ケルニッヒ徴候とブルジンスキー徴候
ケルニッヒ徴候の観察方法と陽性判定基準
ケルニッヒ徴候は、髄膜刺激症状の重要な所見として医療現場で頻繁に使用される神経学的検査です 。検査手順として、まず患者を仰臥位にして、股関節と膝関節をそれぞれ90度に屈曲させた状態を作ります 。
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検査者は患者の大腿を膝関節やや近位で左手でつかみ、右手で踵を下から押しながら膝関節を135度までゆっくりと伸展させていきます 。正常であれば135度以上の完全な膝伸展が可能ですが、135度以上の膝の伸展が困難で、腰部や下肢に痛みが現れる場合にケルニッヒ徴候陽性と判定されます 。
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陽性となる機序は、髄膜の炎症や浮腫により脊髄神経根が刺激され、膝屈筋群に痙縮が生じることによります 。検査前には患者への事前説明と協力を求めることが重要で、検査中は患者の表情や訴えを注意深く観察する必要があります。
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ブルジンスキー徴候の正確な評価技術
ブルジンスキー徴候(Brudzinski’s sign)は、患者を仰臥位にして頭部を前屈させる際に観察される重要な髄膜刺激症状です 。検査手順として、検査者は患者の後頭部に手を当て、顎が胸部に近づくように頭部をゆっくりと前屈させます。
この際、股関節や膝関節が自動的に屈曲する場合をブルジンスキー徴候陽性と判定します 。陽性の場合、患者は意識的に下肢を屈曲させているのではなく、反射的な動きとして現れることが特徴的です 。
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検査の実施に際しては、患者の首に負担をかけすぎないよう注意深く行い、強制的な前屈は避けるべきです。また、頸椎疾患がある患者では検査を控えるか、十分な注意を払って実施する必要があります。座位でも臥位でも検査可能であり、項部硬直と併せて評価することで診断精度が向上します 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/10/99_2581/_pdf
髄膜炎における症状と診断的価値
髄膜炎では38℃後半から39℃を超える高熱とともに激しい頭痛が特徴的で、ほぼ必ず見られる症状として重要です 。頭痛は振ったり揺さぶったりすると痛みが増す特徴があり、jolt accentuationという現象として知られています 。
参考)髄膜炎
髄膜刺激症状には、項部硬直、ケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候、neck flexion test、jolt accentuationがあり、これらを組み合わせて評価することで診断精度が向上します 。項部硬直やケルニッヒ徴候が陰性の場合でも、neck flexion testやjolt accentuationが陽性のことがあり、髄膜刺激徴候として感度が高い検査とされています 。
確定診断には脳脊髄液検査が必須で、腰椎穿刺により髄液を採取して細胞数、蛋白質、糖値などを評価します 。特に細菌性髄膜炎では髄液糖/血糖比が0.4以下になると強く疑う指標となり、迅速な治療開始が生命予後に直結します 。
参考)髄膜炎
ケルニッヒ徴候とラセーグ徴候の鑑別診断
医療現場ではケルニッヒ徴候と類似した検査として、ラセーグ徴候があり、両者の鑑別は重要な臨床スキルです 。ラセーグ徴候は、仰向けに寝た患者の下肢を膝を曲げずに伸展しながら持ち上げる際、大腿後面に坐骨神経由来の疼痛が生じる現象を指します 。
検査目的において、ケルニッヒ徴候は髄膜炎など中枢神経系の炎症を示唆する所見であるのに対し、ラセーグ徴候は椎間板ヘルニアなど坐骨神経障害の鑑別に使用されます 。検査手法も異なり、ケルニッヒ徴候では股関節と膝関節を90度屈曲させた状態から膝を伸展させるのに対し、ラセーグ徴候では膝を曲げずに下肢全体を挙上します。
疼痛の性質も区別すべき点で、ケルニッヒ徴候では膝伸展時の抵抗や腰部痛が主体となり、ラセーグ徴候では大腿後面から下腿にかけての坐骨神経走行に沿った疼痛が特徴的です。適切な鑑別診断により、髄膜炎と腰椎疾患という全く異なる病態を早期に判別できます。
髄膜刺激症状評価における看護師の役割と注意点
看護師は医師の指示のもとで髄膜刺激症状の観察を行い、患者の状態変化を早期に察知する重要な役割を担います 。ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候の観察時には、患者への十分な説明を行い、不安を軽減させることが必要です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0ab7dd6d8aca28f9b209d314b799f4d7476ef748
検査実施時の安全確保として、頸椎や腰椎に既往のある患者では慎重な評価が求められ、無理な体位変換や過度な力の加減は避けるべきです。また、意識レベルの低下している患者では、反応の判定が困難になる場合があるため、他の神経学的所見と併せて総合的に評価することが重要です。
継続的な観察においては、髄膜刺激症状の変化を定期的に記録し、悪化傾向がないか注意深く監視します。発熱パターン、頭痛の程度、嘔吐の有無、意識レベルの変化なども併せて記録し、医師への適切な報告を行うことで、迅速な診断と治療につなげることができます 。
腰椎穿刺後の管理では、頭痛や頭重感の出現に注意し、患者の安楽確保に努める必要があります 。