時間外加算と薬局の算定要件
時間外加算・休日加算・深夜加算の算定要件と点数
薬局における「時間外加算」等の取り扱いは、調剤報酬点数表において非常に厳密に定義されており、単に「営業時間が終了したから」といって自動的に算定できるものではありません。これらの加算は、薬局が開局時間を超えて、あるいは休日や深夜に緊急的に調剤に応需する体制を評価するものであり、それぞれの区分によって基礎額に対する加算率が異なります。
まず、算定のベースとなる「基礎額」について正しく理解しておく必要があります。時間外加算等の計算において、基礎額に含まれるのは以下の項目です。
- 調剤基本料(各種加算を含む)
- 薬剤調製料
- 無菌製剤処理加算
- 調剤管理料
これら以外の、例えば薬剤費(薬価)や特定薬剤管理指導加算などの薬学管理料は、通常、基礎額には含まれません。この基礎額に対して、以下の割合で加算が行われます。
| 区分 | 加算率(基礎額に対して) | 対象となる時間帯の目安 |
|---|---|---|
| 時間外加算 | 100分の100(+100%) | おおむね午前8時前、午後6時以降(土曜は午後1時以降など) |
| 休日加算 | 100分の140(+140%) | 日曜、祝日、年末年始(12/29~1/3) |
| 深夜加算 | 100分の200(+200%) | 午後10時から翌日午前6時まで |
時間外加算の算定要件において特に注意が必要なのは、「当該薬局が表示する開局時間外」であるという点です。たとえ世間一般が夕方であっても、その薬局が「午後8時まで営業」と掲示していれば、午後7時の調剤は「開局時間内」となり、時間外加算は算定できません。逆に、午後5時に閉まる薬局であれば、午後6時の対応は時間外加算の対象となり得ます。
また、休日加算については、地域における救急医療の確保のために調剤を行う場合や、輪番制で開局している場合などが対象となります。単に「日曜日も営業しています」という通常の営業スタイル(日曜日を開局時間として届け出ている場合)では、休日加算は算定できず、後述する「夜間・休日等加算」の対象となるか、あるいは単なる通常営業として扱われる点に注意が必要です。
深夜加算は最も高い点数が設定されていますが、これも「開局時間外」であることが原則です。しかし、24時間開局している薬局などでは取り扱いが異なります。通常の薬局においては、緊急時に深夜に呼び出されて調剤を行った場合などが該当し、その労力に見合った高い評価がなされています。
これらの要件を満たすためには、行政への届出だけでなく、実態として「いつ患者が来局し、処方箋を受け付けたか」が重要な判断基準となります。処方箋の発行時刻ではなく、あくまで「薬局での受付時刻」が基準となるため、患者への案内にも配慮が必要です。
リンク先では、時間外加算等の具体的な算定要件や、開局時間の考え方について詳細なQ&Aや指導事例が掲載されています。
夜間・休日等加算と時間外加算の違いと開局時間
現場で最も混乱を招きやすいのが、「時間外加算」と「夜間・休日等加算」の違いです。この2つは名称が似ていますが、算定できるシチュエーションが「真逆」であると言っても過言ではありません。この違いを明確に理解していないと、算定漏れや誤請求の原因となります。
最大の違いは、「その時間が、薬局の開局時間(営業時間)内か、外か」という点です。
- 時間外加算(時間外・休日・深夜): 薬局の開局時間「外」に調剤を行った場合に算定する。
- 店を閉めた後に患者さんが来て対応した、あるいは休みの日に緊急で開けた場合など。
- 夜間・休日等加算: 薬局の開局時間「内」であっても、特定の日時であれば算定できる。
- 「うちは夜9時まで営業しています」という薬局に、午後8時に患者さんが来た場合など。
つまり、夜間・休日等加算は、患者の利便性のために「夜遅くや休日もお店を開けて頑張っている薬局」を評価する点数です。一方で、時間外加算は「本来は休みの時間なのに、無理をして対応したこと」への対価と言えます。したがって、この2つを同時に重複して算定することはできません。
夜間・休日等加算の対象となる時間は以下の通り定められています(2024年度改定時点の情報をベースとしています)。
- 平日:午後7時 ~ 午前8時
- 土曜:午後1時 ~ 午前8時
- 休日:終日(日曜、祝日、年末年始)
ここで重要なのが「地域支援体制加算」との兼ね合いです。地域支援体制加算を算定している薬局の場合、平日や土曜日の夜間・休日等加算は算定できない(包括される)というルールがある場合がありますが、休日に関しては算定可能など、改定によって細かなルールが変動します。自身の薬局が地域支援体制加算の届出を行っているかどうかで、算定可否が変わるため確認が必要です。
