人工呼吸器の種類と換気モードの使い分け方

人工呼吸器の種類と特徴

人工呼吸器の基本分類
🔄

手動式と機械式

手動式はBVMなどの用手的人工呼吸、機械式は電気で駆動する一般的な人工呼吸器

💨

陽圧式と陰圧式

陽圧式は肺に空気を送り込む方式、陰圧式は胸郭の外から陰圧をかけて空気を引き込む方式

🏥

侵襲的と非侵襲的

侵襲的は気管挿管や気管切開を伴うIPPV、非侵襲的はマスクを用いるNPPV

人工呼吸器は、呼吸機能が低下した患者の呼吸を補助または代行するための医療機器です。様々な種類があり、患者の状態や治療目的に応じて適切に選択することが重要です。人工呼吸器は大きく分けると、手動式と機械式、陽圧式と陰圧式、侵襲的と非侵襲的に分類されます。また、広義には体外循環式も人工呼吸器の一種として含まれます。

人工呼吸器の選択は、患者の病態や治療方針によって異なります。例えば、急性呼吸不全の患者には侵襲的陽圧換気(IPPV)が選択されることが多く、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪などには非侵襲的陽圧換気(NPPV)が選択されることがあります。

それでは、各種類の人工呼吸器について詳しく見ていきましょう。

人工呼吸器の侵襲的陽圧換気(IPPV)の特徴と適応

侵襲的陽圧換気(IPPV: Invasive Positive Pressure Ventilation)は、気管内挿管や気管切開を介して行う人工呼吸法です。IPPVの主な特徴は以下の通りです。

  • 確実な気道確保ができる
  • 細かい換気設定が可能
  • 気道内吸引が容易
  • 誤嚥の可能性が低い
  • 呼吸・循環管理がしやすい

一方で、IPPVには以下のようなデメリットもあります。

  • 気管内チューブ・吸引により患者に苦痛が伴う
  • 場合によっては鎮静剤が必要
  • 感染リスクが高まる
  • 気道・口腔粘膜損傷の可能性がある
  • コミュニケーションがとりにくい
  • 患者の活動に制限がでる

IPPVの適応としては、アメリカ心臓協会(AHA)によると以下のような場合が挙げられています。

  • 長時間の換気が必要な場合
  • 患者の移送が必要な場合
  • 自力で気道の開通性が維持できない場合
  • 食道と気道を分離する必要がある場合

現在の医療現場では「侵襲的な処置は最後の手段」という考え方が広まりつつあり、可能であれば非侵襲的な方法を優先する傾向にあります。しかし、重症呼吸不全や意識障害を伴う場合など、状況によってはIPPVが第一選択となることもあります。

人工呼吸器の非侵襲的陽圧換気(NPPV)のメリットとデメリット

非侵襲的陽圧換気(NPPV: Non-invasive Positive Pressure Ventilation)は、マスクを介して行う人工呼吸法で、気管挿管や気管切開などの侵襲的処置を必要としません。NPPVの主なメリットには以下のようなものがあります。

  • 気管チューブによる人工呼吸の合併症を回避できる
  • 鎮静を行う必要性が大幅に減少する
  • IPPVと比較してコミュニケーションがとりやすい
  • 患者は飲食も可能

一方、NPPVのデメリット

  • 確実な気道確保ができない
  • マスクを使用するためリークが多くなる
  • 効果的な気道内吸引ができない
  • 誤嚥のリスクがある

NPPVは主に以下のような状況で使用されます。

  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪
  • 心原性肺水腫
  • 免疫不全患者の呼吸不全
  • 術後の呼吸不全
  • 抜管後の呼吸不全予防

NPPVには様々なモードがあり、患者の状態に応じて選択します。

  1. Sモード:自発呼吸を感知して作動するモード
  2. Tモード:自発呼吸とは無関係に作動するモード
  3. S/Tモード:自発呼吸に合わせて作動し、呼吸を感知しなくなるとTモードに切り替わる
  4. CPAP:一定の陽圧を気道に加えるモード(睡眠時無呼吸症候群によく使用)
  5. ASV:自発呼吸がなくても強制的に陽圧をかけ換気を促すモード

NPPVは適切な症例を選択することで、侵襲的人工呼吸を回避し、患者のQOL向上に貢献することができます。

人工呼吸器の換気モードと設定項目の基本知識

人工呼吸器の換気モードは、患者の肺にガスを送る方式・様式のことで、患者の自発呼吸の有無や換気を量や圧力により規定されています。主な換気モードには以下のようなものがあります。

  1. A/C(Assist/Control):強制換気主体のモード
    • 患者の自発呼吸を感知すると、設定した換気量や圧で補助
    • 自発呼吸がない場合は設定した回数で強制換気を行う
  2. SIMV(Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation):自発呼吸とシンクロするモード
    • 設定した回数の強制換気を患者の自発呼吸に同期させて行う
    • 強制換気の間の自発呼吸は圧サポート(PS)で補助することも可能
  3. PS/CPAP・SPONT:自発呼吸を補助するモード
    • 患者の自発呼吸のみで換気を行い、必要に応じて圧サポートを加える

