尋常性ざ瘡ガイドラインと治療の実践
日本皮膚科学会が策定した「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では、尋常性ざ瘡の治療を急性炎症期と維持期に分類し、エビデンスに基づいた推奨度を明示しています。このガイドラインは、本邦における標準的な治療法を示すものとして、医療従事者にとって重要な指針となっているんですね。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/zasou2023.pdf
2008年のアダパレン導入以降、面皰に対する保険診療での治療が可能となり、その後の過酸化ベンゾイルの登場によって薬剤耐性痤瘡桿菌の増加を回避できるようになりました。2023年の改訂では、主に酒皶関連のCQ改訂が行われ、ガイドライン名称も「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」と改められたんです。
尋常性ざ瘡の重症度分類と治療選択
痤瘡重症度判定基準では、片顔にできた炎症性皮疹の数をもとに、尋常性痤瘡を4段階に分類します。軽症は片顔に炎症性皮疹が5個以下、中等症は6個以上20個以下、重症は21個以上50個以下、最重症は51個以上となっているんですよ。
参考)痤瘡重症度判定基準
この重症度分類により、症状の程度を客観的に評価できるだけでなく、病期と合わせることで治療の選択に役立ちます。例えば、急性炎症期の重症・最重症の炎症と面皰がみられる場合、内服抗菌薬とアダパレン・過酸化ベンゾイルの配合剤の併用、外用抗菌薬とアダパレンの併用などといった治療が推奨されているんです。
重症度 | 炎症性皮疹数(片顔) | 推奨される治療例 |
---|---|---|
軽症 | 5個以下 | アダパレン単剤、過酸化ベンゾイル単剤 |
中等症 | 6~20個 | 配合剤、外用抗菌薬併用 |
重症 | 21~50個 | 配合剤+内服抗菌薬併用 |
最重症 | 51個以上 | 配合剤+内服抗菌薬併用 |
尋常性ざ瘡における推奨度Aの外用治療
ガイドライン2023では、複数の外用薬が推奨度Aとして強く推奨されています。炎症性皮疹に対しては、クリンダマイシン1%/過酸化ベンゾイル3%配合ゲル、アダパレン0.1%/過酸化ベンゾイル2.5%配合ゲル、アダパレン0.1%ゲルと外用抗菌薬の併用、過酸化ベンゾイル2.5%ゲル、アダパレン0.1%ゲルが強く推奨されているんですね。
参考)蟆句クク諤ァ逞、逖。繝サ驟堤垳豐サ逋ゅぎ繧、繝峨Λ繧、繝ウ2…
過酸化ベンゾイルは強い酸化作用をもち、容易に分解してフリーラジカルを生じて、C. acnesに殺菌的に作用することで炎症性痤瘡を改善します。現時点で過酸化ベンゾイルに対する耐性菌は見つかっていないことから、耐性菌を作らない抗菌作用を持つ薬剤と位置づけられているんです。
参考)https://www.radionikkei.jp/maruho_hifuka/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-200120.pdf
日本で行われた臨床試験では、過酸化ベンゾイル2.5%ゲルの炎症性皮疹減少率は72.7%であり、プラセボの41.7%と比較して有意に高い改善を示しました。アダパレンは面皰改善に効果的な薬剤であり、毛包上皮の角化を正常化させ、新たな面皰の形成を阻害するとともに、直接的な抗炎症作用も持っているんですよ。
日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では、各治療法の詳細なエビデンスレベルと推奨度が記載されています。
尋常性ざ瘡の内服抗菌薬治療と薬剤耐性対策
内服抗菌薬は中等症以上の炎症性皮疹に対して推奨されますが、薬剤耐性菌の出現を防ぐため、使用期間と方法に注意が必要なんです。ドキシサイクリンは推奨度A、ミノサイクリンは推奨度A*、ロキシスロマイシンとファロペネムは推奨度Bとされています。
参考)ニキビ治療のお薬|大森・大木皮膚科【外用剤と内服を詳しく解説…
ドキシサイクリンは抗菌作用とともに抗炎症作用が期待され、副作用として光線過敏症があるものの、中止により軽快します。ミノサイクリンは有効性が確立していますが、めまいや色素沈着などの副作用の頻度が高く、自己免疫疾患、薬剤性過敏症症候群などの重篤な副作用があることから注意が必要なんです。
