甘草を含む漢方薬一覧:配合量と副作用注意点まとめ

甘草含有漢方薬一覧

甘草含有漢方薬の重要ポイント
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配合量別分類

甘草の含有量により副作用リスクが変動するため、適切な処方判断が必要

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偽アルドステロン症

甘草の過剰摂取により血圧上昇や低カリウム血症を引き起こす重要な副作用

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調和作用

他の生薬の作用を調整し、漢方薬全体の効果を安定化させる重要な役割

甘草配合量別漢方薬分類

甘草の含有量は漢方薬によって大きく異なり、副作用リスクの評価において重要な指標となります。日本国内で流通している漢方薬の約70%に甘草が配合されており、その配合量により以下のように分類できます。

高含有量(5.0g以上/日)

芍薬甘草湯は最も甘草含有量が多く、副作用報告件数が最も多い漢方薬として知られています。こむら返りの第一選択薬として使用されることが多いものの、長期服用や他の甘草含有漢方薬との併用には特に注意が必要です。

中含有量(2.5g〜4.9g/日)

  • 小青竜湯:3.0g/日
  • 人参湯:3.0g/日
  • 桔梗湯:3.0g/日
  • 半夏瀉心湯:2.5g/日
  • 黄連湯:3.0g/日

これらの処方は中程度の甘草を含有し、単独使用では比較的安全とされていますが、複数併用時には注意が必要です。

低含有量(1.0g〜2.4g/日)

  • 葛根湯:2.0g/日
  • 抑肝散:1.5g/日
  • 六君子湯:1.0g/日
  • 防已黄耆湯:1.5g/日
  • 麻黄湯:1.5g/日

低含有量の処方群は、単独使用での副作用リスクは低いものの、複数の甘草含有漢方薬を併用する際には総摂取量の管理が重要となります。

甘草の副作用と偽アルドステロン症

甘草に含まれるグリチルリチン酸は、ショ糖の約150倍の甘味を有する成分ですが、過剰摂取により偽アルドステロン症という重篤な副作用を引き起こす可能性があります。

偽アルドステロン症の症状

  • 血圧上昇
  • 浮腫(むくみ)
  • 体重増加
  • 低カリウム血症による症状
  • 手足のしびれ
  • 脱力感
  • 倦怠感
  • 筋力低下
  • その他の症状
  • 頭痛
  • 口渇
  • 食欲不振

偽アルドステロン症は、アルドステロンホルモンが増加していないにもかかわらず、同様の症状が現れる病態です。発見が遅れると高度な低カリウム血症による不整脈を引き起こすことがあるため、早期発見と適切な対応が求められます。

リスク因子

これらの患者では、より少量の甘草摂取でも副作用が発現する可能性があるため、慎重な経過観察が必要です。

甘草含有漢方薬の併用注意点

甘草含有漢方薬の併用時には、総摂取量の管理が最重要課題となります。一般的に、甘草の安全域は1日2.5g未満とされており、5.0g以上では要注意とされています。

併用時の注意事項

  • 複数の甘草含有漢方薬を同時処方する際は、総甘草量を計算
  • 市販薬との併用可能性を確認
  • 食品添加物としての甘草摂取も考慮
  • 定期的な血圧測定と血液検査(電解質)の実施

具体的な併用例と注意点

風邪症状で葛根湯(2.0g)と咳症状で小青竜湯(3.0g)を併用した場合、総甘草摂取量は5.0gとなり、要注意域に達します。このような場合は、処方期間の短縮や代替薬の検討が必要です。

モニタリング項目

  • 血圧測定(週1回以上)
  • 体重測定
  • 血清カリウム値(月1回)
  • 患者の自覚症状確認

特に高齢者では、薬物代謝能力の低下により副作用が発現しやすいため、より頻繁なモニタリングが推奨されます。

甘草の薬効と調和作用メカニズム

甘草が多くの漢方薬に配合される理由は、その優れた調和作用にあります。古典医学書「神農本草経」では、甘草に「国老」という称号が与えられており、その重要性が認識されていました。

甘草の主要薬効

  • 鎮咳・去痰作用
  • 健胃作用
  • 抗炎症作用
  • 鎮痙・鎮痛作用
  • 調和薬性作用

調和薬性作用とは、性質の異なる薬物を調和させ、薬物の偏性や毒性を軽減する効果を指します。これにより、作用の強い生薬と組み合わせても、副作用を軽減しながら治療効果を維持することが可能となります。

メカニズムの詳細

甘草の調和作用は、グリチルリチン酸とその他のフラボノイド成分の相互作用によるものと考えられています。これらの成分が他の生薬成分の吸収や代謝に影響を与え、全体として穏やかで持続的な効果をもたらします。

単味処方としての甘草

甘草のみで構成される処方として「甘草湯」があります。この処方は、のどの痛み、激しい咳き込み、胃痛などに用いられ、甘草の急迫を治すという作用を活用した処方です。

甘草輸入依存と今後の展望

現在、日本で使用される甘草の99.9%以上が輸入に依存しており、そのうち約87%が中国からの輸入となっています。2020年度の統計では、総使用量2,019,020kgのうち、国内生産はわずか122kgに過ぎません。

輸入依存のリスク

  • 国際情勢による供給不安定化
  • 品質管理の困難性
  • 価格変動の影響
  • 持続可能性の課題

国内生産への取り組み

近年、甘草の国内栽培に向けた研究が進められています。北海道や長野県などで試験栽培が行われており、気候条件や土壌条件の最適化が検討されています。しかし、甘草は多年草であり、薬用部位である根の成熟に3-4年を要するため、安定供給体制の構築には長期的な視点が必要です。

代替成分の研究

甘草の代替となる天然成分や合成成分の研究も進行中です。グリチルリチン酸と同様の抗炎症作用を有する成分の探索や、副作用の少ない甘味料の開発が注目されています。

品質管理の向上

輸入甘草の品質管理強化も重要な課題です。原産地表示の明確化、残留農薬検査の徹底、有効成分含量の標準化などが求められています。

甘草含有漢方薬の安全で効果的な使用のためには、配合量の正確な把握、適切なモニタリング、そして将来的な安定供給体制の構築が不可欠です。医療従事者には、これらの知識を基に、患者一人ひとりに最適な処方を行うことが求められています。

甘草に関する薬事制度の詳細情報

厚生労働省公式サイト

漢方薬の安全性情報について

日本病院薬剤師会