人工呼吸器で設定が必要な主な項目は以下の5つです。

  1. 酸素濃度(FiO2)
    • 通常は100%で開始し、動脈血酸素分圧(PaO2)を見ながら調整
    • 持続的な高濃度酸素暴露による肺障害を予防するため、48-72時間以内に50%以下を目指す
  2. 1回換気量(VT)・1回吸気圧(Pinsp)・圧支持(PS)
    • 量換気の場合:6-10 mL/kg(予測体重)を目安に設定
    • 圧換気の場合:肺胞内圧が30 cmH2O以下になるよう設定
    • 予測体重は性別と身長から計算式で求める
  3. 換気回数(f)
    • 通常10-16回/分を目安に設定
    • 分時換気量(= VT × f)を調整し、PaCO2値を目標範囲内に維持
  4. PEEP(Positive End-Expiratory Pressure)
    • 通常5-15 cmH2O程度で設定
    • 酸素化の改善と肺胞虚脱の予防が目的
  5. 吸気時間(Tinsp)またはI:E比
    • 通常0.7-1.2秒程度
    • 肺の病態や患者との同調性を目安に調整

これらの設定は患者の状態に合わせて適宜調整する必要があります。特に肺保護戦略の観点から、過大な一回換気量や高い気道内圧は避け、VALI(人工呼吸器関連肺損傷)の予防に努めることが重要です。

人工呼吸器の従量式換気と従圧式換気の違いと選択基準

人工呼吸器の換気方式には、大きく分けて従量式換気(VCV: Volume Control Ventilation)と従圧式換気(PCV: Pressure Control Ventilation)の2種類があります。それぞれの特徴と選択基準について解説します。

従量式換気(VCV)の特徴

  • 設定した一回換気量を確実に送り込む
  • 肺のコンプライアンスや気道抵抗の変化に関わらず、一定の換気量を維持
  • 気道内圧は肺の状態によって変動する
  • 肺の状態が悪化すると高い気道内圧が発生する可能性がある

従圧式換気(PCV)の特徴

  • 設定した圧力で換気を行う
  • 気道内圧が一定に保たれるため、肺の過膨張を防ぐことができる
  • 換気量は肺のコンプライアンスや気道抵抗によって変動する
  • 肺の状態が悪化すると換気量が減少する可能性がある

選択基準

  1. 肺保護の観点
    • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)など肺障害リスクが高い場合は、過大な気道内圧を避けるため従圧式換気が選択されることが多い
  2. 換気の安定性
    • 安定した換気量が必要な場合(例:代謝性アシドーシスの補正)は従量式換気が有用
  3. 患者の快適性
    • 従圧式換気は流量波形が減衰型となり、患者の呼吸パターンに近いため快適性が高いとされる
  4. 肺の不均一性
    • 肺の状態が不均一(例:片側性肺炎)の場合、従圧式換気では健常部への過膨張を防ぎつつ、病変部への換気も行える

近年の臨床現場では、従量式と従圧式の両方の利点を組み合わせた「デュアルコントロールモード」も普及しています。これは、圧制限下での従量式換気や、目標換気量を達成するための圧を自動調整するモードなどがあります。

実際の臨床では、患者の状態、治療目標、肺の病態などを総合的に判断して換気方式を選択することが重要です。また、一度選択した換気方式でも、患者の状態変化に応じて適宜変更を検討する必要があります。

人工呼吸器のアラーム設定と患者観察のポイント

人工呼吸器を安全に使用するためには、適切なアラーム設定と患者観察が不可欠です。ここでは、アラーム設定の基本と患者観察のポイントについて解説します。

アラームの種類と設定

人工呼吸器のアラームは、緊急度により以下の3種類に分類されます。

  1. 緊急アラーム:患者の生命に直結する異常を知らせるアラーム
  2. 注意喚起アラーム:早急な対応が必要な状態を知らせるアラーム
  3. アラームリマインド:設定変更などの確認を促すアラーム

主要なアラーム項目と設定のポイント。

  • 高圧アラーム
    • 通常、最高気道内圧の10-15 cmH2O上に設定
    • 気道閉塞や分泌物貯留、気管チューブのキンクなどを検知
  • 低圧/低換気量アラーム
    • 回路の接続不良や患者からの回路外れを検知
    • 通常、設定圧または換気量の20-30%下に設定
  • 無呼吸アラーム
    • 自発呼吸の停止を検知
    • 通常、15-20秒程度に設定
  • 高呼吸回数アラーム
    • 頻呼吸を検知
    • 通常、設定回数の1.5-2倍程度に設定
  • 酸素濃度アラーム
    • 設定酸素濃度からの逸脱を検知
    • 通常、設定値の±5-10%に設定

