けいれん重積と発作の治療と対応方法

けいれん重積と発作の対応

けいれん重積状態の基本知識
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危険な状態

発作が5分以上続く場合は治療開始、30分以上では脳損傷のリスクが高まります

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2つのタイプ

けいれん性てんかん重積状態と非けいれん性てんかん重積状態があります

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迅速な治療が必要

抗てんかん薬による早期介入が予後改善に重要です

けいれん重積の定義と診断基準

けいれん重積状態(てんかん重積状態)とは、てんかん発作が異常に長く続くか、短い発作が反復して意識の回復がない状態を指します。この状態の定義については、国際的な基準が時代とともに変化してきました。

国際抗てんかん連盟(ILAE)が1981年に作成した分類では、「けいれん発作が30分以上続くか、または短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないまま30分以上続く状態」と定義されていました。しかし、2012年に米国のNeurocritical Care Societyが発表したガイドラインでは、「けいれん発作が5分以上続くか、または短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないまま5分以上続く状態」と定義が変更されています。

この定義の変更は、長時間のけいれん発作が脳に与えるダメージを考慮したものです。発作が5分を超えると治療を開始すべきとされ、30分以上続くと脳に損傷を生じ、長期的な後遺症が生じる可能性が高まります。

けいれん重積状態は大きく2つのタイプに分類されます。

  1. けいれん性てんかん重積状態:けいれん発作症状が持続、または意識の回復のないまま反復する状態
  2. 非けいれん性てんかん重積状態:脳波ではてんかん発作性異常を認めるものの、けいれん発作を伴わず意識障害が持続する状態

診断には、詳細な病歴聴取と神経学的診察に加え、脳波検査が不可欠です。特に非けいれん性てんかん重積状態の診断には脳波所見が必須となります。意識障害を起こしている患者では、非けいれん性てんかん重積状態を疑い、早急に脳波検査を施行することが推奨されています。

けいれん重積の原因と発症メカニズム

けいれん重積状態を引き起こす原因は年齢によって異なる傾向があります。小児と成人では以下のような違いがみられます。

小児の主な原因:

  • 熱性けいれん
  • 脳炎・脳症
  • 髄膜炎
  • 大田原症候群
  • 点頭てんかん
  • Dravet症候群
  • 先天性代謝異常

成人の主な原因:

  • 脳血管障害(脳梗塞、脳出血)
  • 脳腫瘍
  • 脳炎・髄膜炎
  • 頭部外傷
  • アルコール離脱
  • 薬物中毒
  • 電解質異常

てんかんの既往がある患者では、以下の要因がけいれん重積状態の誘因となることがあります。

けいれん重積状態の発症メカニズムは複雑ですが、基本的には脳内の興奮性と抑制性のバランスが崩れることで起こります。通常のてんかん発作では、GABA(γ-アミノ酪酸)などの抑制性神経伝達物質が過剰な神経活動を抑え、自然に発作が収まります。しかし、けいれん重積状態では、この自己抑制メカニズムが機能しなくなります。

発作が長時間続くと、脳内のGABA受容体の機能低下やグルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の増加が起こり、発作の自然停止が困難になります。また、発作の持続により脳の代謝需要が増大し、エネルギー不足や局所的な脳虚血、細胞毒性浮腫などが生じ、さらに発作を悪化させるという悪循環に陥ります。

このメカニズムを理解することは、治療戦略の立案に重要です。初期には抑制性神経伝達を強化するベンゾジアゼピン系薬が有効ですが、時間の経過とともに効果が減弱するため、複数の作用機序を持つ薬剤の併用が必要になることがあります。

けいれん重積の治療薬と投与方法

けいれん重積状態の治療では、迅速かつ適切な薬物療法が不可欠です。治療は段階的に行われ、それぞれの段階で異なる薬剤が使用されます。

第一選択薬(初期治療):

ベンゾジアゼピン系薬剤が最初に選択されます。これらは「抑制系」の神経伝達物質GABAのはたらきを強化し、脳の過剰な興奮を抑制します。

  • ジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン):静脈内投与が一般的ですが、静脈路確保が困難な場合は直腸内投与も可能です。成人では10mg、小児では0.3mg/kgを投与します。
  • ミダゾラム(商品名:ドルミカム):静脈内投与、筋肉内投与、頬粘膜投与が可能です。特に小児では、ブコラム口腔用液として頬粘膜投与が有効です。

第二選択薬:

ベンゾジアゼピン系薬剤で発作が止まらない場合、以下の薬剤が使用されます。

  • フェニトイン(商品名:アレビアチン):「興奮系」の脳の電気信号を抑制します。成人では15-20mg/kg、小児では15-20mg/kgを15-20mg/分の速度で静脈内投与します。
  • ホスフェニトイン(商品名:ホストイン):フェニトインのプロドラッグで、より速い投与が可能です。
  • フェノバルビタール(商品名:フェノバール、ノーベルバール):バルビツール酸系薬で、GABAのはたらきを強化します。成人では10-20mg/kg、小児では10-20mg/kgを静脈内投与します。

難治性けいれん重積状態の治療:

上記の薬剤でも発作が止まらない場合、全身麻酔薬が使用されます。

  • プロポフォール(商品名:ディプリバン):2-5mg/kgの静脈内投与後、5-10mg/kg/時で持続投与します。
  • ミダゾラム持続投与:0.2mg/kgの静脈内投与後、0.1-0.4mg/kg/時で持続投与します。
  • チオペンタール(商品名:ラボナール):3-5mg/kgの静脈内投与後、3-5mg/kg/時で持続投与します。

