経腸栄養剤一覧と分類
経腸栄養剤の基本分類と特徴
経腸栄養剤は消化・吸収過程の違いによって3つの主要カテゴリに分類されます。この分類は栄養剤選択の基本指針となるため、医療従事者にとって重要な知識です。
成分栄養剤は窒素源がアミノ酸のみで構成されており、消化過程を必要としません。代表的な製品として「エレンタール」(EAファーマ株式会社)や「ヘパンED」(EAファーマ株式会社)があります。これらは消化機能が著しく低下した患者や消化管の安静が必要な場合に適用されます。
消化態栄養剤は低分子ペプチドとアミノ酸を窒素源とし、中間的な位置づけです。「ツインラインNF配合経腸用液」(株式会社大塚製薬工場)、「ペプタメンシリーズ」(ネスレ日本株式会社)、「ペプチーノ」(ニュートリー株式会社)などが該当します。部分的な消化機能低下がある患者に適しています。
半消化態栄養剤は窒素源がタンパク質の形で配合されており、正常な消化過程を経て吸収されます。消化吸収機能が保たれている場合の第一選択となります。アイソカルシリーズ、テルミールシリーズ、明治メイバランスシリーズなど、最も多くの製品が展開されているカテゴリです。
半消化態栄養剤一覧と適応症例
半消化態栄養剤は経腸栄養の中で最も汎用性が高く、多様な製品ラインナップが特徴です。医薬品と食品の両方で提供されており、各々に特徴的な適応があります。
ネスレ日本株式会社の製品群では、アイソカルシリーズが代表的です。「アイソカル100」は標準的な濃度設定、「アイソカル2KNeo」は高カロリー設定、「アイソカルRTU」は即使用可能な液状タイプとして展開されています。特に「アイソカル1.0ジュニア」は小児用に特化した配合となっており、成長期の栄養管理に配慮されています。
ニュートリー株式会社のテルミールシリーズは風味のバリエーションが豊富です。「テルミールミニ」シリーズでは、コーヒー・麦茶・バナナ・コーンスープ味などの多彩な選択肢があり、患者の嗜好に合わせた選択が可能です。「テルミールミニスープ」では、トマトスープ、クリームシチュー、和風鰹だし味など、食事感覚に近い製品も提供されています。
森永乳業クリニコ株式会社では、MA-ラクフィアシリーズやCZ-Hiシリーズを展開しています。これらの製品には通常版とアセプバッグ版があり、無菌的な長期保存や大容量投与に対応しています。「PRONA」シリーズも同様にアセプバッグ版を提供しており、院内感染対策を重視する施設で重宝されています。
濃度設定についても注目すべき点があります。1.0kcal/mL、1.5kcal/mL、2.0kcal/mLの段階的な設定により、患者の体液バランスや栄養必要量に応じた調整が可能です。特に腎機能障害や心不全患者では水分制限が必要なため、高濃度製品の選択が重要になります。
医薬品と食品の経腸栄養剤違い
経腸栄養剤における医薬品と食品の区分は、成分上の明確な違いはなく、組成上の基本的な相違もありません。しかし、制度上の取り扱いには重要な差異があります。
医薬品の経腸栄養剤は医師の処方が必要であり、保険適応となります。代表的な医薬品として、半消化態栄養剤では「エネーボ配合経腸用液」(アボットジャパン合同会社)、「エンシュア・H」(アボットジャパン合同会社)、「ラコールNF配合経腸用液」(株式会社大塚製薬工場)があります。成分栄養剤では「エレンタール」、「ヘパンED」、消化態栄養剤では「ツインラインNF配合経腸用液」が医薬品として承認されています。
食品扱いの経腸栄養剤は、入院中には食事として提供され、外来では医師の処方は必要ありませんが自己負担となります。アイソカルシリーズ、テルミールシリーズ、明治メイバランスシリーズの大部分が食品扱いです。
この区分により、治療方針や医療経済的な観点から選択が影響を受けることがあります。急性期治療では医薬品の経腸栄養剤が処方されることが多く、在宅療養や長期管理では食品扱いの製品が選択される傾向があります。
