血管拡張薬の種類と作用機序及び適応症

血管拡張薬の種類と作用機序

血管拡張薬の基本情報
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定義

血管平滑筋に作用して血管を拡張させる薬剤

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主な分類

作用部位別(動脈・静脈・両方)と作用機序別に分類

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主な適応症

高血圧症、狭心症、心不全、肺高血圧症など

血管拡張薬とは、血管平滑筋に作用して血管を拡張させる作用を持つ薬剤の総称です。これらの薬剤は、高血圧症や狭心症、心不全などの循環器疾患の治療に広く用いられています。血管拡張薬は、作用部位や作用機序によってさまざまな種類に分類されます。

血管拡張薬は大きく分けると、動脈に主に作用するもの、静脈に主に作用するもの、そして両方に作用するものの3つに分類できます。動脈拡張薬は主に後負荷(心臓が血液を送り出す際の抵抗)を減少させ、静脈拡張薬は前負荷(心臓に戻ってくる血液量)を減少させます。両方に作用する薬剤は、前負荷と後負荷の両方を減少させる効果があります。

血管拡張薬の作用部位による分類と特徴

血管拡張薬は作用部位によって以下のように分類されます。

  1. 動脈拡張薬
    • 主に抵抗血管(細動脈)を拡張
    • 後負荷を減少させ、心拍出量を増加
    • 例:ヒドララジン(アプレゾリン)
  2. 静脈拡張薬
    • 主に容量血管(静脈)を拡張
    • 前負荷を減少させ、肺うっ血を改善
    • 例:ニトログリセリン(ニトロペン)
  3. 動静脈拡張薬
    • 動脈と静脈の両方を拡張
    • 前負荷と後負荷の両方を減少
    • 例:ACE阻害薬ARB、α遮断薬

動脈拡張薬は主に高血圧症の治療に用いられ、静脈拡張薬は主に狭心症や急性心不全の治療に用いられます。動静脈拡張薬は、高血圧症と心不全の両方に効果を示すことが多いため、複数の疾患を持つ患者に対して特に有用です。

血管拡張薬の選択は、患者の病態や治療目標によって異なります。例えば、肺うっ血が主な症状である心不全患者には静脈拡張作用が強い薬剤が、高血圧を伴う心不全患者には動静脈拡張作用を持つ薬剤が選択されることが多いです。

血管拡張薬の作用機序による分類と代表的な薬剤

血管拡張薬は作用機序によって以下のように分類されます。

  1. カルシウム拮抗薬

これらの薬剤は、それぞれ異なる作用機序を持ち、患者の病態や合併症に応じて選択されます。例えば、糖尿病性腎症を合併する高血圧患者にはARBが、冠攣縮性狭心症患者にはカルシウム拮抗薬が好んで使用されます。

血管拡張薬の適応症と使用目的

血管拡張薬はさまざまな循環器疾患の治療に用いられます。主な適応症と使用目的は以下の通りです。

  1. 高血圧症
  2. 狭心症
  3. 心不全
  4. 肺高血圧症
  5. 末梢動脈疾患
    • シロスタゾール(プレタール):間欠性跛行の改善
    • サルポグレラート(アンプラーグ):血小板凝集抑制と血管拡張作用
  6. 脳循環改善
    • 脳血管拡張薬:イブジラスト(ケタス)、イフェンプロジル(セロクラール)

血管拡張薬の選択は、患者の病態、合併症、年齢、薬物相互作用などを考慮して行われます。例えば、糖尿病を合併する高血圧患者にはACE阻害薬ARBが、脳梗塞後の患者には脳血管拡張作用を持つカルシウム拮抗薬が選択されることがあります。

日本循環器学会による高血圧治療ガイドライン

血管拡張薬の副作用と注意点

血管拡張薬は有効な治療薬である一方、様々な副作用を引き起こす可能性があります。主な副作用と注意点は以下の通りです。

  1. 共通する副作用
    • 低血圧:特に起立時の血圧低下(起立性低血圧
    • 頭痛:脳血管拡張による
    • めまい・ふらつき:脳血流低下による
    • 反射性頻脈:動脈拡張薬で特に顕著
  2. 薬剤群別の特徴的な副作用

血管拡張薬の副作用対策としては、就寝前投与(起立性低血圧対策)、食後投与(吸収速度調整)、分割投与(ピーク効果の平坦化)などの工夫が有効です。また、硝酸薬の耐性対策としては、1日8〜12時間の休薬時間を設けることが推奨されています。

医薬品医療機器総合機構(PMDA)による血管拡張薬の安全性情報

血管拡張薬と心不全治療における最新の知見

心不全治療における血管拡張薬の位置づけは、近年の大規模臨床試験の結果を受けて大きく変化しています。特に注目すべき最新の知見を紹介します。

  1. SGLT2阻害薬の新たな役割
    • 従来は糖尿病治療薬として知られていたが、心不全患者の予後改善効果が証明
    • 駆出率の保たれた心不全(HFpEF)にも有効性を示す
    • 血管拡張作用に加え、利尿作用、心筋エネルギー代謝改善作用も有する
    • 代表薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン
  2. 新規血管拡張薬ベリシグアト
    • 可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬
    • 一酸化窒素(NO)シグナル伝達を増強
    • VICTORIA試験で心不全患者の心血管死と心不全入院の複合エンドポイントを減少
    • 特に従来治療で改善が乏しい患者に新たな選択肢
  3. サクビトリル/バルサルタン(エンレスト)
    • ネプリライシン阻害薬とARBの配合剤
    • PARADIGM-HF試験でACE阻害薬エナラプリル)より優れた予後改善効果
    • 心不全ガイドラインで推奨度が上昇
    • 血管拡張作用に加え、ナトリウム利尿ペプチド系の活性化による利尿・抗線維化作用
  4. 心不全治療における薬剤併用の新戦略
  5. 心不全の病態別治療戦略

最新の心不全診療ガイドラインでは、これらの新規薬剤や併用戦略が組み込まれ、患者の病態に応じた個別化治療が推奨されています。特に注目すべきは、従来の血管拡張薬に加え、SGLT2阻害薬やARNIといった新しい作用機序を持つ薬剤が心不全治療の中心的役割を担うようになってきたことです。

日本循環器学会 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2021年改訂版)

血管拡張薬の臨床選択のポイントと使い分け

臨床現場で血管拡張薬を選択する際には、患者の病態や合併症、年齢などを考慮した適切な薬剤選択が重要です。以下に主な選択のポイントと使い分けを解説します。

  1. 高血圧治療における選択ポイント
合併症・病態 推奨される血管拡張薬 避けるべき血管拡張薬
糖尿病性腎症 ARB, ACE阻害薬
心不全 ACE阻害薬, ARB, ARNI 非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬
狭心症 Ca拮抗薬, 硝酸薬
脳卒中 Ca拮抗薬, ARB
高齢者 Ca拮抗薬, ARB α遮断薬(転倒リスク)
喘息 Ca拮抗薬
痛風 Ca拮抗薬, ARB
前立腺肥大症 α遮断薬
  1. 狭心症治療における使い分け
  2. 心不全治療における段階的アプローチ
  3. 特殊な状況での選択