肝疾患治療薬一覧と抗ウイルス薬の効果

肝疾患治療薬一覧と種類

肝疾患治療薬の主な分類
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抗ウイルス薬

B型・C型肝炎ウイルスの増殖を抑制し、ウイルス量を減らす薬剤

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肝庇護薬

肝細胞を保護し、肝機能を改善する働きがある薬剤

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肝性脳症治療薬

アンモニアの産生・吸収を抑え、肝性脳症を改善する薬剤

肝疾患は様々な原因によって引き起こされ、その治療には多様な薬剤が用いられます。肝疾患治療薬は、病態や原因ウイルスの種類によって選択され、患者さんの状態に合わせた適切な治療が行われます。本記事では、肝疾患治療に使用される主な薬剤を詳しく解説し、医療従事者の方々の知識向上に役立てていただければと思います。

肝疾患治療薬は大きく分けて、抗ウイルス薬、肝庇護薬、ステロイド・免疫抑制剤、利尿剤、分岐鎖アミノ酸製剤、肝性脳症治療薬などに分類されます。それぞれの薬剤は特定の作用機序を持ち、肝疾患の種類や進行度に応じて使い分けられています。

肝疾患治療薬におけるB型肝炎ウイルス抗ウイルス薬の特徴

B型肝炎ウイルス(HBV)感染に対する治療薬は、主に2種類のアプローチがあります。1つ目はウイルスの増殖を直接抑制する核酸アナログ製剤、2つ目は宿主の免疫を活性化させるインターフェロン製剤です。

核酸アナログ製剤には、エンテカビル(バラクルード®錠)、テノホビル ジゾプロキシル(テノゼット®錠)、テノホビル アラフェナミド(ベムリディ®錠)などがあります。これらの薬剤はHBVのDNA複製を阻害し、ウイルスの増殖を抑えることで肝炎を鎮静化させます。核酸アナログ製剤は効果が高く、長期的な使用によって肝硬変肝細胞がんの発症リスクを低減することができます。

しかし、核酸アナログ製剤は一度治療を開始すると、中断した場合に高率で肝炎が再燃するリスクがあるため、ほぼ終生にわたって服用を続ける必要があります。このため、若年患者や妊娠を希望する女性などでは、長期投与を避けたい場合もあります。

一方、インターフェロン製剤(ペガシス®など)は週1回48週間の投与が標準的で、治療が奏効すれば投与終了後もウイルスの増殖が抑えられ、肝炎が鎮静化します。しかし、奏効率は30~40%程度と言われており、全ての患者に有効というわけではありません。また、インターフェロン製剤は副作用として発熱、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状が高頻度で現れるほか、間質性肺炎うつ病などの重篤な副作用が生じることもあります。

B型肝炎の治療では、患者の年齢、ライフイベント(結婚や出産など)、病期、肝硬変の程度、肝硬変や肝がん発症のリスクなどを総合的に考慮し、最適な治療法を選択することが重要です。

肝疾患治療薬におけるC型肝炎ウイルス抗ウイルス薬の進化

C型肝炎ウイルス(HCV)に対する治療は、近年劇的に進化しました。かつては注射によるインターフェロン治療が主流でしたが、現在は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による経口治療が中心となっています。

最新のDAA治療薬には、グレカプレビル・ピブレンタスビル(マヴィレット®配合錠)、レジパスビル・ソホスブビル(ハーボニー®配合錠)、ソホスブビル・ベルパタスビル(エプクルーサ®配合錠)などがあります。これらの薬剤はHCVの増殖に必要なタンパク質の合成を直接阻害することで、高い抗ウイルス効果を発揮します。

DAA治療の特徴は、その高い有効性にあります。初回投与例でのウイルス排除率(SVR:Sustained Virological Response)は95%以上と非常に高く、多くの患者でHCVを完全に排除することが可能になりました。また、インターフェロン治療と比較して副作用が少なく、患者の負担が大幅に軽減されています。

治療期間は薬剤や肝炎・肝硬変の状態によって異なりますが、一般的に8週から12週間の服用が必要です。効果が得られにくいことが予めわかっているHCVのゲノタイプでは、リバビリン(レベトール®カプセル)を併用することで治療効果を高める場合もあります。

DAA治療薬の選択にあたっては、HCVのゲノタイプ、肝機能や腎機能の状態、過去の治療歴などを考慮する必要があります。また、薬価が高額であることも特徴の一つで、例えばハーボニー®配合錠は1錠あたり55,491.7円、エプクルーサ®配合錠は1錠あたり61,157.8円と高価です。しかし、医療費助成制度を利用することで患者負担を軽減することが可能です。

