樹状細胞とマクロファージの違い
樹状細胞の抗原提示機能とT細胞活性化
樹状細胞は免疫系において最も重要な抗原提示細胞(APC)として機能し、その抗原提示能力はマクロファージを大幅に上回ります 。樹状細胞は病原体を取り込むと、主要組織適合性複合体(MHC)クラスIおよびクラスIIの両方を介して抗原をT細胞に提示することができます 。
参考)樹状細胞って何?
特に注目すべきは、樹状細胞がナイーブT細胞(未活性化T細胞)を活性化できる唯一の細胞である点です 。マクロファージも抗原提示機能を持ちますが、樹状細胞ほど強力ではなく、特にナイーブT細胞の活性化には限界があります 。
樹状細胞は抗原を取り込んだ後、リンパ管を通って所属リンパ節に移行し、そこでT細胞との相互作用を行います 。このプロセスにより、CD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞)とCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)の両方を効率的に活性化することができます 。
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マクロファージの食作用と組織清掃機能
マクロファージは「大食細胞」とも呼ばれ、その名前が示すように強力な食作用(貪食作用)が最大の特徴です 。マクロファージは体内に侵入した細菌、ウイルス、死んだ細胞の残骸、さらには異常な細胞まで積極的に食べて分解します 。
この食作用のプロセスでは、マクロファージが異物を小胞(食胞)として取り込み、細胞内でリソソームと融合させて加水分解酵素により分解します 。樹状細胞も食作用を持ちますが、マクロファージと比較すると食べる能力は劣ります 。
参考)Home – ★樹状細胞とiPS細胞 – Cute.Guid…
マクロファージは組織に常駐し、その場で清掃作業を継続的に行います 。肺の肺胞マクロファージや肝臓のクッパー細胞など、各組織に特化したマクロファージが存在し、それぞれの場所で体内の恒常性維持に貢献しています 。
樹状細胞の分化経路と機能的多様性
樹状細胞は骨髄の造血幹細胞から複数の分化経路を経て形成されます 。主要な分化経路として、共通リンパ球前駆細胞(CLPs)から樹状細胞前駆細胞(CDPs)を経る経路があり、Flt3シグナルの強さによって分化が制御されます 。
参考)https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2018/12/79-12-07.pdf
樹状細胞には従来型樹状細胞(cDC)と形質細胞様樹状細胞(pDC)の2つの主要なサブタイプが存在します 。形質細胞様樹状細胞は抗原提示能は低いものの、ウイルス感染に対してI型インターフェロンを大量に産生することで、ウイルス特異的な免疫応答を誘導します 。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00627.html
最近の研究では、形質細胞様樹状細胞に特化した分化能を持つ新しい樹状細胞前駆細胞も発見されており、転写因子E2-2の高発現が特徴的です 。このような分化の多様性は、樹状細胞が様々な病原体に対して適切な免疫応答を誘導できる基盤となっています。
参考)形質細胞様樹状細胞への卓越した分化能をもつ新しい樹状細胞前駆…
マクロファージのM1/M2分極化と機能的多様性
マクロファージは活性化状態により機能的にM1型とM2型に分類されます 。M1型マクロファージは病原体感染時にIFN-γやLPSによって活性化され、強い炎症性サイトカインを産生して病原体を殺傷する役割を担います 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/70/9/70_1235/_pdf
一方、M2型マクロファージはIL-4やIL-13の刺激により誘導され、炎症反応の抑制や組織修復に関与します 。M2型はさらにM2a(IL-4誘導)、M2b(免疫複合体誘導)、M2c(IL-10誘導)のサブクラスに細分化されています 。
参考)M1/M2型マクロファージ|キーワード集|実験医学onlin…
しかし、近年の研究ではM1/M2の二項分類は単純化しすぎた考え方とされ、実際のマクロファージは両者の形質を併せ持つことが多く、病態の経過に応じて形質が変化することが知られています 。現在では単細胞解析技術により、各種マーカーの発現プロファイルに基づいてマクロファージ亜群の機能が議論されています 。
参考)https://www.bio-rad.com/sites/default/files/2022-08/Macrophage_Z12049L.pdf
樹状細胞ワクチン療法における臨床応用の違い
樹状細胞の優れた抗原提示能力は、がん免疫療法における樹状細胞ワクチン療法として臨床応用されています 。この治療法では、患者の血液から取り出した単球を樹状細胞に分化させ、がん抗原を記憶させてから体内に戻すことで、キラーT細胞によるがん攻撃を誘導します 。
樹状細胞ワクチン療法の特徴として、患者自身の細胞を使用するため副作用が非常に少なく、転移がんや再発予防にも効果が期待できる点があります 。樹状細胞の研究者であるラルフ・スタインマン博士は、この発見により2011年にノーベル生理医学賞を受賞しました 。
参考)樹状細胞
マクロファージも免疫療法の分野で注目されていますが、主にM1/M2分極化の制御を通じた治療戦略が検討されています。例えば、がん組織内のM2型マクロファージをM1型に転換させることで、抗腫瘍免疫を増強する試みが行われています。
両細胞の臨床応用における最大の違いは、樹状細胞が特異的な抗原認識とT細胞活性化に特化しているのに対し、マクロファージは組織環境の調節と炎症制御により治療効果を発揮する点にあります。この機能的差異により、それぞれ異なる治療戦略において重要な役割を果たしています。