除細動 適応外となる心電図波形と心肺蘇生法の実践

除細動の適応と適応外の波形

除細動適応判断のポイント

除細動適応波形

心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(P-VT)は除細動の適応となります。これらの波形では早期の除細動が救命率を高めます。

除細動適応外波形

心静止(Asystole)と無脈性電気活動(PEA)は除細動の適応外です。これらの場合は直ちにCPRを実施し、原因検索を行います。

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時間との勝負

心停止から除細動までの時間が1分遅れるごとに救命率は約10%低下します。波形の迅速な判断と適切な処置が重要です。

心肺停止患者に対する救命処置において、除細動の適応判断は非常に重要です。すべての心肺停止に対して除細動が有効なわけではなく、心電図波形によって適応と適応外が明確に分かれています。医療従事者として、これらの波形を正確に判断し、適切な処置を迅速に行うことが患者の救命率に直結します。

除細動の適応となる心室細動(VF)の特徴と対応

心室細動(VF)は、心肺停止の原因として最も多く見られる心電図波形です。この状態では心室が不規則に細かく震えており、効果的な血液の拍出ができていません。心電図上では基線が不規則に波打った特徴的な波形として現れます。

VFの主な特徴は以下の通りです。

  • 不規則で粗い波形から細かい波形まで様々
  • 明確なQRS波、P波、T波が識別できない
  • 振幅(波の高さ)は時間経過とともに小さくなる傾向がある

VFを認めた場合の対応手順。

  1. 直ちに除細動の準備を行う
  2. 胸骨圧迫を中断せずに除細動器を装着
  3. 心電図解析のために一時的に胸骨圧迫を中断
  4. VFが確認されたら除細動を実施(成人の場合、二相性除細動器で120-200J)
  5. 除細動後は直ちに胸骨圧迫を再開(脈拍確認のための中断はしない)

心室細動に対する除細動は、心臓全体に電気ショックを与えることで不規則な電気活動をリセットし、洞調律への回復を図る処置です。VFが発生してから時間が経過するほど除細動の成功率は低下するため、早期発見・早期除細動が極めて重要です。

除細動の適応となる無脈性心室頻拍(P-VT)の判断基準

無脈性心室頻拍(P-VT)は、心室から異常に速い頻度で規則的な電気信号が発生している状態ですが、効果的な心拍出量が得られず、脈が触知できない状態です。心電図上では規則的な幅広いQRS波形が連続して出現します。

P-VTの主な特徴。

  • 心拍数が通常150回/分以上の速い心拍数
  • 規則的なリズム
  • 幅広いQRS波形(0.12秒以上)
  • P波が識別できないか、QRS波形と無関係

P-VTの判断と対応。

  1. 意識・呼吸・脈拍の確認(脈拍がない場合はP-VTと判断)
  2. 直ちに心肺蘇生を開始
  3. 除細動器を装着し、VTを確認
  4. 無脈性であることを確認後、VFと同様のエネルギー設定で除細動を実施
  5. 除細動後は直ちに胸骨圧迫を再開

P-VTは見た目の心電図波形だけでは脈のある心室頻拍と区別できないため、必ず患者の状態(意識・呼吸・脈拍)を確認することが重要です。脈がない場合のみ除細動の適応となります。

除細動適応外となる心静止(Asystole)の波形と救命処置

心静止(Asystole)は、心臓の電気的活動が完全に停止した状態です。心電図上では基線(ほぼ平坦な直線)のみが表示され、P波、QRS波、T波などの波形が全く見られません。この状態は「フラットライン」とも呼ばれます。

心静止の特徴。

  • 心電図上でほぼ平坦な直線が続く
  • わずかな基線の揺れはあるが、明確な波形は認められない
  • 電極の接触不良や機器の不具合でも類似した波形が出ることがあるため、確認が必要

心静止に対する対応。

  1. 除細動は適応外であるため実施しない
  2. 直ちに質の高い胸骨圧迫を含む心肺蘇生法(CPR)を継続
  3. 気道確保と人工呼吸を実施
  4. 可能であれば静脈路を確保し、エピネフリン1mgを3-5分ごとに投与
  5. 可逆的な原因(低酸素血症、低/高カリウム血症、低体温など)の検索と治療

心静止は予後が非常に厳しい状態ですが、迅速かつ適切なCPRと原因治療により救命できる可能性があります。特に低体温や薬物中毒などが原因の場合は、長時間のCPRでも良好な神経学的転帰が得られることがあります。

心静止に対して誤って除細動を行っても効果はなく、むしろCPRの中断時間が増えるため有害となる可能性があります。そのため、波形の正確な判断が非常に重要です。

除細動適応外の無脈性電気活動(PEA)の識別と原因検索

無脈性電気活動(PEA)は、心電図上では正常あるいはそれに近い電気的活動が見られるにもかかわらず、有効な心拍出がなく脈が触知できない状態です。以前は「電気機械解離(EMD)」とも呼ばれていました。