DAA治療後に再治療が必要となった場合には、肝線維化とHCVの変異の状況を確認し、適切な薬剤を選択します。変異が認められない場合は治療期間が短いグレカプレビル・ピブレンタスビル(マヴィレット®配合錠)が選択されることが多く、変異がある場合にはソホスブビル・ベルパタスビル(エプクルーサ®配合錠)とリバビリンの併用、あるいは肝硬変が進行している場合にはソホスブビル・ベルパタスビル単独での治療が推奨されています。

肝疾患治療薬における肝庇護薬の役割と効果

肝庇護薬は、肝細胞を保護し肝機能を改善する働きを持つ薬剤で、肝炎を鎮静化し線維化を抑えることで、肝硬変への進展や肝がんの発生リスクを低減することを目的としています。主な肝庇護薬には、ウルソデオキシコール酸(ウルソ®錠)とグリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンシー®、グリチロン®)があります。

ウルソデオキシコール酸は、肝細胞を保護し肝機能を改善する作用があります。具体的には、胆汁酸の組成を変化させることで肝細胞膜を安定化させ、活性酸素を除去する効果があります。また、免疫調節作用も持ち合わせており、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎(PBC)などの治療にも用いられます。

グリチルリチン製剤は、肝臓の炎症を抑え、肝組織の線維化を抑制する働きがあります。甘草(カンゾウ)の主成分であるグリチルリチン酸を主成分とし、抗炎症作用や肝細胞保護作用を持っています。かつては注射薬として広く使用されていましたが、現在では経口薬も開発され、使用頻度は減少傾向にあります。

これらの肝庇護薬は、ウイルス性肝炎、薬物性肝障害、アルコール性肝障害など様々な原因による肝機能障害に対して使用されます。特に軽度から中等度の慢性肝障害に対してはある程度の有効性が認められており、長期間使用することで効果が現れるとされています。

ただし、肝庇護薬はウイルス量を減少させる効果はないため、ウイルス性肝炎の根本的な治療にはなりません。抗ウイルス薬と併用するか、抗ウイルス薬が使用できない場合の代替治療として位置づけられています。

肝疾患治療薬における肝性脳症治療薬の重要性

肝性脳症は、肝硬変などの重度の肝機能障害に伴って発症する神経精神症状で、意識障害や行動異常、人格変化などが特徴です。肝性脳症の主な原因は、肝機能低下によって血中アンモニア濃度が上昇することにあります。肝性脳症治療薬は、このアンモニアの産生や吸収を抑えたり、分解を促進したりすることで症状を改善します。

肝性脳症治療薬には主に以下の3種類があります。

  1. 非吸収性合成二糖類:ラクツロース®

    ラクツロースは腸内で分解されず、大腸に到達して腸内環境を酸性化します。これにより、アンモニア産生菌の活動を抑制し、アンモニアの吸収を阻害します。また、緩下作用があるため便秘を改善し、腸内のアンモニア産生物質を排出する効果もあります。

  2. カルニチン製剤:エルカルチン®

    肝機能低下によって体内で不足するカルニチンを補充することで、肝臓でのアンモニア分解を促進します。カルニチンは脂肪酸の代謝にも関与するため、肝臓のエネルギー代謝も改善します。

  3. 難吸収性抗菌薬:リフキシマ®

    腸管からほとんど吸収されず、腸内に留まって腸内細菌を減少させる抗菌薬です。アンモニア産生菌を減らすことで、腸内でのアンモニア産生を抑制します。

肝性脳症の治療では、これらの薬剤を単独または併用して使用します。特に重度の肝性脳症では、複数の薬剤を組み合わせることで効果を高めることが多いです。また、食事療法(分岐鎖アミノ酸の摂取増加、タンパク質摂取の調整)や便秘の改善、腸内環境の改善なども重要な治療アプローチとなります。

肝性脳症は再発しやすい病態であるため、一度症状が改善した後も継続的な治療が必要です。また、肝性脳症の発症は肝硬変の予後不良因子とされており、早期発見・早期治療が重要です。

肝疾患治療薬における分岐鎖アミノ酸製剤の栄養学的意義

分岐鎖アミノ酸(BCAA:Branched-Chain Amino Acids)製剤は、肝硬変患者の栄養状態改善や肝性脳症の予防・治療に用いられる重要な薬剤です。主な製剤としては、アミノレバン®EN配合散、リーバクト®配合顆粒・配合経口ゼリーなどがあります。

肝硬変患者では、肝機能低下により分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)の代謝が低下し、血中の芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)との比率が乱れます。この不均衡が肝性脳症の発症に関与していると考えられています。分岐鎖アミノ酸製剤は、この不均衡を是正することで肝性脳症を改善する効果があります。

