可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬一覧と適応
同じsGC刺激薬でも併用すると症候性低血圧を起こします。
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の国内承認薬剤一覧
現在、日本で承認されている可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬は、リオシグアトとベルイシグアトの2剤です。
両剤ともバイエル薬品から発売されています。
リオシグアト(商品名:アデムパス錠)は、2014年1月に慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の適応で承認され、その後2015年12月に肺動脈性肺高血圧症(PAH)の適応が追加されました。規格は0.5mg、1.0mg、2.5mgの3規格があります。薬価は0.5mg錠が685.9円、1.0mg錠が1371.7円、2.5mg錠が3429.3円です。
つまり1日3回投与が必要ということですね。
一方、ベルイシグアト(商品名:ベリキューボ錠)は、2021年6月に慢性心不全の適応で承認された新しい薬剤です。規格は2.5mg、5mg、10mgの3規格で、薬価は2.5mg錠が130.5円、5mg錠が228.7円、10mg錠が398.7円となっています。こちらは1日1回の投与で済むため、服薬アドヒアランスの面で優れています。
両剤の最大の違いは適応疾患です。リオシグアトは肺高血圧症治療薬として、ベルイシグアトは慢性心不全治療薬として位置づけられています。同じsGC刺激薬というクラスに属しながら、臨床での使用場面がまったく異なることを理解しておく必要があります。
国内で使用できるsGC刺激薬は現時点でこの2剤のみです。海外ではプラリシグアトなどの開発が進められていますが、日本ではまだ承認されていません。医療従事者として、この2剤の特徴を正確に把握し、適切な患者選択と投与管理を行うことが求められます。
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の作用機序とcGMP経路
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬は、NO-sGC-cGMP経路に作用する薬剤です。この経路は心血管系の機能調節において極めて重要な役割を果たしています。
血管内皮細胞から産生される一酸化窒素(NO)は、血管平滑筋細胞に存在するsGCに結合します。この結合によりsGCが活性化され、グアノシン三リン酸(GTP)から環状グアノシン一リン酸(cGMP)への変換が促進されます。産生されたcGMPはプロテインキナーゼG(PKG)を活性化し、血管拡張、抗線維化、抗炎症作用などをもたらすのです。
心不全や肺高血圧症では、このNO-sGC-cGMP経路の機能が低下しています。内皮機能障害によりNO産生が減少し、酸化ストレスによりsGCの機能も低下します。結果としてcGMP産生が不十分となり、血管収縮や心筋リモデリングが進行してしまいます。
sGC刺激薬は二つの作用機序を持っています。第一に、NOを介さずに直接sGCを刺激してcGMP産生を促進します。第二に、内因性NOに対するsGCの感受性を高めます。つまり、NOが少ない状態でも効果を発揮しつつ、残存するNOの作用も増強するということです。この二重の作用により、病的状態でも効果的にcGMP産生を回復させることができます。
ベルイシグアトの作用機序に関する詳細な解説は日経メディカルの記事を参照してください。
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の適応疾患と使い分け
リオシグアトとベルイシグアトは適応疾患が明確に異なります。臨床現場では、患者の病態に応じて適切に選択することが重要です。
リオシグアト(アデムパス)の適応は肺高血圧症です。具体的には、外科的治療不適応または外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)、および肺動脈性肺高血圧症(PAH)に使用されます。世界で初めてこの2つの肺高血圧症タイプに適応を取得した薬剤として注目されました。肺血管拡張作用により肺動脈圧を低下させ、右心負荷を軽減することで患者の運動耐容能や予後を改善します。
ベルイシグアト(ベリキューボ)の適応は慢性心不全です。ただし、「慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」という条件が付いています。標準治療には通常、ACE阻害薬またはARB(あるいはARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬などが含まれます。これらの治療を受けているにもかかわらず心不全が悪化した患者、特に左室駆出率(LVEF)が45%未満のHFrEF患者が対象となります。
VICTORIA試験では、心不全増悪後の患者にベルイシグアトを投与することで、心血管死または心不全入院の複合エンドポイントが有意に減少しました。つまり、標準治療に上乗せすることで予後改善効果が期待できるのです。
使い分けの基本は単純明快です。肺高血圧症にはリオシグアト、慢性心不全にはベルイシグアトを選択します。両者を同一患者に併用することは絶対に避けなければなりません。症候性低血圧を引き起こす危険性があるため、併用禁忌となっています。
アデムパスの肺高血圧症における位置づけについてはMSD Connectで詳しく解説されています。
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の用法用量と投与管理
リオシグアトとベルイシグアトでは、用法用量が大きく異なります。適切な投与管理が治療効果と安全性の両面で重要となります。
リオシグアトは1日3回投与の薬剤です。通常、成人には1回1.0mgを1日3回経口投与から開始します。用量調節期として、2週間継続して収縮期血圧が95mmHg以上で低血圧症状を示さない場合には、2週間ごとに1回用量を0.5mgずつ増量します。最高用量は1回2.5mg(1日7.5mg)までです。この細かい用量調節が必要なため、患者の血圧や症状を慎重にモニタリングしながら至適用量を決定していきます。