特筆すべきは、2020年12月に日本で発売されたブコラム口腔用液(ミダゾラムの口腔粘膜投与製剤)です。従来のダイアップ坐剤やエスクレ注腸キットと比較して、効果の確実性が高く速効性があるため、小児のけいれん重積に対する家庭内治療法として非常に有効です。年齢別に4種類のシリンジがあり、けいれん重積時に患者の頬粘膜に注入します。2022年7月からは条件付きで学校等での教職員による投与も可能になりました。

ただし、現在ブコラムは18歳未満の小児てんかん患者に限られており、成人への適応拡大が課題となっています。

けいれん重積の救急対応と初期評価

けいれん重積状態は医学的緊急事態であり、迅速かつ適切な対応が求められます。以下に、医療従事者が行うべき救急対応と初期評価のステップを示します。

1. 気道・呼吸・循環の確保(ABC)

  • 気道確保:必要に応じて気道確保を行います。気道確保の際に筋弛緩薬を使用すると痙攣の再発を見逃す可能性があるため、筋弛緩薬を使用せずに挿管するか、エスラックス(ロクロニウム)を使用した場合はブリディオン(スガマデクス)ですぐに拮抗するなどの対策が必要です。
  • 酸素投与:低酸素症を防ぐため酸素投与を行います。
  • バイタルサイン測定:血圧、心拍数、体温、呼吸状態を確認します。

2. 静脈路確保と検査

  • 静脈路確保:薬物投与のための静脈路を確保します。
  • 血液検査:電解質、血糖値、肝機能、腎機能、薬物濃度(抗てんかん薬服用中の場合)などを測定します。
  • 動脈血ガス分析:酸塩基平衡や酸素化の状態を評価します。

3. 発作の評価と記録

  • 発作の性状:全身性か部分性か、強直性か間代性か、左右差があるかなどを観察します。
  • 発作の持続時間:発作開始時間と経過を記録します。
  • 意識状態:発作間欠期の意識状態を評価します。

4. 原因検索のための検査

  • 画像検査:頭部CT/MRIを施行し、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍などの器質的病変の有無を確認します。
  • 脳波検査:特に非けいれん性てんかん重積状態の診断には必須です。意識障害を起こしている患者では、非けいれん性てんかん重積状態を疑い、早急に脳波検査を施行します。
  • 髄液検査:脳炎や髄膜炎が疑われる場合に実施します。

5. 薬物治療の開始

  • 第一選択薬:ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム、ミダゾラムなど)を投与します。
  • 静脈路確保が困難な場合:ホリゾン(ジアゼパム)の注腸や、小児ではドルミカム(ミダゾラム)の鼻腔投与を考慮します。

6. 鑑別診断の考慮

けいれん重積状態の鑑別診断として以下を考慮します。

  • 低血糖:血糖値を測定し、必要に応じてブドウ糖を投与します。
  • ビタミンB1欠乏:栄養障害性急性脳症の可能性がある場合、ビタミンB1製剤(アリナミン/メタボリンなど)を投与します。
  • 中枢神経感染症:発熱、頭痛、項部硬直などがある場合は脳炎や髄膜炎を疑い、髄液検査を実施します。

特に注意すべき点として、てんかんの既往歴のある患者や精神疾患患者が「いつもの発作」として搬送された場合でも、先行感染徴候、発熱、意識障害、性格変化などがあれば、中枢神経感染症を積極的に疑う必要があります。安易に「いつもの発作」と判断せず、適切な検査と治療を行うことが重要です。

けいれん重積の予後と長期管理の新知見

けいれん重積状態の予後は、原因疾患、発作の種類、発作持続時間、治療開始までの時間、患者の年齢など、様々な要因に影響されます。一般的に予後はあまり良好とは言えず、特に背景に脳卒中や中枢神経感染症などの重篤な疾患がある場合は予後不良となることが多いです。

予後に影響する主な因子:

  1. 原因疾患:特発性(原因不明)のけいれん重積状態は、症候性(明らかな原因がある)のものより予後が良好です。脳卒中、脳炎、髄膜炎、脳腫瘍などが原因の場合は予後不良となりやすいです。
  2. 発作の種類:けいれん性てんかん重積状態は、非けいれん性てんかん重積状態よりも一般的に予後が良好です。特に非けいれん性てんかん重積状態が長時間診断されずに経過した場合、認知機能障害などの後遺症を残すリスクが高まります。
  3. 発作持続時間:発作が長時間持続するほど予後は不良となります。特に30分以上持続した場合、脳神経細胞の不可逆的な損傷が生じる可能性が高まります。
  4. 治療開始までの時間:発作開始から治療開始までの時間が短いほど予後は良好です。特に最初の30分以内に適切な治療が開始されることが重要です。
  5. 患者の年齢:若年者は高齢者に比べて予後が良好な傾向があります。高齢者では基礎疾患の存在や脳の代償機能の低下により、予後不良となることが多いです。

長期管理における新知見:

近年の研究では、けいれん重積状態後の長期管理に関して新たな知見が得られています。

  1. 抗てんかん薬の選択:けいれん重積状態後の再発予防には、原因疾患や発作型に応じた適切な抗てんかん薬の選択が重要です。特に、薬物相互作用の少ない新規抗てんかん薬(レベチラセタム、ラコサミドなど)の使用が増えています。
  2. 炎症マーカーのモニタリング:けいれん重積状態後の脳内炎症反応が、てんかん原性の獲得や認知機能障害と関連することが示唆されています。炎症マーカー(IL-1β、TNF-αなど)のモニタリングが予後予測や治療戦略の決定に役立つ可能性があ