また、分岐鎖アミノ酸は筋肉のタンパク質合成を促進する作用があり、肝硬変に伴う筋萎縮サルコペニア)の予防・改善にも効果があります。サルコペニアは肝硬変患者の予後を悪化させる因子であるため、その予防は重要です。

さらに、長期的な分岐鎖アミノ酸製剤の使用は、肝がんの発生リスクを低減し、患者のQOL(生活の質)を改善することが報告されています。特に、Child-Pugh分類B・Cの進行した肝硬変患者では、分岐鎖アミノ酸製剤の効果が顕著であるとされています。

分岐鎖アミノ酸製剤の使用にあたっては、以下の点に注意が必要です。

  • アミノ酸製剤にはカロリーが含まれるため、カロリーオーバーにならないよう食事量を調整する
  • 症状によっては就寝前に服用することで効果を高める場合がある
  • 長期間継続して服用することが重要である
  • 味や飲みやすさを考慮した製剤(ゼリータイプなど)も選択できる

分岐鎖アミノ酸製剤は薬剤であると同時に栄養補助食品としての側面も持ち合わせており、肝疾患の総合的な管理において重要な役割を果たしています。特に進行した肝硬変患者では、薬物療法だけでなく栄養療法の一環として積極的に取り入れることが推奨されています。

肝疾患治療薬と肝細胞がん治療における最新アプローチ

肝細胞がん(HCC)は肝疾患、特に肝硬変の重大な合併症であり、その治療には様々な薬剤が用いられています。近年、肝細胞がんの薬物療法は大きく進歩し、従来の抗がん剤に加えて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新たな治療選択肢が登場しています。

肝細胞がんの薬物療法は、主に以下のようなものがあります。

  1. 肝動脈塞栓療法(TACE)に使用する抗がん剤
    • シスプラチン(動注用アイエーコール®)
    • ミリプラチン(ミリプラ®動注用)
    • エピルビシンなど

これらは肝動脈から直接腫瘍に投与され、腫瘍の栄養血管を塞栓すると同時に抗がん効果を発揮します。

  1. 免疫チェックポイント阻害薬
    • アテゾリズマブ(テセントリク®点滴静注)
    • デュルマルマブ(イミフィンジ®点滴静注)
    • トレメリムマブ(イジュド®点滴静注)

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫系から逃れるために利用している「ブレーキ」を解除し、免疫系ががん細胞を攻撃できるようにする薬剤です。特に、複合免疫療法(複数の免疫チェックポイント阻害薬の併用や、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用)が注目されています。

  1. 分子標的薬(血管新生阻害薬など)
    • ベバシズマブ(アバスチン®点滴静注用)
    • ラムシルマブ(サイラムザ®点滴静注液)
    • ソラフェニブ(ネクサバール®錠)
    • レンバチニブ(レンビマ®カプセル)
    • カボサンチニブ(カボメティクス®錠)
    • スニチニブ(スチバーガ®錠)

これらの薬剤は、がん細胞の増殖や血管新生に関わる特定の分子を標的とし、がんの成長を抑制します。

現在、進行肝細胞がんの一次治療としては、アテゾリズマブとベバシズマブの併用、またはデュルマルマブとトレメリムマブの併用による複合免疫療法が第一選択とされています。これらの治療で効果が得られない場合や、治療後に進行が見られる場合には、他の分子標的薬に変更して治療を継続します。

これらの新しい治療法は、従来の治療法と比較して生存期間の延長が期待できますが、高血圧、手足症候群(手や足の皮膚障害)、タンパク尿、甲状腺機能異常などの副作用があります。治療中は症状を注意深く観察し、必要に応じて投与量の調整や休薬を行うことが重要です。

また、肝細胞がんの治療では、肝予備能(肝機能の残存能力)を考慮した治療選択が重要です。肝予備能が低下している患者では、薬物療法による肝機能悪化のリスクが高まるため、慎重な薬剤選択と経過観察が必要となります。

肝細胞がんの治療は日進月歩であり、新たな治療薬や治療戦略が次々と開発されています。最新の治療ガイドラインや臨床試験の結果を踏まえた、個々の患者に最適な治療選択が求められています。

肝疾患治療薬は多岐にわたり、それぞれが特定の病態や症状に対して効果を発揮します。適切な薬剤選択と使用方法を理解することは、肝疾患患者の治療成績向上に不可欠です。また、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善や定期的な検査・経過観察も含めた総合的なアプローチが重要です。医療従事者は最新の知見を常にアップデートし、患者一人ひとりに最適な治療を提供することが求められています。