PEAの特徴。

  • 心電図上では正常に近い波形(QRS波形が確認できる)
  • 脈拍が触知できない
  • 様々な原因疾患により発生する二次的な病態

PEAの主な原因(4H・4T)。

  • Hypovolemia(循環血液量減少)
  • Hypoxia(低酸素血症)
  • Hydrogen ion(アシドーシス
  • Hypo/Hyperkalemia(低/高カリウム血症)
  • Tension pneumothorax(緊張性気胸)
  • Tamponade, cardiac(心タンポナーデ
  • Toxins(中毒)
  • Thrombosis(肺塞栓症、冠動脈閉塞)

PEAに対する対応。

  1. 除細動は適応外であるため実施しない
  2. 質の高いCPRを継続
  3. 気道確保と酸素投与
  4. 静脈路確保とエピネフリン投与(1mg、3-5分ごと)
  5. 原因検索と治療(超音波検査などを活用)

PEAは原因疾患の治療が最も重要であり、原因が特定され適切に対処されれば、救命の可能性が高まります。特に院内発症のPEAでは、低酸素血症や循環血液量減少が多いと報告されています。

除細動の時間的効果と救命率への影響

心停止、特に心室細動(VF)や無脈性心室頻拍(P-VT)に対する除細動は、時間との勝負です。心停止から除細動までの時間が救命率と神経学的予後に大きく影響します。

時間経過と救命率の関係。

  • 心停止から除細動までの時間が1分遅れるごとに、救命率は約7-10%低下する
  • VF発症から3分以内の除細動では、救命率は50-70%に達する
  • 10分以上経過すると救命率は極めて低くなる(5%未満)

この時間依存性の理由は、心室細動が時間経過とともに「粗い」VFから「細かい」VFへと変化し、除細動に反応しにくくなるためです。また、心停止状態が長引くと組織の虚血が進行し、多臓器不全や脳障害のリスクが高まります。

効果的な救命のための戦略。

  1. 早期認識と通報
  2. 早期のCPR開始
  3. 早期の除細動
  4. 専門的な救命処置(薬剤投与など)
  5. 心拍再開後の集中治療

医療機関内では、除細動器へのアクセスを容易にし、スタッフ教育を徹底することで、除細動までの時間を短縮する取り組みが重要です。また、一般市民に対するAED(自動体外式除細動器)の普及と教育も、院外心停止の救命率向上に大きく貢献しています。

日本では2004年7月より一般市民によるAEDの使用が認められるようになり、公共施設や学校、スポーツ施設などへの設置が進んでいます。AEDは自動的に心電図を解析し、除細動が必要な場合のみショックを与えるよう設計されているため、適応外の波形に対して誤って除細動が行われる心配はありません。

除細動適応外波形に対する効果的な心肺蘇生法の実践

除細動適応外の心電図波形である心静止(Asystole)や無脈性電気活動(PEA)に対しては、質の高い心肺蘇生法(CPR)の継続が最も重要な救命処置となります。

質の高いCPRの要素。

  1. 適切な胸骨圧迫の深さ(成人で5-6cm)
  2. 適切な圧迫速度(100-120回/分)
  3. 胸郭の完全な戻り
  4. 胸骨圧迫の中断を最小限にする
  5. 過換気を避ける

CPRの実施手順。

  • 反応と正常な呼吸の確認
  • 応援と除細動器(AED)の要請
  • 頸動脈の触知(10秒以内)
  • 脈拍がなければCPRを開始
  • 30回の胸骨圧迫と2回の人工呼吸を繰り返す(救助者が2人以上の場合)
  • 除細動器が到着したら心電図を確認

心静止やPEAに対するCPRでは、特に以下の点に注意が必要です。

  • 胸骨圧迫の質を維持するため、救助者は2分ごとに交代することが推奨される
  • 気管挿管後は胸骨圧迫を中断せず、毎分10回程度の換気を行う
  • エピネフリンは3-5分ごとに1mgを投与(静脈路確保後)
  • 心電図モニターは継続し、VF/VTへの移行を監視

また、心静止やPEAの原因となりうる可逆的な要因(4H・4T)の検索と治療も並行して行うことが重要です。特に、超音波検査は心タンポナーデや大量肺塞栓症、重度の左室機能不全などの診断に有用です。

医療機関では、心肺停止患者に対するチーム医療の質を向上させるため、定期的なシミュレーション訓練やデブリーフィング(振り返り)を実施することが推奨されています。これにより、実際の救命現場での対応力が向上し、患者の予後改善につながります。

心肺蘇生法の国際ガイドラインは5年ごとに更新されるため、最新の知見に基づいた実践が求められます。医療従事者は定期的な講習会への参加や自己学習を通じて、知識と技術を更新していくことが重要です。

