介護保険認定調査の基礎知識と核心ガイド
介護保険の認定調査とは何か
介護保険における認定調査とは、要介護認定・要支援認定の申請を受けた市町村が、申請者の心身の状態、日常生活の状況、認知機能、行動面の課題、医療的な処置の状況などを把握するために実施する訪問調査です。原則として、市町村職員または市町村から委託を受けた介護支援専門員などの認定調査員が、本人の自宅、入院先、施設などを訪問して行います。
認定調査の目的は、単純に「病気があるか」「歩けるか」を確認することではありません。介護保険制度における要介護認定は、疾病名や診断名そのものではなく、日常生活を継続するうえでどの程度の介護を要するか、すなわち介護の手間を評価する制度です。そのため、脳卒中後遺症、認知症、パーキンソン病、心不全、がん、骨折後の廃用、精神疾患など、同じ疾病であっても、生活上の支障と必要な支援が異なれば評価も変わり得ます。
74項目の基本調査と評価の見方
基本調査は、身体機能・起居動作、生活機能、認知機能、精神・行動障害、社会生活への適応、特別な医療に関する項目で構成されます。調査員は、本人への聞き取り、実際の動作確認、家族・施設職員からの聴取、診療情報などを総合して選択肢を判断します。医療従事者が支援に関わる際は、患者本人が診察場面で見せる一時的な能力だけでなく、日常生活の中で再現性をもって実行できているかを確認する姿勢が必要です。
たとえば「歩行できる」という事実があっても、疼痛や起立性低血圧のために毎回見守りが必要である、転倒歴があり単独歩行を止めている、夜間は見当識障害で介助を要する、といった場合があります。また、服薬動作が可能でも、薬剤の取り違え、飲み忘れ、重複内服が頻発して家族がセット・確認している場合には、単純な身体能力だけでは必要な支援を把握できません。
| 項目群 | 基準・内容 | 医療従事者が確認したい視点 |
|---|---|---|
| 身体機能・起居動作 | 麻痺、拘縮、寝返り、起き上がり、座位、立位、歩行、視聴覚などを確認する | 診察時の一回限りの動作ではなく、日常的な安全性、補助具使用、転倒リスクを把握する |
| 生活機能 | 移乗、移動、食事、排泄、清潔保持、更衣、外出頻度などを確認する | 直接介助、見守り、声かけ、準備、後始末を含む実際の介護量を整理する |
| 認知機能 | 意思伝達、記憶、時間や場所の理解、自分の氏名の理解、徘徊などを確認する | 認知機能検査の点数だけでなく、生活上の失敗と継続的な安全管理の必要性を確認する |
| 精神・行動障害 | 不安定な感情、大声、介護抵抗、昼夜逆転、収集癖、火の不始末などを確認する | 出現頻度、誘因、対応に必要な人員・時間、本人と介護者への影響を記録する |
| 社会生活への適応 | 服薬、金銭管理、日常の意思決定、集団適応、買い物、簡単な調理などを確認する | 独居か同居かにかかわらず、実際に誰が代行・確認しているかを明確にする |
| 特別な医療 | 点滴、透析、ストーマ、酸素療法、経管栄養、褥瘡処置、カテーテル管理などを確認する | 実施の有無だけでなく、処置に伴う観察、感染予防、緊急時対応の負担も把握する |
基本調査の74項目は、介護に要する時間との関連を踏まえた一次判定の材料です。しかし、一次判定の結果がそのまま最終決定になるわけではありません。認定調査の特記事項と主治医意見書を踏まえ、介護認定審査会が二次判定を行う仕組みです。したがって、医療職が「歩ける」「会話できる」といった断片的情報だけで状態を表現すると、実際の介護負担が伝わりにくくなることがあります。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000126240.pdf)
特記事項で具体化すべき生活障害
特記事項は、基本調査の選択肢だけでは把握できない本人固有の状況、選択結果に至った根拠、介護の手間や頻度を具体的に審査会へ伝えるための欄です。医療従事者にとっては、看護記録、リハビリテーション記録、服薬支援の状況、家族からの訴え、退院支援時のアセスメントなどに含まれる生活情報を、認定調査に接続する視点が重要になります。
特記事項では、「認知症あり」「歩行困難」「介助を要する」といった抽象的な表現だけでは不十分です。いつ、どのような場面で、どの程度の頻度で、誰が、何をしなければ危険または生活困難が生じるのかを記載すると、介護の実態が伝わりやすくなります。特に認知症、せん妄、精神症状、疼痛、呼吸困難、てんかん、パーキンソニズムなどでは、症状の変動性が大きく、調査当日の状態だけで評価すると実態を見誤るおそれがあります。
- 夜間に見当識障害が出現し、週に複数回、自宅内を探し回るため、家族が起床して安全確認とトイレ誘導を行っている
- 食事は自力摂取できるが、嚥下機能低下により食形態の調整、姿勢保持、食事中の見守り、むせ込み時の対応を毎食必要としている
- 服薬は手指操作としては可能だが、薬剤の重複内服や飲み忘れが繰り返されるため、家族が一包化薬を準備し、服薬時に確認している
