海綿静脈洞の画像診断
海綿静脈洞は蝶形骨と錐体尖を覆う骨膜と硬膜の間に存在する静脈腔で、内頸動脈や複数の脳神経が走行する解剖学的に複雑な部位です。この領域の病変診断には画像検査が極めて重要な役割を果たしており、MRI、CT、血管撮影などの各種モダリティを適切に使い分けることで正確な診断が可能となります。海綿静脈洞は左右が前海綿間静脈洞と後海綿間静脈洞によって連絡しており、上眼静脈や錐体静脈洞とも接続する複雑な静脈ネットワークを形成しています。
参考)内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)の画像診断のポイントは?
海綿静脈洞のMRI画像診断
MRI検査は海綿静脈洞病変の診断において最も有用な画像診断法です。特に脂肪抑制T2強調像と脂肪抑制造影T1強調像の冠状断像が海綿静脈洞病変の描出に優れており、病変の範囲や性状を詳細に評価できます。正常な海綿静脈洞は造影T1強調像で均一に造影され、内部を走行する内頸動脈はflow voidとして描出されます。
参考)Tolosa-Hunt症候群のMRI画像所見のポイント
Tolosa-Hunt症候群などの肉芽腫性病変では、T1・T2強調像で等信号を示し、造影MRIにて均一な増強効果を呈する特徴があります。この際、海綿静脈洞の横径が腫大し、外側縁が外方へスムーズに突出する所見が認められます。一方で海綿静脈洞血栓症では、造影MRIで海綿静脈洞の腫脹と増強効果の不良、上眼静脈の怒張が観察されます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/55/3/55_178/_pdf
MRAの元画像も診断に有用で、特に内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)の早期診断において重要な役割を果たします。MRAでは瘻孔の位置や血管走行の異常を観察することが可能で、3D-DSA構成画像ではシャントポイントやfeederの走行を立体的に把握できます。MRA元画像の観察により、後方還流のみで眼症状を欠く場合でも硬膜動静脈瘻の診断が可能になることが報告されています。
参考)ステント支援下コイル塞栓術で治療に成功した動脈瘤破裂による直…
海綿静脈洞のCT画像診断
CT検査は海綿静脈洞病変の初期評価として重要で、特に緊急時や骨破壊の評価に有用です。海綿静脈洞血栓症の診断では、副鼻腔・眼窩・脳のCT検査が行われ、造影CTでは海綿静脈洞内の充満欠損や周囲組織の異常が確認されます。CTにおいて海綿静脈洞領域に高吸収域および増強効果陽性を認める場合、血栓症や腫瘍性病変を疑う必要があります。
参考)海綿静脈洞血栓症 – 20. 眼の病気 – MSDマニュアル…
副鼻腔炎から波及した海綿静脈洞血栓症では、CTで蝶形骨洞に軟部影を認め、隔壁破壊や腐骨形成が観察されることがあります。このような場合は早期の抗菌薬投与と外科的ドレナージが必要となるため、迅速なCT評価が予後を左右します。造影CTでは海綿静脈洞の造影欠損が特徴的で、正常な静脈プール(海綿静脈洞や上矢状静脈洞)と比較して造影効果が減弱します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/59/5/59_237/_pdf/-char/ja
海綿状血管奇形では、CTにて出血および石灰化により不均一な結節状限局性の淡い高吸収域を示します。石灰化は約半数の症例で認められ、増強効果はないものから強いものまでさまざまです。最近では超高解像度フォトンカウンティング検出器CT(PCD-CT)による血管撮影技術の進歩により、より詳細な血管構造の評価が可能になっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11679214/
海綿静脈洞動静脈瘻の画像診断
内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)は外傷性と特発性に分類され、画像診断において特徴的な所見を呈します。眼球結膜の充血・浮腫、眼球突出、複視などの臨床症状に加え、画像検査で上眼静脈の著明な拡張と海綿静脈洞の腫大が認められます。MRIでは拡張した上眼静脈がT2強調像で高信号を示し、flow voidの消失が特徴的です。
参考)硬膜動静脈瘻の画像診断(dural arteriovenou…
血管撮影(DSA)はCCFの確定診断と治療方針決定に不可欠で、瘻孔の位置・大きさ・シャント量を正確に評価できます。3D回転血管撮影では、海綿静脈洞外側後方の血管集簇としてシャントポイントが描出され、主要なfeeder血管の同定が可能です。瘻孔の最大径測定には3D rotation画像が有用で、治療計画において重要な情報を提供します。
参考)https://www.jnet-ejournal.org/post/pdf/post-jp/20170921/01_Shimizu.pdf
