血液製剤と輸血の違いを理解しよう

血液製剤と輸血の違いと基礎知識

血液製剤と輸血の基礎知識
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血液製剤の定義

人の血液を原料として製造された医薬品で、輸血用血液製剤と血漿分画製剤に分類

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輸血の概念

血液製剤を患者に投与する医療行為で、臓器移植と同等の医療技術

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両者の関係性

血液製剤は物質、輸血は医療行為という本質的な違いが存在


血液製剤と輸血は医療現場でしばしば混同される概念ですが、本質的に異なる意味を持ちます 。血液製剤とは人の血液を原料として製造された医薬品の総称であり、主に「輸血用血液製剤」と「血漿分画製剤」の2つのカテゴリーに分類されています 。一方、輸血とは血液中の赤血球などの細胞成分や凝固因子などのタンパク成分が減少・機能低下した際に、その成分を補充する医療行為を指します 。

参考)輸血について

医療従事者にとって重要なのは、血液製剤が「物質」であり、輸血が「医療行為」である点を明確に区別することです 。血液製剤は日本赤十字社の献血システムによって供給される有限な資源であり、適正な保存管理と使用が求められています 。現代医療において輸血療法は臓器移植と同等の医療行為と位置づけられ、一定のリスクを伴うため慎重な適応判断が必要です 。

参考)輸血用血液製剤一覧|血液事業全般について|献血について|日本…

輸血用血液製剤には赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤、全血製剤があり、患者の病態に応じて選択されます 。以前は全血輸血が主流でしたが、現在では必要な成分のみを輸血する「成分輸血」が標準的な治療法となっており、循環器負担の軽減と副作用の最小化を図っています 。

血液製剤の定義と分類体系

血液製剤は法的に「薬事法に規定する医薬品のうち、人の血液を原料とする製剤」と定義されており、厳格な品質管理下で製造されています 。製造方法により、輸血用血液製剤と血漿分画製剤の2つに大別され、それぞれ異なる製造工程と用途を有しています 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11127000/03-04.pdf

輸血用血液製剤は全血採血または成分採血により得られた血液から直接製造される製剤群です 。製造工程では採血時に初流血除去を実施し、毛嚢等からの細菌混入を防止する安全対策が講じられています 。赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤、全血製剤の4種類があり、各製剤は特定の保存条件と有効期限が設定されています 。
血漿分画製剤は血漿中のタンパク質を分離精製して製造される製剤群で、主にアルブミン製剤免疫グロブリン製剤、血液凝固因子製剤があります 。製造にはコーンの低温エタノール分画法が用いられ、1940年代にアメリカで開発されたこの技術が現在でも基本的な製造原理となっています 。各製造業者は独自の技術改良を加え、より高品質な製剤の開発を続けています 。

参考)血漿分画製剤のQ&A

現在では輸血後GVHD(移植片対宿主病)予防のため、すべての輸血用血液製剤に放射線照射(15〜50Gy)が実施され、製剤には「Ir」表示が付けられています 。また、輸血副作用軽減のため白血球除去処理が標準化され、「LR」表示により確認できるシステムが構築されています 。

参考)輸血の看護第1回|輸血とは(適応とリスク、輸血用血液製剤の種…

輸血療法の適応基準と実施原則

輸血療法の適応決定においては、輸血による危険性と治療効果を慎重に比較検討することが必要です 。輸血量は効果が得られる必要最小限にとどめ、過剰な投与は避けなければなりません 。他の薬剤投与によって治療が可能な場合には、輸血は極力避けて臨床症状の改善を図ることが原則とされています 。

参考)https://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_benefit_guideline_sisin120827.pdf

血小板輸血の適応においては、血小板数と出血症状の程度、合併症の有無を総合的に評価します 。一般的に血小板数5万/μL以上では輸血は不要とされ、2〜5万/μLでは止血困難な場合、1〜2万/μLでは重篤な出血時、1万/μL未満では原則として輸血適応となります 。ただし、慢性に経過している血小板減少症では、血小板数が5千〜1万/μLでも重篤な出血をきたすことはまれであり、極力輸血を避けることが望ましいとされています 。

参考)https://www.onomichi-hospital.jp/upload/open-c/1721275788.pdf

周術期の輸血適応は手術の種類により異なる基準が設定されています 。複雑な心臓大血管手術や長時間の人工心肺使用例では血小板数10万/μL以上の維持が推奨され、腰椎穿刺や中心静脈カテーテル挿入時は5万/μL以上が目標とされています 。頭蓋内手術など特殊な領域の手術では、局所での止血困難性を考慮してより厳格な血小板数管理が求められます 。
新鮮凍結血漿の使用については科学的根拠に基づくガイドラインが策定され、2017年に厚生労働省が「血液製剤の使用指針」の大改訂を行いました 。このガイドラインではクリニカルクエスチョン(CQ)の設定、エビデンスの質評価、推奨グレードの決定プロセスを経て、適正使用に向けた具体的指針が示されています 。

参考)科学的根拠に基づいた新鮮凍結血漿(FFP)の使用ガイドライン…

血液製剤の保存管理と品質維持システム

血液製剤の保存管理は各製剤の特性に応じた適正な温度条件下で実施することが必須です 。赤血球製剤は2〜6℃の冷所保存が基本で、常時規定範囲内の温度で保存できる位置確認が重要です 。血小板製剤は他の製剤と異なり20〜24℃で振とう保存を行い、低温保存では血小板の活性化進行と形態的変化により生体内寿命の短縮が生じます 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjtc/70/6/70_562/_pdf/-char/ja

血小板製剤の保存期間は採血後4日以内と短く設定されており、これは血小板の生体内寿命が約10日間と短く、保存による劣化が早いためです 。振とうを加えない静止状態での保存ではpHの低下に伴って凝集能の低下が認められ、6時間程度までは変化が少ないとされていますが、供給後の速やかな使用が推奨されています 。

参考)血液製剤によって保存温度や保存期間が異なるのはなぜ?

