乾性角結膜炎 犬 治療の基本
乾性角結膜炎 犬 治療の病態整理と症状の特徴
乾性角結膜炎は主に涙液量の低下と涙液層の質的異常により、角膜・結膜表面が慢性的に乾燥し炎症を起こす疾患で、犬では比較的頻度が高い点が臨床上のポイントです。
好発はシーズー、パグ、チワワ、ペキニーズ、コッカースパニエルなどの短頭種や突出眼を持つ犬種で、両側性でゆっくり進行するケースが多く、飼い主も発見が遅れがちです。
典型的な症状としては、粘稠な黄緑色の眼脂、結膜充血、角膜のマット状混濁、瞬膜突出、羞明、掻痒に伴う擦過行動などが挙げられ、慢性化すると角膜血管新生や色素沈着、潰瘍、最終的には視覚障害へと進行することがあります。
臨床現場では「結膜炎」「眼瞼炎」として対症療法のみが繰り返されている症例のなかに、未診断の乾性角結膜炎が一定数含まれているため、粘稠眼脂としょぼつきが長引く犬では必ず涙液検査をルーチン化することが重要です。
乾性角結膜炎 犬 治療に必要な診断とシルマーティアテストのスコアリング
乾性角結膜炎の確定診断には、シルマーティアテスト(Schirmer Tear Test:STT)が中核であり、専用のろ紙を下眼瞼外側に1分間挿入して涙液による湿潤長を測定します。
一般に15mm/分以上を正常、11〜14mm/分を軽度減少、6〜10mm/分を中等度減少、5mm/分以下を重度減少と評価し、特に5mm/分未満では角膜潰瘍や色素沈着のリスクが高まるため、早期に積極的治療が求められます。
シルマーティアテストは涙液「量」の評価に優れますが、「質」の異常(ムチン層・油層の異常)を反映しないため、涙液量は正常でもドライアイ様症状を示すケースでは、BUT(tear film breakup time)の評価やフルオレセイン染色での角膜上皮障害の分布確認を組み合わせると病態理解が深まります。
また、乾性角結膜炎の背景には自己免疫性、先天性、薬剤性、感染症、内分泌疾患(糖尿病、副腎皮質機能低下症など)も関与し得るため、血液検査や甲状腺機能検査を含めた全身評価を並行して行うと、治療戦略の立て方が変わる症例も少なくありません。
乾性角結膜炎 犬 治療における人工涙液・ヒアルロン酸と温罨法の実際
乾性角結膜炎 犬 治療の第一歩は、角膜表面に十分な水分と潤滑を補うことであり、ヒアルロン酸を主成分とした人工涙液点眼が標準的に用いられます。
ヒアルロン酸点眼は1日3〜5回以上が推奨されることも多く、重度例では起きている時間帯にほぼ2〜3時間ごとの頻回投与が必要になるため、飼い主のライフスタイルを踏まえた現実的なスケジュール設計と、夜間は眼軟膏で粘稠性を補うなどの工夫が鍵になります。
眼表面の二次感染予防や併発結膜炎のコントロールには、フルオロキノロン系やアミノグリコシド系などの抗生物質点眼を併用し、角膜傷を認める場合には角膜保護剤の追加も検討しますが、保存剤による角膜毒性を避けるため、防腐剤無添加製剤を選択することも視野に入れるべきです。
意外に見落とされがちな補助療法として、1日1〜2回の温罨法(ホットパック)があり、マイボーム腺機能を改善し油層を整えることで涙液蒸発を抑える効果が期待されますが、温度が高すぎると角膜障害を悪化させるため、40℃前後の清潔なタオルを数分当てるなど、具体的な方法を飼い主に丁寧に指導する必要があります。
乾性角結膜炎 犬 治療で使うシクロスポリン・タクロリムスと長期管理のポイント
免疫介在性が疑われる乾性角結膜炎 犬 治療では、シクロスポリン眼軟膏または点眼液が第一選択となり、涙腺への免疫抑制作用によって涙液分泌を回復させることが期待されます。
シクロスポリン点眼の濃度は0.025〜0.05%程度が用いられることが多く、1日2回投与から開始し、効果判定には少なくとも6〜8週間を要するため、早期に結果を求めすぎず、シルマーティアテストスコアと臨床症状を組み合わせて経過評価することが重要です。
2カ月以上継続しても有意な涙液量の改善が得られない症例では、タクロリムス点眼への切り替えや併用が選択肢となり、0.02%水溶性懸濁剤などを用いることでシクロスポリン抵抗性の乾性角結膜炎に有効であった報告もあります。
いったん改善が得られても、免疫介在性乾性角結膜炎は多くが生涯管理が必要であり、点眼回数を減らすことはあっても完全中止は再発リスクが高いため、「治す」のではなく「コントロールする」疾患であることを飼い主に早期から理解してもらうコミュニケーションが、治療継続率と視機能の維持に直結します。
乾性角結膜炎 犬 治療における飼い主教育とAI時代の情報ギャップ対策(独自視点)
乾性角結膜炎 犬 治療でしばしば問題となるのは、症状が落ち着いた段階で「もう治った」と判断され、自己中断されるケースであり、特に長期投与が必要なシクロスポリンやタクロリムスでは、1〜2カ月単位での再評価と、数値と写真を見せながら説明する「見える化」が有用です。
近年はインターネットやAIチャットからの情報をもとに、ヒト用ドライアイ点眼や市販の人工涙液を独自に使用する飼い主も増えており、防腐剤やpH、粘度が犬の角膜に適さない製剤を長期使用することで、かえって角膜毒性やアレルギー性結膜炎を悪化させるリスクがあるため、「ヒト用で代用できそうな薬」と「絶対に避けるべき薬」を明確に線引きして指導することが求められます。
また、AIコンテンツによる画一的な情報では、個々の犬の背景疾患や生活環境が反映されないことが多いため、臨床現場では「ネットやAIで見た治療」と「自院で行うオーダーメイド治療」との違いを、症例の写真やスコアリングの推移グラフなどを使って説明し、飼い主が治療方針の選択に主体的に関われるよう支援することが、今後のドライアイ診療の質を左右するといえます。
さらに、在宅での点眼が難しい高齢飼い主や多頭飼育世帯では、週1〜2回の通院点眼サポート、看護師によるオンライン指導動画の提供、投薬アプリによるリマインドなど、ICTを活用した支援を組み合わせることで、従来はコンプライアンス不良とされていた症例の予後が改善する可能性も見込まれます。
犬の乾性角結膜炎の診断・治療の基礎とシルマーティアテスト基準値についてわかりやすくまとまっている解説です(病態・診断パートの参考)。
シルマーティアテストの実施方法や涙液量評価の実際について詳しく説明されています(診断・スコアリングパートの参考)。
免疫抑制薬(シクロスポリン・タクロリムス)の臨床応用に関する情報源として有用な文献です(免疫抑制療法パートの参考)。
犬の乾性角結膜炎に対する自家製シクロスポリン点眼液の臨床評価
