結膜萎縮 ドライアイ 高齢 眼科疾患の理解
結膜萎縮 ドライアイと涙液異常の病態
結膜萎縮という用語は、厳密な疾患名としてよりも、結膜上皮や結膜固有層が薄くなり血管や下層が透けて見えるような萎縮性変化を総称的に表現する際に用いられることがあります。
実際の臨床では、結膜萎縮単独で診断コード化されるより、ドライアイ、結膜弛緩症、角結膜変性などの病態の一部として位置付けられるケースが多く、背景にある涙液層の不安定化や眼表面炎症の有無を合わせて評価することが重要です。
ドライアイそのものは、涙の量的減少または質的変化により、眼表面の保護機能が低下した状態と定義され、角膜・結膜上皮の障害、異物感、充血、視機能低下などが生じます。
参考)目の病気と治療
慢性的な乾燥刺激や摩擦刺激が続くと、結膜上皮の菲薄化や杯細胞減少、微小な瘢痕化が進み、肉眼的には「白目が痩せた」「血管が目立つ」といった印象で結膜萎縮と形容される所見につながることがあり、眼表面ユニット全体の慢性障害として捉える視点が求められます。
結膜弛緩症では、加齢に伴う結合組織のゆるみで結膜が余剰となり、下眼瞼溝にたまって涙液の正常なプールを妨げ、結果としてドライアイ様の眼表面トラブルを招きます。
このとき、眼表面のどこに涙が届いていないのか、結膜の弛緩・萎縮がどの程度、涙液動態に影響しているのかをスリットで丁寧に観察し、単純な「涙量不足」だけでなく涙の動き・貯留・排出という3要素を立体的に評価することが、結膜萎縮を含む眼表面障害の理解に役立ちます。
結膜萎縮 高齢者にみられる結膜弛緩症と関連所見
高齢者では、皮膚のたるみと同様に眼球表面の結膜も弛緩しやすくなり、結膜弛緩症として自覚症状や所見に現れます。
弛緩した結膜が下眼瞼縁から持ち上がり、涙液が溜まるべきスペースを占拠すると、涙が角膜表面へ行き渡りにくくなり、ドライアイ様の刺激症状や流涙を同時に訴える特有の状態が生じ、患者は「涙が多いのに乾く」という矛盾する訴えをすることもあります。
こうした高齢者の結膜変化は、黄斑部を中心とした萎縮型加齢黄斑変性など、眼底の萎縮性疾患と併存することも多く、前眼部と後眼部の両方で「萎縮」というキーワードが診断書や説明に登場しうる点が特徴的です。
参考)加齢性黄斑変性症|かめざわ眼科|横浜市・上大岡・弘明寺
前眼部(結膜・角膜)の微細な萎縮や弛緩を見逃さず、後眼部(黄斑・網脈絡膜)の萎縮性病変による視機能低下と合わせて評価することで、高齢患者の「見えにくさ」が眼表面由来なのか中心視の障害なのかを切り分け、説明の納得度を高めることができます。
参考)近視性網脈絡膜萎縮 (よくある目の病気 79) | 京橋クリ…
また、長期の点眼治療や術後の瘢痕化などにより、結膜に線維化と萎縮性変化が生じることもあり、結膜囊の容量低下や涙液貯留不良、薬剤刺激の増幅といった二次的問題を引き起こすことがあります。
特に多剤長期点眼中の高齢者では、薬剤性表在角膜障害とともに、結膜上皮・杯細胞のダメージをどう最小化するかが課題となり、ベンザルコニウムなど防腐剤の少ない製剤の選択や、涙点プラグ・人工涙液の併用による眼表面保護といった戦略が重要になります。
結膜萎縮 網脈絡膜萎縮・黄斑萎縮との対比
「萎縮」という語は眼科領域で多用されますが、結膜萎縮(眼表面の菲薄化)と、網脈絡膜萎縮(眼底の萎縮)とは病変部位も臨床的インパクトも大きく異なります。
近視性網脈絡膜萎縮では、強度近視により眼球後極部が伸展し、網膜と脈絡膜が引き伸ばされて薄くなり、びまん性萎縮や地図状萎縮として眼底に黄白色の領域が出現し、進行すると視野欠損や中心視機能の不可逆的低下につながります。
一方、萎縮型加齢黄斑変性では、網膜色素上皮に老廃物(リポフスチンなど)が蓄積し、黄斑部の萎縮が進行することで、中心暗点や読書困難をきたし、高齢者の視力低下原因として重要です。
こうした「眼底の萎縮」と「結膜萎縮」は、患者側からはどちらも「目の組織が痩せて機能が落ちる」というイメージで語られがちですが、前者は主に中心視力・視野の問題、後者は主に眼表面の不快感や乾燥感の問題であり、医療従事者は病変部位と予後の違いをわかりやすく整理して説明する必要があります。
意外な点として、強度近視による網脈絡膜萎縮の患者は、若年期から角膜形状や涙液動態にも微妙な影響を受けることがあり、ドライアイ様症状を併発するケースもありますが、本人は「近視が強いから見えにくい」と一括りにしてしまう場合があります。