また、「時間外加算の特例」というややこしいルールも存在します。これは、救急医療の確保のために国や自治体の要請を受けて開局している場合など、特定の条件下では「開局時間内」であっても、特例として時間外加算(100/100)を算定できるというものです。しかし、一般の薬局が独自に営業時間を延長しているだけではこの特例は適用されません。
誤って算定しやすい例として、「土曜日の午後2時」が挙げられます。
- 土曜13時閉店の薬局で、14時に急患対応した → 時間外加算(開局時間外のため)
- 土曜18時閉店の薬局で、14時に通常通り受付した → 夜間・休日等加算(開局時間内だが、対象時間帯のため)
このように、自局の「届出上の開局時間」が判断の生命線となります。シフト変更などで臨時に開局時間を延長した場合などの取り扱いについても、基本ルールに立ち返って「届出時間内か外か」で判断する必要があります。
リンク先には、調剤報酬点数表の解釈に関する通知が掲載されており、時間外加算と夜間・休日等加算の定義や特例に関する詳細な公式見解を確認できます。
クレームを防ぐための掲示と説明のポイント
時間外加算に関するトラブルで最も多いのが、患者さんからの「なぜ料金が高くなっているのか」というクレームです。特に、「病院での待ち時間が長かったせいで薬局に来るのが遅くなったのに、なぜ薬局で追加料金を取られるのか」という不満は、現場で頻繁に耳にします。
こうしたクレームを未然に防ぐためには、以下の2つの対策が不可欠です。
- わかりやすい場所への掲示
- 受付時の口頭説明(インフォームド・コンセント)
まず、掲示についてです。算定要件としても、「開局時間を当該保険薬局の内側及び外側の分かりやすい場所に表示する」ことが求められています。しかし、単に時間を貼るだけでは不十分です。「平日の18時以降、土曜の13時以降は、法令に基づき時間外の加算が発生します」といった具体的な注意書きを、入口や受付カウンターの目立つ位置に掲示することが推奨されます。特に、自動ドアの目線の高さや、保険証を出すトレーの近くなど、必ず目に入る場所に設置することが効果的です。
次に、受付時の説明です。これが最も重要かつ、独自のノウハウが必要な部分です。
患者さんが「病院が混んでいたから」と主張する場合、彼らは「自分には非がない(遅刻したわけではない)」と考えています。ここで事務的に「決まりですから」と伝えると、火に油を注ぐことになります。
効果的な説明のフローとしては、以下のようなアプローチがあります。
- 共感と事実の提示: 「病院、大変混雑していたんですね、お疲れ様でした。ただ、現在のお時間が18時を過ぎておりまして、国の定めで夜間の加算がかかってしまう時間帯になりますが、よろしいでしょうか?」
- 選択肢の提示: 「もしお急ぎでなければ、明日以降の開局時間内に処方箋をお持ちいただければ、この加算はかかりませんが、いかがなさいますか?」
このように、「加算がかかること」を事前に伝え、かつ「患者自身に選択してもらう」という手順を踏むことで、多くのクレームは回避できます。後から明細書を見て気づくのと、先に納得して調剤を受けるのとでは、患者さんの心証は天と地ほど違います。
また、意外な盲点として「お薬手帳」の持参忘れ防止と同様に、時間外加算についてもWebサイトやGoogleマップの店舗情報などで啓蒙しておくことも、現代的な対策の一つです。最近は来局前にスマホで営業時間を調べる患者さんが多いため、Web上に「18時以降は夜間対応の加算があります」と明記しておくだけでも、一定の理解を得やすくなります。
スタッフ間でのロールプレイングも有効です。特に新人の事務スタッフが、威圧的な患者さんに詰め寄られて独断で加算を外してしまう(不当な値引きとなる恐れがあります)といった事態を避けるためにも、明確な対応マニュアルを作成し、組織として一貫した対応ができるように準備しておきましょう。
24時間開局や特例における時間外加算の取り扱い
一般的な薬局とは異なり、24時間開局している薬局や、地域医療の拠点として特別な役割を担う薬局においては、時間外加算の取り扱いが特殊になります。ここは検索上位の記事でもあまり深く掘り下げられていない、プロフェッショナルな領域ですが、知っておくと地域連携の際に役立ちます。
原則として、24時間開局している薬局は「開局時間外」という概念が存在しないため、通常の時間外加算は算定できません。いつでも開いているのが当たり前だからです。しかし、これには例外があります。
【特例の対象となるケース】
地域医療の確保のために必要と認められ、特定の施設基準を満たしている薬局(例えば、輪番制に参加している、地域医療支援病院の門前で夜間対応を求められている等)においては、たとえ店を開けていても、あるいは24時間営業であっても、特定の時間帯においては時間外加算(またはそれに準ずる評価)が認められる場合があります。
具体的には、「当該地域において一般の保険薬局がおおむね調剤応需の態勢を解除してから、翌日調剤応需の態勢を再開するまでの時間」において調剤を行った場合、特例として算定が可能になることがあります。これは、深夜や休日の負担が非常に大きい24時間対応薬局の経営を持続可能にするための措置です。
