介護保険薬局 居宅療養管理指導
介護保険薬局の居宅療養管理指導とは何か
介護保険領域で薬局が提供する代表的な在宅サービスが「居宅療養管理指導」で、通院が困難な利用者の居宅を訪問し、心身の状況や生活環境を踏まえて療養上の管理・指導を行い、療養生活の質の向上を図る仕組みです。
このサービスは薬剤師だけでなく医師・歯科医師・管理栄養士・歯科衛生士等も対象ですが、薬局薬剤師の場合は「医師又は歯科医師の指示に基づく薬学的な管理及び指導」と「居宅介護支援事業者に対するケアプラン策定等に必要な情報提供」が柱になります。
つまり「薬を届けて説明する」だけでは不十分で、服薬状況・残薬・副作用・相互作用・保管状況・生活背景(嚥下、認知機能、介護力など)を含めた薬学的評価を、ケアマネや主治医の意思決定に乗る形へ翻訳して返すところまでが介護保険薬局の役割です。
一方で、現場で誤解されやすいのが「医療保険の在宅患者訪問薬剤管理指導」との違いです。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/3293
大枠は似ていますが、介護保険では居宅療養管理指導として算定し、ケアプラン(居宅サービス計画)との接続や、介護職側が扱いやすい情報提供の形式がより重要になります。
参考)居宅療養管理指導とは?薬局の薬剤師に求められる役割と合わせて…
介護保険薬局の算定要件と単位数の基礎
薬局薬剤師の居宅療養管理指導は「月4回まで」が基本上限で、末期悪性腫瘍や中心静脈栄養など一部の状態では「週2回かつ月8回まで」が認められる整理が示されています。
また、介護報酬は「単一建物居住者が1人/2~9人/10人以上」で単位が変わり、同じ建物に複数訪問するケースでは評価が下がる設計になっています。
厚労省資料の報酬体系例では、薬局薬剤師の居宅療養管理指導費(基本部分)が「単一建物居住者が1人:509単位、2~9人:377単位、10人以上:345単位」と整理されており、訪問設計(ルート・時間・人員)が経営面にも直結します。
ここで医療従事者向けに強調したい落とし穴は、「算定のための訪問」になった瞬間に質が落ちやすい点です。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/chouzai_santei/6096
居宅療養管理指導は、薬学的管理指導計画に基づく継続的介入と、結果の情報提供が実質的な要件として語られることが多く、記録と共有の粒度が薄いと“訪問しているのに連携が回らない”状態になります。
逆に言えば、服薬カレンダーや一包化の話だけで終わらず、残薬の原因(処方変更、理解不足、自己調整、嚥下、眠気、抑うつ、介護者不在など)を特定し、介入→再評価→共有まで回すと、薬局の介護保険薬局としての存在感は一気に高まります。
介護保険薬局とケアマネ連携のコツ:服薬情報提供書
介護保険薬局の価値は、ケアマネジャーがケアプランを更新するタイミングで「薬学的に重要だが介護側は見落としやすい情報」を短く渡せるかで決まる場面が多いです。
厚労省資料でも、ケアマネは必要と認めたときに利用者の同意を得て、服薬状況などの情報を主治医や薬剤師へ提供することが運営基準として位置づけられており、薬局側からの“逆提案”も制度上の文脈に乗ります。
実務では、地域薬剤師会等が整備する「服薬情報提供書」「情報提供依頼書」などの様式を使うと、連携の摩擦が減ります。
情報提供で特に刺さりやすいのは、次のような“介護の意思決定に直結する観察所見”です(文章は短く、判断材料は具体的に)。
参考)在宅薬剤師による訪問薬剤管理指導・居宅療養管理指導とは? 制…
- 💊 残薬:種類・数量・理由仮説(飲み忘れ、自己調整、重複処方疑い、保管場所が分散など)。
- ⚠️ 副作用疑い:ふらつき、便秘/下痢、食欲低下、せん妄、眠気、口渇などと服薬変更点。
- 🧩 服薬能力:嚥下、視力、認知、手指巧緻性、介護者の関与可否。
- 🔁 多剤:OTC・サプリ含む相互作用や重複の可能性。