除細動器の種類と適応外波形に対する安全機能

現在使用されている除細動器には、手動式と自動体外式(AED)の2種類があります。それぞれに特徴があり、特に適応外波形に対する安全機能が備わっています。

手動式除細動器の特徴。

  • 医療従事者(主に医師)が使用
  • 心電図波形の判断と除細動エネルギーの設定を操作者が行う
  • 同期モード(カルディオバージョン)と非同期モード(除細動)の切り替えが可能
  • 波形表示や印刷機能を備えている

AED(自動体外式除細動器)の特徴。

  • 一般市民を含む非医療従事者でも使用可能
  • 自動的に心電図を解析し、除細動の適応を判断
  • 音声ガイダンスにより使用手順を指示
  • 除細動適応外の波形(心静止やPEA)には電気ショックを与えない安全機能

除細動器の安全機能。

  1. 波形解析アルゴリズム
    • VF/VTの特徴的なパターンを認識
    • 心静止やPEAなどの除細動適応外波形を識別
    • 動きのアーチファクトを検出し誤作動を防止
  2. インピーダンス測定
    • 電極と皮膚の接触状態を確認
    • 不適切な接触状態では警告を発する
  3. エネルギー設定の制限
    • 過剰なエネルギー設定を防止
    • 小児用モードでは自動的にエネルギーを減量

最新の除細動器では、波形解析の精度が向上し、除細動適応外の波形に対する誤った電気ショックのリスクが大幅に低減されています。特にAEDは、心電図解析アルゴリズムにより、VF/VTを高い感度と特異度で検出し、心静止やPEAに対しては除細動を行わないよう設計されています。

医療機関では、除細動器の定期的な点検とスタッフへのトレーニングが重要です。特に手動式除細動器を使用する場合は、波形判断の教育と訓練が必須となります。

日本では、2004年7月の厚生労働省通知により、非医療従事者によるAEDの使用が認められるようになりました。これにより、公共施設や学校、スポーツ施設などへのAED設置が進み、院外心停止の救命率向上に貢献しています。AEDは自動的に心電図を解析し、除細動が必要な場合のみショックを与えるよう設計されているため、適応外の波形に対して誤って除細動が行われる心配はありません。

医療従事者は、除細動器の適切な使用方法と波形判断の知識を持ち、緊急時に迅速かつ適切な対応ができるよう、日頃から訓練を重ねることが重要です。

除細動適応外波形における予後改善のための最新知見

心静止(Asystole)や無脈性電気活動(PEA)などの除細動適応外波形は、一般的にVF/VTよりも予後が不良とされていますが、近年の研究により予後改善のための新たな知見が蓄積されています。

予後改善のための最新アプローチ。

  1. エンドタイダルCO2(ETCO2)モニタリング
    • 心肺蘇生中のCPR質の評価指標として有用
    • ETCO2値の上昇は自己心拍再開(ROSC)の予測因子となる
    • 10mmHg未満の持続的な低値は予後不良の指標
  2. 体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた心肺蘇生(ECPR)
    • 従来のCPRで反応がない症例に対する救命手段
    • 特に若年者や可逆的原因による心停止例で有効性が報告
    • 心停止から60分以内のECMO導入が望ましい
  3. 超音波ガイド下の心肺蘇生
    • 心タンポナーデや肺塞栓症などの可逆的原因の迅速な診断
    • 胸骨圧迫の質の評価
    • 自己心拍再開の早期認識
  4. 標的体温管理(TTM)
    • 自己心拍再開後の神経学的予後改善に寄与
    • 32-36℃の体温管理を24時間以上継続
    • 特に初期波形がVF/VTの症例で有効性が高い
  5. バンドル・アプローチ
    • 複数の有効な介入を組み合わせたプロトコル
    • 早期認識、質の高いCPR、原因治療、蘇生後ケアの統合
    • チームアプローチによる継続的な質改善

最近の研究では、PEAの中でも心エコーで心収縮が確認できる「疑似PEA」は、真のPEAよりも予後が良好であることが示されています。このような症例では、適切な原因治療により救命できる可能性が高まります。

また、心停止の原因によっても予後は大きく異なります。例えば、低体温による心停止は、長時間経過していても神経学的に良好な転帰が期待できることがあります。そのため、「温かくなるまで死んでいない(You’re not dead until you’re warm and dead)」という原則が重要です。

医療機関では、心肺停止患者のデータを収集・分析し、継続的な質改善活動を行うことが推奨されています。日本では、日本蘇生協議会(JRC)が中心となって、最新のエビデンスに基づいた蘇生ガイドラインを定期的に更新しています。

心肺蘇生法の教育においても、単なる技術訓練だけでなく、チームワークやリーダーシップ、コミュニケーションスキルの向上を目指した包括的なアプローチが重要視されています。これにより、実際の救命現場での対応力が向上し、患者の予後改善につながることが期待されます。

除細動適応外波形に対する救命率向上のためには、医療従事者の継続的な教育と訓練、最新のエビデンスに基づいた診療プロトコルの導入、そして医療機器や治療法の進歩を取り入れた総合的なアプローチが不可欠です。