木クレオソート毒性とフェノール誤解

木クレオソート毒性

木クレオソート毒性の臨床整理
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混同が毒性評価を歪める

木クレオソート(医薬用)とクレオソート油(工業用)は原料・成分・用途が別物で、毒性の議論も分けて考える必要があります。

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吸収と排泄が早い

臨床用量の範囲では血中濃度が短時間でピークに達し、24時間以内の尿中排泄が報告されています。

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中毒は「量」が鍵

常用量を大きく超える大量内服では、意識障害や遅発性肝障害などが問題となり、症例ベースでの注意喚起が必要です。

木クレオソート毒性とクレオソート油の違い

 

医療現場でまず押さえるべきは、「木クレオソート」と「クレオソート油(石炭クレオソート)」の混同が、毒性リスク評価の出発点を誤らせる点です。木クレオソートは木タール由来で日本薬局方に収載されてきた医薬品である一方、クレオソート油はコールタール由来で木材防腐など工業用途が中心と整理されています。原料・主要成分・用途が異なるため、発がん性や有害性の議論も同一視しないことが臨床コミュニケーションの前提になります。

実務上、患者がネット記事で見た「クレオソート=発がん性」という話題を持ち込むのは珍しくありません。その際、IARCの評価や規制の対象として主に俎上に載るのは、工業用途のクレオソート油に含まれうる多環芳香族炭化水素(PAH)である、という切り分けが説明の要点になります。東京都保健医療局の解説でも、クレオソート油やそこに含まれるPAHの一部がIARCで発がん性評価(例:2Aなど)に位置づけられている旨が示されています。

一方で、木クレオソート側の安全性議論は「医薬品としての用量・品質管理・臨床試験」という土俵で行われます。木クレオソートは、承認基準に基づく一般用医薬品成分としての位置づけが説明され、NTPやEPAのリストに関して「同一物質として混同された経緯があり、その後訂正された」という整理も提示されています。患者説明では、ここを短く言い換えて「工業用のクレオソート油の話が、医薬用の木クレオソートに誤って当てはめられた歴史がある」と伝えると、炎上しがちな話題を落ち着かせやすいです。

根拠として有用(医療従事者向けの整理がまとまっている・混同史も含む)。

木クレオソート(医薬用)とクレオソート油(工業用)の原料・成分・用途の違い、NTP/EPAでの混同と訂正経緯がまとまっています

木クレオソート毒性とフェノール含有の用量依存

木クレオソートの毒性を語る際、頻出するのが「フェノールが入っているなら危険では?」という論点です。医療従事者として重要なのは、フェノールは高濃度では腐食性・蛋白変性を介した局所障害が問題になり得る一方、経口摂取の安全性は用量で評価される、という基本に立ち返ることです。木クレオソートには主要成分の一つとしてフェノールが約10%含まれるとされ、皮膚・粘膜への多量/長期付着は避けるべき、といった注意点も明示されています。

添付文書的な安全域の説明としては、「臨床用量(例:133 mg)でのフェノール量」→「体重換算」→「動物LD50やNOAEL等との距離」という構造が理解しやすいです。医療従事者向け情報では、正露丸1回内服で木クレオソート133 mg、フェノール13.3 mg、体重65 kg換算で0.20 mg/kg、1日3回で0.61 mg/kg/dayという計算例が提示されています。さらに、ラットLD50(445–520 mg/kgなど)やNOAEL(12 mg/kg/day)との比較で「相当に低い」ことが述べられ、臨床用量で健常人に中毒症状が出る可能性は低い、という説明につながっています。

ただし、医療者向け記事としては「低い=ゼロではない」という書き方が安全です。とくに、患者背景(高齢、肝腎機能、併用薬、脱水、過量内服、誤飲)で安全域の意味が変わる点、そして副作用が疑われたら服薬中止と評価につなげる点を明確にします。ここで大事なのは、フェノールの一般論だけで語らず「木クレオソートという混合物としての曝露」「用量超過での臨床像」を次のセクションで繋げる構成です。

木クレオソート毒性と薬物動態(グアヤコール等)

「毒性」を患者に説明する際、成分が体内にどのくらい残るのか(蓄積するのか)という質問が出やすいため、薬物動態の情報は臨床コミュニケーションに効きます。医療従事者向け情報では、臨床用量の木クレオソート経口投与後、成分であるグアヤコール、クレオソール、p-クレゾール、フェノールの血中濃度が15分後から上昇し、30分後に最高血中濃度に到達したとされています。半減期は0.8時間(p-クレゾール)から2.7時間(フェノール)の範囲で、24時間以内に各成分が尿中に一定割合で排泄されたことも示されています。

