毛様体異物残留と眼内異物検査手術

毛様体異物残留と眼内異物

毛様体異物残留:要点
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見落としやすい部位

毛様体(特に毛様体扁平部)は直達観察が難しく、症状が軽いと外傷歴も埋もれやすい領域です。

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拾い上げはUBMが鍵

通常のBモードやCTで同定できないケースでも、UBMで毛様体部を鮮明に描出できるため診断に寄与します。

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治療は摘出+合併症管理

異物摘出(硝子体手術など)に加え、炎症・眼圧・水晶体障害などを同時に評価し、段階的に治療計画を立てます。


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毛様体異物残留の診断:UBMと超音波生体顕微鏡

毛様体異物残留が厄介なのは、「そこに異物がある」と疑っても、診察室で直接見えないことが多い点です。特に毛様体は虹彩の奥に位置し、角膜・前房・水晶体の状態(混濁や散瞳不良など)によって観察条件が簡単に崩れます。その結果、慢性の硝子体混濁や原因不明の炎症、眼圧のコントロール不良など“非特異的な経過”として扱われ、核心である異物が残ったまま時間が過ぎることがあります。

この局面で強い武器になるのが、超音波生体顕微鏡(UBM)です。UBMは隅角鏡など光学的検査では観察が難しい虹彩裏面や毛様体をリアルタイムに精密観察できる、と検査説明としても明記されています。つまり「毛様体が見えない問題」を、撮像モダリティの特性で正面から解決します。毛様体異物残留を疑う状況(穿孔性外傷の可能性、片眼の慢性炎症、説明のつかない硝子体混濁、金属光沢を伴う水晶体所見など)では、UBMを“追加検査”ではなく“核心検査”として組み込みます。

意外に重要なのは、UBMが「異物の有無」だけでなく「位置関係」を具体化する点です。毛様体のどの領域(毛様体突起寄りか、毛様体扁平部寄りか)に固定されているか、硝子体腔側へどれだけ突出しているかが見えると、摘出戦略が現実的になります。術前にこの情報があるだけで、手術の入口(経角膜主体か、経毛様体扁平部主体か)や併施手技の選択が整理されます。

参考:毛様体など前眼部の精密観察ができるUBMの説明(検査の特性・対象)

UBM(超音波生体顕微鏡) | 検査説明 | 医療法人社団 海仁

毛様体異物残留の症状:硝子体混濁と眼圧

毛様体異物残留は、派手な急性症状だけでなく、むしろ“長期に続く違和感”として現れることがあります。代表的には硝子体混濁(線維状混濁を含む)や霧視、炎症所見の波、眼圧の変動などです。患者側が「大きな外傷」として記憶していないレベルの出来事(作業中の微細な刺入など)でも、鋭利な異物が少ない抵抗で眼内に入り、そのまま残留してしまうことがあり得ます。

長期残留の具体例として、日本眼科学会誌に掲載された「受傷後22年で判明した眼球銅症」の症例は示唆に富みます。症例では原因不明の硝子体混濁と白内障として手術中に、周辺部硝子体の毛様体(毛様体扁平部)に眼内異物(被覆された銅線)を偶然発見し摘出しています。外傷時の自覚症状が軽微で放置され、結果として長期間経ってから問題化した経過が記載されています。ここで注目すべきは、異物が“被覆された銅線”で露出面が少なく、銅の溶出が緩慢で症状も軽かった可能性が述べられている点です。

この「被覆」「露出面」「溶出速度」という発想は、毛様体異物残留を読む上での独自の臨床ヒントになります。金属異物=すぐ重篤、とは限らず、材料学的な条件(被膜の有無、純度、形状)で臨床像が変わります。だからこそ、片眼性の慢性硝子体混濁や眼圧コントロール不良を見たとき、炎症性疾患だけで完結させず「異物残留」という“入口の仮説”を残すことが安全側です。

参考:受傷後22年で毛様体部の眼内異物(銅線)が手術中に判明した報告(経過・所見・UBM言及)

https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/110_990.pdf

毛様体異物残留の検査:CTとMRIと注意点

眼内異物の評価ではCTが選択肢になりやすい一方、毛様体異物残留では「CTで陰性=異物なし」と言い切るのが危険な場面があります。実臨床の報告でも、過去の検査(超音波断層など)を受けていても異物が発見されなかったケースがあり、毛様体部の探索にはUBMを行っていれば早期発見できたかもしれない、という反省が述べられています。つまり、部位特異的に“見えにくいモダリティの限界”があるということです。

また、検査の安全面としては「異物が金属かもしれない」という疑いを残したままMRIに進めることは避けたい局面があります(一般論としての注意点)。このため、まずは問診で作業歴(研磨・溶接・コイル巻き等)、受傷機転、微細な異物感の既往を丁寧に拾い、次にCTや超音波、必要ならUBMで“金属の可能性”を詰める流れが現実的です。MSDマニュアルでも、CTやMRIは眼の損傷評価に用いられ、眼内異物が疑われる場合に用いられる旨が説明されています。