新鮮凍結血漿は-20℃以下での冷凍保存が必要で、使用時は30〜37℃で融解します 。保冷剤とともに運搬し、適切な温度管理を維持することが品質保持の鍵となります 。血液製剤温度管理システムの導入により、適正な温度管理下での保管が自動化され、ヒューマンエラーの防止と品質保証が向上しています 。

参考)血液製剤管理と種類|奈良県立医科大学 輸血部

各医療機関では輸血部門における血液製剤管理業務として、受領登録時のバーコード読み取りによる血液型情報、製剤種別、製造番号、採血日、有効期限、放射線照射の有無確認が義務化されています 。外観確認では製剤の色調、混濁、凝塊の有無などを目視チェックし、異常がある場合は使用を中止する体制が確立されています 。

輸血副作用と安全対策の現状

現代の輸血療法において副作用の発生頻度は大幅に低下していますが、完全にゼロではありません 。副作用は免疫学的副作用、非免疫学的副作用、感染症の3つのカテゴリーに分類され、それぞれ異なる発症機序と対処法があります 。

参考)https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/dcpt/transfusion.pdf

最も一般的な副作用は発熱とアレルギー反応で、輸血された白血球に対する反応や白血球が放出するサイトカインに対する反応により生じます 。このため、米国の大半の病院では輸血用血液から白血球を除去する処理が標準化されており、日本でも同様の対策が講じられています 。発熱に対してはアセトアミノフェンの投与が一般的な治療法で、再輸血時の予防投与も実施されます 。

参考)輸血の注意点と副作用 – 13. 血液の病気 – MSDマニ…

最も重篤な副作用として体液過剰、肺損傷、供血者と受血者の血液型不適合による赤血球破壊があげられます 。まれな反応として移植片対宿主病(輸血された細胞が受血者の細胞を攻撃)、感染症、大量輸血の合併症(血液凝固不良、体温低下、カルシウムやカリウムの濃度変化)が報告されています 。
溶血性副作用は軽症で1/1,000回、重症で1/10,000回の頻度で発生し、主に赤血球との相性が悪い場合に赤血球破壊により生じます 。症状として赤褐色尿、貧血、黄疸が1〜2週間後に出現する特徴があります 。非溶血性副作用にはアレルギー反応があり、皮疹やかゆみ、目や唇のむくみといった皮膚症状や発熱が1/10回程度の頻度で認められます 。
献血者のスクリーニング検査の改良により、B・C型肝炎、HTLV-Ⅰ・HIV・未知ウイルス、梅毒・マラリアなどの感染症リスクは極めて低くなっています 。しかし、IgA欠損症患者におけるアナフィラキシー反応など、特殊な病態での重篤な副作用についても注意が必要です 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000057051.pdf

血液製剤における救急医療と特殊な輸血適応

救急医療における輸血療法では、迅速な判断と実施が患者の生命予後を左右します。大量出血時の輸血では専用加温器(37℃)を用いた加温輸血が推奨され、急速大量輸血による体温低下の防止が重要です 。赤血球製剤は通常加温せずに輸血しますが、緊急時の大量輸血では患者の体温維持のため加温処置が必要になります 。

参考)輸血の管理方法

在宅輸血という特殊な輸血形態も普及が進んでおり、2015年に山形県合同輸血療法委員会が「在宅輸血のガイドライン素案」を作成しました 。在宅輸血では医療機関から患家への搬送方法、多職種連携体制、緊急時対応システムの構築が課題となっています 。医師会医師、在宅医療医師、看護師、介護職員などの多職種が参加した作業部会での議論を通じて、実用的なガイドラインが策定されています 。

参考)在宅輸血を考える~その課題と展望~

小児患者、特に新生児における輸血では院内分割システムが重要な役割を果たしています 。極低出生体重児では頻回輸血となるためドナー曝露数が増加し、1回使用ごとに残血液製剤を廃棄する問題があります 。そこで、輸血用血液を安全に分割してドナー曝露数や廃棄量を削減する取り組みが標準化されています 。

参考)血液製剤の院内分割マニュアル 改訂2.0

血液製剤の廃棄削減は医療資源の有効活用の観点から重要な課題です 。埼玉県の中核病院での後方視的検討では、赤血球製剤の廃棄率改善は認められたものの、血小板製剤や新鮮凍結血漿の廃棄率改善は限定的でした 。救急患者や予期せぬ大量出血への対応のため院内在庫に余裕を持たせる必要があり、結果的に過剰となるオーダーや患者の容態変化による廃棄は一定程度許容されることが示されています 。

参考)当院における血液製剤廃棄の現況と削減に向けての目標と課題