過敏性腸症候群の症状と腹痛や便秘と下痢の関連

過敏性腸症候群の症状について

過敏性腸症候群の基本情報
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定義

腹痛や腹部不快感に加え、便通異常(下痢・便秘)を特徴とする機能性消化管疾患

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患者層

若年層(10代〜30代)に多く、特に先進国で発症率が高い

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診断の特徴

内視鏡検査や血液検査で器質的異常が見つからないにもかかわらず症状が継続する

過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、腹痛や腹部不快感に加えて便通異常(下痢や便秘)を伴う機能性消化管疾患です。この疾患の特徴は、内視鏡検査や血液検査などを行っても、症状の原因となる炎症や腫瘍などの器質的異常が見つからないことにあります。しかし、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性がある重要な疾患です。

過敏性腸症候群は、ストレスの多い先進国で多く見られ、特に10代から30代の若い世代に多いとされています。また、神経質で繊細な性格の方がかかりやすい傾向にあるとも言われています。日本においても、成人の約10〜15%が過敏性腸症候群の症状を経験していると推定されています。

過敏性腸症候群の主な症状と腹痛の特徴

過敏性腸症候群の主要な症状は、腹痛または腹部不快感と便通異常です。特に特徴的なのは、これらの症状が少なくとも週に1回以上、2ヶ月以上継続して現れることです。

腹痛の特徴としては以下のようなものがあります:

  • 排便によって痛みが軽減する
  • 食事後に痛みが悪化することが多い
  • 下腹部に鈍痛やけいれん痛として現れることが多い
  • 朝起きてから夜寝るまでの間に発生し、睡眠中に痛みで目が覚めることは稀

また、腹部膨満感も過敏性腸症候群の代表的な症状の一つです。お腹が張った感じがして不快感を伴うことが多く、ガスが溜まりやすくなります。この膨満感は食後に悪化することが多く、日内変動があることも特徴です。

過敏性腸症候群の便秘と下痢の症状パターン

過敏性腸症候群は便通異常のパターンによって、主に3つのタイプに分類されます:

  1. 下痢型(IBS-D)
    • 水様便や軟便が1日に3回以上ある
    • 急な便意を伴うことが多い
    • 腹痛を伴った下痢が特徴
    • 男性に多いとされる
    • 便に粘液が混じることもある
  2. 便秘型(IBS-C)
    • 硬い便や兎糞状の便が特徴
    • 排便回数が週に3回未満
    • 強くいきまないと排便できない
    • 排便後も残便感が残ることが多い
    • 女性に多いとされる
  3. 混合型(IBS-M)
    • 便秘と下痢が交互に現れる(交代性便通異常)
    • 数日間隔で便通状態が変化する
    • 腹部不快感や腹痛を伴うことが多い
    • 便の形状も硬い便と軟便を繰り返す

これらのタイプは固定されているわけではなく、時期によって変化することもあります。また、分類不能型(IBS-U)というカテゴリーもあり、上記のどのタイプにも当てはまらない場合に分類されます。

過敏性腸症候群の診断基準と症状の持続期間

過敏性腸症候群の診断は、ローマIV基準という国際的な診断基準に基づいて行われることが多いです。この基準では、以下の条件を満たす場合に過敏性腸症候群と診断されます:

  • 反復する腹痛が、過去3ヶ月の間に、少なくとも週1回以上ある
  • この腹痛が以下の特徴のうち2つ以上と関連している:
    1. 排便により改善する
    2. 排便頻度の変化を伴う
    3. 便形状(外観)の変化を伴う
  • これらの症状が少なくとも6ヶ月前から始まっている

また、過敏性腸症候群の症状は長期間持続することが特徴で、数週間から数ヶ月、あるいは数年にわたって症状が続くこともあります。症状の強さには波があり、ストレスや食事内容によって悪化することが多いです。

診断にあたっては、大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)、セリアック病などの器質的疾患を除外するために、血液検査や大腸内視鏡検査、腹部超音波検査などが行われることがあります。これらの検査で異常が見つからない場合に、過敏性腸症候群と診断されることが多いです。

過敏性腸症候群に伴う消化器以外の症状

過敏性腸症候群は消化器症状だけでなく、様々な全身症状を伴うことがあります。これらの症状は患者さんのQOLをさらに低下させる要因となります:

