核間性眼筋麻痺 mlf
<% index %>
核間性眼筋麻痺 mlf の所見 内転障害 解離性眼振 輻輳
核間性眼筋麻痺(internuclear ophthalmoplegia:INO)は、内側縦束(MLF)の障害で生じる眼球運動障害で、臨床では「核間性眼筋麻痺」と「MLF症候群」をほぼ同義に扱うことが多いです。
古典的な三徴は、①障害側眼の内転障害、②対側眼の外転時に単眼性の眼振(解離性眼振)、③輻輳は保たれる、の組み合わせです。
ベッドサイドでは、正面視の眼位だけで判断せず、左右注視で「内転の遅れ(adduction lag)」を意識して観察すると、軽症例でも拾いやすくなります。
症状の訴えとしては複視が典型ですが、患者が「ゆれる」「距離感が変」と表現することもあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5789990/
特に垂直系の関与があると、頭部運動で自覚される動揺視(motion diplopia)として出やすい点は、水平三徴だけを想定していると見逃しにつながります。
また、MLFには水平系だけでなく垂直性眼球運動に関わる線維も走行するため、skew deviation(斜偏位)や解離性垂直眼振などが加わることがあります。
診察メモとして使える観察ポイントをまとめます。
- 健側への側方注視で、患側眼の内転が遅い/止まる(内転障害・adduction lag)。
- 反対側(外転眼)に、外転時の単眼性眼振(解離性眼振)が出る。
- 近見で輻輳をかけると、内転は可能なことが多い(鑑別の核)。
核間性眼筋麻痺 mlf の原因 脳幹梗塞 多発性硬化症
原因疾患は、脳血管障害(脳幹梗塞など)と多発性硬化症(MS)が頻度として重要で、まずこの2つを軸に考えるのが実務的です。
疫学的には「一側性で中高年」は脳血管障害が多く、「両側性で若年」はMSが多いという傾向が示されています。
血管支配の観点では、中脳では後大脳動脈由来の穿通枝、橋では脳底動脈由来の傍正中枝などの障害でMLF症候群が生じ得る、と整理できます。
一方で、「CVD/MS以外」も一定割合あり得る点が落とし穴です。
Keaneの集計(410例)では、CVDとMS以外の要因が約1/4強を占めたとされ、腫瘍、脳炎/感染、薬物、栄養障害、代謝異常、外傷など多彩な原因を念頭に置く必要があります。
つまり、INOを見た瞬間に“脳幹梗塞かMSのどちらか”で思考停止せず、病歴(発症様式、発熱、薬剤、栄養、外傷、免疫背景)で枝刈りするのが安全です。
臨床でよく使う「原因推定の近道」も、本文の疫学と病態から整合します。
- 急性発症、危険因子あり、片側:脳幹梗塞を強く疑う。
- 亜急性〜再発寛解、若年、両側、他の脳幹症状や既往:MSを疑う。
- 典型に当てはまらない:外傷、感染、薬剤/代謝、腫瘍性なども並行評価。
核間性眼筋麻痺 mlf と診断 MRI ENG VOR
診断は基本的に臨床所見(眼球運動)で疑い、画像で病変の裏取りと原因検索を行う流れになります。
ただしMLFは脳幹正中背側に位置する細い線維束で、病変が小さいとMRIで検出が難しいケースがある、と明記されています。
そのため「MRIで所見がはっきりしない=INO否定」にはせず、眼球運動の定量(ENG/EOGなど)や前庭眼反射(VOR)系の評価を併用する発想が重要です。
ENGでは、患側から反対側へサッケードさせた際に内転眼速度が遅く(adduction lag)、外転眼ではオーバーシュートやpostsaccadic driftが観察され得る、という説明が整理されています。
また、軽微な内転障害ほど臨床的に見逃されやすく、正確な診断率が落ちるという指摘もあり、「軽いから大丈夫」ではなく「軽いほど丁寧に見る」が安全です。
ベッドサイドで微細な所見を拾う工夫として、急速な二点交互視でocular dysmetria signをみる、視運動性眼振(OKN)で内転方向の急速相が緩慢になるoptokinetic phenomenonをみる、といった提案も紹介されています。
前庭系の検査は、INOが“眼球運動だけの病気”ではなく、MLFが前庭眼反射(VOR)経路の一部でもあることを確認するのに役立ちます。
例えば、MLF障害では垂直VORの不均衡、後半規管系入力が影響を受けやすいことなどが解剖学的に説明されています。
