関節可動域一覧と正常値

関節可動域一覧と正常値

この記事でわかること
📊

各関節の参考可動域

肩、肘、股関節など主要関節の正常値を一覧で確認できます

📐

測定方法の基礎

ゴニオメーターを用いた正確な測定手順を理解できます

🔍

制限因子と対処法

可動域制限の原因と改善方法を学べます

関節可動域の参考値一覧表

関節可動域(ROM)は、体の各関節が生理的に運動できる範囲を角度で表したものです。日本リハビリテーション医学会と日本整形外科学会が2022年4月に改訂した基準では、各関節の参考可動域が詳細に定められています。以下の表は主要な関節の参考可動域をまとめたものです。

参考)https://www.rehakyoh.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/4_120211015jarm.pdf

部位名 運動方向 参考可動域角度
肩関節 屈曲 180°
伸展 60°
外転 180°
内転
内旋(肩外転90°) 70°
外旋(肩外転90°) 90°
肘関節 屈曲 145°
伸展
前腕 回外 90°
回内 90°
手関節 背屈(伸展) 70°
掌屈(屈曲) 90°
股関節 屈曲 125°
伸展 15°
外転 45°
内転 20°
外旋・内旋 45°
膝関節 屈曲 135°
伸展
足関節 背屈 20°
底屈 50°

これらの参考値は年齢、性別、人種による個人差が大きいため、あくまでも目安として使用されます。健側との比較や測定肢位、測定方法を十分に考慮して判定する必要があります。渡辺らによる日本人を対象とした研究では、10歳以上80歳未満の平均値が示されており、肩関節屈曲180°、股関節屈曲132°など、やや高い数値も報告されています。

参考)https://jssf.jp/medical/download/parlance1_2.pdf

関節可動域の測定方法と基本軸

関節可動域の測定には、ゴニオメーター(角度計)と呼ばれる器具を使用します。測定の基本となるのは、基本軸と移動軸の正確な設定です。基本軸は体幹や骨格の固定された部分に設定し、移動軸は運動する骨や関節に合わせます。

参考)https://jhts.or.jp/uploads/publication/ROM_Manual_2020_Ver1.pdf


肩関節の屈曲を測定する場合、基本軸は体幹と平行な線、移動軸は上腕骨に設定し、立位または坐位で行います。肘関節屈曲では、基本軸を上腕骨、移動軸を橈骨として、前腕を回外位にした状態で測定します。股関節屈曲は背臥位かつ膝屈曲位で、基本軸を体幹と平行な線、移動軸を大腿骨として測定することが推奨されています。

参考)(2)関節可動域の測定方法(肩甲帯・肩関節)


ゴニオメーターの種類も測定部位によって使い分けることが重要です。軸の長いゴニオメーター(東大型角度計、神中式角度計)は肩関節や股関節など大きな関節に適しており、プラスチック角度計は肘関節、手関節、指関節など小さな関節の測定に向いています。測定時には対象者を適切な肢位にし、測定箇所を露出させてランドマークを確認することが正確な測定につながります。

参考)ゴニオメーターの正しい測定方法とは?よくある悩みと解決策を徹…


日本ハンドセラピィ学会による関節可動域測定マニュアル(詳細な測定方法と図解)

関節可動域制限の原因と制限因子

関節可動域制限は様々な要因によって引き起こされます。主な原因として、拘縮、強直、筋収縮、脱臼偏位、関節内遊離体などが挙げられますが、理学療法によって改善が期待できるのは主に拘縮です。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/39/4/39_KJ00008113245/_pdf


拘縮は、関節を動かさないことによって生じる筋肉や関節包、靭帯の永久的な硬直を指します。麻痺や筋力低下により各関節を最大範囲まで動かせなくなると、可動域が減少し日常生活動作(ADL)に支障が生じます。関節の周りの靭帯、腱、筋肉、関節包がどの程度強固に関節を取り巻いているかによって運動範囲が決まるため、これらの組織の柔軟性が失われると可動域制限が発生します。

参考)https://www.rehab.go.jp/beppu/book/pdf/livinghome_no9.pdf


関節可動域には他動的関節可動域と自動的関節可動域の2種類があり、一般的に「関節可動域」というと他動的関節可動域を指します。他動的関節可動域は外力によって動かされた場合の可動域であり、患者の最大の関節可動域を示すため、機能障害の評価に欠かせない指標となっています。一方、自動的関節可動域との差は、運動神経麻痺や腱滑走障害などの制限因子を推測する手がかりとなります。

参考)関節可動域の種類と制限因子


沖田実による関節可動域制限の発生メカニズムに関する論文(PDF)

関節可動域訓練の種類と実施方法

関節可動域訓練(ROM exercise)は、可動域制限の予防や改善を目的として実施されます。訓練には3つの種類があり、患者の状態に応じて使い分けることが重要です。

参考)改めて知りたい!関節可動域訓練の目的や種類、注意点を解説


自動運動(active ROM exercise)は、介助なしで筋肉や関節の運動ができる人に適しています。自動介助運動(active assistive ROM exercise)は、わずかな補助で筋肉を動かせる人や、関節は動くが痛みを感じる人に対して、理学療法士が手やバンドなどの機具を使って補助しながら行います。他動運動(passive ROM exercise)は、自発的な運動ができない人に適しており、患者自身の努力は不要で、療法士が患者の手足を動かします。

参考)理学療法 – 01. 知っておきたい基礎知識 – MSDマニ…


訓練を実施する際は、けがをしないようにゆっくりと行い、多少の苦痛を伴いますが残存痛(動作をやめた後も続く痛み)が生じないように注意します。可動域を広げるため、可動域の狭くなった関節を痛みを感じる位置を越えるまで動かしますが、適度な力で持続的にストレッチする方が、強い力で瞬間的にストレッチするよりも効果的です。関節可動域訓練とストレッチは異なる概念であり、ストレッチは筋の伸長を目的としており、関節可動域訓練の方法の1つに過ぎません。​

関節可動域と日常生活動作の関連性

関節可動域の低下は日常生活動作(ADL)の遂行を困難にさせるため、維持や改善に向けた取り組みが不可欠です。和式の日常生活では、股関節の屈曲120度、回旋20度、内外反26度を有すればほぼ可能とされていますが、動作によっては最終肢位よりも運動中に最大可動域となる動作があります。

参考)下肢のROMとADL


下肢の関節可動域は特に重要で、膝関節の屈曲135度は椅子からの立ち上がりや階段昇降に必要とされています。足関節の背屈20度、底屈50度は歩行や階段動作に不可欠な可動域です。上肢では、肩関節の屈曲180度は洗髪や棚の上の物を取る動作に、肘関節の屈曲145度は食事や整容動作に必要とされます。

参考)ROM(関節可動域)とは? 看護現場での測定や訓練方法を解説…


関節可動域制限によって様々な動作が困難となり、ADLに支障をきたすことになるため、日常生活に必要な可動域を把握し、それを維持するための訓練を継続することが重要です。特に高齢者や運動量が減少した方は、可動域制限を作らないよう、自身でできるストレッチを日常的に行うことが推奨されています。入院患者や在宅療養者においても、更衣介助時やベッドサイドでの日常的なケアに関節可動域訓練を組み込むことで、拘縮予防に効果的なアプローチが可能になります。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/ab1df6e9386d8b6b4ecf03aae062c638e4c1c391