硬膜動静脈瘻の診断では、MRAの元画像観察が重要です。海綿静脈洞部の硬膜動静脈瘻では、眼球突出・結膜充血浮腫・血管雑音などの症状を呈し、動静脈短絡による静脈うっ滞により痙攣を来すこともあります。血管内治療を行う際には、解剖学的知識に基づいた海綿静脈洞の詳細な把握が安全で確実な治療のために必須となります。
参考)解剖に基づく海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の血管内治療(href=”https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/17/9/17_KJ00005015994/_article/-char/ja/” target=”_blank”>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/17/9/17_KJ00005015994/_article/-char/ja/lt;特集href=”https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/17/9/17_KJ00005015994/_article/-char/ja/” target=”_blank”>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/17/9/17_KJ00005015994/_article/-char/ja/gt;頭…
海綿静脈洞血栓症の画像診断と治療
海綿静脈洞血栓症は抗菌薬が普及した現代でも稀ながら致死的になりうる重篤な疾患で、早期診断と治療開始が極めて重要です。診断には通常、副鼻腔・眼・脳のMRI検査またはCT検査が行われ、より詳細な画像を得るために造影剤を血流中に注入してから撮像します。造影MRIでは左右の海綿静脈洞の造影効果の差異や、海綿静脈洞周囲の硬膜肥厚が観察されます。
参考)海綿静脈洞血栓症 – 17. 眼疾患 – MSDマニュアル …
副鼻腔炎から波及した海綿静脈洞血栓症では、蝶形骨洞に軟部影が充満し、髄膜炎や硬膜下膿瘍、脳膿瘍へ進展するリスクがあります。CTで前頭洞前面に皮下気腫を認める場合や、乳突蜂巣に軟部影が充満し隔壁破壊と腐骨形成を認める場合は、S状静脈洞壁への破壊性変化の有無も評価する必要があります。
治療は高用量抗菌薬の静注が基本で、初期治療にはナフシリンまたはオキサシリン1~2gを4時間毎に投与し、第3世代セファロスポリン系薬剤を併用します。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が多い地域では、バンコマイシン1gを12時間毎に静注すべきとされています。基礎に副鼻腔炎や歯性感染がある場合には、嫌気性菌に対するメトロニダゾール500mgを8時間毎に追加します。蝶形骨洞炎が基礎にある例で24時間以内に抗菌薬への臨床反応がない場合、外科的な副鼻腔ドレナージが適応となります。
海綿静脈洞腫瘍の画像診断における鑑別
海綿静脈洞に発生する腫瘍性病変の鑑別診断には、悪性リンパ腫・髄膜腫・神経鞘腫・転移性腫瘍などが含まれます。これらの腫瘍は海綿静脈洞の横径を拡大させますが、それぞれ特徴的な画像所見を示します。神経鞘腫は造影MRIで強い増強効果を示し、腫瘍内部に嚢胞性変化を伴うことがあります。髄膜腫は造影効果が均一で、dural tailと呼ばれる硬膜の肥厚を伴うことが特徴です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/2c3c705632e02a40c7525731f8fa14817acbc1b8
海綿静脈洞内の脂肪沈着は比較的稀な所見ですが、MRIのT1強調像で高信号を示し、脂肪抑制画像で信号が低下することで診断されます。石灰化を有する場合は奇形腫が鑑別に挙がり、CTでの評価が有用です。悪性リンパ腫やサルコイドーシスはステロイドに反応するため、Tolosa-Hunt症候群との鑑別において注意が必要です。
血管性病変として、海綿状血管腫(海綿状血管奇形)も重要な鑑別疾患です。T2強調像において、さまざまな時期の血腫を示す低~高信号が混在する”popcorn-like”な内部構造が、ヘモジデリンによる低信号のrimに囲まれているのが典型的所見です。T1強調像でも低~高信号が混在し、高信号が顕著な場合は最近の出血が疑われます。小病変や多発性病変の評価にはT2*強調像が重要で、慢性的な血液の染み出しを評価できます。
参考)海綿状血管奇形(海綿状血管腫)とは?MRI画像診断のポイント…
内頸動脈海綿静脈洞瘻の画像診断ポイント – 画像診断まとめ
CCFの画像所見と診断のポイントについて詳しく解説されています。
海綿静脈洞血栓症の診断基準と標準的な治療プロトコルについて、権威ある医学情報が掲載されています。