skew deviationが見られる場合、耳石器(卵形嚢)入力がMLFを上行して動眼神経核へ投射する経路が遮断される、という機序で理解すると所見がつながります。
参考:MLF症候群の定義・三徴、垂直系所見(skew deviationやVOR不均衡)、診断(ENGやMRIの注意点)を体系的に確認できる
核間性眼筋麻痺 mlf と鑑別 第3脳神経麻痺 skew deviation
鑑別でまず重要なのは、核間性眼筋麻痺では「側方注視での内転が障害される一方、輻輳は保たれる」ことが多い点で、これはINO三徴の一部として繰り返し強調されています。
この“輻輳が保たれる”所見は、第3脳神経麻痺(内直筋枝の麻痺)など「内転そのものができない病態」との切り分けに使いやすい軸になります。
さらに、INOでは対側外転眼に解離性眼振が出る点も、単純な動眼神経麻痺や外眼筋単独障害では説明しにくい所見として役立ちます。
次に、skew deviation(斜偏位)を併発したときの解釈は、鑑別の質を上げます。
一側性INOでskew deviationがしばしばみられ、耳石器入力路がMLF内を上行するためMLF障害で生じ得る、という説明があり、脳幹被蓋部病変の示唆として価値があります。
また、skew deviationに回旋要素が伴う場合の眼球回旋(intorsion/extorsion)の見方など、滑車神経麻痺との鑑別に触れられており、複視外来での“紛らわしさ”を減らすヒントになります。
鑑別の実務では、所見を「眼球運動」だけで閉じず、随伴症状の束で判断します。
- 眼瞼下垂・散瞳など、動眼神経麻痺を示唆する末梢所見があるか。
- 脳幹・小脳症状(構音、運動失調、感覚/運動障害)があるか。
- 斜偏位・回旋・垂直眼振など、MLF近傍や前庭系の関与を示す所見があるか。
核間性眼筋麻痺 mlf の独自視点 外転眼振 の機序 適応仮説
核間性眼筋麻痺で有名な所見の一つである「対側眼の外転眼振(解離性眼振)」は、現場では“あるある所見”として扱われがちですが、機序が単純ではない点が意外な落とし穴です。
本文では、外転眼振の機序は未だ不明としつつ、複数の仮説が提示され、特に「適応仮説(adaptation hypothesis)」がもっとも妥当とされる、という整理がなされています。
適応仮説の要点は、内転障害を補うために中枢が内転方向のinnervationを強め、その結果Heringの法則(equal innervation)により外転側にも均等に増強が及び、外転眼のオーバーシュートやdriftを繰り返して外転眼振として観察される、という説明です。
この視点が臨床的に役立つのは、「外転眼振=病巣が必ず大きい」と短絡しないためです。
外転眼振がMLF病変そのものの直接症状というより、代償・適応や周辺構造(前庭核、NPH、小脳片葉/傍片葉など)の関与も絡む可能性が示されており、病巣局在の解釈に余白があることが分かります。
つまり、外転眼振を見たら“MLF病変の存在を支持する強い手がかり”として尊重しつつも、MRIでMLF単独病変が見えない場合に「矛盾だ」と切り捨てない、という態度が安全です。
さらに、saccadeのpulse-step mismatchや、軽症例でサッケードで目立ちやすい理由(高頻度impulseが通りにくいなど)まで踏み込んだ説明があり、神経眼科の教育に使える“納得感”があります。
忙しい外来では、ここまでを毎回説明する必要はありませんが、医療者側が理解していると「なぜサッケードで目立つのか」「なぜOKNで左右差が出るのか」を筋道立てて評価できます。
結果として、軽微なINOの見落としを減らし、原因疾患(梗塞/MS/その他)検索へ適切につなげやすくなります。
パリノー症候群 症状と医療現場での対応ポイント
パリノー症候群 症状の中核となる上方注視麻痺と眼球運動異常
パリノー症候群は中脳背側部や松果体周囲の障害により生じる垂直性の共同注視麻痺であり、その中核症状として両側性の上方注視麻痺が認められます。 患者は「上を見にくい」「階段を上がる時に見上げづらい」といった生活上の違和感として訴えることも多く、実際の診察では上転がほぼ消失していても自覚症状が乏しい例もあります。 上方注視麻痺に加えて、下向きの眼振(downbeat nystagmus)や下方注視傾向が見られると、視線が常にやや下方に固定されたような独特の眼位となる点が特徴的です。