参考)強い近視の人生行路【3】シニア世代のできごと – 近視(近眼…
診察側としては、網脈絡膜萎縮による中心視機能障害と、結膜・角膜レベルの眼表面障害を明確に切り分けて評価することで、どこまで視機能改善が期待できるのか、どこからはQOL改善を主目的としたケアになるのかを、患者と共有しやすくなります。
結膜萎縮 臨床での診察ポイントと治療戦略
結膜萎縮を念頭に置いた診察では、単に充血や色調を眺めるだけでなく、結膜の厚み・血管走行・弛緩の有無、涙液メニスカスの高さ、瞬目時の涙液の広がりなど、眼表面の「動き」を観察することが重要です。
シルマーテストやTBUTなどの検査に加え、色素染色で結膜・角膜上皮の障害パターン(線状、点状、帯状など)を確認することで、結膜萎縮・弛緩・ドライアイそれぞれの寄与度を推定し、加齢変化だけでなく薬剤性やコンタクトレンズ装用歴、自己免疫疾患なども鑑別に上げていきます。
治療面では、人工涙液やヒアルロン酸点眼などの涙液補充に加え、結膜弛緩症が主因となっている場合には、下眼瞼に沿った弛緩結膜を切除・縫縮する手術的アプローチにより、涙液動態の改善を図る選択肢もあります。
また、防腐剤負荷を減らすために防腐剤フリー製剤や単回投与容器への切り替えを検討し、眼表面炎症が目立つ場合には、短期的なステロイド点眼や免疫調整薬点眼を併用して眼表面の炎症・神経過敏を抑え、結膜萎縮による症状の悪循環を断つことが考えられます。
生活指導の観点では、画面使用時間の調整、環境湿度の管理、空調風の直当たり回避、まばたき意識、ホットアイマスクなど、眼表面への負荷軽減策をきめ細かく提案していくことが、加齢性結膜変化を背景に持つ患者にとって大きな助けとなります。
特に高齢者では、全身薬(抗コリン薬、向精神薬、利尿薬など)による涙液分泌低下も少なくなく、主治医との情報共有を通じて、必要に応じた薬剤調整を検討することが、結膜萎縮を含む眼表面障害の改善に寄与する可能性があります。
結膜萎縮 患者説明とQOL視点の独自アプローチ
結膜萎縮やドライアイ、加齢性結膜変化は生命予後に直結しない一方で、「常に目が気になる」「読書やスマホがつらい」といった日常生活の質を大きく左右するため、患者説明では「治る・治らない」だけでなく、「どう付き合うか」「どこまで改善を目指すか」を共有する姿勢が重要です。
その際、「萎縮=元には戻らない部分もあるが、残っている機能を最大限活かし、負担を減らすことで、症状や不便さは軽減できる」というフレーミングを用いると、患者が悲観しすぎず、かつ現実的な期待値を持ちやすくなります。
意外に効果的なのが、患者の日課に合わせた“ルーティン化”です。例えば、朝の洗顔後と就寝前の点眼、画面作業の前後にまばたき体操と人工涙液を組み合わせる、外出前に風よけ眼鏡を選ぶなど、小さな行動をセットで提案することで、「結膜萎縮のケア」が生活習慣の一部になりやすくなります。
医療従事者側も、視力・眼圧・眼底写真と同様に、「眼表面の快適さ」「読書・外出・趣味活動のしやすさ」といったQOL指標を問診項目に組み込むことで、結膜萎縮を含む眼表面疾患を単なる“軽い目の不調”ではなく、生活機能の問題として患者と共有しやすくなります。
さらに、網脈絡膜萎縮や加齢黄斑変性を合併する患者では、「見えにくさ」と「しょぼしょぼ感」が混在して訴えられるため、眼底疾患チームと眼表面チーム(ドライアイ外来など)が連携し、どの症状がどの病態に由来するのかを整理して伝えることが、治療への納得とアドヒアランス向上につながります。
このように、結膜萎縮は単独の診断名としてだけでなく、高齢者の複合的な眼疾患の中で「眼表面の弱さ」を示すサインとして捉え、他の萎縮性病変や全身状態と併せて評価・介入していくことが、これからの超高齢社会の眼科医療において重要なテーマになっていくのではないでしょうか。
高齢者の眼疾患と加齢変化、結膜弛緩症や黄斑萎縮の概説に関する臨床向け解説(加齢性変化と結膜・網膜萎縮の節の参考になります)。
結膜弛緩症とドライアイとの関係、症状と治療法(結膜弛緩症およびドライアイ関連の説明に有用な一般向け解説)。
強度近視に伴う網脈絡膜萎縮と視機能への影響、高齢期の黄斑萎縮の進行像を紹介したコラム(網脈絡膜萎縮との対比の節で参照)。