「ケアマネに伝える=医療者同士の専門用語で伝える」ではなく、「ケアプランの介入案に変換して渡す」ことが介護保険薬局の実戦的スキルです。
参考)http://www.kmpa.or.jp/pdf/careman.pdf
例えば、睡眠薬のふらつき疑いを見つけたとき、単に“副作用の可能性”で終えず「夜間トイレ動線の見直し+転倒リスク高→主治医へ減量提案、訪問介護の声かけ強化」まで一枚で書くと、多職種の動きが速くなります。
参考:ケアマネとの情報提供依頼書(連携の入口・様式の意図が分かる)
地域での多職種連携を円滑にする「ケアマネジャー情報提供依頼書」活用の考え方
介護保険薬局のオンライン活用と2024改定の注意点
介護報酬改定(令和6年度)では、薬局薬剤師が情報通信機器を用いて行う居宅療養管理指導について、制限が緩和され、対面とほぼ同様の条件で算定しやすい方向へ整理された点が大きなトピックです。
具体的には、従来あった「在宅時医学総合管理料に規定する訪問診療での処方箋」や「月1回のみ」などの縛りが見直され、「在宅の利用者で通院困難」であれば月4回まで算定できる方向が示されています。
また、薬局内で実施する要件や、対面とオンラインを組み合わせた服薬指導計画の独立要件などが削除され、運用の自由度が上がった整理になっています。
ただし、オンラインを入れると“見えない情報”が増えるため、介護保険薬局としては観察設計を意識的に補う必要があります。
例えば、カメラ越しでは薬の保管環境(湿気、散逸、期限切れ、内服と外用の混在)や、服薬動作のつまずき(PTPが開けられない、嚥下に時間がかかる)が取り切れない場合があり、対面訪問の頻度配分を誤ると逆にアウトカムが悪化します。
オンライン回を「副作用・アドヒアランスの早期検知」「主治医への照会前の情報整理」に寄せ、対面回を「残薬棚卸し」「服薬導線の再設計」「介護者教育」に寄せるなど、役割分担を決めると運用が安定します。
参考:2024改定での居宅療養管理指導(情報通信機器の要件見直し、単位の増分の考え方が分かる)
令和6年度介護報酬改定:薬局薬剤師が行う居宅療養管理指導の見直し要点
介護保険薬局の独自視点:残薬を「認知症の早期サイン」として扱う
検索上位の記事では算定要件や流れが中心になりがちですが、介護保険薬局が差別化できる独自視点は「残薬・飲み間違いを、認知機能低下や生活破綻の早期サインとして拾い上げる」ことです。
厚労省資料には、在宅業務で残薬問題を発見した利用者のうち“大量の残薬”が一定割合で見つかったこと、さらに“認知症の可能性を疑った利用者”が存在したことが示されており、薬剤師の訪問が生活機能評価の入り口になり得ることを裏づけます。
この視点を持つと、介護保険薬局の訪問は「薬の最適化」だけでなく、「受診勧奨」「介護サービス調整」「家族支援」へつながる“連携の起点”になります。
実装のしかたは難しくありません。次の“現場で見逃されやすいサイン”を、毎回の居宅療養管理指導のチェック項目に組み込みます。
- 🧠 同じ薬を複数箇所に保管している(本人は場所を忘れる)。
- 📆 用法用量が守れない(飲む回数より「気分」で飲む)。
- 🧾 受診間隔・処方日数が把握できない(説明が曖昧)。
- 🚫 服薬を拒否するが理由が言語化できない。
- 🔄 使い切らないうちに新しい薬が増える(自己中断、重複、理解不足)。
これらを見つけたら、いきなり「認知症疑い」と断定せず、①服薬支援の再設計(カレンダー、一包化、服薬時間の単純化)、②ケアマネへ“生活上の観察”として共有、③必要なら主治医へ照会、の順で進めると角が立ちません。
介護保険薬局がこの役割を果たすほど、ケアマネからの相談(新規在宅の紹介、緊急訪問の依頼)が増えやすく、結果として地域包括ケアの中で薬局が“選ばれる”循環が起きます。
必要に応じて根拠として引用できる論文例(低栄養と予後:在宅サービス利用高齢者のデータ、居宅療養管理指導を含むサービス利用者を対象)
Nutrition Care and Management(在宅高齢者の栄養状態・予後に関する報告の掲載誌)

保険薬局Q&A 令和6年版 薬局・薬剤師業務のポイント