毛様体萎縮と原因と症状と治療と予後

毛様体萎縮と低眼圧

毛様体萎縮の臨床要点
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まず低眼圧を拾う

炎症や術後合併症で毛様体機能が落ちると、房水産生低下→低眼圧が前面に出ます。眼底・前房所見とセットで評価します。

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鑑別は「産生低下」vs「漏出」

ぶどう膜炎の沈静化で戻る低眼圧もあれば、毛様体上皮障害が不可逆になり遷延する低眼圧もあります。

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治療は原因介入+合併症対策

炎症制御、術後合併症の見極め、黄斑症や脈絡膜剥離の管理を同時並行で行うのが実務的です。


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毛様体萎縮と原因(ぶどう膜炎・術後・外傷)

毛様体萎縮は「毛様体が房水を作れない状態が続いた結果」として捉えると、臨床での位置づけが明確になります。

原因の最頻出は、臨床的にはぶどう膜炎(特に慢性化・再発性)と、内眼手術後の炎症・循環障害・解剖学的変化の複合です。ぶどう膜炎では炎症そのものが毛様体機能を落とし得て、沈静化すれば眼圧が戻る例がある一方で、慢性化により血液房水関門と毛様体上皮が障害され不可逆になると低眼圧が持続し得る点が重要です。

術後の文脈では「炎症眼では術後の過剰濾過に加えて毛様体機能の低下による低眼圧を来すことがある」とされ、緑内障手術後などで“眼圧が下がりすぎる”ケースは毛様体側の要因も疑う必要があります。

また、網膜剥離の強膜内陥術後などでも毛様体脈絡膜剥離や浅前房化が生じ得て、毛様体近傍の解剖が大きく変化する場面があるため、術後早期から眼圧・前眼部・眼底所見を一体として追うことが求められます。

臨床で「毛様体萎縮」を疑う入口は、実は“診断名”より先に「低眼圧+眼球トーヌス低下+脈絡膜剥離/低眼圧黄斑症を示唆する所見」です。ここで重要なのは、低眼圧=良いこと、ではない点です。房水産生が落ちた低眼圧は、視機能に直結する黄斑部合併症や眼球構造の変形を引き起こし得ます(後述)。

毛様体萎縮と症状(低眼圧・視力低下・眼痛)

毛様体萎縮そのものは患者の自覚として語られにくく、実際には「低眼圧が作る症状」と「原因疾患の症状」が混ざって表に出ます。

低眼圧の代表的な問題は、視力低下(見え方のゆがみ、中心視の質低下)で、背景に低眼圧黄斑症や脈絡膜剥離が隠れていることがあります。術後炎症などで毛様体機能が落ち眼圧が低く、眼の張りが弱くなると、脈絡膜剥離と低眼圧黄斑症を起こす、という臨床経験則は実地でも非常に示唆的です。

一方で、原因がぶどう膜炎の場合、羞明、流涙、眼痛、毛様充血など“炎症として分かりやすい訴え”が前景に出ることが多く、低眼圧は測って初めて気づく、という流れになりがちです。

ここでの落とし穴は、炎症が強い時期には「眼痛がある=眼圧が高い」と短絡しやすいことです。ぶどう膜炎では眼圧が上がる場合も下がる場合もあり得るため、症状だけで眼圧の方向を決め打ちしない姿勢が安全です。

症状の拾い上げとしては、次の“現場で使える”チェックが有効です。

・👁️ 触診で眼球が柔らかい(トーヌス低下)

・📉 眼圧が低い(連日測るとトレンドが見える)

・🌫️ 視力低下が「急に」ではなく「じわじわ」進む(炎症の沈静後に残ることも)

・🌀 OCTで黄斑の皺・脈絡膜の変化を示唆(可能なら)

毛様体萎縮を“視機能の問題として扱う”には、低眼圧が続く時間軸(何日〜何週〜何か月)を意識してフォローすることが重要になります。

毛様体萎縮と検査(眼圧・前房・UBM/OCT)

検査の主役は、結局「眼圧」「前房炎症」「後眼部合併症評価」の3点セットです。

眼圧については、ぶどう膜炎では一般に低眼圧を生じ、沈静化とともに戻ることが多いが、慢性化で毛様体上皮の障害が不可逆だと低眼圧が持続し、白内障や眼球癆の原因となり得る、と整理されています。