医薬品には「ラコールNF配合経腸用半固形剤」のような半固形化製品もあり、胃瘻からの注入時の安全性向上や生理的な消化プロセスの維持に貢献しています。
病態別経腸栄養剤の選択基準
病態別経腸栄養剤は特定の疾患や病態に対応した特殊組成の栄養剤で、標準的な経腸栄養剤では対応困難な症例に使用されます。
糖尿病・糖質制限経腸栄養製品では、炭水化物含量を抑制し、血糖値の安定化を図っています。「アイソカル グルコパル TF」(ネスレ日本株式会社)、「グルセルナ-REX」(アボットジャパン合同会社)、「タピオンα」(ニュートリー株式会社)、「DIMS」シリーズ(森永乳業クリニコ株式会社)が代表的です。これらの製品は糖質比率を25-30%程度に抑制し、脂質やタンパク質の比率を高めています。
肝不全用栄養剤では、肝性脳症の予防・改善を目的として分岐鎖アミノ酸(BCAA)を強化し、芳香族アミノ酸を制限した組成となっています。「ヘパス」(森永乳業クリニコ株式会社)や「アミノレバンEN」(大塚製薬株式会社)が該当し、特にアミノレバンENは医薬品として承認されています。
腎不全用栄養剤では、タンパク質制限と電解質管理が重要な要素です。「明治リーナレンMP」「明治リーナレンLP」(株式会社明治)、「レナウェル3」「レナウェルA」(ニュートリー株式会社)、「レナジーbit」「レナジーU」(森永乳業クリニコ株式会社)などがあります。これらの製品はタンパク質含量を調整し、リン・カリウムを制限した組成となっています。
呼吸不全用栄養剤として「プルモケア-Ex」(アボットジャパン合同会社)があり、炭水化物量を抑えた濃縮タイプとして二酸化炭素産生量の軽減を図っています。
病態別栄養剤の選択では、症例ごとに病態別経腸栄養剤と標準型経腸栄養剤を使い分けることが推奨されています。血液検査値、病態の進行度、併存疾患を総合的に評価した上での選択が重要です。
経腸栄養剤選択時の隠れた注意点
経腸栄養剤選択において、一般的に言及されることの少ない重要な観点があります。これらの視点は実臨床での成功率を大きく左右する要因となります。
製品の物理的特性は投与方法に大きく影響します。粉末タイプは溶解時の温度管理が重要で、適温での調製により嗜好性が向上します。液状タイプは保存条件による品質変化があり、開封後の使用期限管理が患者安全に直結します。半固形状製品では粘度の温度依存性があり、投与時の室温管理が注入性に影響します。
包装形態による利便性も見過ごされがちな要素です。アセプバッグ製品は無菌性の維持が可能で、院内感染リスクの軽減に貢献しますが、コスト面での考慮が必要です。個包装製品は正確な栄養量管理ができる一方、環境負荷や廃棄物処理の観点から課題があります。
味覚・嗜好性の個人差は継続性に大きく影響します。同一患者でも病状の変化により味覚が変化するため、定期的な評価と製品変更の検討が必要です。特に長期経腸栄養では、風味の多様性が患者のQOL維持に重要な役割を果たします。
薬剤との相互作用については、経腸栄養剤投与時の薬剤吸収への影響が報告されています。特にフェニトイン、ワルファリン、レボドパなどでは、経腸栄養剤の成分との結合により吸収率が変化する可能性があります。投与タイミングの調整や薬剤血中濃度のモニタリングが必要な場合があります。
コスト効率性は在宅療養において特に重要です。医薬品と食品の使い分け、製品の栄養密度、必要投与量を総合的に評価し、患者・家族の経済的負担を考慮した選択が求められます。
これらの隠れた要因を考慮することで、より適切で持続可能な経腸栄養管理が実現できます。
経腸栄養の専門的な情報については、日本静脈経腸栄養学会の診療ガイドラインが参考になります。
静脈経腸栄養ガイドライン Quick Reference – 学会による最新の推奨事項と選択基準
日本PEG研究会では、経腸栄養に関する製品情報が詳細に整理されています。