感染後糸球体腎炎 ガイドライン
感染後糸球体腎炎の診断:補体C3低下とASO/ASK
感染後糸球体腎炎(典型例はA群β溶連菌感染後)は、感染エピソードの後に、血尿・蛋白尿、乏尿、浮腫、高血圧で発症する「急性腎炎症候群」の形を取りやすい疾患です。
臨床では、尿所見(血尿と蛋白尿)に加えて、補体(CH50、C3、C4)の低下が特徴的で、溶連菌関連抗体(ASO、ASK)上昇が手がかりになります。
「感染後なのに培養が出ない」状況は珍しくなく、先行感染局所からの溶連菌検出率が高くない一方、ASO/ASKは感染後1~3週で上昇し、3~5週でピークという時間軸を意識すると病歴と検査の整合性を取りやすくなります。
診断を組み立てるときの実務的チェック項目(外来~救急で使える形)
- 病歴:上気道炎・皮膚感染などの先行感染、潜伏期間(だいたい1~数週の幅を許容)。
参考)https://jsn.or.jp/academicinfo/report/evidence_RPGN_guideline2020.pdf
- 身体所見:眼瞼・下腿浮腫、血圧上昇、体重増加、呼吸困難(溢水)。
- 検査:尿沈渣(血尿、円柱)、Cr/BUN、電解質、補体(C3/CH50)、ASO/ASK。jsn+1
意外と落とし穴になるのは「補体が低い=感染後で確定」と短絡することです。補体低下を伴う糸球体腎炎は他にもあり、経過(補体がどのタイミングで戻るか)や臨床像が重要になります。
感染後糸球体腎炎の治療:支持療法と抗菌薬
治療の基本は、腎炎そのものを“直接治す特効薬”というより、体液量・血圧・電解質の破綻を支持療法で安全に乗り切ることです。
尿量減少、浮腫、高血圧を認める場合は、安静、塩分・水分制限、利尿薬・降圧薬の投与が柱になり、入院管理が必要になることがあります。
また「感染後」の腎炎であるため、感染の治療(原因感染が残存している、あるいは溶連菌保菌が疑われる状況など)として抗菌薬が検討されますが、ここも“腎炎を治すため”というより感染制御・再燃や周囲への伝播抑制の意味合いを理解して使い分けると説明がぶれにくいです。
急性期に現場で問題になりやすい合併症(見逃しやすい順に並べる)
- 溢水:肺うっ血・呼吸苦(夜間悪化など)。
- 高血圧:頭痛・嘔気だけでなく、重症では高血圧性脳症のリスクを念頭に置く(小児では特に注意が必要とされます)。
参考)5.溶連菌感染後急性糸球体腎炎 (小児科 59巻11号)
- 高K血症・腎機能悪化:乏尿期に起こり得るため、利尿薬だけで押し切らず採血で追う設計にします。
感染後糸球体腎炎の鑑別:IgA腎症と腎生検
感染後に急性発症するため、臨床の場ではIgA腎症の急性増悪(いわゆる“感染に一致する肉眼的血尿”)との鑑別で迷うことがあります。
東京女子医科大学の解説でも、感染後発症の腎炎ではIgA腎症との鑑別に迷うことがあり、膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎などでも類似の腎生検所見を呈し得るため、臨床経過と合わせて鑑別する必要があるとされています。
確定診断と病勢把握のために腎生検を行うことがあり、病理では管内増殖性変化、C3沈着、電子顕微鏡で上皮下の“hump”が示されることがポイントになります。
鑑別を急ぐべき赤旗(この場合は腎炎の“型”が違う可能性が上がる)
- 腎機能低下が速い、乏尿が強い、電解質異常が前面に出る。
- 尿蛋白が想定より重い/ネフローゼに近い、全身症状が強い(発熱の遷延、皮疹、関節症状など)。
- 補体低下が“戻らない”経過(後述)を示す。
感染後糸球体腎炎の予後:小児と成人の違い
感染の軽快とともに尿所見と腎機能が回復することが多く、全体としては比較的予後良好と説明されることが多い一方、尿所見異常が遷延したり、腎機能障害が残ったりすることもあります。
予後説明では「小児~若年者に多いが成人にもみられる」という疫学を踏まえ、成人例では基礎疾患や腎予備能の影響を受けやすい点を意識して、フォローの密度を年齢や合併症で調整するのが実務的です。
小児PSAGNの治療は支持療法が主体で、乏尿・浮腫期に合併症(高K血症、うっ血性心不全、高血圧脳症など)を起こし得るため、急性期の管理が予後と安全性を左右します。
外来フォローの実装例(医療従事者向けの運用イメージ)
- 退院~数週:血圧、体重、尿(潜血・蛋白)、Cr/eGFR、補体(必要に応じて)を短い間隔で確認。
- その後:尿異常が消えるまで間隔を延ばすが、蛋白尿が残る場合は腎保護(血圧管理、生活指導)を強化し、再評価(腎生検含む)も検討。
感染後糸球体腎炎の独自視点:補体の「戻り方」から再評価を決める
感染後糸球体腎炎では、補体低下(特にC3)が“特徴”として扱われますが、実務では「低いかどうか」以上に「いつ正常化するか」をフォロー設計に組み込むと診療の質が上がります。
小児の資料では、CH50低下はほぼ全例で認め、補体価は3週で約半数、8週で大多数が正常化するという目安が示されており、これを超えて補体低下が遷延する場合は、感染後糸球体腎炎以外(補体介在性腎疾患など)も含めた再検討のトリガーにできます。
つまり、尿所見が改善しているように見えても補体が戻らない、あるいは腎機能が思ったより改善しない場合は、腎生検を含めた方針変更を早めに検討し、漫然フォローを避けるのが安全です。
現場で使える「補体×経過」ミニ表(目安)
| 状況 | 示唆 | 次の一手 |
|---|---|---|
| C3/CH50低下+典型症状、数週で改善 | 感染後糸球体腎炎として整合 | 支持療法中心にフォロー継続 |
| 補体が8週前後を超えて遷延低下 | 別病型(補体介在など)も再検討 | 腎生検や追加検査を検討 |
※補体正常化の目安は小児資料で「3週で50%、8週で92%が正常化」とされています。
――参考リンク(ガイドライン的に使える権威性のある日本語資料)
急性糸球体腎炎の症状・検査(補体低下、ASO/ASK)と治療(塩分・水分制限、利尿薬・降圧薬、入院適応)の要点。
補体低下の頻度と、正常化までの時間軸(3週・8週の目安)およびASO/ASK上昇の時期。
https://hgmc.hyogo.jp/data/media/harima-hp/page/department/pediatrics/pdf/jin_sikkan/sikyutaijinen.pdf