- 歩行器で屋内移動は可能だが、方向転換時にふらつきがあり、過去に転倒歴があるため、排泄時を中心に見守りや付き添いを要している
- 慢性呼吸器疾患により、入浴、更衣、排泄後に呼吸困難が増悪し、休息の確保、酸素機器の確認、症状観察を家族が行っている
医療職が情報提供する場合は、医療的な重症度の説明に偏らず、「その症状により生活行為のどこが止まるのか」「どのような支援をしないと安全が保てないのか」を補足することが有用です。たとえば褥瘡がある場合、創部の大きさや処置内容に加え、体位変換の頻度、除圧用具の管理、失禁時の皮膚ケア、疼痛による移乗困難などを把握することで、介護の手間を生活場面として具体化できます。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb6469&dataType=1)
主治医意見書と医療職の情報提供
要介護認定では、認定調査に加えて主治医意見書が重要な資料になります。主治医意見書には、傷病に関する意見、特別な医療の必要性、心身の状態、認知症に関する情報、介護サービス利用時の留意点などが記載されます。認定調査が主として生活場面における状態と介護の実態を捉えるのに対し、主治医意見書は医学的見地から病状、予後、医療上の留意事項を補う役割を担います。
医師、看護師、リハビリテーション専門職、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなどは、それぞれが持つ情報を分断させないことが大切です。例えば、主治医が「慢性心不全は安定」と記載していても、看護師の訪問記録では軽い労作で呼吸困難があり、入浴や階段移動を一人で行えないという実態が確認されていることがあります。この場合、「疾患が安定している」という医学的評価と、「日常生活で継続的支援が必要」という介護上の評価は矛盾しません。
とくに退院直後、急性疾患の回復期、がんの進行に伴う急激な機能低下、神経難病の進行、認知症の行動・心理症状の変化などでは、認定調査時点と診療時点の状態に差が出ることがあります。医療職は、病状の経過、予測される変動、短期間で生じた生活機能低下、継続する処置や観察の必要性を記録し、必要に応じて本人・家族・地域包括支援センター・ケアマネジャーと共有することが望まれます。
なお、医療職が本人・家族から「要介護度を上げたいので、重く書いてほしい」と相談を受ける場面もあります。しかし、認定調査と医療情報提供では、状態を過大にも過小にも表現せず、事実に基づいて生活上の困難と必要な支援を記録することが原則です。適切な認定は、必要なサービス量を検討する出発点であり、本人の尊厳と安全を支えるための情報の質に左右されます。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/index.html)
認定調査前後に医療現場が行う支援
認定調査を有効に活用するには、調査日当日の受け答えだけに依存しない準備が必要です。患者本人は、遠慮して「一人でできる」と答えたり、逆に調査日だけ体調がよく普段の困難が見えにくくなったりする場合があります。認知症のある人では、生活上の失敗や家族の支援を本人が正確に認識していないこともあります。医療従事者は、本人の自己申告を尊重しながら、家族、施設職員、訪問看護師、ケアマネジャーなどからの客観的情報を組み合わせて把握することが求められます。
調査前には、直近1週間から1か月程度の生活状況を振り返り、排泄、食事、移動、入浴、更衣、服薬、睡眠、認知・行動症状、医療処置に関する困りごとを整理すると有用です。変動の大きい疾患では、最も良い状態だけでも最も悪い状態だけでもなく、普段の状態と、悪化がどの程度の頻度で起こるかを確認します。家族が担っている見守りや代行は、長年の習慣として「介護」と認識されていないことがあるため、具体的な一日の流れに沿って質問する方法が役立ちます。
認定結果が出た後も、状態変化があれば支援を見直す必要があります。退院後に介助量が増えた、認知症状が進行した、転倒を繰り返すようになった、酸素療法や経管栄養などの医療的ケアが新たに必要になった場合には、区分変更申請の検討が必要となることがあります。反対に、リハビリテーションや治療により生活機能が大きく改善した場合にも、現状に合ったケアプランを継続的に検討することが大切です。
介護保険の認定調査は、本人を「できる・できない」の二択で分類するためだけの手続きではありません。医療、看護、リハビリテーション、家族支援、地域資源をつなぐ共通言語として、本人の生活を立体的に捉える機会です。医療従事者が疾病の情報を生活障害と介護負担の情報へ翻訳し、多職種と共有することで、認定後のサービス利用と在宅療養支援の質を高めやすくなるでしょうか?

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