したがって、毛様体萎縮を疑う局面では、単回値よりも「低眼圧が持続しているか」「炎症の沈静と並行して回復しているか」を追うのが実務的です。

前房評価では、細隙灯でセル・フレアを定量し、原因としてのぶどう膜炎を見落とさないことが基本です(治療で動く所見なので、治療反応性の評価にも直結します)。

また、毛様体そのものの形態評価は、通常の前眼部所見だけでは限界があるため、可能なら超音波生体顕微鏡(UBM)が有用です。網膜剥離術後の毛様体脈絡膜剥離の評価にUBMを用いた報告もあり、毛様体周辺の解剖学的変化を可視化する手段として位置づけられます。

参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/104_344.pdf

さらに、低眼圧黄斑症が疑われる場合はOCTが強力で、黄斑の形状変化(皺、浮腫様変化、脈絡膜側の変化)を“説明できる画像”として提示できます。

検査の組み立てを、現場向けに短くまとめると次の順番が安全です。

・🧭 眼圧:低いか、高いか、変動しているか

・🔦 前眼部:セル/フレア、角膜後面沈着物、虹彩後癒着の有無

・🧠 後眼部:脈絡膜剥離、黄斑所見、網膜剥離など

・📡 追加:UBM(毛様体・脈絡膜)、OCT(黄斑)、必要に応じて蛍光造影

この流れだと「毛様体萎縮」というラベルに引っ張られず、病態(産生低下なのか、合併症が何か)に沿って検査が選べます。

毛様体萎縮と治療(炎症制御・合併症・予後)

治療方針は、①原因治療、②低眼圧が作る合併症の管理、③不可逆化の回避、の3層で考えると整理しやすいです。

原因がぶどう膜炎なら、まず炎症の鎮静化が中核になります。ガイドラインでは前部ぶどう膜炎などに対してステロイド点眼や散瞳薬併用などの局所治療が述べられており、炎症の改善を確認しながら漸減する考え方が示されています。

一方で、慢性化・不可逆化に入ると「低眼圧が戻らない」局面が出てきます。この段階では、単純に消炎を続けるだけでは視機能が戻りにくく、脈絡膜剥離や低眼圧黄斑症への対応(経過観察か、原因介入の追加か、外科的対応の検討か)を並走させる必要があります。

術後関連であれば、濾過過剰や炎症の残存など“術式と経過”に紐づいた原因を一つずつ潰すことが重要です。炎症眼では術後に毛様体機能低下による低眼圧を来し得る、という指摘は、術後フォローで「創部だけ見て安心しない」ための警告として実用的です。

予後については、可逆性が鍵です。

・🟢 炎症が沈静化し眼圧が回復するタイプ:視機能も戻る余地が大きい

・🟠 眼圧が低いまま遷延するタイプ:白内障、眼球癆など構造変化が進み得る

この「戻る低眼圧」と「戻らない低眼圧」を早めに見分けるには、炎症所見の改善速度と眼圧回復のタイミングを並べて観察するのが最も現実的です。

毛様体萎縮と独自視点(“下げる治療”との対比で理解する)

検索上位の解説では「毛様体=房水産生」「低眼圧=毛様体機能低下」といった“守りの話”が中心になりがちですが、医療従事者向けには逆方向の発想が役立ちます。

つまり「毛様体は、意図的に壊して眼圧を下げる治療標的にもなる」という事実を対比に置くと、毛様体萎縮の重みが直感的に分かります。難治性緑内障では、毛様体を冷凍凝固で破壊し房水産生を減らして眼圧を下降させる、という治療が説明されています。

この対比は、患者説明にも応用できます。すなわち「毛様体が弱る=緑内障の薬が効きすぎた」のではなく、「緑内障治療で狙う“産生抑制”が、病的に起きている状態」と言い換えられるため、低眼圧の危険性(下がりすぎも問題)を伝えやすくなります。

さらに、低眼圧が続く局面では“眼圧を下げる薬”の位置づけを再点検しやすくなり、治療の棚卸し(点眼の継続妥当性、散瞳薬の狙い、炎症制御との優先順位)にもつながります。

(ぶどう膜炎の治療全体像・合併症が詳しい)

日本眼炎症学会 ぶどう膜炎診療ガイドライン(総論・治療・合併症の項)