下行性斜視と複視と診断と治療と手術

下行性斜視と診断と治療

下行性斜視:臨床で迷う3点
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まず「複視の質」を言語化

上下複視・回旋・どの視方向で悪化するかを取ると、麻痺性か制限性かの当たりがつきます。

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鑑別の軸は「麻痺 vs 制限」

上斜筋麻痺(滑車神経麻痺)やskew deviation、甲状腺眼症などを、眼球運動と頭位異常で切り分けます。

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治療はプリズム→手術の順で設計

自然軽快が期待できる病態では、まず複視対策(プリズム等)を行い、遷延例で斜視手術を検討します。


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下行性斜視の複視と頭位異常の所見

下行性斜視は「上下方向の眼位ずれ」を核にして、患者が訴える症状としては複視(特に上下複視)が前面に出やすいのが実臨床の入口になります。

麻痺性斜視では、麻痺筋が作用する方向で眼位ずれと複視が最大になり、複視を避けるために頭を回す・傾けるといった頭位異常が出現し得ます。

とくに滑車神経麻痺(上斜筋麻痺)では、下方視で複視が強くなり「階段を降りるのが困難」といった生活上の困りごとにつながる点は問診で拾いやすい重要所見です。

「上下のズレ」だけでなく、回旋(傾いて見える)を伴うかどうかも臨床上の分岐になります。

参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12964

先天性上斜筋麻痺では小児期に複視を自覚しにくく、頭位異常が主症状になり得るため、「複視がない=軽症」とは限らない点は注意が必要です。

また、上下斜視は水平斜視や回旋斜視に合併することが多く、背景に外眼筋・神経・眼窩骨・視力・両眼視機能の問題が絡むため、単一所見で決め打ちしない姿勢が安全です。

参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12863

下行性斜視と滑車神経麻痺と上斜筋麻痺の鑑別

下行性斜視(臨床的には「下斜視」や下転優位の偏位を含む文脈で扱われがち)を評価する際、鑑別の大きな柱に滑車神経麻痺(上斜筋麻痺)があります。

滑車神経は上斜筋を支配し、上斜筋麻痺では上下・回旋斜視が起こり得るため、垂直偏位に回旋要素が混ざるパターンを見たら候補に上がります。

原因としては先天性が多い一方、成人の後天性では頭部外傷や血管障害が多く、後頭部の鈍的外傷で両眼性に起こり得る点は病歴で重要です。

診断は、上下斜視・眼球運動の観察に加え、頭部傾斜試験(頭を傾けたときに上下斜視が増加する)で組み立てるのが基本線になります。

先天性の場合は顔面の非対称が生じることがある、という「眼だけではない」情報は、写真や家族の気づきから拾えることがあります。

確定度を上げる補助として、CT/MRIで上斜筋低形成などの所見を確認できる可能性が示されています。

治療は、先天性上斜筋麻痺では斜視手術が主になり、後天性では自然軽快の可能性を見込みつつ、まずプリズムで複視を回避し、6か月以上遷延する場合に手術を検討する流れが示されています。

この「待つべき病態を待たずに手術に寄せない」判断は、眼科外来だけでなく救急・脳神経内科連携でもトラブルを減らします。

なお、同じ「上下のズレ」でも、上斜筋麻痺と似た見え方をする病態があり、次項のskew deviationが代表です。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5154745/

下行性斜視とskew deviationの診断の落とし穴

skew deviationは垂直方向の眼球偏位(=上下のズレ)を来し、滑車神経麻痺と臨床像が似て鑑別が難しいことがある、と整理されています。

その背景として、skew deviationは耳石器系(utriculo-ocular pathway)を含む重力感受(graviceptive)経路の不均衡で生じる、という病態理解が重要です。

さらに急性前庭症候群(AVS)の文脈では、skew deviationが中枢性サインとして議論され、脳卒中症例でも見られることがあるため、単なる斜視として閉じず神経症状とセットで判断する必要があります。

