絨毛性ゴナドトロピンの基準値
絨毛性ゴナドトロピンの妊娠週数別正常範囲
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)は、胎盤絨毛細胞から分泌される分子量約38,000の性腺刺激ホルモンで、妊娠の診断や経過観察に広く用いられる重要な指標です。hCGはαとβの2つのサブユニットから構成され、αサブユニットは他の下垂体前葉ホルモンと共通ですが、βサブユニットはhCGに特異的な構造を持っています。
参考)ヒト絨毛性ゴナドトロピン 〈血清〉(HCG)|胎盤|内分泌学…
妊娠週数によるhCG値の基準値は以下の通りです。
参考)https://sophia-lc.jp/blog/hcg-reference-value/
- 非妊娠時:0 mIU/mL
- 妊娠3週:0〜50 mIU/mL
- 妊娠4週:20〜500 mIU/mL
- 妊娠5週:500〜5,000 mIU/mL
- 妊娠6週:3,000〜19,000 mIU/mL
- 妊娠8〜12週(ピーク):10,000〜200,000 mIU/mL
- 妊娠20週以降:50,000 mIU/mL以下
現在用いられている検査法では、排卵後10日程度で検出され始め、妊娠9〜12週くらいまで急速に上昇し、その後は徐々に低下していきます。妊娠初期における3週5日では血中hCG 50、4週0日では血中hCG 100 mIU/ml以上で、しっかり着床したと判断できる施設が多いです。
体外受精における胚移植後10日目(BT10)の基準値は、血中hCGが150mIU/mLを超えているとほぼ胎児心拍が確認できるとされています。判定日の血中hCG値が基準値程度あれば妊娠継続率は高いと考えられますが、低い数値(10や20など)であるほど流産や化学流産で終わる可能性が上がります。
絨毛性ゴナドトロピンの測定方法と検査の意義
hCGの測定には血液検査と尿検査の2つの方法があり、それぞれに特徴があります。血液検査は血中hCG濃度を直接測定するため、尿検査よりhCGの検出感度が高く、尿検査では検出できない微量なhCGを測定できます。このため、より早期に妊娠を診断することが可能で、血中hCG値から妊娠経過を予測することもできます。
参考)妊娠判定時の採血について
尿検査による妊娠検査薬は尿中hCGの有無をチェックしており、その濃度が基準値を超えると陽性と判定されます。妊娠が成立してhCGが分泌されていても、濃度が低いと判定は陰性となることがあります。一方、血液検査では値が低いときに流産や異所性妊娠の可能性を考慮することができます。
hCGは妊娠6週以降では尿中で常に検出され、黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)など他の糖蛋白ホルモンと類似した構造を持っています。生物学的作用としては黄体化ホルモン作用があり、黄体細胞膜に特異的に結合してRNA合成や蛋白合成を促進します。妊娠判定時のhCG値が低くても、その後にしっかりと伸びていけば問題ないことがほとんどです。
絨毛性ゴナドトロピンが高値を示す疾患と管理
hCG値が異常に高値を示す代表的な疾患として、胞状奇胎と絨毛性疾患があります。胞状奇胎は、水ぶくれとなった絨毛細胞が子宮内に充満し、あたかも「いくら」や「ぶどうの房」の様相を呈する疾患で、約500妊娠に1回の割合で発生します。
参考)絨毛性疾患について
胞状奇胎は精子と卵子の受精の異常によって起こり、母親の卵子由来の核(DNA)が消失し、父親の精子由来の核のみから発生する全胞状奇胎と、父親からの精子2つと母親からの卵子1つが受精した3倍体から発生する部分胞状奇胎(胎児共存)に分類されます。胞状奇胎ではhCGは高値を示しますが、ヒト胎盤性ラクトゲン(HPL)は一般に低値となります。
絨毛癌ではβ-hCGが産生されることが多いため、同時に測定することが望ましいとされています。胞状奇胎の約2〜3%は絨毛癌になり、絨毛癌はリンパ管や血流を介して急速に広がることがあります。画像診断と併せてhCGを測定することで、正常妊娠か、胞状奇胎や子宮外妊娠かを鑑別するのに有用です。
参考)胞状奇胎妊娠 – 22. 女性の健康上の問題 – MSDマニ…
絨毛性疾患以外でも、異所性hCG産生腫瘍として卵巣癌、胃癌、肺癌などのマーカーとして使われることがあります。トロホブラストを発生母地とする腫瘍であるため、hCGを分泌し、hCGが優れた腫瘍マーカーとなります。
参考)hCG
参考:絨毛性疾患の取扱い規約や管理に関する詳細情報
東邦大学医療センター大橋病院産婦人科 – 絨毛性疾患について
絨毛性ゴナドトロピンが低値を示す妊娠異常
hCG値が基準値より低い場合、子宮外妊娠や切迫流産などの異常妊娠が疑われます。子宮外妊娠では、受精卵が子宮内膜以外の場所(主に卵管)に着床するため、hCGの分泌が正常妊娠に比べて少なくなる傾向があります。
参考)ヒト絨毛性ゴナドトロピン 〈尿〉(HCG)|胎盤|内分泌学検…
