肩関節脱臼 整復 ゼロポジション
肩関節脱臼のゼロポジションの定義と腱板
ゼロポジションは、肩甲骨と上腕骨のラインが最も一致し、腱板(回旋筋腱板)が前方から後方まで均等に作動しやすい肢位、という考え方で説明されます。
臨床で誤解されやすい点は、「肩を真横に最大外転」ではなく、肩甲骨は胸郭上でやや前方を向いているため“スカプラプレーン(体幹の真横より前方)での挙上”が含意されることです。
この肢位を取れると、整復を“押し込む操作”から“戻りやすい条件を整える操作”へ変換でき、患者の痛みと医療者の心理的負担が同時に下がります。
【臨床メモ】
- 「腱板が骨頭を引き寄せる力」を最大化する、という説明は患者教育にも使いやすい(“戻る方向へ筋肉が働く位置にする”)。(箕山クリニック)
- ゼロポジション“固定”と、整復時の“ゼロポジション誘導”は別概念なので、院内で用語を統一しておくと事故が減ります。
肩関節脱臼の整復で必要な評価と画像と神経血管
肩関節脱臼は前方脱臼が多数で、受傷肢位として外転・外旋・伸展位の外力が典型です。
閉鎖整復に入る前に、血管評価と神経評価(特に腋窩神経を含む)と、骨性損傷を確認するための画像評価が重要で、外科頸骨折などを伴う場合は閉鎖整復の禁忌になり得ます。
(Alkaduhimiら:神経血管評価と骨折除外、外科頸骨折は禁忌の示唆)
「とりあえず整復してから撮影」は一見スピード感がありますが、骨折を見落としたまま牽引・回旋を加えると合併損傷を増やすため、現場のプロトコル(撮影の順番、鎮痛の順番)を決めておく価値があります。
【チェックリスト(例)】
- ✅ 末梢循環:橈骨動脈、毛細血管再充満、皮膚色
- ✅ 神経:腋窩神経(外側肩の感覚・三角筋収縮)、正中・尺骨・橈骨
- ✅ 画像:骨折や関節窩骨欠損の示唆がないか(施設基準に従う)
- ✅ “整復困難”の予兆:強い筋緊張、恐怖、既往(反復性)、受傷から時間経過
肩関節脱臼の整復のゼロポジション手技とコツ
ゼロポジション系の整復は、患者を仰臥位にし、完全にリラックスさせた状態を保ちながら、ゆっくりとゼロポジションへ上肢を誘導すると、腱板の作用で自然に整復され得る、というコンセプトで説明されます。
同じ「挙上していく」操作でも、文献的にはMilch法のように“外転してオーバーヘッドへ”誘導する手技が体系化されており、肩の力みが抜けると整復が進みやすい点が共通しています。
注意点は、痛みで筋緊張が上がった瞬間に“次の角度へ進める”と、患者が防御収縮して逆に難しくなることなので、角度を進めるより「脱力を維持する声かけ」「呼吸」「ゆっくりしたリズム」を優先します。
【現場で使える声かけ例】
- 「息を吐くときに、腕の重さをベッドに預けてください」
- 「痛みが増えたら止めます。今の角度で一度休みます」
- 「肩をすくめないで、首と肩をストンと落としましょう」
【“意外と効く”小技(独自視点)】
- “患者の視線”を工夫する:患者が整復操作を凝視すると防御収縮が強くなりやすいので、壁の一点を見る・深呼吸のカウントに集中させるだけで筋緊張が下がることがあります(薬を足す前の、最も低コストな介入)。
- “最初の一手”を最小化する:最初からゼロポジションの角度を狙うのではなく、患者が「ここなら耐えられる」と感じる角度で停止→脱力確認→次の数度、の反復が成功率を上げます。
肩関節脱臼の整復の鎮痛と鎮静の選択
肩関節脱臼の閉鎖整復は、手技の種類が多い一方で、共通して「患者の状態(筋緊張、疼痛、体位保持能力)により選択が左右される」ことが強調されています。
(Alkaduhimiら:体位や患者能力で手技選択が変わる)
言い換えると、ゼロポジションを選んでも、患者が疼痛で固まっていると“ゼロポジションへ持っていく過程”自体が最大の侵襲になり得るため、鎮痛・鎮静は「最後の手段」ではなく、成功率と安全性を上げる“整復手技の一部”として設計するのが実務的です。
鎮静を使う場合は呼吸抑制などのリスク管理が必要になるため、施設の鎮静プロトコル(モニタ、酸素、蘇生器具、観察者)に従い、整形外科・救急のチームで「どの閾値で鎮静に切り替えるか」を事前合意しておくと夜間の判断が速くなります。
(Alkaduhimiら:不成功や追加対応でコスト・リスクが増える示唆)
【鎮痛・鎮静の考え方(簡易表)】
| 選択肢 | 狙い | ゼロポジションとの相性 |
|---|---|---|
| 非薬物(呼吸・姿勢・安心) | 防御収縮の解除 | 最初に必須。うまくいくと薬剤量を減らせる |
| 鎮痛(施設手順に準拠) | 痛みを下げ脱力を作る | 挙上途中の痛みで失敗しやすい症例で有用 |
| 鎮静(施設手順に準拠) | 筋緊張を落として体位保持 | 難渋例で成功率が上がるが観察体制が前提 |
肩関節脱臼の整復後固定と再脱臼と外旋
整復後の固定肢位は伝統的に内旋位固定が用いられてきましたが、外旋位固定がBankart病変の適合(coaptation)を改善し得る、という流れが報告されてきました。
(Momenzadehら:外旋位固定とBankart適合の背景)
一方で、外旋位固定は日常生活で不便になりやすいという臨床的障壁があり、普及の妨げになることが指摘されています。
医療者向けの実務としては、「固定肢位の理屈」だけでなく「患者が守れる固定か」を同時に評価し、守れない固定を押し付けて結果的に再脱臼リスクを上げないよう、装具選択・生活指導・フォロー計画まで一体で説明する必要があります。
【患者説明で使えるポイント】
- 「整復はゴールではなくスタート。最初の数週間の固定・リハビリで再脱臼リスクが変わる」(箕山クリニック:初回治療の重要性)
- 「若年の初回脱臼は再脱臼が多いので、スポーツ復帰の焦りが最大の敵」(箕山クリニック:若年者の再脱臼率に言及)
- 「固定後は腱板機能と肩甲骨運動の回復が重要」(箕山クリニック:リハビリの重要性)
(整復手技の全体像と他手技の位置づけがまとまっている総説:手技選択の根拠づけに有用)
A systematic and technical guide on how to reduce a shoulder dislocation(Turk J Emerg Med, 2016)
(ゼロポジションの考え方・スカプラプレーン・愛護的整復の説明:ゼロポジションの解剖学的イメージ作りに有用)
(整復後固定の外旋位に関する背景:Bankart適合や外旋位固定の理屈の整理に有用)
Does the position of shoulder immobilization after reduced anterior shoulder dislocation affect recurrence?(2015)

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