この症候群では、輻輳・調節は比較的保たれる一方で、対光反射が障害されることがあり、臨床的には「近見反応は残るが対光反射が乏しい瞳孔」として認識されます。 この所見は偽アルガイル・ロバートソン瞳孔と表現され、背側中脳の瞳孔経路が選択的に侵されているサインとして重要です。 また、輻輳時に眼球が引き込まれるように後退しつつ速い眼球運動を繰り返す「convergence-retraction nystagmus」が観察されると、パリノー症候群を強く示唆する眼科的所見となります。mdpi+4
眼瞼の異常もパリノー症候群の症状スペクトラムの一部であり、まぶたの後退(lid retraction)により「驚いたような顔つき」に見えることがあります。 なかには眼瞼の動きが垂直眼球運動と解離して不随意に変動する症例も報告されており、前頭葉や小脳とのネットワーク障害が関与している可能性が示唆されています。 こうした眼球運動と眼瞼運動の組み合わせから、単純な動眼神経麻痺との鑑別が可能となるため、ベッドサイドでの丁寧な観察が診断の鍵となります。hospi.sakura+4
パリノー症候群 症状と原因疾患:松果体腫瘍・血管障害・脱髄性疾患
パリノー症候群の代表的な原因として、松果体腫瘍や松果体部嚢胞など、第三脳室後方から中脳背側にかけて進展する腫瘍性病変が挙げられます。 松果体実質腫瘍や胚細胞腫瘍では、腫瘍そのものによる圧迫に加え、水頭症を伴うことで急性に上方注視麻痺や複視、頭痛、嘔吐が出現し、パリノー症候群が初発症状として現れることも少なくありません。 とくに若年者で頭痛と上方視困難を訴える場合、片頭痛や眼精疲労だけでなく、頭蓋内腫瘍や水頭症を念頭に置く必要があります。
腫瘍性病変以外でも、中脳背側梗塞や出血などの血管障害は重要な原因であり、高血圧や糖尿病を背景に突然の上方注視麻痺と眼振、歩行障害で発症するケースが報告されています。 興味深いことに、近年では中脳本体に明らかな病変を認めないにもかかわらず、両側基底核〜視床の微小血管障害(microangiopathy)によってパリノー症候群様の症状を呈した症例が報告されており、遠隔効果やネットワーク障害の存在が示唆されています。 こうした症例では、MRIで基底核や内包周囲に点状病変を認めるのみで、中脳の構造変化は乏しいという一見「非典型的」な画像所見が特徴です。pmc.ncbi.nlm.nih+1
脱髄性疾患としては多発性硬化症が古くから知られており、上方注視麻痺が初発症状として現れた症例が報告されています。 若年成人が数日〜1週間の経過で急に上を見にくくなった場合、脳幹型の多発性硬化症病変を考慮し、造影MRIや脳脊髄液検査を含めた精査が推奨されます。 また、炎症性脳炎、変性疾患、頭部外傷後など、多彩な背景疾患で類似の症状が出現し得ることから、「パリノー症候群=腫瘍」と短絡せず、年齢・病歴・全身状態を踏まえた包括的な鑑別診断が重要です。pmc.ncbi.nlm.nih+2
パリノー症候群 症状の評価:神経眼科的診察と画像検査の実際
パリノー症候群が疑われる場合、まずベッドサイドでの神経眼科的診察が出発点となり、垂直眼球運動の評価と瞳孔反応のチェックが必須です。 水平方向と比較しながら自発眼位・追従運動・サッケードを評価し、上方注視での制限度合いや眼振の有無、輻輳時の眼球後退運動の有無を詳細に観察します。 瞳孔については、左右差、対光反射と近見反応の解離、瞳孔径の変動などを確認し、偽アルガイル・ロバートソン瞳孔を示唆する所見があれば、背側中脳病変の証拠となります。
神経学的には、上方注視麻痺以外の脳幹徴候(四肢の運動障害、嚥下障害、小脳失調など)の有無も重要であり、単独の眼症状か、より広範な脳幹障害の一部かを見極める必要があります。 同時に、頭蓋内圧亢進を示唆する頭痛、嘔気、意識レベルの変動があれば、松果体部腫瘍や水頭症を強く疑い、緊急性を評価します。 これらの身体所見を踏まえ、頭部MRI(T1/T2/FLAIR、必要に応じて造影)やCTを用いて松果体部から中脳背側にかけての構造異常や腫瘍、血管障害、脱髄性病変を検索することが推奨されます。twinkle.repo.nii+4
画像上、明らかな腫瘍性病変が認められない場合でも、拡散強調画像や薄切り撮像により、微小梗塞や脱髄斑が浮かび上がることがあり、神経眼科所見と画像の「ミスマッチ」を前提に粘り強く評価する姿勢が求められます。 また、松果体嚢胞のように一見良性とみなされる所見でも、嚢胞の増大に伴って中脳背側が圧迫されるとパリノー症候群が出現し得るため、症状の有無を考慮した経過観察と治療介入のタイミングが重要です。 眼球運動障害に対するリハビリテーションも検討されており、垂直注視麻痺に対して頭位の調整や補助プリズムの使用など、多職種による機能的サポートがQOL維持に寄与します。maruoka+4
