幹細胞の種類と分化能と自己複製能

幹細胞の種類と特性

幹細胞の基本的な分類と特性
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多能性幹細胞

ES細胞やiPS細胞など、体内のあらゆる細胞に分化可能

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組織幹細胞

造血幹細胞、神経幹細胞など特定の組織系統に分化

自己複製能と分化能

幹細胞の定義となる2つの基本的な機能


幹細胞は、医療従事者にとって理解すべき重要な細胞群であり、その種類と特性を適切に分類することは再生医療の基盤となります 。幹細胞は大きく分けて「多能性幹細胞」と「組織幹細胞(体性幹細胞)」の2つのカテゴリーに分類され、それぞれが異なる分化能と自己複製能を持っています 。

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幹細胞における自己複製能の重要性

自己複製能とは、幹細胞が分裂する際に自分と同一の機能を持つ細胞を生み出す能力のことです 。この能力により、幹細胞は長期間にわたって自身の数を維持しながら、組織の恒常性を保つことができます 。

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自己複製能は、幹細胞が治療応用される際の重要な要素となります。たとえば、損傷した組織を修復するためには、移植された幹細胞が現場で増殖し続ける必要があり、この能力がなければ一時的な効果しか期待できません 。

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幹細胞における分化能の階層的分類

分化能は、幹細胞が異なる種類の細胞に変化する能力であり、この能力の範囲によって幹細胞は階層的に分類されます 。最も広範囲な分化能を持つのは全能性幹細胞で、次に多能性幹細胞、多分化能幹細胞、単分化能幹細胞と続きます 。

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多能性幹細胞は、三つの胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)のすべてに分化できる特徴を持ちます 。内胚葉からは消化器系臓器、中胚葉からは心臓や血管、外胚葉からは神経系や皮膚が形成されるため、理論上は体内のほぼすべての細胞タイプを生み出すことが可能です 。

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組織幹細胞は特定の系統に限定された分化能を示し、造血幹細胞なら血液系細胞のみ、神経幹細胞なら神経系細胞のみに分化します 。この限定的な分化能は、組織の恒常性維持において重要な役割を果たしています。

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幹細胞の胚性幹細胞ES細胞の医療応用特性

ES細胞(胚性幹細胞)は、胚盤胞期の内部細胞塊から樹立される多能性幹細胞で、体内のあらゆる細胞に分化する能力を持ちます 。日本では、京都大学と国立成育医療研究センターによって12のES細胞株が確立され、臨床応用に向けた研究が進められています 。

参考)https://www.jmaj.jp/detail.php?id=10.31662%2Fjmaj.2018-0029

ES細胞の最大の特徴は、その高い増殖能力と安定した多能性の維持です 。培養条件を適切に管理することで、ほぼ無限に増殖させることができ、かつ遺伝子導入や相同組み換えなどの遺伝子操作が比較的容易に行えます 。

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しかし、ES細胞の臨床応用には倫理的課題が伴います。受精卵から作製されるため、生命の尊厳に関わる議論が避けられず、各国で厳格なガイドラインが設けられています 。日本では「ヒト胚性幹細胞の樹立及び分配に関する指針」に基づき、厳格な管理下で研究が行われています。

幹細胞のiPS細胞人工多能性幹細胞の革新性

iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、体細胞に特定の転写因子(山中因子)を導入することで人工的に作製される多能性幹細胞です 。この技術により、患者自身の細胞から多能性幹細胞を作製することが可能となり、免疫拒絶反応のリスクを大幅に低減できます 。

参考)iPS細胞が活躍する分野 – 株式会社リプロセル

現在、日本国内では17件のiPS細胞を用いた臨床研究が進行中で、加齢黄斑変性、パーキンソン病脊髄損傷などの治療への応用が検討されています 。これらの疾患は従来の治療法では根本的な治癒が困難とされていましたが、iPS細胞技術により新たな治療選択肢が生まれています。

参考)iPS細胞とは?期待される分野や実用化に向けた課題、今後の展…

iPS細胞の医療応用は再生医療だけでなく、創薬分野でも革新的な変化をもたらしています。患者由来のiPS細胞から疾患モデル細胞を作製し、薬物の有効性や副作用を評価する新しい創薬手法が確立されつつあります 。

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幹細胞の間葉系幹細胞の臨床応用現状

間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄、脂肪組織、歯髄などから比較的容易に採取できる成体幹細胞で、骨、軟骨、脂肪、筋肉などの中胚葉系組織に分化する能力を持ちます 。近年の研究では、中胚葉系だけでなく内胚葉系や外胚葉系の細胞にも分化する可能性が報告されています 。

参考)間葉系幹細胞の利用価値

間葉系幹細胞の最も注目すべき特性は、その免疫調節作用です 。炎症を抑制し、組織修復を促進する各種の増殖因子やサイトカインを分泌することで、損傷組織の治癒を促進します。また、がん化のリスクが多能性幹細胞と比較して低く、安全性の面で優れているとされています 。
世界的には、間葉系幹細胞を用いた脊髄損傷や急性移植片対宿主病の治療製品がすでに承認されており、日本でも軟骨再生治療において保険適用が認められています 。最近では、間葉系幹細胞から分泌されるエクソソーム(細胞外小胞)を用いた治療法の開発も進んでいます 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/membrane/45/2/45_68/_pdf/-char/ja