また、2024年度改定以降の流れとして、在宅医療や緊急時の対応がより重視されています。例えば、「連携強化加算」などを算定している薬局が、災害時や新興感染症の流行時に、行政からの要請を受けて臨時で長時間開局する場合なども、通常のルールとは異なる運用が求められる可能性があります。
意外な落とし穴として、「開局時間の延長」と「時間外加算」の関係があります。
例えば、通常18時閉店の薬局が、インフルエンザ流行期で近隣クリニックが20時まで診療することになり、それに合わせて20時まで店を開け続けた場合。
この場合、18時~20時は「臨時的に開局時間を延長した」とみなされ、時間外加算ではなく夜間・休日等加算の対象(または単なる開局時間内)となる可能性が高いです。時間外加算はあくまで「店を閉めた後」や「本来の休み」に対する評価であるため、常態化して店を開けているとみなされると、指導監査で指摘されるリスクがあります。
「常態として調剤応需の体制をとっている」かどうかが判断の分かれ目です。
- 電話がかかってきてから店舗を開けて対応した → 時間外加算(OK)
- 患者が来るかもしれないから、シャッターを開けてスタッフが待機していた → 開局時間内とみなされる可能性(時間外加算NG)
この線引きは非常に曖昧で、都道府県の指導方針によっても解釈が異なる場合があります。特例やグレーゾーンと思われる運用を行う場合は、必ず管轄の厚生局に確認をとることが、経営リスクを回避する賢明な手段です。
リンク先では、診療報酬改定の議論のプロセスや、加算が設定された背景にある「特例」の意図などを深く知ることができます。
指導監査で指摘されないための薬剤服用歴への記載
最後に、薬局経営において最も恐ろしい「個別指導・適時調査(指導監査)」対策としての時間外加算のポイントを解説します。時間外加算を算定した際、レセプト(請求明細)にその事実が載るのは当然ですが、それだけでは不十分です。
薬剤服用歴(薬歴)への記載が不備であれば、監査で返戻(返金)を求められる可能性が高いです。
指導監査において、時間外加算等の算定で必ずチェックされるのが、「処方箋を受付した具体的な時刻」の記録です。
多くの薬局では、レセコン(調剤報酬請求事務用コンピュータ)が入力を開始した時刻を自動的にログとして残していますが、監査で求められるのは「患者が処方箋を窓口に出した時刻」の記録です。
例えば、以下のようなケースを想像してください。
- ケース: 平日の17:55に患者が来局し、処方箋を出した。入力や調剤に時間がかかり、会計をしたのが18:10だった。
- 判定: この場合、受付は18時前(営業時間内と仮定)なので、時間外加算は算定できません。
しかし、もし薬歴に何も記載がなく、レセコンの入力完了時刻である18:10だけが記録に残っていると、監査官は「18:10に受け付けたのか、それとも処理が終わったのが18:10なのか」を判断できません。逆に、18:05に来た患者さんに対して正当に時間外加算を算定していても、薬歴に「18:05受付」という明記がなければ、「本当に時間外に来たのか?」という疑義を持たれる可能性があります。
したがって、時間外加算等の算定を行う際は、以下の情報を必ず薬剤服用歴の「指導文」や「備考欄」に残すルールを徹底してください。
- 受付時刻: 「18:15 受付」など明確に。
- 来局の経緯: 「緊急の疼痛管理のため来局」「医師より緊急調剤の連絡あり」など。
- 加算の了承: 「時間外加算について説明し、了承を得た」という記録。
特に3点目の「了承」の記録は、先述したクレーム対策としても有効であり、かつ「患者への説明義務を果たした」という証拠になります。
また、2024年度改定以降、医療DXの推進により、電子処方箋やオンライン資格確認の普及が進んでいます。システムログの正確性は増していますが、それでも「対面での受付時刻」と「システム上の受信時刻」にズレが生じることはあり得ます。
「システムが自動でやるから大丈夫」と過信せず、アナログな視点で「いつ、どのような状況で、なぜ時間外に対応したのか」を数行のテキストで残すこと。このひと手間が、数年後の指導監査で薬局を守る強力な盾となります。
現場の薬剤師は調剤業務で多忙ですが、管理薬剤師や薬局長は、定期的に薬歴をチェックし、「時間外加算を算定しているのに、受付時間の記載がない薬歴」がないか、サンプリング調査を行うことをお勧めします。算定要件の遵守は、薬局の信頼性と経営の健全性を守るための基本動作です。
地方厚生局:個別指導及び適時調査において保険医療機関等に改善を求めた主な指摘事項
リンク先では、実際に指導監査でどのような点が指摘されたかの事例集が公開されています。時間外加算に関する指摘も多く含まれており、生々しい「NG事例」を確認することができます。