術後胃炎と胆汁逆流
術後胃炎の原因:胆汁逆流・萎縮・迷走神経
術後胃炎(胃切除後胃炎)は、胃部分切除術や胃亜全摘術の後に残胃に炎症が生じる病態で、慢性炎症から萎縮に進むことがあります。
病態の柱として、十二指腸内容(胆汁など)の逆流が術後によくみられ、胃粘膜を損傷しうる点が重要です。
加えて、前庭部のガストリン消失に伴う壁細胞・消化細胞刺激の低下による萎縮、迷走神経切断での栄養作用の消失といった「構造的に戻しにくい要因」が重なります。
臨床では「術後=胃酸が多い」と決め打ちせず、逆流する内容が酸なのか胆汁なのか、あるいは無酸症寄りなのかを前提から組み立て直すと整理しやすくなります。
術後胃炎の症状:心窩部痛・胸やけ・空腹時
術後胃炎は特異的症状に乏しく、症状だけで確定しにくいのが特徴です。
一方、患者説明の場面では「上腹部の不快感や痛み、胸やけが空腹時に起こりやすい」といった、逆流性胃炎としての典型像を押さえると問診が具体化します。
術後の胸やけやみぞおちの痛みは逆流性食道炎でも起こり得るため、「どこが焼ける感じか」「食後すぐか、空腹時か」「就寝時に悪化するか」をセットで聞き分けると鑑別に役立ちます。
症状が軽くても、食事量低下や体重減少、倦怠感が並走している場合は、栄養障害・貧血など全身の問題が背後にある可能性を常に残します。
術後胃炎の検査:内視鏡・貧血・ビタミンB12欠乏
術後胃炎は重度の萎縮に進行して無酸症を呈し、内因子分泌が止まってビタミンB12欠乏を来すことがあり、輸入脚での細菌異常増殖がそれを悪化させる場合もあります。
この「胃の症状に見えて、実は造血・神経症状の入口」という点は見落とされやすく、しびれ、ふらつき、集中力低下などがあれば消化器症状と同じ列で拾い上げるのが安全です。
MSDマニュアルでは、胃切除後胃癌の絶対発生率は低くルーチンの内視鏡サーベイランスは費用対効果が高くない可能性が示される一方で、上部消化管症状または貧血があれば速やかな内視鏡が推奨されています。
つまり「無症状だから放置」ではなく、「症状・貧血・栄養の変化が出たら早めに内視鏡へ」という運用が現場的に現実解になります。
参考:胃切除後胃炎の機序(胆汁逆流、萎縮、ビタミンB12欠乏、内視鏡の考え方)
術後胃炎の治療:薬物療法と生活指導
逆流性胃炎は、胆汁などの消化液が胃へ逆流することが原因の一つで、胃酸が減って胃内細菌が増えることも関与し得る、と説明されています。
対処の基本として「食後すぐ横にならない」など体位と生活指導が挙げられ、薬物療法は“一般的な胃炎の薬物療法”が行われるとされています。
術後の上部消化管症状は、逆流性食道炎・ダンピング・下痢などと同時に起こることがあるため、「薬で一発解決」を狙うより、食事回数・食後行動・夜間症状の有無を並行して整える方が再現性が高いです。
指導の具体例としては、食後はすぐ臥床せず、夕食を就寝の約3時間前までに済ませるといった行動変容が、逆流関連症状の軽減に結びつきやすいポイントです。
参考:退院後に起こる問題(逆流性胃炎の症状・原因・対処、食事と行動のコツ)
日本臨床外科学会:退院後に起こる問題と対処法(胃切除後症候群)
術後胃炎の独自視点:無酸症と細菌増殖の“におい”
術後胃炎が萎縮から無酸症に傾くと、胃内の防御機構が変わり、細菌異常増殖がビタミンB12欠乏を悪化させる可能性が示されています。
この文脈では、胸やけや心窩部痛だけでなく、原因不明の貧血、易疲労感、舌炎、末梢のしびれなどを「術後の胃の変化が全身に波及しているサイン」として扱う視点が有用です。
また、胃酸が少ない状態では“酸関連症状らしくないのに不快感が続く”という形を取りやすく、本人が「食べるのが怖い」「食後がつらい」と語る場合、食事量低下→低栄養→回復遅延の連鎖を断つ支援が重要になります。
医療従事者側は、症状を「胃炎で片づける」よりも、胆汁逆流(機械的要因)・萎縮/無酸症(分泌要因)・細菌増殖(微生物要因)という3レイヤーで仮説を立てると、検査・指導・紹介の優先順位が整理しやすくなります。