菌血症の症状と原因、診断から治療

菌血症の症状と診断

菌血症の主な特徴
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発熱と悪寒

菌血症では発熱、悪寒戦慄、寒気が典型的な症状として現れます

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心拍数の上昇

血液中の細菌により心拍数が上昇し、動悸を感じることがあります

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血液培養検査

血液培養により原因菌を特定し、適切な治療につなげます

菌血症の主な症状

菌血症とは血液中に細菌が侵入した状態のことで、本来無菌であるはずの血液から細菌が検出される病態です。一過性の菌血症は通常症状が現れませんが、それ以外の菌血症では発熱が最も一般的な症状として現れます。

参考)菌血症 – 16. 感染症 – MSDマニュアル家庭版


発熱に加えて、悪寒戦慄(寒気とふるえ)、心拍数の上昇(動悸)などが典型的な症状として認められます。さらに消化器症状として吐き気、嘔吐、下痢、腹痛が起こることもあります。これらの症状は細菌が血液中に継続的に存在し、全身に影響を及ぼしている兆候です。

参考)菌血症 – みんなの家庭の医学 WEB版


重症化すると低血圧呼吸数の増加、意識変容などが出現し、敗血症や敗血症性ショックへ進行する可能性があります。特に有意な菌血症のある患者の25~40%に敗血症性ショックが発生するため、早期の発見と治療が重要です。

参考)菌血症 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュアル プロフ…

菌血症と敗血症の違い

菌血症と敗血症は似ているようで実は異なる病態を指しています。菌血症は血液培養検査で血液中に菌がいることが確認された状態を指し、「血液の中に菌がいる」ことが証明された感染です。一方、敗血症は感染によって体全体に異常な反応が起こり、命に関わる臓器障害を引き起こす病態です。

参考)敗血症と菌血症の違いを教えてください。 |敗血症


重要な点は、敗血症の診断には必ずしも菌血症(血液に菌がいること)が必要ではないということです。つまり血液培養が陰性でも、感染が原因で臓器障害が起きていれば敗血症と診断されます。菌血症が起こる感染症は重いことが多く、その結果として敗血症のような重篤な状態になることもあります。​
敗血症では菌血症や別の感染症によって全身性の炎症反応が誘発され、典型的には発熱、筋力低下、心拍数の上昇、呼吸数の増加、白血球の増加などがみられます。適切に治療されない菌血症患者の約95%が敗血症を合併するとされており、迅速な対応が求められます。

参考)菌血症、敗血症、敗血症性ショックに関する序論 – 16. 感…

菌血症の診断方法と血液培養検査

菌血症の診断には血液培養検査が最も重要な検査として位置づけられています。問診で症状や感染の原因となる疾患、外傷、治療などの有無を確認した後、菌の特定のために血液検査を行います。血液培養検査では、患者の血液を専用の培養ボトル(カルチャーボトル)に注入し、自動機器にセットします。

参考)001 血液から感染症の原因菌を見つける「血液培養検査」


ボトル内には細菌が増殖しやすい栄養分(培地)が入っており、機器は細菌の増殖を自動的に検知します。血液培養は菌血症を調べるうえで重要な検査であり、菌を増やすためには一定量の血液が必要となります。通常20ml程度の血液量を場所を変えて2か所から採血することが推奨されています。

参考)主な診断方法・治療法・手術件数


検査方法としては培養法のほか、PCR法やRT-PCR法などの遺伝子検査も用いられます。特にPCR法は短時間で特定の遺伝子を数百万倍に増幅することができ、検出感度の高い検査法として注目されています。血液培養が陽性になれば正確な診断がつき、適切な治療へとつながります。

参考)血液培養の採取基準と採取方法

菌血症の原因と発症リスク

菌血症の原因は多岐にわたりますが、外傷や臓器の細菌巣から細菌が流出し血液中に侵入することで発症します。肺炎や皮膚膿瘍などの細菌感染症では、細菌が周期的に血流に入って菌血症を引き起こすことがあります。また、小児期の細菌感染症の多くは菌血症を引き起こすことが知られています。

