黄色ブドウ球菌はどこにいる

黄色ブドウ球菌はどこにいる

黄色ブドウ球菌の主な生息場所
👃

鼻腔・咽頭に常在

健康な人の30-40%が鼻腔内に保菌している常在菌

👋

皮膚表面に広く分布

特に傷口や化膿部位に多く存在し感染源となりやすい

🌍

自然環境中に広く存在

医療機関や日常生活環境の表面に付着し伝播

黄色ブドウ球菌の鼻腔・咽頭における生息状況

黄色ブドウ球菌は健康な成人の鼻腔内に常在菌として生息する細菌である。世界各国の研究データによると、健康な一般成人における黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌率は地域差があるものの、おおよそ20-40%の範囲で報告されている。

参考)https://kobe-kishida-clinic.com/infection/infectious-diseases/staphylococcus-aureus/

具体的な保菌率として、日本では35.7%、アメリカでは30.4%、オランダでは24-25.2%、ノルウェーでは27.3-27.6%、スイスでは36.4%、中国では23.1%という調査結果が示されている。これらのデータは、黄色ブドウ球菌が世界的に人間の鼻腔に広く分布していることを示している。

参考)https://foodmicrob.com/staphylococcus-aureus-determinants-of-human-carriage/

鼻腔内での保菌は持続性保菌者(平均154日)、間欠的保菌者(平均14日)、非保菌者(平均4日)に分類され、個人差が大きいことが人工接種試験で明らかになっている。医療従事者においては保菌率がさらに高く、新生児病棟の看護師で42.8%、一般病棟の医師で28.3%、外来診療所のスタッフで18.7%という報告がある。

参考)https://kobe-kishida-clinic.com/infectious/infectious-disease/staphylococcal-scalded-skin-syndrome/

黄色ブドウ球菌の皮膚表面における分布パターン

黄色ブドウ球菌は人間の皮膚表面に広く分布しており、特に毛孔や皮脂腺の周辺に多く存在する。健康な成人では約20%の人の皮膚表面に保菌が確認されている。皮膚上での分布は均一ではなく、湿度や温度条件、皮脂分泌量によって菌の密度が変化する。

参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/16-%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87-%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E9%99%BD%E6%80%A7%E7%B4%B0%E8%8F%8C/%E9%BB%84%E8%89%B2%E3%83%96%E3%83%89%E3%82%A6%E7%90%83%E8%8F%8C-staphylococcus-aureus-%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87

特に注意すべきは化膿した傷口やニキビなどの炎症部位であり、これらの場所では黄色ブドウ球菌の菌数が著しく増加する。傷口では正常皮膚と比較して菌の増殖が促進され、感染の温床となりやすい。手指においても、爪の周囲や指間などの清拭しにくい部分に菌が蓄積しやすく、食品取扱時の汚染源となるリスクが高い。

参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/eurlguae2

アトピー性皮膚炎患者では健常者と比較して皮膚での黄色ブドウ球菌の定着率が高く、症状の悪化要因の一つとして注目されている。皮膚のバリア機能低下により菌の付着・増殖が促進され、毒素産生も活発化することが報告されている。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/d2de409b8f25ebbe7bed4249f4d1e0de478a7937

黄色ブドウ球菌の自然環境における分布範囲

黄色ブドウ球菌は自然界に広く分布し、ヒトを取り巻く環境中に常在している。動物では牛、豚などの家畜、鳥類の皮膚や毛に生息し、畜産業を通じて食品汚染の原因となることがある。環境表面では、ドアノブ、ベッド柵、床頭台、医療器具などの高頻度接触面に付着し、間接的な感染伝播の原因となる。

参考)https://www.mhcl.jp/workslabo/hatena/staphylococcus01

医療施設においては、聴診器や血圧計などの医療器具を介した伝播が問題となっており、適切な清拭・消毒が感染制御上重要である。室内環境では、ホコリや繊維製品にも菌が付着し、長期間生存する可能性が指摘されている。

参考)https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/bacteria/MRSA.htm

気候条件による影響も報告されており、温度30-37℃、湿度の高い環境で菌の増殖が促進される。食塩濃度16-18%という高塩分環境でも増殖可能であり、保存食品での増殖リスクも存在する。このような環境適応能力の高さが、黄色ブドウ球菌の広範囲な分布を可能にしている要因と考えられる。

参考)https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/09staphylococcal.pdf

黄色ブドウ球菌の感染経路と伝播メカニズム

黄色ブドウ球菌の主要な感染経路は接触感染と飛沫感染の2つである。接触感染では、菌が付着した手指で鼻や口、目、傷口に触れることで感染が成立する。また、菌が付いたタオル、ドアノブ、おもちゃなどの環境表面を介した間接接触感染も重要な伝播経路となっている。

参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/gd-f24pda6k

飛沫感染は、感染者が咳やくしゃみをした際に飛び散る飛沫を吸い込むことで成立する。医療環境では、医療従事者の手指を介した患者間での交差感染が最も一般的な伝播様式となっている。特に手術時の鼻腔保菌者からの感染リスクが高く、術前の除菌処置の有効性が実証されている。

参考)https://www.nejm.jp/abstract/vol362.p9

食中毒の場合は、手指に付着した菌が食品に移行し、食品中で増殖・毒素産生を行うことで成立する。エンテロトキシンという耐熱性毒素が産生されると、加熱調理後も毒性が残存するため、調理時の衛生管理が重要である。潜伏期間は平均3時間と短く、吐き気、嘔吐、腹痛などの急性症状を呈する。

参考)https://www.city.utsunomiya.lg.jp/kurashi/eisei/shokuhin/chudoku/1005521.html

黄色ブドウ球菌の医療施設内での特殊な生息環境

医療施設内では黄色ブドウ球菌の分布パターンが一般環境と異なる特徴を示す。入院患者や医療従事者における保菌率は一般人口と比較して高い傾向にあり、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の院内感染が問題となっている。
病室環境では、患者のベッド周囲が最も菌の密度が高く、枕元の床面、ベッド柵、オーバーテーブルなどから高頻度に菌が検出される。人工呼吸器や中心静脈カテーテルなどの医療機器は、菌の定着・増殖に適した環境を提供し、デバイス関連感染の原因となる。
手術室では術野の汚染防止が重要であり、手術スタッフの鼻腔保菌が術後感染のリスク因子として認識されている。特に心臓血管外科や整形外科などの人工物埋込術では、感染制御がより厳格に行われている。集中治療室では免疫低下患者が多いため、環境清拭と接触予防策の徹底が感染制御上不可欠である。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kansenshogakuzasshi1970/64/5/64_5_549/_article