複視、眼球運動障害の診察の流れと注意点を解説している実践的な資料(上方注視麻痺・内側縦束病変などを含む)
パリノー症候群 症状と日常生活への影響:歩行・転倒リスクと視機能の質
パリノー症候群では、眼球運動障害そのものに加えて、視機能の質の低下が日常生活に大きな影響を及ぼします。 上方注視麻痺により、信号や案内表示、棚の上段など「頭上の情報」を確認しづらくなり、患者は無意識のうちに頭部ごと仰角をとる姿勢が増えるため、頸部痛や肩こりを訴えることもあります。 また、複視や奥行き知覚の障害は、階段昇降や段差の識別を困難にし、転倒リスクを高める要因となります。
神経変性疾患で報告されているように、立体視や空間認知の障害は歩行の安定性と関連し、視覚情報の質が低下することで姿勢制御が乱れることが示されています。 パリノー症候群の患者でも、視線が下方に偏位した状態で環境情報を得るため、足元への注意は向けやすい一方、前方〜上方の障害物に気づきにくく、ぶつかり事故や交通場面での危険が生じやすくなります。 医療従事者は、「眼球運動障害=視力低下」と短絡せず、視野、立体視、視線の偏位といった要素を含めた広い意味での視機能低下として評価する視点が大切です。plos+4
日常生活支援としては、環境調整(高い棚を避ける、表示物の高さを目線に近づける)、照明の工夫、階段や段差へのマーキングなどが有用であり、作業療法士や視能訓練士を含めた多職種連携が効果的です。 また、患者教育の場面では、視線の制限が転倒や事故のリスクに直結することを具体的に説明し、外出時の付き添いや歩行補助具の使用、運転可否の判断などについて個別に検討することが求められます。msdmanuals+2
脳損傷患者の眼球運動障害とリハビリテーション、垂直注視麻痺への対応を含む解説
パリノー症候群 症状から始まる診断ストラテジー:見逃し防止の独自アプローチ
パリノー症候群は頻度としては稀な症候群ですが、「上だけ見にくい」「まぶたが開きすぎている気がする」といった一見ささいな訴えの背後に、中枢神経系の重篤な病態が潜んでいる点が臨床上の要注意ポイントです。 とくに、比較的若年の患者で急性~亜急性に上方注視麻痺と頭痛、嘔吐が出現した場合、松果体部腫瘍と水頭症の可能性を念頭に置き、「眼科だけ」で完結させず、早期に脳神経外科や神経内科と連携するストラテジーが重要です。 一方、高齢者で徐々に進行する場合には、血管性病変や変性疾患、多発性硬化症などの脱髄性疾患を想定し、脳全体を俯瞰した画像評価と長期フォローアップを組み合わせる必要があります。
独自の視点として、パリノー症候群を「症候名」から「ネットワーク障害」として捉えることは、非典型例の見逃し防止に役立ちます。 すなわち、垂直注視中枢(riMLF、インタースティシャル核)とその上位・下位ネットワーク(前頭眼野、小脳、基底核、視床など)のどこかに障害があれば、典型的な教科書的パリノー症候群ではなくとも、「不完全形」や部分症状のみが前景に立つ可能性があるという考え方です。 そのため、軽度の上方注視制限や説明困難な眼振、輻輳時の違和感が見られた場合にも、「中脳背側症候群のスペクトラムに入るかもしれない」という仮説を持ち、MRIなどの画像検査を含めた精査を検討する姿勢が、早期診断と予後改善につながります。mdpi+4
さらに、症状の経時変化に注目することも診断ストラテジー上重要です。多発性硬化症などの脱髄性疾患では、上方注視麻痺が数週間〜数ヶ月で自然軽快することもあり、一過性の症状だからといって安心できない背景病変が潜む場合があります。 一方、腫瘍性病変では、初期に軽度であった眼球運動障害が水頭症進行とともに急速に悪化することがあり、症状の増悪スピードが鑑別のヒントとなります。 医療従事者としては、「眼球運動異常の程度」だけでなく、「時間軸での変化」と「全身症状との組み合わせ」に注目し、パリノー症候群を入口とした包括的な診断アルゴリズムを意識することが求められます。pmc.ncbi.nlm.nih+5
パリノー症候群の定義・歴史的変遷・原因疾患を詳述した日本語総説(耳鼻咽喉科領域の視点も含む)