参考)菌血症


医療行為も菌血症の重要な原因となっています。カテーテルなどの体内留置器具は細菌の侵入経路となりやすく、特に中心静脈カテーテルは感染リスクが高い処置です。歯科処置も菌血症の原因として知られており、抜歯などの歯科処置により一過性の菌血症が生じることが古くから指摘されています。

参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06704/067040429.pdf


さらに意外なことに、歯磨きやご飯を食べるだけでも血液中に細菌が侵入し、菌血症を発症することが明らかになっています。違法薬物の注射も、針が細菌に汚染されていて使用者が皮膚を適切に消毒せずに注射することがあるため、菌血症の原因になります。人工関節人工心臓弁を使用している場合、これらの部位に細菌がとどまり集積しやすく、その後細菌が連続的または周期的に血流に放出されます。

参考)https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/mame_vol8

菌血症の治療と抗菌薬投与

菌血症が疑われる場合、考えられる感染巣と血流から適切な培養検体を採取した後、抗菌薬を経験的に静脈内投与します。適切なレジメンの抗菌薬で菌血症を早期に治療すれば生存率が改善するようです。一過性菌血症の多くは、防御機構によって自然に菌が排除されるため治療は必要ありませんが、自然治癒が見込めない場合や持続性に至っている場合には原因菌に応じた抗菌薬を用いて治療します。​
投薬の目安は2週間ですが、最近は薬剤耐性菌(抗菌薬に耐性をもつ細菌)の問題もあるため、可能なケースでは投与期間の短縮が試みられています。継続治療では培養および感受性試験の結果に従って抗菌薬を調整し、全ての膿瘍を排膿するほか、通常は細菌の供給源と疑われる体内の器具を抜去します。

参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_13805


感染源の制御が達成され、臨床的な改善が認められれば、適切な経口抗菌薬で治療を完了することができます。また感染部位と感染原因を特定し、例えばカテーテルの抜去や創部の治療、ドレナージの徹底などを行って改善を図ります。治療が遅れると感染が全身に影響を及ぼし、血圧の低下、意識障害、腎臓や肝臓などの機能の悪化などが起こる可能性があります。

参考)患者向け説明資料

菌血症の予防と感染性心内膜炎対策

菌血症による合併症のリスクが高い人には、菌血症の原因になりうる処置を行う前に抗菌薬が投与されることがあります。特に人工心臓弁や人工関節を使用している人、心臓弁に特定の異常がある人などは予防投与の対象となります。歯科処置や感染が起きている傷口の外科的処置を行う前に抗菌薬を投与することで、菌血症とそれに伴う感染症や敗血症の予防に役立ちます。​
歯科処置に関連した菌血症は感染性心内膜炎発症の原因となることが古くから指摘されており、米国心臓協会などから抗菌薬予防投与ガイドラインが提示されています。特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高い人工弁置換患者や感染性心内膜炎の既往がある患者、複雑性チアノーゼ性先天性心疾患等の患者では、抜歯等の菌血症を誘発するような歯科治療前に予防抗菌薬の投与が強く推奨されています。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001506317.pdf


日々の口腔内清潔の維持は、日常的におこる菌血症の頻度を減少させ、歯科処置前の抗菌薬予防投与よりも感染性心内膜炎予防に重要です。抗菌薬を予防的に投与することで抜歯時の一過性の菌血症を抑制でき、抜歯6~9時間後の弁膜への細菌の付着・増殖を抑制することが期待できます。

参考)http://www.kankyokansen.org/journal/full/03405/034050237.pdf

詳しい情報は厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」でも確認できます。

抗微生物薬適正使用の手引き 第四版(案) 歯科編

また、感染性心内膜炎と歯科治療の関係について詳しく知りたい方は以下の参考リンクをご覧ください。

歯科処置に関連した菌血症と感染性心内膜炎 抗菌薬予防投与の現在地