用量調節期に決定した用量を維持期でも継続します。ただし、低血圧症状が出現した場合や収縮期血圧が95mmHg未満に低下した場合には、減量または休薬を検討します。患者ごとの忍容性に合わせた個別化が求められる薬剤です。
一方、ベルイシグアトは1日1回投与です。通常、成人には1回2.5mgを1日1回食後経口投与から開始します。2週間間隔で1回投与量を5mg、10mgへと段階的に増量します。目標は10mgですが、血圧などの患者状態に応じて適宜減量します。収縮期血圧が90mmHg未満で低血圧症状がある場合は投与を中断する必要があります。
食後投与が指定されているのがベルイシグアトの特徴です。食事の影響により吸収が安定するため、必ず食後に服用するよう患者指導を行います。リオシグアトには食事のタイミングに関する特別な指定はありませんが、定時服用を守ることが重要です。
両剤とも開始時から増量時にかけて血圧モニタリングが必須です。低血圧症状(めまい、ふらつき、失神など)の出現に注意し、症状があれば速やかに医師に報告するよう患者教育を徹底します。
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の併用禁忌と注意すべき薬剤相互作用
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬には重要な併用禁忌があります。生命に関わる重篤な低血圧を引き起こす可能性があるため、必ず確認が必要です。
最も重要な併用禁忌は、硝酸薬およびNO供与剤です。ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニコランジルなどが該当します。これらの薬剤はNOを供給することでsGCを活性化しcGMP産生を促進します。sGC刺激薬と併用すると、cGMPが過度に増加し、重篤な血圧低下を招くのです。狭心症治療中の患者には使用できないということですね。
PDE5阻害薬も併用禁忌です。シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルなどのED治療薬や肺高血圧症治療薬がこれに当たります。PDE5阻害薬はcGMPの分解を抑制する薬剤であり、sGC刺激薬と併用すると細胞内cGMP濃度が著しく上昇します。降圧作用が増強され、症候性低血圧を起こす危険性があります。
特に注意が必要なのは、sGC刺激薬同士の併用です。リオシグアトとベルイシグアトは同じ作用機序を持つため、併用すると降圧作用が重複します。ベリキューボの添付文書には、リオシグアト(アデムパス)が併用禁忌として明記されています。肺高血圧症と心不全を合併している患者でも、両剤を同時に使用することは絶対に避けなければなりません。
ベルイシグアトに特有の併用禁忌として、アミオダロン塩酸塩があります。抗不整脈薬であるアミオダロンとの併用により、QT延長などの心血管系リスクが懸念されるためです。
重度の肝機能障害や腎機能障害を有する患者も禁忌となっています。リオシグアトでは重度の腎機能障害(Ccr<15mL/分)または透析中の患者、重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)の患者には投与できません。薬物代謝や排泄が著しく遅延し、予期せぬ副作用が生じる可能性があるからです。
処方前には必ず併用薬を確認し、特に循環器系の薬剤については慎重にチェックします。患者が市販のサプリメントや他院で処方された薬を使用していないか、丁寧に聞き取ることが重要です。
PDE5阻害薬とsGC刺激薬の併用禁忌の詳しいメカニズムについては、くすりの勉強の記事が参考になります。
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬投与時の副作用モニタリングポイント
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の投与では、副作用の早期発見と適切な対処が患者の安全確保に不可欠です。
最も頻度が高く重要な副作用は低血圧です。リオシグアト、ベルイシグアトともに血管拡張作用により血圧低下が起こります。
特に投与開始時や増量時に注意が必要です。
めまい、ふらつき、失神などの症状が出現した場合は、速やかに血圧測定を行い、必要に応じて減量または休薬を検討します。起立性低血圧も起こりやすいため、立ち上がる際はゆっくり動くよう患者に指導します。
頭痛も比較的よく見られる副作用です。血管拡張に伴う症状で、通常は軽度から中等度ですが、患者のQOLに影響を与えることがあります。多くの場合、投与継続により自然に軽減しますが、持続する場合は鎮痛薬の併用や用量調整を考慮します。
消化器症状として、悪心、嘔吐、下痢、消化不良などが報告されています。ベルイシグアトは食後投与を遵守することで、消化器症状をある程度軽減できます。症状が強い場合は、制吐薬や整腸薬の併用を検討するとよいでしょう。
リオシグアトでは出血のリスクにも注意が必要です。肺高血圧症患者では抗凝固療法を併用していることが多く、鼻出血、喀血、血尿などの出血症状が現れる可能性があります。定期的な血液検査で貧血の進行がないか確認します。
ベルイシグアトの臨床試験では、低血圧が約9%、めまいが約5%の患者で報告されました。VICTORIA試験の結果から、重篤な有害事象の発現率はプラセボ群と大きな差がなく、比較的忍容性は良好と考えられます。
投与中は定期的な血圧測定、心拍数の確認、症状の聴取を行います。外来受診時には必ず血圧を測定し、前回との変化を評価します。在宅での血圧モニタリングを指導し、収縮期血圧が90mmHg未満になった場合や低血圧症状が出現した場合は、すぐに連絡するよう伝えておくことが大切です。
肝機能や腎機能の定期的なチェックも必要です。特に高齢者や併存疾患を持つ患者では、臓器機能の変動により薬物動態が変化する可能性があります。血液検査の結果に異常が見られた場合は、速やかに医師に報告し、投与継続の可否を判断します。
患者教育も副作用マネジメントの重要な要素です。どのような症状が出たら連絡すべきか、具体的に説明しておきます。特に失神やふらつきは転倒リスクにつながるため、症状が出たら無理に動かず安全な場所で休むよう指導します。