臨床での「落とし穴」は、眼球運動が一見それほど制限されず、垂直偏位と頭位異常だけが目立つときに、安易に滑車神経麻痺へ寄せてしまう点です。

とくに突然発症の複視を伴う麻痺性斜視では、命に関わる疾患が潜むことがあるため、早期受診・原因検索が強調されています。

外来で「いつから」「頭痛や神経症状の随伴」「外傷歴」「糖尿病高血圧」「眼瞼下垂や瞳孔異常の有無」などを短時間で構造化して聞くことが、鑑別の精度を上げます。

実務上は、眼科的検査(眼球運動・頭部傾斜試験)で方向性をつけつつ、急性・進行性・神経症状を伴うケースでは、CT/MRI等の全身検索をためらわない設計が安全です。

また、skew deviationの理解を深めると、「上下のズレ=外眼筋や脳神経の局所障害」とは限らない、という視野が持てます。

この視野があるだけで、紹介・画像検査のタイミング判断が一段階上がります。

下行性斜視の検査:Hess赤緑試験と画像と全身検索

麻痺性斜視では、原因疾患の診断のために早急なCT/MRIなど画像検査や全身検索が必要になる場合がある、という原則は上下偏位のケースでも同様です。

実際、動眼神経麻痺では動脈瘤が原因となり得て生死に直結し得るため、瞳孔所見や頭痛の有無を含め緊急性判断が求められる、と整理されています。

このため下行性斜視を扱う記事でも、「斜視の話」に閉じず、危険な随伴所見(突然発症、頭痛、瞳孔異常、眼瞼下垂、神経症状)を同じセクションで明示する価値があります。

眼球運動の定量・可視化として、Hess赤緑試験(Hessチャート)が眼位ずれの把握に有用であることが解説されています。

参考)Hessチャート &#8220;Hess chart&#82…

Hessチャートは、赤い指標と緑ランプの位置の差を記録することで左右眼のずれを捉える、という原理が示されており、教育的にも説明しやすい検査です。

臨床では、麻痺筋の作用方向でのunder action、対側の過大運動(Heringの法則に基づく)など、パターン認識で「麻痺らしさ」を言語化できる点が強みです。

画像は、上斜筋麻痺で上斜筋低形成を確認できる可能性がある、といった筋の形態評価にも接続します。

一方で「画像で異常がない=中枢性がない」とは言い切れない領域があるため、skew deviationなど中枢経路の不均衡という概念も同時に持つのが実践的です。

検査計画は、眼科的検査(眼位・眼球運動・頭位異常)→必要に応じてHess→危険サインがあれば画像・全身検索、という順で組むと現場運用に落ちやすいです。

下行性斜視の治療:プリズムと手術と独自視点の説明設計

後天性の滑車神経麻痺(上斜筋麻痺)では、外傷・血管性・ウイルス性の場合に自然治癒する傾向があるため、プリズム眼鏡で複視を避けつつ原因治療を行い、6か月待っても複視が続く場合に斜視手術を考える、という方針が示されています。

この「プリズムで生活を守りながら経過を見る」戦略は、患者満足度と安全性の両立に直結します。

成人の斜視治療としても、ずれが小さい場合にプリズム眼鏡で対応できること、手術では外眼筋をずらして眼位を改善することが説明されています。

手術に関しては、上斜筋麻痺の手術で下直筋後転術が有用で、成人では局所麻酔で行えることが多く、斜筋手術より容易な術式である、という研究課題の背景説明が公開されています。

参考)KAKEN &mdash; 研究課題をさがす

同資料では、下直筋後転に鼻側移動を加えると上下偏位だけでなく回旋偏位も矯正できる可能性が述べられており、回旋要素が強い症例での術式選択の考え方に接続します。

また、鼻側移動を伴うと上下偏位の矯正効果が小さくなり得るため後転量決定に注意が必要、という「術式の落とし穴」も示されています。

ここからが検索上位に出にくい独自視点として、医療従事者向け記事では「説明設計(患者への伝え方)」を治療パートに組み込むと、現場での再受診・クレーム・不安増幅を減らせます。

具体的には、患者説明を「①いま困っているのは複視(症状)②原因は筋肉/神経/中枢のいずれもあり得る(病態の幅)③当面はプリズムで日常を守り、危険サインがあれば画像で確認する(安全設計)④自然軽快しない場合に手術で整える(時間軸)」の4点で統一すると、理解が崩れにくいです。

さらに、下方視で困る患者には「階段」「車の乗り降り」「段差」など生活場面を例示し、プリズムや遮閉などの暫定策を提示すると、治療待機期間のQOLが保ちやすくなります。

斜視・上下斜視の公的まとめ(症状、診断、治療の概説がある)。

日本弱視斜視学会(一般向け)「上下斜視」

麻痺性斜視の危険サイン、画像検査、滑車神経麻痺の診断と治療の要点。

日本弱視斜視学会(一般向け)「麻痺性斜視」