この手のデータは、乱暴に言えば「通常量なら比較的短い時間スケールで体外へ出ていく」ことを示唆しますが、医療者としては“短い=安心”と断定しない姿勢が大切です。短時間でピークに達する薬剤は、過量内服時に急性症状が早期に出る可能性があるため、服薬量・服薬時刻・症状出現のタイムライン確認が重要になります。加えて、24時間以内排泄という情報は、受診のタイミングや観察期間(とくに症例報告で言及される遅発性肝障害など)をどう考えるかの補助線にもなります。

論文の一次情報(医療者向けページ内で引用されているので追跡しやすい)。

臨床用量での木クレオソート成分(グアヤコール等)の血中推移・半減期・尿中排泄が引用付きで整理されています

木クレオソート毒性の中毒症状と肝障害(症例)

「毒性」の記事で説得力を出すには、常用量の話だけでなく、過量内服時に何が起こり得るかを、症例ベースで冷静に記載することが重要です。J-STAGEの症例報告では、家庭常備薬の正露丸を200錠内服し木クレオソート中毒に至った症例が報告されています。そこでは、木クレオソートに含まれる少量のフェノールによる嘔吐、血圧低下、意識障害、遅発性肝障害などが出ることがあり注意が必要、と要約されています。

医療従事者向けの実務ポイントは、「中毒量の断定」よりも「疑うべき臨床像」と「最低限の初期対応」を外さないことです。具体的には、意識障害や循環不全があればABCの安定化を優先し、服薬量・併用薬・アルコール・基礎疾患を確認し、肝機能については“遅発性”の記載がある以上、初期が軽くても追跡が必要になります。さらに、OTCで入手でき家庭内に常備されやすい点が、救急外来・当直の現場でのリスク要因になり得るため、「大量内服の可能性がある患者では、聞き取りの段階で候補に入れる」という意外に実務的な示唆が得られます。

症例の根拠(中毒時の臨床像の具体例として有用)。

正露丸の大量内服での意識障害・肝障害を報告した症例(木クレオソート中毒の注意点が要約されています)

木クレオソート毒性の独自視点:説明の落とし穴(発がん性・規制・患者不安)

検索上位の情報は「発がん性は誤解」「石炭クレオソートが問題」という結論に寄りがちですが、医療者が直面するのは“結論そのもの”より“説明の落とし穴”です。患者の不安は「危険か安全か」の二択になりやすく、そこで「安全です(以上)」と言い切ると、逆に不信を招くことがあります。ここでは、(1)混同(木クレオソート vs クレオソート油)、(2)用量依存(常用量 vs 過量)、(3)曝露経路(経口 vs 皮膚・吸入)、(4)規制文脈(工業製品のPAH規制)を、短いフレームで提示するのが有効です。

たとえば患者向けには、次のように“短文テンプレ”を用意しておくと外来・薬局でブレにくくなります。

  • 「医薬品の木クレオソートと、木材防腐に使うクレオソート油は別物です。」
  • 「毒性は量で変わります。決められた用量では安全性データがありますが、大量に飲むと危険です。」
  • 「皮膚や目に長く触れるような使い方は避けてください(飲み薬として適切に使用してください)。」
  • 「心配な症状(強い嘔吐、ふらつき、意識がおかしい等)があればすぐ受診してください。」

“意外な情報”として臨床教育に使えるのは、「米国の発がん性リストに木クレオソートが混同で載り、後に削除された」という経緯が、患者不安の背景(都市伝説の起点)として説明に役立つ点です。医療従事者向け情報では、NTPの発がん性物質報告書で木クレオソートが石炭クレオソートと同一物質として収載された経緯、提出データを経て削除されたこと、EPAでも削除が認められたことが説明されています。この種の“歴史的経緯”を一言添えると、患者は「なぜそんな噂が残っているのか」を理解しやすくなり、説明の納得感が上がります。

(規制・発がん性という文脈で、工業用クレオソート油側の情報を確認したいときの権威性ある日本語リンク)

クレオソート油と処理木材の基準、PAHやIARC評価に触れており「工業用」の安全対策文脈を整理できます

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