実務上は、以下のように「目的別」に検査を組み立てると、毛様体異物残留の取りこぼしが減ります。

  • まず確認:穿孔性外傷の可能性、外傷歴の取り直し(生活歴・職業歴を含む)
  • 形態評価:CT(骨・眼窩、明らかな金属やガラスなど)
  • 前眼部深部:UBM(虹彩裏面〜毛様体の探索、局在化)
  • 機能評価:必要に応じて視機能・眼圧・炎症所見(治療適応判断の材料)

参考:眼内異物を含む眼の損傷評価でCT/MRIが用いられる旨(検査の位置付け)

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/20-%E7%9C%BC%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%9C%BC%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97%E3%82%92%E8%AA%BF%E3%81%B9%E3%82%8B%E6%A4%9C%E6%9F%BB

毛様体異物残留の治療:硝子体手術と摘出

毛様体異物残留の治療は、基本的には「異物の摘出」を軸に、合併する病態(白内障、硝子体混濁、眼圧上昇、炎症)を同時に扱う設計になります。実例として、先の眼球銅症の報告では、白内障手術(超音波乳化吸引術)に続いて経毛様体硝子体切除術を行い、周辺部硝子体で毛様体扁平部に一部固定された異物を摘出しています。摘出後に炎症の遷延などの合併症はなく経過したと記載され、原因不明の硝子体混濁の裏に異物が隠れていた構図が明確です。

毛様体異物残留では「摘出ルート」の選択が悩ましいことがあります。異物が硝子体腔側に多く存在し、毛様体扁平部に固定されるようなケースでは、経毛様体扁平部からの硝子体手術(いわゆる経毛様体扁平部硝子体手術)が現実的な選択になります。一般向け説明でも、網膜硝子体手術は角膜から3〜3.5mm程度の部位(毛様体扁平部近傍)に器具の出し入れ口を作る方法として説明されており、前眼部だけで完結しない状況ではこの領域へのアプローチが基本線になります。

もう一つ、医療従事者が見落としがちな“地味に効くポイント”があります。それは「摘出した組織で診断を確定させる」発想です。眼球銅症の報告では、摘出した水晶体前囊片に銅染色を行い、銅顆粒沈着を確認して確定診断に役立てています。毛様体異物残留でも、異物の材質が不明なときは、眼内で起きている反応(沈着、炎症)を標本で裏取りする姿勢が、術後の説明・再発予防(同様の作業環境の注意喚起)まで含めて臨床価値を高めます。

参考:経毛様体硝子体切除術中に毛様体部の眼内異物を摘出し、銅染色などで診断に至った報告

https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/110_990.pdf

参考:経毛様体扁平部硝子体手術の基本的な説明(器具挿入口の位置など)

網膜硝子体手術は大阪市平野区の「つじおか眼科」
大阪市平野区にあるつじおか眼科です。糖尿病網膜症や網膜剥離などに対する網膜硝子体手術を日帰りで対応しております。不安やお悩みがあればぜひ当院までお問い合わせください。町線「平野駅」5番出口より徒歩9分。

毛様体異物残留の独自視点:ICD10と記録設計

検索上位の解説は「検査」「手術」に寄りがちですが、医療従事者の実務では“記録”が診療の質を左右します。毛様体異物残留は、同じ「眼内異物」でも部位が違うだけで、検査設計(UBMの優先度)も術式の入口(前眼部中心か、硝子体手術併用か)も、術後に気にすべき合併症も変わります。ところがカルテ上で「眼内異物残留」だけのラベルにしてしまうと、次の担当者が“毛様体”という難所を想起しづらくなります。

この点で、ICD10対応標準病名マスターに「毛様体異物残留」が明示的に含まれている事実は、地味ですが強力です。H44.7(眼内非磁性異物残留)には、硝子体・水晶体・前房・虹彩と並んで「毛様体異物残留」が別項目として掲載されています。つまり、病名の粒度として“毛様体を分けて記録できる”設計になっています。診断名を粒度高く置くことで、紹介状や手術申し送り、検査オーダー(UBMを含む)の一貫性が出て、見落としの再発を減らせます。

さらに、外傷歴が曖昧な症例ほど「疑い病名+根拠+次アクション」をセットで残すのが有効です。例えば、片眼性の硝子体混濁+水晶体前囊の金属光沢様所見+職業歴(コイル巻き、研磨など)がある場合、「毛様体異物残留疑い(H44.7相当)」として、UBMで毛様体扁平部を評価する、という“次の一手”までテンプレ化するとチーム医療が安定します。

参考:ICD10対応標準病名マスターに「毛様体異物残留」が含まれる(H44.7内の細分類)

http://www.byomei.org/Scripts/ICD10Categories/default2_ICD.asp?CategoryID=H44.7