活性化部分トロンボプラスチン時間の基準値
活性化部分トロンボプラスチン時間の標準基準値
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の基準値は、測定試薬や機器によって異なりますが、おおよそ25~40秒が一般的な範囲とされています 。しかし、APTTは標準化されていないため、各施設で独自の基準範囲を設定することが望ましいとされています 。
参考)活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) | 一般社団法…
具体的な基準値の例として以下があります。
- 26.0~38.0秒(BML社の基準)
- 23.0~35.0秒(SRL社の基準)
参考)凝固・線溶関連検査
- 24.0~34.0秒(ファルコ社の基準)
- 27~40秒(帝京大学病院の基準)
参考)https://www.teikyo-hospital.jp/hospital/section/chiken/applicants/pdf/rinshokensakijun_20100401a.pdf
これらの数値の違いは、使用する試薬や測定機器の特性によるものです 。正常対照が25~40秒程度のことが多いですが、基準範囲を超えた場合は精査の対象となります 。
活性化部分トロンボプラスチン時間延長の主要原因
APTTが延長する主な原因には、先天性と後天性の両方があります。先天性要因としては、血友病A(第VIII因子異常)や血友病B(第IX因子異常)が代表的です 。これらの疾患では、内因系凝固因子の不足により血液の凝固能が低下し、APTTの延長が見られます 。
参考)凝固検査(PT、APTT)[ラボ NO.534(2023.7…
後天性要因には以下のものがあります。
- 重症肝障害(凝固因子の産生低下)
- ビタミンK欠乏症(ビタミンK依存性因子の機能低下)
- 播種性血管内凝固(DIC)による消費性凝固障害
- ループスアンチコアグラント(LA)の存在
これらの原因の鑑別には、プロトロンビン時間(PT)との組み合わせや、クロスミキシング試験などの追加検査が有用です 。
参考)https://jcls.or.jp/wp-content/uploads/2022/10/f551a6e3fd85efa91f9664888b851dc8.pdf
活性化部分トロンボプラスチン時間による血友病診断
血友病の診断において、APTTは重要なスクリーニング検査として位置づけられています。血友病患者では、PTは正常でAPTTのみが延長するという特徴的な検査結果を示します 。
血友病AではVIII因子の不足により、血友病BではIX因子の不足により内因系凝固経路が正常に機能せず、APTTが延長します 。APTTだけが正常よりも延長している場合に血友病が疑われ、さらに血液凝固因子の活性測定が行われます 。
興味深いことに、APTTに関わる凝固因子の中でも、第XII因子、プレカリクレイン、高分子キニノゲンの欠乏症では、APTTは延長するものの臨床的な出血傾向は見られません 。これは、これらの因子が実際の止血機能にはそれほど重要ではないことを示しています。
活性化部分トロンボプラスチン時間を用いたヘパリンモニタリング
APTTは、未分画ヘパリンの抗凝固療法における重要なモニタリング指標として広く使用されています 。ヘパリンの濃度に比例してAPTTが延長するため、治療効果の判定と安全性の確保に役立ちます 。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/ivdDetail/ResultDataSetPDF/480585_16200EZY00424000_A_07_01
抗凝固療法としてヘパリンを投与する際は、APTTが対照値の1.5~2.5倍に延長するように投与量を調節します 。ただし、APTT試薬によってヘパリンに対する感受性が異なるため、施設間での治療域の違いが問題となることがあります 。
参考)https://www.kchnet.or.jp/for_medicalstaff/LI/item/LI_DETAIL_220800.html
APTTによるヘパリンモニタリングは時間に依存するため、検査の遅延はAPTT値を延長させる可能性があり、すべての検体は可能な限り迅速に検査することが重要です 。
活性化部分トロンボプラスチン時間異常の鑑別診断アプローチ
APTT異常を発見した際の効率的な鑑別診断には、クロスミキシング試験が極めて有用です 。この試験では、患者血漿に正常血漿を添加してAPTT延長の「補正の可否」を評価します 。
参考)凝固異常を示唆する出血が認められないのにAPTTが延長する場…
補正される場合は凝固因子の欠乏を、補正されない場合はインヒビター(阻害物質)の存在を示唆します 。ループスアンチコアグラントの場合は「即時型インヒビターパターン」を示し、これがAPTT延長の原因として考えられます 。
また、出血傾向を伴わないAPTT延長も存在します。例えば、多血症患者では、高いヘマトクリット値により血漿に対する抗凝固剤の割合が相対的に高くなるため、偽性にAPTTが延長することがあります 。このような測定前変動要因の理解も、正確な診断には不可欠です 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/dddb2a2a637ae05ebcabb3b86d157bf69ea46ad7