    アラーム設定の重要な原則は、「自分の対応できる限界値」を考えて設定することです。決して「患者の生命の限界値」にしてはいけません。つまり、患者に危険が及ぶ前に警告が出るよう設定する必要があります。

    患者観察のポイント

    人工呼吸器装着患者の観察では、以下の5つの視点が重要です。

    1. 酸素化
      • SpO2モニタリング
      • 動脈血ガス分析の結果確認
      • 皮膚・粘膜の色調観察
    2. 血行動態
      • 血圧、心拍数、心電図モニタリング
      • 末梢循環の状態(末梢冷感、毛細血管再充満時間など)
    3. 自発呼吸
      • 呼吸回数と深さ
      • 人工呼吸器との同調性
      • 呼吸パターンの変化
    4. 呼吸パターン
      • 努力性呼吸の有無
      • 呼吸補助筋の使用
      • 奇異呼吸(胸腹部の非同期運動)の有無
    5. 全身状態
      • 意識レベル
      • 体温
      • 疼痛の有無
      • 鎮静・鎮痛の状態

    人工呼吸器モニタの観察ポイント

    • 最高気道内圧、平均気道内圧、PEEPの確認
    • 吸気時間中の気道内圧の変化パターン
    • 換気量と分時換気量の変動
    • フロー波形と圧波形のパターン

    人工呼吸器モニタの値だけでなく、患者の全身状態と合わせて総合的に評価することが重要です。特に、VALI(人工呼吸器関連肺損傷)の徴候がないか、肺保護戦略による人工呼吸管理が適切に行われているかを常に観察する必要があります。

    人工呼吸器の在宅使用と体外循環式人工呼吸の特徴

    医療技術の進歩により、人工呼吸器は病院内だけでなく在宅でも使用されるようになりました。また、従来の人工呼吸器とは異なるアプローチとして体外循環式人工呼吸も発展しています。ここでは、これらの特殊な人工呼吸管理について解説します。

    在宅人工呼吸器の特徴

    在宅人工呼吸器は、長期的な人工呼吸管理が必要な患者が自宅で使用できるよう設計されています。主な特徴は以下の通りです。

    • 操作が簡便で、専門的な医療知識がなくても使用可能
    • バッテリー容量が強化されており、停電時にも一定時間使用可能
    • 内部にガス駆動源(タービンやピストン)を搭載し、医療用ガスを必要としない
    • 酸素濃度を上げる場合は、在宅酸素療法(HOT)で使用する低圧酸素を接続
    • 持ち運びやすいコンパクトな設計
    • アラーム機能は簡略化されているが、重要な異常は検知可能

    在宅人工呼吸器は主に以下のような患者に使用されます。

    • 神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症など)
    • 慢性呼吸不全(COPD、拘束性肺疾患など)
    • 中枢性肺胞低換気症候群
    • 脊髄損傷による呼吸筋麻痺

    在宅人工呼吸器の使用には、患者や家族への十分な教育と訓練、定期的な医療機関の訪問、緊急時の対応計画などが必要です。また、在宅医療チーム(医師、看護師、理学療法士、臨床工学技士など)による多職種連携が重要です。

    体外循環式人工呼吸の特徴

    体外循環式人工呼吸は、従来の人工呼吸器とは異なり、血液を体外に取り出してガス交換を行う方法です。代表的なものにECMO(Extracorporeal Membrane Oxygenation:体外式膜型人工肺)があります。

    ECMOの主な特徴。

    • 重症呼吸不全で通常の人工呼吸器では対応できない場合に使用
    • 血液を体外に取り出し、人工肺でガス交換を行った後に体内に戻す
    • 肺の安静を保ちながら全身への酸素供給が可能
    • VV-ECMO(静脈-静脈)とVA-ECMO(静脈-動脈)の2種類がある
    • 高度な専門知識と技術が必要
    • 出血、血栓形成、感染などの合併症リスクがある

    また、より侵襲度の低い体外式CO2除去装置(ECCO2R)も開発されており、主にCO2の除去を目的とした治療に使用されています。

    陰圧式体外式陽陰圧人工呼吸器

    歴史的には、ポリオの大流行時に使用された「鉄の肺」が有名ですが、現代でも胸腹部にドーム状キュイラスを密着させ、キュイラス内を陽陰圧にすることで換気を行う装置があります。これは主に神経筋疾患患者の夜間換気サポートなどに使用されることがあります。

    これらの特殊な人工呼吸管理方法は、従来の人工呼吸器では対応が難しい患者に新たな選択肢を提供しています。しかし、それぞれに特有のリスクと管理上の注意点があるため、適応を慎重に判断し、専門的な知識と経験を持つ医療チームによる管理が必要です。

    以上、人工呼吸器の種類と特徴について詳しく解説しました。人工呼吸管理は患者の状態に合わせた適切な選択が重要であり、医療従事者は各種類の特徴、メリット・デメリット、適応などを十分に理解しておく必要があります。また、技術の進歩により人工呼吸器は日々進化しているため、最新の知見を常にアップデートすることも大切です。