針で丁寧に施行する傾向も見られます。これは小児の筋肉量が少なく、過度な組織損傷を避ける配慮に基づいています。年齢が進むにつれ、針の太さと長さは段階的に成人仕様に移行します。
参考:小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂第2版)
筋肉内注射における針先の形状(ベベル角度)と精度
針の太さとともに見落とされやすいのが、針先の形状です。筋肉内注射では「レギュラーベベル」(RB)と呼ばれる、カット面の角度が12~14度で刃面長が長いタイプが使用されます。これに対し、静脈内注射では「ショートベベル」(SB)という、カット面の角度が18度でより鋭利な針先を採用しています。
レギュラーベベルの利点は、筋肉組織の穿刺時に組織損傷を分散させ、針の進路が安定することです。一方、ショートベベルは血管穿刺時に内膜損傷を最小化する設計になっており、静脈注射専用です。両者を混用すると、意図しない組織損傷やコンパートメント症候群などの合併症につながる可能性があります。
ディスポーザブル針の普及に伴い、針基の色分けで視覚的にゲージが識別できるようになりました。これにより、現場での誤選択を減らす工夫がなされています。医療従事者は、色と太さ、ベベル形状の対応関係を事前に確認し、患者の状態に最適な針を迷わず選択する体制構築が重要です。
参考:注射法によって針のゲージやインチを変えるのはなぜ? – 看護roo!

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