精神・神経症状

  • 不安やうつ症状
  • 睡眠障害
  • 集中力の低下
  • 記憶力の低下
  • 頭痛やめまい

全身症状

  • 慢性的な疲労感
  • 筋肉痛や関節痛
  • 線維筋痛症
  • 慢性疲労症候群

泌尿器症状

  • 頻尿
  • 排尿時の切迫感
  • 膀胱の不完全排尿感

その他の症状

  • 顎関節症
  • 慢性骨盤痛
  • 吐き気

これらの症状は、腸と脳の密接な関係(脳腸相関)によって説明されることが多いです。ストレスや不安が自律神経系を介して腸の機能に影響を与え、逆に腸の異常が脳の機能に影響を与えるという双方向の関係があると考えられています。

脳腸相関と過敏性腸症候群の関連についての詳細な研究

過敏性腸症候群とSIBOの症状の関連性

近年の研究では、過敏性腸症候群(IBS)と小腸内細菌異常増殖症候群(SIBO: Small Intestinal Bacterial Overgrowth)との関連性が注目されています。SIBOとは、通常は大腸に存在する細菌が小腸内で異常に増殖する状態を指します。

IBSとSIBOの症状には多くの共通点があり、両者の関連が示唆されています:

共通する症状

  • 腹部膨満感
  • 腹痛
  • 下痢や便秘
  • ガスの増加
  • 食後の症状悪化

研究によると、IBSの患者の約30〜80%がSIBOを合併しているとされています。特に下痢型IBSの患者ではSIBOの合併率が高いことが報告されています。

SIBOの診断には水素・メタン呼気試験が用いられ、治療には抗菌薬や食事療法(低FODMAP食)が効果的とされています。IBSの症状が改善しない場合は、SIBOの可能性を考慮することも重要です。

最近の研究では、IBSのサブタイプとSIBOの関連についても興味深い知見が得られています。メタン産生菌の増加は便秘型IBSと関連し、水素産生菌の増加は下痢型IBSと関連することが示唆されています。これは腸内細菌叢のバランスがIBSの症状パターンに影響を与えている可能性を示しています。

腸内細菌叢の乱れは、腸管の透過性亢進や免疫系の活性化、腸管神経系の過敏化などを引き起こし、IBSの症状発現に関与していると考えられています。このため、プロバイオティクスによる腸内環境の改善がIBSの治療に有効である可能性が示唆されています。

日本消化器病学会による過敏性腸症候群と腸内細菌叢に関する総説

過敏性腸症候群の症状とQOLへの影響

過敏性腸症候群(IBS)は、生命を脅かす疾患ではありませんが、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。特に以下のような日常生活への影響が報告されています:

社会生活への影響

  • 外出時のトイレの心配による外出制限
  • 会議や通勤・通学中の突然の腹痛や下痢による不安
  • 社交活動の減少
  • 仕事や学業のパフォーマンス低下

心理的影響

  • トイレがない場所への不安(トイレ恐怖症)
  • 症状悪化の不安によるさらなるストレス(悪循環)
  • 自己評価の低下
  • 社会的孤立感

食生活への影響

  • 食事内容の制限
  • 外食への不安
  • 食事を楽しめなくなる

IBSの患者さんの約25〜50%が何らかの形で日常生活に支障をきたしていると報告されています。特に下痢型IBSの患者さんでは、突然のトイレの必要性から外出を控えるようになり、社会的活動が制限されることが多いです。

また、IBSの症状は予測不可能であることが多く、この不確実性が患者さんの不安をさらに高める要因となっています。症状が悪化するのではないかという恐怖から、さらにストレスが増加し、症状が悪化するという悪循環に陥ることもあります。

IBSの患者さんのQOL改善には、症状のコントロールだけでなく、心理的サポートや生活指導も重要です。認知行動療法や腸管指向性催眠療法などの心理療法が効果的であるとの報告もあります。

また、患者会やサポートグループへの参加も、同じ悩みを持つ人々との交流を通じて孤立感を減らし、QOLの改善に寄与することがあります。

過敏性腸症候群患者のQOLと心理的要因に関する研究

過敏性腸症候群は「目に見えない病気」であるため、周囲の理解を得にくいという側面もあります。症状が見た目には分からないため、「気のせい」や「気持ちの問題」と誤解されることもあります。医療従事者は、患者さんの訴えを真摯に受け止め、適切な診断と治療、そして心理的サポートを提供することが重要です。

患者さん自身も、自分の症状を理解し、ストレス管理や食事管理などのセルフケアを行うことで、症状のコントロールとQOLの改善を図ることができます。IBSは完治が難しい疾患ですが、適切な管理によって症状を軽減し、日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。