気管支拡張症ガイドラインの診断と治療

気管支拡張症ガイドラインによる診断と治療

気管支拡張症ガイドライン概要
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診断基準

胸部CT検査による画像診断と臨床症状の組み合わせで確定診断

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治療体系

英国胸部学会ガイドラインの5段階治療システム

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管理目標

増悪抑制とQOL改善を重視したトータルケア

気管支拡張症の診断基準とガイドライン

気管支拡張症の診断において、欧州呼吸器学会(ERS)と英国胸部学会(BTS)のガイドラインでは、臨床症状と画像所見を組み合わせた診断基準が確立されています。画像診断では「気道の内径または外径とそれらに伴走する肺動脈径の比が1以上」、「気管支のテーパリング(先細り)の消失」、「胸膜下でも末梢気管支が顕在化」が条件となります。
参考)https://www.ntmnavi.jp/img/resources/luncheon-seminar07.pdf
胸部CT検査、特に高分解能CT(HRCT)が最も有用な診断方法です。HRCT による診断基準では、気管支内腔径/肺動脈径(broncho-arterial ratio:BA 比)が1.5以上で気管支拡張と判断され、1~1.5の場合は気管支の形態異常を含めて総合的に判断します。
参考)気管支拡張症
臨床症状については、1週間のうちほぼ毎日の咳と痰、および増悪の既往の2つ以上を満たすことが診断条件です。増悪は、咳、喀痰の量および粘稠度、膿性喀痰、呼吸困難感、倦怠感、血痰のうち3つ以上が悪化する状態が48時間以上継続し、治療変更が必要な状態と定義されています。

気管支拡張症の原因疾患とガイドライン推奨検査

ガイドラインでは、適切な治療のために原因疾患の鑑別が重要とされています。特発性と安易に診断することは避けるべきで、潜在的な原因を除外するアルゴリズムが提案されています。
基本的な検査として、胸部高分解能CT、血算・血液像、喀痰培養、肺機能検査、膠原病の検査などを実施します。この結果から、まず膠原病、気道異物、先天性奇形などを鑑別し、次に原発性線毛機能不全症候群(PCD)、嚢胞性線維症(CF)、α1-アンチトリプシン欠乏症などの特殊な病態を検討します。
最近の日本の疫学調査では、女性の気管支拡張症死亡率が1990年代半ばから増加しており、これは肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)による気管支拡張症の発症に関連すると推察されています。肺NTM症患者では、他の細菌感染も考慮した気管支拡張症としての検査や管理が必要です。

英国胸部学会ガイドラインによる治療の5段階システム

英国胸部学会(BTS)ガイドラインでは、気管支拡張症の治療を5段階で体系化しています。治療目標は増悪の抑制、QOLの改善、症状の改善、入院・死亡率の改善です。
参考)治療の進め方:ガイドラインにおける治療の5Step|気管支拡…
Step 1では基礎疾患の治療、気道クリアランス療法、呼吸リハビリテーション、年1回のインフルエンザワクチン接種、増悪時の速やかな抗菌薬治療、セルフマネージメントを実施します。
Step 2では、Step 1の実施でも年3回以上の増悪がある場合、理学療法の見直しおよび去痰薬投与の検討を行います。
Step 3以降では、菌定着状況に応じて抗菌薬による治療を実施します。緑膿菌定着の場合は長期の吸入抗菌薬または長期のマクロライド系抗菌薬を投与し、その他の菌定着の可能性がある場合は長期のマクロライド系抗菌薬または長期の他の経口/吸入抗菌薬を投与します。

気管支拡張症におけるマクロライド系抗菌薬治療ガイドライン

マクロライド系抗菌薬の少量長期投与は、気管支拡張症の急性増悪頻度を低減することが複数の研究で示されています。日本感染症学会等の推奨では、急性増悪を認めた既往のある患者に対して、他の治療法(気道クリアランス療法、理学療法など)で十分な管理が困難な場合に適応を考慮すべきとされています。
参考)気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬、耐性菌出現・副作用…
エリスロマイシンに特化した研究では、12か月間投与した群において、プラセボ群と比較して急性増悪の発生率が有意に低下し、特にPseudomonas aeruginosa感染例において急性増悪に対して低減効果が高いことが報告されています。
参考)https://www.jrs.or.jp/information/file/makuroraidokoukinyakunofusoku20250424.pdf
ただし、現時点では適応外使用であることを熟慮した適応の明確化が重要で、耐性菌出現、副作用の発現、医薬品供給不安への対応として適正使用の徹底が求められています。定期的な評価を行いながら治療継続の適否を判断し、不必要な長期使用を避けることが推奨されています。

気管支拡張症のガイドラインにおける呼吸リハビリテーション

欧州呼吸器学会(ERS)のガイドラインでは、呼吸リハビリテーションが唯一「High」のエビデンスレベルで推奨されています。英国胸部学会(BTS)のガイドラインでも、呼吸リハビリテーションの指導および効果向上のための吸気筋トレーニングの併用が推奨されています。
呼吸リハビリテーションは初回増悪までの期間を有意に延長し、健康関連QOLや疲労感を有意に改善することが確認されています。特に気道クリアランス療法(ACT)は、呼吸困難感の軽減、肺機能改善、感染予防、QOL改善をもたらすため重要です。
気道クリアランス療法には、能動的な排痰テクニック、体位ドレナージを用いた理学療法、呼気陽圧装置、振動呼気陽圧器具(フラッター、アカペラ、エアロビカなど)、高頻度胸壁振動装置、ハイフローセラピーなどがあります。痰の中には気道を破壊する物質が含まれているため、しっかりとした排痰が非常に重要とされています。
参考)治療方法:抗菌薬療法、気道クリアランス療法、呼吸リハビリテー…