切迫流産の場合も、胎盤機能の低下によりhCG値が低値を示すことがあります。妊娠継続への影響として、判定日付近のhCG値が低い数値であるほど流産や化学流産で終わる可能性が上がります。ただし、反対に高い数値(200や300など)であっても、妊娠継続率はさほど上昇しないとする報告も多く存在します。
異常妊娠の診断には、hCG値の推移が重要な判断材料となります。正常妊娠では妊娠初期にhCG値が2〜3日ごとに約2倍に増加しますが、子宮外妊娠や切迫流産では増加率が鈍くなることが特徴です。陽性であっても判定日付近は特別な症状はないことが多く、症状で妊娠継続率を判断することはできません。
参考)妊娠判定でhCGが低い場合の妊娠継続への影響|妊娠週数ごとの…
画像診断と血中hCG値の測定を組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。超音波検査で胎嚢が確認できる時期のhCG値は、妊娠5週で500〜5,000 mIU/mLとされており、この時期に胎嚢が確認できない場合は子宮外妊娠を疑う必要があります。
絨毛性ゴナドトロピン測定における体外受精の特殊性
体外受精後の妊娠判定では、自然妊娠とは異なる基準値や評価方法が用いられることがあります。胚移植(BT)後の日数に応じたhCG値の推移が、妊娠継続の可能性を予測する重要な指標となります。
参考)自然妊娠と比べた際の不妊治療のhCG値、href=”https://phoenix-art.jp/column/%E8%87%AA%E7%84%B6%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E3%81%A8%E6%AF%94%E3%81%B9%E3%81%9F%E9%9A%9B%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AEhcg%E5%80%A4%E3%80%81%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82/” target=”_blank”>https://phoenix-art.jp/column/%E8%87%AA%E7%84%B6%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E3%81%A8%E6%AF%94%E3%81%B9%E3%81%9F%E9%9A%9B%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AEhcg%E5%80%A4%E3%80%81%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82/lt;brhref=”https://phoenix-art.jp/column/%E8%87%AA%E7%84%B6%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E3%81%A8%E6%AF%94%E3%81%B9%E3%81%9F%E9%9A%9B%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AEhcg%E5%80%A4%E3%80%81%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82/” target=”_blank”>https://phoenix-art.jp/column/%E8%87%AA%E7%84%B6%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E3%81%A8%E6%AF%94%E3%81%B9%E3%81%9F%E9%9A%9B%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AEhcg%E5%80%A4%E3%80%81%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82/gt;不妊治療の妊…
体外受精における特徴として、胚移植の種類(初期胚か胚盤胞か)や移植日によってhCG値の上昇パターンが異なる点があります。胚盤胞移植の場合は初期胚移植よりも早期にhCGが検出される傾向があり、判定日のhCG値も高めになることが一般的です。
不妊治療におけるhCGの臨床応用として、排卵誘発にもhCG製剤が使用されます。hCG製剤は黄体化ホルモン(LH)と類似した作用を持ち、卵胞の最終成熟と排卵を促す目的で投与されます。この場合、投与後10〜14日程度は血中や尿中にhCGが残存するため、妊娠判定の際には注意が必要です。
妊婦健診では継続的に血液検査を行い、hCG値が正常な範囲内に収まっているか、伸び率はどれくらいかといったことを確認します。妊娠8週から12週にかけてhCG値はピークに達し、その後は徐々に低下していくため、この時期の値の推移が特に重要です。
参考:不妊治療とhCG値に関する詳細情報