血液凝固しくみと内因系外因系共通系検査

血液凝固しくみの内因系外因系

血液凝固しくみ:臨床で迷わない全体像
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一次止血→二次止血の順で理解

血小板で「仮フタ」を作り、その上からフィブリンで「補強」する流れを先に押さえると、凝固因子の暗記がラクになります。

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内因系・外因系は増幅装置

体内では2系統が独立に動くというより、連携してトロンビン産生を爆発的に増幅します。

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検査は「経路のどこを見ているか」

PTは外因系寄り、APTTは内因系寄りのスクリーニングで、結果の意味は共通系や線溶も含めて組み立てます。

血液凝固しくみの一次止血と二次止血

出血時の止血は、まず血管収縮と血小板中心の「一次止血」、続いて凝固因子によりフィブリン網で補強する「二次止血」という二段構えで理解すると臨床判断が速くなります。

一次止血では、損傷部位に血小板が集まり、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)を介して傷口に結合して血小板血栓(一次血栓)を作ります。

しかし血小板だけの血栓は脆く、二次止血で凝固因子カスケードが進み、最終的にフィブリンの網が一次血栓を覆って強固な止血(フィブリン血栓)になります。

臨床の「あるある」ですが、皮下出血や粘膜出血が目立つときは一次止血(血小板・VWF)側、関節内出血や遅発性の出血が目立つときは二次止血(凝固因子)側をまず疑う、という整理は役に立ちます。

参考)血が止まる仕組み 一般社団法人日本血液製剤協会

特に医療現場では「凝固=フィブリン」だけに意識が偏りやすい一方で、一次止血が崩れると“フィブリンを作る前に”出血が止まらないため、両者をセットで評価するのが安全です。

ここを押さえると、PT/APTT延長の解釈や、抗血小板薬・抗凝固薬の違いも説明しやすくなります。

血液凝固しくみの内因系外因系と凝固カスケード

血液凝固しくみは、引き金として「内因系」と「外因系」という2経路があり、どちらも最終的に共通系へ合流してトロンビンを大量に作る“増幅回路”として働きます。

内因系は血液が異物面に接触することで始まり、XII因子などの反応を経てXI→IXを活性化し、リン脂質上でVIII因子などと複合体を作ってX因子を活性化します。

外因系は血管外の組織因子(TF)とVII因子の複合体が起点となり、IX因子やX因子を活性化して共通系へ流れ込みます。

共通系では、XaがV因子・プロトロンビンなどとリン脂質上で複合体を作り、プロトロンビン(II)をトロンビン(IIa)へ変換します。

トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンへ転換し、さらにXIII因子による架橋で「安定化フィブリン」として血栓を強固にします。

また重要なポイントとして、トロンビン自体がV因子・VIII因子・XI因子をフィードバックで活性化し、トロンビン産生をさらに加速させます。

「内因系=生体内で重要、外因系=検査用」という誤解が残りがちですが、用語集でも“内因系・外因系の区別は理解や検査解釈のための人為的なもので、生体内では連携する”と整理されています。

そのうえで“止血に重要なのは外因系”と明記されており、実際の止血の引き金としてTFが非常に強いことを意識すると、出血・血栓の説明が臨床らしくなります。

ここまでの流れを、頭の中で「TF→VII→X→トロンビン→フィブリン」という太い幹としてまず作り、内因系は“幹を太くする増幅枝”として乗せると、教育にも向きます。

血液凝固しくみとPT APTTの検査

凝固検査は、血液凝固しくみの“どの経路を主に見ているか”を知ると、結果の意味づけが一気に明確になります。

用語集では、内因系のスクリーニングとしてAPTT、外因系に対してPTが用いられると説明されています。

つまり、APTT延長なら内因系寄り(XII、XI、IX、VIIIなど)や共通系の異常、PT延長なら外因系寄り(VIIなど)や共通系の異常をまず疑う設計です。

ただし実臨床で“経路だけ”で割り切るのは危険で、内因系と外因系は生体内では独立ではなく連携するため、PT/APTTのどちらか一方だけでは病態が確定しない場面が多い点が重要です。

また、反応はリン脂質上(障害内皮細胞・活性化血小板)で複合体を作ることで効率化され、少しの刺激でも段階的に増幅されるため、検査値と臨床症状がズレることもあります。

そのため、出血傾向の評価では「病歴(出血部位・タイミング)→身体所見→血算(血小板)→PT/APTT→必要に応じて追加検査」という順で、一次止血と二次止血を行き来しながら考えるのが安全です。

血液凝固しくみと線溶 Dダイマー フィブリン

止血は「固めて終わり」ではなく、血管修復に合わせて血栓を片付ける線溶系まで含めて完成します。

線溶では、フィブリン血栓(特に安定化フィブリン)が分解され、その分解産物の一つとしてDダイマーが生じます。

看護roo!の解説では、FDPは一次線溶でも二次線溶でも増える一方、Dダイマーは二次線溶のみで増えるため血栓の指標になる、と整理されています。

ここが臨床的に“意外に効く”ポイントで、Dダイマー高値は「血栓ができた」だけでなく「できてから分解が走っている」情報も含むため、炎症・外傷・術後などで上がりやすい背景を踏まえた解釈が必須になります。

参考)凝固・線溶検査|検体検査(血液検査)

逆に、出血しているのにDダイマーが上がらない状況があれば、そもそも「安定化フィブリンが十分に形成されていない」可能性(凝固が回っていない、あるいは線溶が動いていない)という視点が立ちます。

凝固と線溶は“対立”というより、必要な場所で凝固を起こし、不要になったら線溶で撤去する一連のプロセスなので、片側だけの数値で判断しない習慣が重要です。

血液凝固しくみの独自視点:トロンビンとトロンボモジュリン

検索上位の一般向け解説では「内因系・外因系→フィブリン」で止まりがちですが、医療従事者が一段深く押さえるなら、血液凝固しくみは“トロンビンをどこで止めるか”までが本体です。

トロンボモジュリン(TM)は正常血管内皮に発現し、トロンビンと複合体を作ることで、トロンビンの性質を「凝固促進」から「抗凝固方向」へ切り替える働きがあると説明されています。

同じ解説で、TM結合後のトロンビンはフィブリノゲン→フィブリン変換やV・VIII因子活性化などの凝固促進活性を失い、プロテインCを活性化する能を獲得するとされています。

活性化プロテインCはプロテインSとともにVa・VIIIaを分解し、凝固が進展しないよう抑制する、と記載されています。

参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) トロンボモジュリン

この「トロンビンが増えたら増えたで、内皮上でブレーキがかかる」という設計は、カスケードの暴走を防ぐ安全装置であり、敗血症や内皮障害などで凝固と線溶のバランスが崩れる理解にも直結します。

現場教育では、凝固因子を“番号で暗記”するより、①TFで着火、②血小板膜上で増幅、③トロンビンでフィブリン形成、④内皮(TM/プロテインC系)で制御、⑤線溶で撤去、という5段の物語で語ると定着します。

必要に応じて、より学術的に確認する際の論文(日本語PDF)として、内因系・外因系・トロンビン産生の位置づけをまとめた用語解説を参照できます。

一次止血と二次止血、内因系・外因系の基本(医療者向けに簡潔):日本血栓止血学会 用語集「血液凝固機序―内因系・外因系」
一次止血と二次止血(VWF、血小板血栓、フィブリン血栓)を患者向けに図解的に整理:日本血液製剤協会「血が止まる仕組み」