Global Allianceは、内服抗菌薬の投与は3カ月までとし、6~8週目に再評価して継続の可否を判断することを推奨しています。尋常性痤瘡治療アルゴリズム2017では、抗菌薬は急性炎症期のみに使用し、維持期には使用しないことが原則とされているんですよ。
薬剤耐性ざ瘡桿菌の出現を防ぐための対策として、過酸化ベンゾイル製剤を用いること、PK/PD、交叉耐性を考慮した抗菌剤の選択が重要とされています。
尋常性ざ瘡の維持療法と微小面皰への対応
維持期は炎症性皮疹軽快後の時期で、面皰あるいは微小面皰を主体とし、軽微な炎症を伴うことがあります。微小面皰は痤瘡の皮疹に先行して見られる病理組織学的な変化で、毛包漏斗部が閉塞し、毛包内に皮脂が貯留している状態なんです。
参考)特集 尋常性ざ瘡を知る
炎症軽快後の寛解維持には、アダパレン0.1%ゲル、過酸化ベンゾイル2.5%ゲル、アダパレン0.1%/過酸化ベンゾイル2.5%配合ゲルがいずれも推奨度Aで強く推奨されています。軽快した状態を維持するため、面皰と微小面皰に対する治療を継続し、再発あるいは継続する炎症性皮疹には耐性菌誘導の懸念のない薬剤を選択するんですね。
参考)ニキビ 尋常性座瘡|新宿高田馬場の美容皮膚科・皮膚科(保険レ…
治療開始から1年程度継続することが推奨されており、ベピオまたはディフェリンを週に1~2回、皮脂や角質が多い部位に外用します。アダパレンは炎症性皮疹よりむしろ、その前段階の非炎症性皮疹(面皰)に作用する薬であり、これにより肉眼では確認できない微小面皰という概念も生まれたんですよ。
尋常性ざ瘡のスキンケアと日常生活指導
ガイドラインでは、洗顔について1日2回が推奨されています。1日1回では悪化した症例がみられたこと、1日4回の洗顔を行った例では脱落例がみられたことが理由なんです。適切な洗顔により、ニキビの原因の一つである過剰な皮脂や毛穴の汚れを効果的に取り除き、毛穴が詰まるのを防ぎます。
参考)ニキビの正しい治し方は?ガイドラインで推奨されているニキビ治…
洗顔後の肌は皮脂が洗い流されているので、乾燥が進みやすい状態です。すぐに化粧水や乳液などで保湿して、水分と油分をバランスよく補うことが重要なんですよ。ニキビの大敵である皮脂を抑えるためにも、保湿力の高い洗顔料を選ぶことが推奨されています。
参考)https://www.laroche-posay.jp/dermclass/nomura02.html
低刺激性、ノンコメドジェニック、保湿性などの機能を備えた尋常性ざ瘡用基礎化粧品と治療薬の併用によって、治療薬による皮膚への刺激が緩和され、治療効果が高まることが期待できます。女性の尋常性ざ瘡患者ではQOL改善の目的で、低刺激性でノンコメドジェニックな化粧品を使って行う化粧(メイクアップ)の指導もスキンケアの選択肢の一つとして推奨されているんです。
ニキビ肌の正しい洗顔方法と保湿のポイントでは、動画を使った具体的なスキンケア方法が紹介されています。
国際ガイドラインとの比較から見る尋常性ざ瘡治療の展望
日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では、保険診療に基づく外用薬や抗菌薬の使用が標準治療として示されているのに対し、アメリカ皮膚科学会(American Academy of Dermatology)による2024年の診療ガイドラインでは、スピロノラクトンや経口避妊薬によるホルモン療法、イソトレチノインの使用が、重症度や病態に応じて明確に推奨されているんです。
米国の最新ガイドラインでは、18項目の推奨事項のうち「強い推奨」とされた7項目として、外用過酸化ベンゾイルの使用、アダパレン・トレチノイン・タザロテン・トリファロテンなどの外用レチノイドの使用、外用抗菌薬または経口抗菌薬の使用、そしてこれら全ての薬剤を必要に応じて併用することが含まれています。
参考)米国皮膚科学会がにきび治療ガイドラインを改訂|医師向け医療ニ…
化学ピーリングやレーザー、光治療などの物理的治療についても、米国ガイドライン内で言及されており、現時点ではエビデンスは限定的とされつつも、臨床的意義を有する可能性があると評価されているんですね。日本でも、標準治療に加えて症状や体質、ライフスタイルに応じた治療戦略が導入されており、炎症後紅斑や色素沈着、瘢痕といったにきび跡の予防・改善を目的とした美容皮膚科的治療も積極的に組み合わせられているんですよ。